[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第34回: 楽天ゲームズ HTML5の逆襲

4月4日、サンフランシスコから長時間にフライトを経て、羽田着陸、「日本人」入管審査を待つ間にスマホの電源を入れると、たくさんのメールが着信していた。長時間のフライトゆえにそれは致し方ない。中でも重要度の高そうなメールを残し、他の宣伝販促系のメールを削除すると気になるメールが残った。

メール件名:楽天ゲームズ HTML5の逆襲!?

とあるゲーム開発会社の中堅スタッフからのメールだった。メールの概要は、「以前から噂のあった楽天が主導するHTML5をベースで開発されたゲームと、そのポータルである楽天ゲームズが導入を開始ました。これからはHTMLの時代ですね……!?」というものだった。

「噂のあった楽天のゲームポータル参入」に関しての初期報道は、日本発信のメディアではなく、海外メディアの報道によるものだった。

遡ること2016年11月のWSJ報道

「楽天のゲームポータル参入」は、今年に入ってからすっかり記憶の彼方に行ってしまっていた案件であるが、それもそのはず、ニュースの洪水の中、そのニュースは2016年11月10日にアメリカのTHE WALL STREET JOURNAL(以下、WSJ)で報道されていた。

報道によると、楽天がスマートフォン向けゲームアプリの新規プラットフォームを11月中に開設する見通し……というものだった。おそらく、予定どおりにローンチが行われていれば盛り上がったのだろうが、あいにく、年を越してもそのニュースは続報がなかった。

WSJの記事には、開設される「新プラットフォーム」はブラウザが基盤で、App StoreやGoogle Playに依存しないもので、独自のビジネスモデルが構築されているという内容だった。

ゲームタイトルは楽天オリジナルの他に、サードパーティーからも供給される予定とのこと。

その「新プラットフォーム」との関連性は明らかになっていないが、楽天のゲーム部門はカリフォルニアの新興企業Blackstorm Labsと業務提携を行っているという。

同社は今年初めに楽天を含む投資家から3,350万ドル(約35億2,600万円)の資金を調達したというものだった。

満を持して?のRGames導入

11月の発表から半年を経て発表されたスマートフォンやPC向けのポータルサイトが、4月4日に発表されたRGames(楽天ゲームズ)だ。

この内容が冒頭の知人のメールにあるHTML5でのゲームプラットフォームの案内であり、HTML5の逆襲か……と銘打ったものだった。

プレスリリースには、多彩な新作ゲームがプレイできる「RGames」とあるが、どうだろうか。

確かに、多彩という点は同意できるのだが、35億円の投資を集めたBlackstorm Labsの開発の原資というには(投資資金全額がこの楽天ゲームズポータルへの投資ではないにしろ)、ラインナップとしてゴージャスな感じが薄いと感じるのは私だけではないだろう。

端的にいえば陳腐でありきたり、簡易なヒマつぶし系のゲームサイトに見えてしまう。

以下はリリースから(抜粋)。

「RGames」では、国内大手ゲーム会社のIP(知的財産)を活用して楽天ゲームズが独自に開発した新作ゲームのほか、多彩なオリジナルコンテンツを提供しており、基本無料でプレイすることができます。

株式会社バンダイナムコエンターテインメントが実施する「カタログIPオープン化プロジェクト」により実現した「パックマン」の横スクロール・ランニングゲーム『パックラン』や、株式会社タイトーが1978年に発売し、世界的なブームを巻き起こした「スペースインベーダー」をモチーフとし、「RGames」向けに開発したシューティングゲーム『インベーダーブラスト』など、直感的な操作性で従来のゲームのファン層だけでなくライト層の方にも気軽に楽しめるラインナップを取り揃えています。

その他、自社のIPゲームとしては『ドンドンドラゴン』などを配信するとともに、現在、数タイトルの開発を進めています。

過去の名作や、その亜種としてのIPを活用したコンテンツをディスるつもりはないが、11月のWSJでのリーク記事と思われる前口上やHTML5を活用したという前提は、どう考えても対Appleや対Googleへのアンチテーゼの施策となるべきもので、その志は高かったのではないだろうか。

さらに残念なことは、IP解放コンテンツと、オリジナルコンテンツなどは国内ユーザーのみを基準にして開発されている手前、海外からアクセスしてもプレイできないということも付け加えなければならない。

しかし、先行する競合者であるFacebookが2016年の11月に導入したインスタントゲーム(※)では、『パックマン』が全世界ベースでプレイできることを考えると、バンダイナムコと楽天ゲームズ(もしくはBlackstorm Labs)の間で交渉を尽くしたのか……と疑問に感じる部分が残る。

ちなみに、Facebookのインスタントゲーム向けのコンテンツ『EverWing』を開発運営しているのも楽天ゲームズと同じBlackstorm Labsという記事を見つけた。

FacebookのインスタントゲームがすべてBlackstorm Labsの開発リソースなのかどうかは不明だが、仮に同じだとしたら、開発費用は軽減できているのではないか。1コンテンツで二度おいしいビジネスと思うのは邪推だろうか……。

※インスタントゲーム:Facebookメッセンジャーやニュースフィード上のリンクを開くと、ゲームプレイが可能な設定になっている。第1弾のコンテンツは、バンダイナムコの『パックマン』『ギャラガ』、コナミDEの『トラック&フィールド』、タイトーの『スペースインベーダー』など、その他、ライセンスを受けたBlackstorm Labsが配信する『パズル・ボブル・ブリッツ』などを予定。このゲーム導入によって、利用者がFacebookのサービスにとどまる「滞在時間」が延びれば、表示する広告が増やせるという。また、ゲーム内でアイテムを販売するタイプのゲームでは手数料収入も見込め、ゲームIP供給先にとっても、世界で毎日10億人以上が利用するFacebook上でゲームを配信できる利点は大きいという。

上記のように対Appleや対Googleへのアンチテーゼとしてのポータルならば、全世界標準を目指していただきたいと思うのだが……。今後の改善と展開を望みたい。

志し高くとも、今のままでは対抗には成りえない

基本的なビジネスモデルは、楽天顧客の自社でのエコ循環とメダル購入による収益モデルと思われるが、現在のコンテンツの導入状況の布陣とラインナップでは苦戦を強いられることだろう。

2の矢、3の矢の準備は怠りないと思うが、今のままではレトロゲームマニアはおろか、ヒマつぶしとして遊ぶことを前提にした新規の顧客の囲い込みも難しいのではないだろうか?

しかし、そこは楽天。日本が誇る超大手ショッピングポータルゆえに、従来の楽天ユーザー(顧客)へのアピールや囲い込みもスキがない……と思われるが、今のところ、私(顧客)には「RGames」案内はまだない。

そして、大義としては「手数料をとられっぱなし」のポータルへの独自対抗手段としてのHTML5の選択は正しいと思う。徐々に閉塞感が漂うゲーム系ポータルの明日を切り拓くためには次なるアクションと他社の動向も気になるところだ。

(C)Rakuten Games, Inc.

※画面は開発中のものです。