10年後のゲーム開発は人間からAIの手に渡る?
スピーカーのイ・ウンソク氏は、1~2年後、すぐに展開されるような内容ではないと前置きし、第4次産業革命におけるゲーム開発について語りだした。
まずはじめに、いつの日かゲーム開発ロボットが現実に登場するのではないかという予想が、約40年前の『ドラえもん』のある1話と関連付けて紹介された。
その話で登場するのが、漫画を作ってくれるひみつ道具「まんが製造箱」だ。
まんが製造箱は、見本となる漫画を入れると、その漫画と同じような絵柄や内容の漫画を製造してくれる道具で、さらにどんな作風の漫画か、ページ数はどれくらいかを指定して、その条件にあった漫画を作ってくれる優れもの。
約40年前に登場したこの道具は、『ドラえもん』という仮想の世界、つまりはファンタジーとして登場したわけだが、人工知能技術が急速に発展している現在、いつかはゲームもこのように機械やロボットが作ってくれるようになるのかもしれないのだ。
第4次産業革命で変わるゲーム開発
続いて、第4次産業革命とは、いったいどのようなことを指すのか、という話題へ。
- 第1次産業革命:蒸気機関車の登場
- 第2次産業革命:電気の利用による大量生産化
- 第3次産業革命:コンピュータ制御による製造の自動化
に続く、第4次産業革命とは、主にIoTとAI、2つの要素があり、今回の基調講演では、AIに関する話題がメインに展開された。
ウンソク氏は、AIの分野で有名な教授の「典型的な人間が1秒以下で考えることができる精神的な業務は、近いうちにAIにより自動化される」という言葉を紹介した。
これはかなり現実味を帯びた話とのことで、例えば監視カメラで怪しい行動をする人間の判断、自動車が人を引いた時の判断などは自動化が可能で、特定の狭い分野では人間を凌駕するという。
コンピュータ囲碁プログラムのAlphaGoも、囲碁に関しては人間を上回るが、それ以外のことはからっきしできないのである。
このようなAIは、すでにさまざまな分野に進出しており、専門的な領域やクリエイティブな領域でさえ、人間の仕事が奪われていくそうだ。
ウンソク氏は、ゲーム産業はソフトウェア産業であることから、自動運転自動車や産業用ロボットよりも簡単に導入することができ、強い影響を受けることを指摘し、具体的な例を紹介した。
まもなく、AIはゲームを自動的にプレイできるようになり、開発したゲームのテストプレイの自動化が実現できるとのこと。
レベルデザインも自動でできるようになり、実際に『スーパーマリオブラザーズ』をプレイさせ、それを模倣するよう命令を与えたところ、同じようなレベルデザインがアウトプットされた例がスクリーンに映し出された。
また、人物が映った写真から、アバターを自動生成することもできるとのことで、これまで実際のモデルを3Dスキャンしていたところ、膨大なパターンを学習したAIにかかれば、時間や労力を費やすことなくアバターが作れてしまう。
また、相手に勝つことを目的に作られたAlphaGoに対し、相手を喜ばせる囲碁プログラムOmegaGoが紹介された。
例えば、実力差がありすぎて簡単に勝ててしまう相手と戦っても楽しくないが、自分と実力が近い相手との対局は、勝ち負け関係なく、その対局中そのものが楽しいと感じるもの。
OmegaGoは、プレイヤーが最善を尽くして競り勝つという、もっともカタルシスを感じるレベルを演じることができるという。
ビッグデータの収集などが難しく、まだ実用段階ではないようだが、理論上は可能だとウンソク氏は語った。
“人間”の開発者がするべきこと
上記のように、ゲーム産業において、人間の仕事の多くはAIが実行することができるようになり、雇用が減少することが予想される。
ウンソク氏は、企業レベルでの対応策として、人工知能を仕事を奪う脅威として捉えるのではなく、積極的に活用してゲーム開発をすることや、IPやブランドの創出が重要だと語る。
また、企業ではなく個人レベルでの対応として、まずはデータ化できない仕事の重要性を訴えた。
AIがデータをもとにパターンを学習するため、データ化できない仕事をする人は、長く業界で生き残り続けるという。
特定の分野では人間を凌駕するAIでも、「人間を理解する」ことができない。
与えられた仕事だけをするのではなく、その意図を把握することが求められると語り、今後10年間にゲーム開発者が求められるであろう資質を、来場した開発者たちへ伝え基調講演は幕を閉じた。