82万以上のアプリ動向分析をするApp Annieから見える世界
2016年7月15日、LINEが上場した。上場初日につく初値は4,900円になり、時価総額は1兆円を越えた。株式市場でも大きな期待をもって迎えられている。
LINEは、国内最大のシェアを誇るメッセンジャーアプリの運営のほか、『LINE:ディズニー ツムツム』をはじめとしたゲームサービス「LINE GAME」を展開している。
今回の上場によって新たなステージを迎えたLINEにおいて、LINE GAMEはどのような役割を担っていくのか? 世界規模でアプリ市場データと分析ツールを提供しているApp Annieのリージョナルディレクターの滝澤琢人氏を直撃した。
App Annieとは
世界規模のアプリ市場データと分析ツールを提供する世界最大のアプリ市場情報プラットフォーム。
アプリ開発にかかわるトップ企業の多くが利用しており、82万以上のアプリの動向を分析している。
新興国でのシェアの獲得が海外進出のカギ
――7月15日に上場したLINEについて、どのよう思いますか?
滝澤氏(以下、滝澤):国内最大のメッセンジャーアプリの企業というだけあり、市場の期待はかなり高いと思います。今後、国外の市場への展開していくことについても強く期待されているのだと思います。
――LINEの収益では、LINE GAMEなどコンテンツ事業が4割を占めていますが、今回の上場でこれらのゲーム事業の拡大しそうですか?
滝澤:LINEが国内でゲーム以外のアプリで3年間トップを維持してきたのは、LINE GAMEやスタンプなどのコンテンツ事業によるものが大きいと思います。これは世界的に見てもユニークな収益構造で、LINEの強みです。
特にLINE GAMEは、ゲームポータルサイト「ハンゲーム」を運営していたNHN Japanから分社したLINEが大切に育ててきた事業です。海外市場においてもLINEの大きな強みであり、今後も充実させていく部分だと思います。
――海外進出が期待されているLINEですが、どのような市場への進出が予想されますか?
滝澤:現在、LINEが大きくシェアを持っている国は、日本、台湾、タイ、インドネシアの4ヵ国で、これらの国に集中してサービスを展開することを発表しています。
タイやインドネシアは、現在スマホの普及率が伸び始めている新興国で、今後も大手が強いシェアを持つ先進国よりも、成長著しい新興国への進出が中心になると思います。
――今後大きく市場が成長しそうな新興国はどこでしょうか?
滝澤:ブラジルやインド、メキシコ、トルコは現在、急速に市場が成長している国です。さらに、今後はベトナムやアルゼンチンなども、市場が大きくなっていくと予測しています。
LINEもこれらの国でシェア獲得を狙っていくことになると思います。
――LINEが大きいシェアを持つ台湾やタイ、インドネシアでは、どのようなLINE GAMEタイトルが人気ですか?
滝澤:インドネシアや韓国では『LINE ゲットリッチ』を遊んでいる人が多く、タイでは『LINE レンジャー』が多くダウンロードされています。『LINE:ディズニーツムツム』は、アメリカでも人気タイトルです。
LINE GAMEにミッドコア向けタイトルが増える理由
――日本におけすスマホゲームでは、『モンスターストライク』や『パズル&ドラゴンズ』のようなミッドコアをターゲットにしたゲームが人気です。LINE GAMEでも『追憶の青』などのタイトルのリリースが予定されていますが、今後もミッドコア向けのタイトルが増えていく可能性はありますか?
滝澤:ミッドコア向けのタイトルは海外でも需要は高いです。特に、RPGやストラテジーゲームが、売上ランキングの上位に入りやすい傾向があります。
LINE GAMEも、今はカジュアルなタイトルが人気ですが、今後、海外進出を進めていく上で、ミッドコア寄りのタイトルも増えていくと思います。
――現在、スマホゲーム業界の話題の中心になっている『Pokémon GO』のような位置情報ゲームは、メッセンジャーアプリと相性がいいと思うのですが?
滝澤:ゲームではありませんが、LINEではすでに「LINE HERE」という位置情報サービスを配信していますので、技術面では開発可能だと思います。
ただ、もし位置情報ゲームを出すとしたら、『パズドラレーダー』のように人気のあるコンテンツをうまく生かしたり、『Ingress』のように地図と世界観とうまく融合させるなどの工夫が必要になると思います。
メッセンジャープラットフォームで異なるビジネスモデル
――LINE GAMEのように海外のメッセンジャープラットフォームでもゲームコンテンツに力を入れているのでしょうか?
滝澤:中国や韓国のメッセンジャープラットフォームでも、LINE GAMEのようにゲームコンテンツに力を入れていますが、ビジネスモデルは異なっています。
LINE GAMEはパートナーであるデベロッパーが開発したタイトルを配信するほか、自社でもゲームの開発を行っています。中国のWeChatもゲームの配信をしていますが、LINEと異なり自社で開発を行っていません。
また、韓国のカカオトークは、他のパブリッシャーが配信するタイトルに対し、アカウント連携サービスという形でゲーム事業を展開しています。
――それぞれでサービス展開の形が異なるのですね。Facebookでもアプリセンターというサービスを展開していますが、これは他のゲームコンテンツとは異なるのでしょうか?
滝澤:アプリセンターはプラットフォームというより、広告としての色合いが強いサービスで、Facebook自身はゲームの配信は行っていません。
アジアなどマネタイズが強い地域にシェアを持つプラットフォームは、ゲームを自社で配信するのに対し、Facebookのように多くの国でサービス展開するプラットフォームは、各国のパブリッシャーを相手に広告の形で収益を上げています。
ゲームユーザーと非ゲームユーザーの境界線を越えるLINE
――国内にも多くのゲームパブリッシャーがありますが、その中でもLINEの独自性は何でしょうか?
滝澤:ガラケーからスマホになり、アプリを1つ1つ配信するようになったことで、多くのゲームパブリッシャーは、隆盛の激しいゲーム市場で各タイトルの収益性を追いかけるようになりました。
しかし、LINEは多彩なサービスを展開しているため、ゲームだけでなく生活に根付いたサービスなど総合的な収益を目指しているという点で他のパブリッシャーと大きく異なります。
また、LINEのいちばんの強みはメッセンジャーアプリを通して、多くのスマホユーザーを抱えている点です。
今やLINEは、若い方からご年配まで幅広い層のスマホにインストールされています。その中にはゲームをまったく遊んだことがない人も多いと思います。
そんな人が、『LINE:ディズニーツムツム』などで初めてゲームに課金するという例は多いですし、意外な人がLINE GAMEを遊んでいたという話もめずらしくありません。
スマホゲームユーザーを増やしていく裾野としての役割でもLINEには大きく期待しています。
ゲーム市場でのLINE GAMEの動きにも注目
日本で不動の地位を築き上げ、海外進出が期待されるLINE。今後は、海外の大手メッセンジャープラットフォームとの競争に直面することになる。
しかし、どのメッセンジャーアプリも、細かな違いはあれど、機能面では大差がないのが現状で、新しい市場に進出する際は、ゲームなどのメッセンジャーに連動した周辺サービスの差が勝負を分ける。
そういう意味でもLINE GAMEが今後、LINEのサービスの中で担っていく役割は重要になっていくのではないだろうか。
また、滝澤氏も話していたが、LINE GAMEは、ゲームと縁遠かった人がゲームの世界へ足を踏み入れる入口でもある。
海外進出以外にも、国内のゲーム市場でもLINEの今後の動きに注目していきたい。
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