それでも1,800万契約を残すiモード
「iモードケータイ」といえば、サービスの進化と共に、さまざまなデザインのユニークなケータイを生み出してきた。
しかし、近年はスマートフォンの普及により、かなりユーザー数も減ってきた印象だった。今回はiモードケータイの出荷完了とその背景、今後の展開について、少し説明しよう。
現在、国内の携帯電話サービスの契約数は、日本の人口よりも多い約1億5,000万を超えている。
今となっては1人のユーザーが複数の回線を契約することも珍しくないため、必ずしも「1人1回線以上」というわけではないが、実質的にはそれに近いレベルの普及となっている。
こうした携帯電話サービスが広く普及したのは、2000年代のiモードをはじめとするモバイルインターネットのサービスによるところが大きい。
iモードのサービスが開始したとき、国内ではWindows 95/98が発売され、パソコンの普及も始まっていた。
iモードはパソコンのようなフルサービスではないものの、手軽にメールが利用できる上、乗り換え案内や着メロ、壁紙のダウンロードなど、多彩なコンテンツサービスを利用できるということで、一気に市場に普及した。
契約数はサービス開始からわずか1年で1,000万を突破し、最盛期にはNTTドコモの契約数の9割がiモードを利用するなど、大きな成功を収めた。
NTTドコモのiモードに対抗し、auはEZweb、J-フォンはJ-SKY Web、J-フォンを買収したVodafoneはVodafone live!と、各社ともモバイルインターネットのサービスで追随し、国内の携帯電話市場は活況を呈した。
こうした携帯電話を利用したモバイルインターネットサービスは、海外でも「WAP」をはじめ、さまざまな取り組みが行われ、日本のiモードの技術も輸出されたが、残念ながら、その多くが失敗に終わった。
その結果、数少ない成功例となった日本は、2000年代半ば過ぎまで、世界でもまれに見るモバイルインターネットの先進国となった。
今年10月、アップルが国内でiPhone 7/7 PlusによるApple Payのサービスを開始し、話題となったが、国内ではすでに10年以上前の2004年におサイフケータイのサービスを開始しており、交通系サービスのモバイルSuicaも2006年1月にスタートさせている。
いわば、アップルはこうした日本での成功例を参考に、Apple Payを開発し、日本向けにも後追いする形で、ようやくサービスを実現できたという見方をする人もいる。
隆盛を極めていたiモードをはじめとする国内のモバイルインターネットのサービスだったが、2000年代終わりに1つの転換期を迎える。いわずと知れたスマートフォンの登場だ。
国内では2008年にiPhoneがソフトバンクから発売され、他メーカーからもAndroidスマートフォンが相次いで登場したことで、それまでケータイでインターネットを利用していたユーザーはスマートフォンに移行しはじめる。
当初こそ、国内のケータイ(フィーチャーフォン)の標準機能だった「おサイフケータイ」「ワンセグ」「赤外線通信」「防水」などがなかったため、スマートフォンへの移行を躊躇するユーザーが多かったが、ここ数年はこうした機能も国内で販売されるスマートフォンでも標準で搭載されるようになった。
また、iPhoneやGalaxyといったグローバルモデルも防水に対応したことで、もはやスマートフォンへの移行を妨げる要素はほとんどなくなってしまった。
こうなってくると、iモードケータイをはじめとするフィーチャーフォンを使い続ける人は、もうほとんどいないと考えてしまいそうだが、実はフィーチャーフォンには根強い人気がある。
今年10月に発表されたNTTドコモの四半期決算で公開されたデータを見ると、NTTドコモのスマートフォンユーザーが契約する「spモード」の契約数が約3,200万であるのに対し、iモード契約は1,800万以上、残っている。
一部の契約者はspモードとiモードを重複して契約しているため、完全な比率というわけではないが、それでもNTTドコモの約7,000万という全契約数の内、約1/4がiモードを利用できる契約を残しているわけだ。
なぜ、iモードケータイの出荷を完了するのか
スマートフォンの普及が進んだ状況においてもこれだけ根強い人気を保っているのであれば、今後もiモードサービスを継続していけばいいのではないかという意見もある。
おそらくGame Deets読者のみなさんは比較的、年齢が若いため、あまり実感がわかないかもしれないが、40代以上のユーザーの意見を聞いてみると、スマートフォンとの併用ユーザーも含め、フィーチャーフォンの需要は根強く、iモードサービスの利用を継続したいという声もよく耳にする。
こうしたニーズに対応するため、NTTドコモをはじめ、各携帯電話会社はフィーチャーフォンの開発を継続し、コンテンツサービスなども継続して提供してきたが、いよいよそれも立ちゆかなくなり、今回の「ドコモケータイ(iモード)の出荷終了」というアナウンスが発表された。
昨年の製品発表当時から噂されていたが、昨年11月に発表されたPanasonic製「P-01H」が実質的に最後のiモード端末ということになってしまった。
では、なぜ、NTTドコモはiモードケータイの出荷を終了するのだろうか。最も大きな理由は、iモードケータイの開発と生産が事実上、難しくなってきたからだ。
これは数年前から指摘されてきたことだが、国内のモバイル市場がスマートフォンに移行する中、これまでiモードをケータイをはじめ、フィーチャーフォンを支えてきた技術やソフトウェアの開発が実質的に終了してきたことが挙げられる。
たとえば、iモードケータイの心臓部であるベースバンドチップセット(パソコンのCPUに相当)は、すでにPanasonicの「UniPhier(ユニフィエ)」しか残っておらず、他メーカーの製品はすでに生産を終了している。
Androidスマートフォンに搭載されているQualcomm製Snapdragonなどでは代用することができないとされている。
また、iモードケータイを動作させるために必要なOSもすでに更新が終了しており、今後、大規模なバージョンアップは望めない状況にある。
そのため、今後、新しいサービスなどが登場しても対応できない上、さまざまな現行サービスがバージョンアップしたときに、追随して対応することができない。
現に、今年8月、暗号化通信のサーバ証明書に利用する「SHA-2」という方式に対応していないことから、2010年以前に発売された数十機種がモバイルSuicaで利用できなくなることが発表されたが、これと同じようなことが今後も起きてくる可能性があるわけだ。
さらに、これまでiモード向けに提供されていたコンテンツサービスの多くも次々と終了しており、徐々に利用できるコンテンツが少なくなっている。
iモードの公式メニュー以外のオープンなケータイ向けコンテンツでもYahoo!が提供するヤフオクの携帯電話版が今年12月14日をもって、提供を終了することがアナウンスされている。
コンテンツプロバイダとしても利用があまり多くないケータイ向けサービスは終了し、その分のリソース(経営資源)をスマートフォン向けサービスなどに展開したいと考えているためだ。
そして、もう1つ大切なのが、新しい通信技術への対応だ。iモードケータイはもともと、第二世代の通信方式である「PDC」でサービスを開始し、2000年以降はFOMAで採用された第三世代の通信方式である「W-CDMA」(「3G」と総称されることもある)でサービスが提供されてきた。
ところが、現在の主流は「LTE」であり、NTTドコモではこれを高度化した「LTE-Advanced」のサービスを展開している。
しかし、従来のiモードケータイは3Gまでにしか対応していない上、前述のようにすでにベースバンドチップセットもOSを含むソフトウェアも開発が終了しているため、LTEに対応したiモードケータイは、すでに開発できない状況になっている。
周波数の利用効率を考慮しても新しい通信方式により多くの周波数帯域を使いたいところだが、iモードケータイが広く利用される状況が続くと、LTE以降のLTEなどの新しい通信方式に割り当てる周波数帯域が制限されてしまうわけだ。
ちなみに、ここではiモードケータイについて説明したが、フィーチャーフォンを取り巻く状況は他社も同様で、すでにauは従来型フィーチャーフォンがカタログから消えており、ソフトバンクも新機種を2015年夏モデルを最後に新機種を発表していない。
それでもフィーチャーフォンは続く
では、今後、すべての機種がスマートフォンになってしまうのかというと、そういうわけではない。既存のフィーチャーフォンのユーザーのニーズに応えるため、Androidプラットフォームをベースにしたフィーチャーフォンが開発され、NTTドコモ、au、ソフトバンクから相次いで発売されている。
まず、先陣を切ったのは2015年2月に「AQUOS K SHF31」を発売したauで、現在は最新モデルの「AQUOS K SHF33」「GRATINA 4G KYF31」「かんたんケータイ KYF32」が販売されている。
NTTドコモとソフトバンクは当初、3Gのみに対応したモデルを発売していたが、ソフトバンクは昨年12月から「AQUOS ケータイ」、今年2月発売には「DIGNOケータイ」と「かんたん携帯9」、10月には「AQUOS ケータイ2」と、相次いで4G対応のフィーチャーフォンをリリースしている。
NTTドコモは10月に発表された冬春モデルとして、LTEに対応した「AQUOS ケータイ SH-01J」と「P-smart ケータイ P-01J」の2機種を発表している。
これらの新しい世代のフィーチャーフォンは、Androidプラットフォームをベースにしているが、スマートフォンのような自動通信はしないように制限され、許可したアプリだけが自動通信を行なうため、電池の持ちもよく、データ通信量もスマートフォンのように膨大にならないように設計されている。
アプリについては機種によって異なるが、基本的にはGoogle Playには対応せず、LINEなどの特定アプリのみをメーカーサイトからダウンロードできるようにしている。
つまり、「スマートフォンにすると、通信料が高くなるから……」「スマートフォンって、電池の持ちが悪いんでしょ」「スマートフォンのアプリって、危険なんでしょ」といったスマートフォンに対するネガティブなイメージを持つ既存のフィーチャーフォンユーザーが乗り換えやすい環境を整えているわけだ。
ちなみに、料金プランについては、従来のフィーチャーフォンと同程度の負担で利用できるように、データ通信料が二段階定額のプランを各社が発表しており、移行しやすくしている。
自分の親の世代のケータイを「そろそろ何とかしなくては……」と考えているのであれば、Androidプラットフォームをベースにした新しい世代のフィーチャーフォンはじゅうぶん、検討してみる価値があるはずだ。年末年始に帰省したタイミングなどで、話を持ちかけてみるのもいいのではないだろうか。