現在は日米のオタク文化の懸け橋として活躍するロバート・ウッドヘッド氏
RPGというジャンルを語る上で外せない作品がいくつかある。そのうちの1つが、1981年に「Apple II」用のゲームとして発売された『ウィザードリィ』だ。
現在でもスマートフォンやPCオンラインゲームとして派生作品が新たに登場し続けており、変わらぬ人気を誇っているシリーズである。
本作から多大な影響を受けた『ドラゴンクエスト』シリーズの大ヒットもあり、日本におけるRPGは最も好まれるゲームジャンルともなっている。
その『ウィザードリィ』の生みの親の1人として、ロバート・ウッドヘッド氏の名前を記憶にとどめている人も少なくないだろう。
Game Deetsは今回、3月末に開催されたイベント「ANIMEJAPAN 2016」のために来日した同氏に、運よくインタビューする機会をいただいた。
ロバート・ウッドヘッド氏は現在「AnimEigo」というアニメ配給会社を創設し、日本のアニメをアメリカで販売するという活動を行っているという。
母親のビジネスパートナーのお手伝いがきっかけでプログラマーに
――まずロバートさんの昔話からお聞かせください。若いころはどんな感じの青年でしたか?
世の中のことが全然わからないオタクでした。妻と出会う前には、ほかの女性とつきあったこともほとんどありませんでした。そういう意味では、ちょっと早まったかもしれませんね(笑)。
――奥さんが初恋の方なのですか?
初めての本当の恋でした。もちろん、これが最後の恋であればいいのですが(笑)。
――コンピューターやゲームに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?
高校生のころ、コンピューターを使わせてもらえる場所は大学にしかありませんでした。そのころはまだ運転免許も持っていなかったので、母親が片道30マイル(約48キロメートル)もあるような場所まで車で連れて行ってくれたのです。
大学に入ってようやくコンピューターが自由に使えるようになったのですが、ちょっとやりすぎてしまったために成績が落ちて、停学を食らってしまいました(笑)。そのころからプログラムの勉強を始めて、母親のビジネスパートナーのためのプログラムを組むようになりました。そこが、プログラマーになるきっかけですね。
――ゲーム以外のプログラミングも取り組まれていたのですか?
ビジネスソフトやアンチウィルスソフトも作りました。最近の話では、「SelfPromotion.com」というサイトでSEO関連にも携わっています。今は、私が運営しているAnimEigoのソフトウェアも自分で作っています。
――「AnimEigo」でもソフトウェアを作られているのですか?
AnimEigo自体はプログラムを開発・販売する会社ではありませんが、字幕を付けるためのツールなど、社内向けのプログラムを作っています。自分や会社のためだけに、毎日コードを書いている感じですね。
『ウィザードリィ』は制約のあるApple IIで何ができるかを考えて生まれた
――ご自身でコンピューターゲームを開発されていた当時、どのようなゲームをプレイしていましたか?
ボードゲームの一種であるテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をよくプレイしていました。また、当時としてはとても先進的だった「PLATO」という大型汎用コンピューターシステムを使って遊んでいましたね。1968年~1976年のころは、コンピューターに必要なものはすべてこのPLATOをベースにコードが書かれていたのです。
PLATOでは世界中の端末がネットワークでつながっており、Eメールやチャット、ソーシャルメッセージなども使うことができました。
それ以外にも、グラフィックパネルやタッチパネル、音楽などのさまざまな仕組みが用意されていたのです。ちなみに、プラズマディスプレイパネルは「PLATO」のために開発されたものです。
マルチプレイヤーゲームやスペースゲーム、ダンジョンゲーム、シミュレーションゲームといったものを、すべてこのPLATO上で遊んでいましたね。
――大型汎用コンピューターを使われていた後にApple IIでもゲームを作られていますが、そのきっかけは?
先ほど、母親のビジネスパートナーのプログラムを作っていたという話をしましたが、そこにApple IIがあったんです。せっかくなので、これを使って何かをやろうと考えました。
とはいえ、会計ソフトなどを作っても面白くありません。そこで、ゲームでも作ろうかと思ってコードを書き始めました。
そのころはみんな、このApple IIでどんなことができるかを考えていました。Apple IIはものすごくメモリーのキャパシティーが小さいマシンです。PLATOというスーパーコンピューターではなく、この小さなマシンでゲームができないかなと考えましたね。
(取材用のICレコーダーを指差して)こちらの方が、その当時のスーパーコンピューターと比較してもすごいですけれど(笑)。
アーケードやパズル、アドベンチャーなど、さまざまな人がApple II用のいろんなゲームを作り、試行錯誤している中で、自分として取り組んだのがRPGの『ウィザードリィ』でした。
世に送り出してみて、自分でも驚きました。この作品を支持してくれる人たちがあまりに大勢いたので(笑)。
――1980年代初頭に、コンピューターRPGの基礎になったともいえる『ウィザードリィ』を手掛けられました。日本でもその影響を受けたタイトルが多数登場し、現在は最も人気のあるジャンルの1つとなっています。そのような状況について、どのように感じていらっしゃいますか?
「自分が何かを変えた」というよりは、「チェーンの1つ」であったのだと考えています。
私自身が影響を受けた作品もありましたし、自分の作った作品から影響が広がって、次のチェーンへとどんどんつながっているという感じですね。自分としては、その時に表現したかったビジョンを実行しただけです。
――『ウィザードリィ』に登場する職業の中に、忍者や侍があります。当時から日本の文化に興味をお持ちだったのですか?
アメリカではちょうどそのころ、三船敏郎や島田陽子が出演している『将軍 SHOGUN』というテレビドラマが放映されており、日本の文化が注目され始めている時期でした。もちろん、個人的にも日本に興味がありましたよ。
――『将軍 SHOGUN』以外に影響を受けた作品はありますか?
私が通っていた大学にはいい名画紹介のプログラムがたくさんあって、そこで黒澤明監督の『七人の侍』などの日本映画をいくつか見る機会がありました。
もちろん、今ほど大勢ではありませんが、その当時から日本の文化に興味を持っている人はいました。しかし、どちらかというと、私はエキゾチックな雰囲気が面白かったのだと思います。
日本でもカッコいいからという理由で英語を入れたりしますが、そのような感覚に近いですね。
――日本はクールという印象だったのですね!
もちろんです。だからその要素を取り入れました(笑)。
AnimEigoの活動はクラウドファンディングへ
――AnimEigoの活動を始められたのは、ご自身もアニメが好きだったからですか?
自分もアニメファンではありましたが、いっしょに創業したロー・アダムス(『ウィザードリィIV ワードナの逆襲』のシナリオなどを手掛けたことでも有名)がアニメオタクだったのです。
当時、Macintosh II用のグラフィックボードを持っていたのですが、これを使ってアニメ用に英語の字幕が作れないかと、ローにいわれました。それじゃ、やってあげるよという話でスタートしたんです。
私は日本に行く機会が多かったこともあり、権利を持っているところに話をして、ビジネスにしようかということになりました。
その当時、アニメに字幕を付けて販売する権利を買っていた会社は、まったくない状況だったのですが、私たちは「なんでこんな馬鹿げたことを考えたんだ」と、床を転げて笑っていました(笑)。
それからどうしようかと悩みましたが、自分で会社を始めることにしたのです。それがAnimEigoの始まりですね。
――最初に商品化できた作品を教えていただけますか?
『メタルスキンパニック MADOX-01』です。ほかにも『うる星やつら』や『きまぐれオレンジ☆ロード』、『ああっ女神さまっ』『YAWARA!』『逮捕しちゃうぞ』『ルパン三世』など、いろいろと出しています。
それ以外にも、時代劇の『子連れ狼』や『座頭市』、市川雷蔵の『忍びの者』や『眠狂四郎』なども出していますね。あと、寅さんでおなじみの『男はつらいよ』シリーズもうちで扱っています。
最近は普通のパッケージ商品ではなく、イベントのような形でやるクラウドファンディングが中心です。
――最近のAnimEigoの活動について教えてください。
これまではアニメーション作品をパッケージにして普通にリリースする会社でした。
しかし、不況のためにソフトが売れなくなったなどの状況があり、クラウドファンディングのKickstarterでBlu-rayソフトを発売するためのお金を集めています。
第1弾は『バブルガムクライシス』という作品で、実際に成功を収めることができました。ガイナックスの『おたくのビデオ』もやりましたし、ごく最近では『ライディング・ビーン』という作品を取り扱って、あっという間に最低限の目標を達成することができました。
アニメが好きだけれど、アニメ業界の仕事に就けなかった、または低賃金すぎてあきらめたという人たちがアメリカにもたくさんいます。その人たちに手伝ってもらい、自分たちでパッケージを考えたり、オリジナルアートを作ったりするようなプロジェクトを立ち上げています。
――手伝ってくれている方々はボランティアですか?
クラウドファンディングでサポートしてくれた方に、プロジェクトに参加できる権利がもらえるという仕組みです。
『Fallout 4』にハマって5キロのダイエットに成功!?
――最近、本気で遊んだゲームはありますか?
PC用オンラインゲームの『EVE ONLINE』に一時期ハマっていました。カウンセラーという、プレイヤー間の選挙で選ばれるグループのリーダーのようなものがあるのですが、それに出馬して勝ちました(笑)。4年間ほど、このゲームを遊んでいましたね。
- 『EVE ONLINE』でロバート・ウッドヘッド氏が立候補したときのメッセージはこちら
ほかに熱中したのは、『KERBAL SPACE PROGRAM』という、ロケットを作って飛ばして壊しちゃうPCゲームです。ただ、最近はAnimEigoの仕事が忙しいため、ゲームにそれほど時間を取れないのが残念です。
昨年のクリスマスに息子が『Fallout 4』を遊び始めたので、私も少しプレイしました。1~2日だけ遊ぶつもりが、ついついハマって長くなってしまいました。
ゲームをプレイしているうちにご飯を食べるのも忘れてしまい、5キロほどやせてしまって、それで「これはダイエットにいいぞ」と(笑)。「Falloutダイエット」ですね。
今回の出張が終わったら、『ウィッチャー3』で次のダイエットを始めるつもりです!
――初期の頃からゲーム機などのハードなどがどんどん進化を遂げ、さまざまなゲームが作られてきました。今年はさらにVR元年とも言われています。こうしたテクノロジーの進化がゲームに与える影響については、どう思われますか?
基本的には、やっていることは同じだと思います。インターネットや携帯電話など、何か新しい物が出るたびに、それをみんなでどう使おうかと話し合います。
ゲームなら、「それを使ってどのように伝えるか」という新しい方法が出てきただけという感じですね。
――最近、日本ではスマートフォンのゲームが主流になりつつあります。ロバートさんから見て、このような状況はいかがですか?
私自身はあまりモバイルゲームをやりません。(実際にスマートフォンを取り出して)このとおり、クロスワードパズルとソリティアの2本しか入っていないです(笑)。
あとは『Cargo-Bot』という、プログラミングができるようなゲームが好きです。ゲームを遊ぶよりは、自分で作った方が楽しいですね。
――ほかに最近ハマったものはございますか?
息子がIT関連のコースでプログラミングを学んでいるのですが、それを勝手に乗っ取って夢中になってしまいました。
これはシンプルなコンポーネントからスタートして、徐々に複雑な回路を作っていくというものです。最終的には単純ながら、自分自身の生命体を完成させることができます。
『ライフゲーム(Conway’s Game of Life)』という名前で、自分でアセンブラのコードを書いて動かすのですが、2,000ラインも書いてしまいました。初期の「Apple II」に雰囲気が似ているので、とても楽しいんですよ。
プログラムを始めたら8時間ぐらい頑張ってしまうので、ダイエットよりも背中が痛くなるという問題が起きますね(笑)。
――今後発売されるゲームで、注目している作品はありますか?
「Oculus Rift」を持っているので、VRゲームに注目しています。あとは、宇宙探索ゲームの『No Man’s Sky』はチェックしてみたいですね。
――ご自身でVRコンテンツを作ってみたいと思われますか?
『ウィザードリィ』を開発した当時は、ほんの数名でゲームを完成させることができました。しかし今だと、100人以上のチームが必要になってしまいます。
なので、急に僕にやれと言われても自分1人ではできません。もしもかかわれるとしたら、アドバイザーやシナリオのお手伝いという感じになるでしょう。
――本日はありがとうございました!
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