社会現象の巻き起こした緻密な戦略が明らかに
今回の黒川塾は、黒川氏が日野氏に約1年前から交渉を続け、ついに実現した念願のセッション。
「クロスメディア戦略進化論2017」というテーマで、日野晃博氏、レベルファイブが実際に仕掛けてきたクロスメディア施策や、最新の情報を中心にトークが展開した。
日野氏が代表取締役社長を務めるレベルファイブは、
- レイトン教授
- イナズマイレブン
- ダンボール戦機
- 妖怪ウォッチ
といった大ヒットシリーズを手掛けており、その他の作品を含め、これまでに発売した46タイトルで平均98万5,000本以上の売上本数を記録している。
子ども達に届けられる温かみのある作品を中心に、1年に1つの大型IPを作り出しており、それらをクロスメディア展開によりヒットさせているイメージが強いだろう。
『妖怪ウォッチ』はなぜ社会現象に?
まず、「クロスメディア展開とは何か」というところからセッションがスタート。
日野氏は、ゲームを作るだけでなく、映画やテレビアニメ、玩具をタイミングを合わせ、同時進行で世の中に出していき、その相乗効果でヒットさせていく戦略と定義づけた。
この戦略は、日々進化しており、『妖怪ウォッチ』で行った施策と、その次なるプロジェクト『スナックワールド』で行う施策、さらにその次の作品での施策は少しずつ変わっているという。
レベルファイブとして初のクロスメディア展開を仕掛けた『イナズマイレブン』では、サッカーという題材でありながら、シリーズ第2作となる『イナズマイレブン2 脅威の侵略者』は160万本もの売上本数を記録。
クロスメディア第2弾『ダンボール戦機』では、玩具との連動が弱かったイナズマイレブンの反省を生かし、作中で出てくる小型ロボットと同サイズのプラモデルを展開。
大人向けのイメージが強かったプラモデルが、子供たちにも売れるという大きな結果を残した。
こういった経験を経て生み出されたクロスメディアプロジェクト第3弾にして、最大のヒットシリーズである妖怪ウォッチはどのようにしてヒットの流れが生み出されたのか、という話題へ。
妖怪ウォッチは、ゲームの売上本数はもちろん、アニメや映画、玩具「妖怪メダル」などすべてのジャンルで記録を作る社会現象を巻き起こしたが、これは全方位クロスメディアによるもの。
従来のクロスメディア展開は、ゲーム・漫画・テレビアニメという中心となるメディアで連携をして展開していくことにとどまっていた。
しかし、妖怪ウォッチにおいては、イナズマイレブンとダンボール戦機のヒットにより、多方面に賛同者がいるという有利な状況で企画を進めることができ、あらゆる方向に対して最初から商品展開をすることができたという。
映画に関しては、まだゲームが発売されて間もない、ヒットするかどうか分からないという時期に、東宝から映画化のオファーがあったという。
結果的に、大作ハリウッド映画を超える観客動員数を記録する大ヒット作品となったが、これも、プロジェクト初期段階からあらゆるメディアを連携してクロスメディア展開ができたことに起因する。
すべてのメディアの相乗効果が一大ムーブメントへ
さらに、レベルファイブでは、アニメの展開において、アニメ制作会社に丸投げするのでなく、設定やアートワーク、シナリオなどを日野氏の管轄で進めており、ゲームの開発だけでなくすべてのメディアに深く関わっている。
玩具であれば、企画した玩具を物語での役割を持たせるなど、すべてのメディアが主役になれるような構造ができているとのこと。
テレビアニメ『妖怪ウォッチ』の例
- 番組スタッフの選定
- バラエティ番組のようなオムニバス仕様
- コント番組のようなシリーズ内シリーズ
- 子どもが考えた妖怪をキャラクター化
- 子どもと一緒に観る大人も意識したパロディや過激な内容
日野氏は、このようなオムニバス構造で過激な内容というコンセプトが功を奏し、アニメの成功へつながったと分析する。
続いては、映画へのアプローチについて。
映画第1弾『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』は、正統派の長編冒険活劇の作品。
第2弾『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』では珍しいオムニバス方式で、5つの短編物語となっており、5つ目の物語ですべての物語がつながるという、風変わりな構造の作品を制作した。
そして、昨年12月に公開された第3弾『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』では、アニメと実写を融合した新しい試みの作品で、映画においても成功を収めている。
第3弾は「アニメと実写の融合」という構造だが、もともとは全編実写+CGによる作品にしたかったところだが、スケジュールの都合で約40分の映像しか作れない状況だった。
これを逆手に取ったストーリーを作り、アニメと実写を融合することで、斬新な映画に仕上がったようだ。
そして、妖怪ウォッチを語るうえで欠かせない要素が、玩具「妖怪メダル」を使った相互連動だ。
妖怪メダルは、ゲームやアーケード筐体、他の玩具などで読み取ることができ、例えばゲームでは妖怪を手に入れるゲーム内の妖怪メダルが手に入るなど、有利になるという仕組みになっている。
この妖怪メダルを、雑誌や書籍、Tシャツなどのアパレルに付属することで、ゲームでの特典を得たいから雑誌やTシャツを買うといった相乗効果が生まれたわけだ。
そして、ゲームだけでなく、アーケード筐体や玩具など、1つのメダルで多様な用途があることで、それぞれのメディアが補完し合う構造ができており、これが大きなムーブメントにつながったのだろう。
日野氏は、普通のクロスメディア展開は、ゲームやアニメなどをただ同時に展開するだけで、ユーザーの目に触れるタッチポイントが増えるだけにとどまっているが、妖怪ウォッチは、妖怪メダルで各メディアと物理的につながっていることが勝因だと語った。
『スナックワールド』では現実と作品で価値観を共有
続いて、妖怪ウォッチに次ぐクロスメディアプロジェクト『スナックワールド』では、どのようなクロスメディア施策を展開するのか、というテーマに。
https://www.youtube.com/watch?v=ODaJTd31NMg
スナックワールドでは、妖怪ウォッチで行った施策はもちろん、新しい試みも仕掛けていく。
玩具を使って現実と仮想空間の価値観をつなぐ「リアルゾーン」というコンセプトのもと、作品内に出てくる武器などが現実世界で発売される。
これが、「ジャラ」と呼ばれるもので、アクセサリーの形でおしゃれなアイテムとして使えるものとなっている。
ジャラにはNFCチップが搭載されており、これをゲームで読み取ることで、ゲーム内でさまざまな効果が表れるという、妖怪ウォッチでいう妖怪メダルと同じ役割を担っており、もちろんゲーム以外の場所でも使用できる。
ちなみに、スナックワールドのゲームは、iOS/Android向けに配信される予定だが、現状、Apple Pay以外でのNFC利用に制限がかかっているiPhoneでも、何らかの形で使えるようにするようだ。
データの書き込みにも対応しており、さまざまな体験が生み出されそうなプロダクトだ。
スナックワールドのその先も進行中!
2017年、スナックワールドで新たなクロスメディア展開を仕掛けるレベルファイブだが、さらにその次のプロジェクトも進行している。
それが、『イナズマイレブン アレスの天秤』と『メガトン級ムサシ』だ。
イナズマイレブン アレスの天秤は、初代イナズマイレブンのパラレルワールドという設定で、新たなストーリーが展開。
テレビアニメが2017年夏に放送予定、ゲームも開発し、作品内で選手が腕に着用しているリストバンド「イレブンバンド」が商品化される。
イレブンバンドは、身に付けて歩いたりすると、そのデータが記録され、ゲーム内で選手に反映されるといった連動が可能だ。
もう一方のメガトン級ムサシは、集英社とタッグを組むビッグプロジェクトで、今回は残念ながら詳細は明かされなかった。
https://www.youtube.com/watch?v=Gc6wizOh36A
この2つのプロジェクトでは、共通して「インターネットを活用したクロスメディア」を仕掛けていく。
イナズマイレブン アレスの天秤に関しては、すでに月1回のペースでインターネット配信番組を配信中だ。
テレビアニメ放送時は、テレビでの放送後、本編に番外編を加えたアニメをインターネットで配信するとのこと。
日野氏による「Nintendo Switch」評
黒川氏からは、3月3日に発売を控える「Nintendo Switch」について、どのような可能性を感じているかと、問いが投げかけられた。
日野氏は、「期待できるところはすごく期待できるが、難しいと思うところもそれなりにある。今、その両方を含めて、一概に「大期待だ」とは言えない部分があると、冷静に見ている。」と、Switchに対して期待と疑問の両方を持ち合わせているようだ。
ただし、Switchにはどうしても成功してほしいとも思っているそうで、ソフトのラインアップなどで、最大限のアプローチをしていくとのこと。
やはり、子どもたちのハードになり得るか、という点がもっとも気になるようだが、リビング以外でも遊べることや、みんなで本体を持ち寄って一緒に遊ぶといった利用シーンには可能性を感じていると語った。
スマホゲーム乱立の世に日野氏が思うこと
セッション終盤には、日野氏のスマホゲームのビジネスモデルについての見解も飛び出した。
課金をしてガチャを引くことで強くなっていくことが、ビジネスモデルのトレンドとなっているとの指摘に、日野氏は、それも1つのゲームとして成立していると語る。
事実、日野氏も、『星のドラゴンクエスト』でロトシリーズの装備がほしくて、課金をした経験があるそうで、ガチャを引いた際のドキドキ感そのものが、ギャンブルに近いものかもしれないが、大人のゲームとしてありだと考えているとのこと。
しかし、それを子どもにやらせていいかというと、それはまったく別次元の問題だとも述べ、課金というビジネスモデルは、これから研究していくという段階だそうだ。
また、日野氏はスマホを含めたオンラインゲームにおいて、サービスが終了してしまうと何も残らないことについて危惧しており、最低でも1年~1年半はサービスを続けるポリシーを持っているとのこと。
サービス開始したゲームが、セールス的にどんなにうまくいかなくても、せっかくお金を使ってくれた人が手に入れたものが無に帰すことはあってはならないことだと語り、クリエイターとして、経営者としての矜持をのぞかせ、第45回黒川塾を締めくくった。
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