次なるVRビジネスのターゲットはリア充?
2016年はVR元年と呼ばれ、『Oculus Rift』や『HTC Vive』などのハイエンドなものから『Gear VR』などのスマートフォンを用いたものまで、さまざまなヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)が普及しはじめている。
しかし、一般的な人々の間ではまだまだVRは縁遠い状態にあり、VRコンテンツの販売・購入をしている人はそれほど多くない。
今回のパネルディスカッションでは、ジャーナリストで、VR開発者のためのファンドを行っているTokyo VR Startupsの取締役も務める新清士氏が司会を務め、VRコンテンツの開発や運用など第一線で活躍する人々を招いて、VRコンテンツの現状について語られた。
【登壇者】
- 新清士氏(Tokyo VR Startups取締役)
- 小山順一朗氏(バンダイナムコエンターテインメント)
- 田宮幸春氏(バンダイナムコエンターテインメント)
- 小林傑氏(コロプラ)
それぞれの国のゲームの開発環境が、日本とどう違うのか?
最初に登壇者の自己紹介が行われた。
小山氏と田宮氏は、店舗型VRアクティビティ「VR ZONE Project i Can」(以下、VR ZONE)にプロジェクトの立ち上げから携わり、店舗型のVRコンテンツの運営を通して、VRの普及に努めてきた。
コロプラではVRコンテンツの開発に力を入れており、小林氏はVRコンテンツ開発チームのマネージャーとして、VRコンテンツの開発に携わっている。
VR ZONEを訪れる人の多くは20~30代
パネルディスカッションの冒頭、新氏から、それぞれのコンテンツのターゲット層について質問があった。
これまでVRコンテンツというと、元からVRに関心が高かった一部の人たちばかりがターゲットになるパターンが多かったが、小山氏によれば、VR ZONEでは、20~30代のカップルなど、これまでVRにまったく触れたことのないような層をターゲットにしているという。
「ターゲットはリア充です」とおどける小山氏。VR ZONEを訪れる人は平日は従来のVRコンテンツに興味がある層が多いが、土日にはまったくVRと縁遠かった人たちが多く足を運ぶらしい
田宮氏によると、PlayStation VRが発表されたことで、これまでVRコンテンツに触れてこなかった人たちの間でもVRへの関心が高まってきているそうだ。
そして、家庭用のVRコンテンツを制作する小林氏は「まだ、家庭にハイエンドのVRコンテンツを楽しめる環境を持っている人は少ない」と話す。
現状は小さいVR市場で、ユーザーからフィードバックを受けつつ、技術力をつけているところであるが、最近ではTBSや日本テレビのイベント会場などに出展し、VRに触れたことがない人たちにも自社のコンテンツを触れてもらう活動も行っている。
VRを触ったことがない人は知見の宝庫
これまでVRに触れてこなかった人たちに対して、VRコンテンツを提供することには大きな意義がある。
小林氏によれば、「毎日、誰かが壁や床にコントローラーをぶつけている」と開発現場ですら、テストプレイヤーは予想外の動きを見せるという。
しかし、田宮氏は「VRを知っている人は、没入しながらも、頭の中でこれが仮想空間であることを知っているので、驚き方や動きも想定内に収まっている」と話す。
登壇者によると、VRを知らない人は本当に自分がゲームの世界にいると錯覚するため、開発者の予想もしなかった動きをするという。
たとえば、高いところを歩く体験をする『高所恐怖SHOW』を体験した人の中には、ビルから飛び降りる体験をするため、いきなり頭からマットに飛び込んだ人がいたほか、スキーをする『スキーロデオ』では、ゲーム中で岩にぶつかりそうになった瞬間に、無意識のうちに後ろに大きく跳んだ人がいたという。
そのため、サービスを開始当初は、運営側もユーザーがどのような行動をとるか探り探りの状態で、1日20人と来場者数を制限していたのだ。
しかし、次第にユーザーがどのような行動をとるかのデータがそろい始め、対処法ができてきたことで現在は倍の来場者を入れられるようになってきていると田宮氏は話す。
ユーザーの行動データの収集から次なるVRコンテンツへ
さまざまなユーザーのプレイデータを収集していくことで、現在もまだVRコンテンツは発展途中。
たとえば、小林氏はハンドモーションコントローラーを使ったゲームの開発の際に、プレイしている最中は楽しいが、腕が疲れやすく、気が付けばスタッフがみな普通のコントローラーでデバッグを行っていたという例を挙げ、いくら楽しくてもこのままではハンドモーションコントローラーは普及しないかもしれないと予測。
また、VR酔いに対しても年々軽減されるようになっており、かつてはテストプレイをするたびに酔ってしまうため、開発室内では誰もプレイしたがらなくなってしまったり、酔い止めを飲みながらテストしたりしていたが、VR酔いに対する知見も集まり、それほど酔うことはなくなったという。
今後は、もっとスピーディー動き回る体験をさせるため、風圧やGを感じさせる工夫が必要になると小山氏は話す。
ゲーム性と体験性は両天秤
コロプラはVRコンテンツを制作する際、「ゲーム性」と「体験性」のどちらを軸にするかを最初に話し合うという。
それは、ゲームとして面白くなってしまうほど、VRの体験性が薄れてしまうためだ。
VR ZONEでも同様の事例があるようで、「脱出病棟Ω」ではゲーム中にクイズが出てくるシーンがあるが、本来はもっとクイズが多かったらしい。
しかし、クイズが多くなり、ユーザーが頭を働かせるようになるほど、VRの恐怖心が薄れてしまい、ホラーなのに怖くなくなってしまったという。
ユーザーが何度でも遊んでくれるリピート性を重視していた小山氏も、これを受けてクイズを大幅に減らす決断をした。
VRコンテンツは現状、驚かすことが主眼にあり、ゲーム性が高いコンテンツは少ないと筆者も思っていた。VRの体験性とゲーム性の両立はいまだに難しいという現実があるようだ。
VR普及のカギを握るのは子どもたち
最後に新氏は「5年後、VRはどうなっている?」と登壇者に質問した。
小山氏は、「スキーに行く代わりにVRでスキーをする」というようなレジャーの代替物として普及していくのではないかと予測。
田宮氏は、「VRが普及しても、大掛かりな仕掛けを使った店舗型のVRアクティビティは残っているだろう」と話す。
小林氏は「一家に1台HMDがあるようになってほしい」と希望を述べた。
小山氏は、PlayStation VRは現在まだ13歳以上からしか遊べないが、子どもが遊べるVRが登場したときに、急激に広まると予測する。また、スマホがゲーム機としての側面を強くして言っているように、HMDもゲーム機として普及していくだろうと話した。
VR元年といわれているが、まだまだVRの普及は遠い。しかし、すでに普及に向けての芽は出始めているのかもしれない。これからどのようなVRコンテンツが登場し、人々を驚かせてくれるのか注目したい。
たった3ドルで操作性がアップする?簡易VRゴーグル『jagovisor』
今回のCEDECでは、「VR Now!」と銘打ってVRに関するセッションのほか、VRデバイスの展示も行われている。
日本Androidの会・金沢支部が展示している簡易VRゴーグル「jagovisor」もその1つ。
従来のスマホを使うVRゴーグルでは、1ボタンでの入力しかできなかったが、「jagovisor」では3ボタンでの入力が受け付けられるようになっており、ボタンを追加することで最大6ボタンの入力まで受け付けられるようになるという。
また、このjagovisor、原価はたったの3ドルという驚異の低価格。
スマホでVRを操作する際の操作性が上がってくれれば、より変わったコンテンツが生まれる可能性があるかもしれない。
CEDEC2016
- 日程:2016年8月24日(水) ~ 8月26日(金)
- 会場
パシフィコ横浜 会議センター - 主催
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA) - 共催
日経BP社 - 予定セッション:200
- 後援
経済産業省
横浜市
一般社団法人情報処理学会
人工知能学会
NPO法人 ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)
日本バーチャルリアリティ学会 - 協賛
<プラチナスポンサー>株式会社Cygames
<ゴールドスポンサー>エピック・ゲームズ・ジャパン
<シルバースポンサー>株式会社ディー・エヌ・エー、任天堂株式会社、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント