ヨーロッパの中心で勢いを増しつつあるオーストリアのゲーム産業
今、オーストリアのゲーム産業が盛り上がりを見せている。
首都ウィーンでは、10以上の大学でゲーム開発やゲームデザインの授業が行われ、オーストリア政府も積極的にゲーム業界の促進を行うなど、ゲーム開発者が集まる都市へと変貌を遂げつつある。
今回行われた「オーストリア・ゲーム・ミッション2016」は、オーストリア大使館が主催する記者発表会。
オーストリアのゲーム開発者や、ゲームイベントの企画会社、経済振興会社が、現地におけるゲームを取り巻く環境や最新のゲームについて発表を行った。
コストの低さとクオリティーの高さがヨーロッパゲームデベロッパーの強み
まず登壇したのは、ゲーム業界において世界各国のプロジェクトや問題に対してソリューションを提供する、DDM(デジタルデベロップメントマネジメント)のベン・ジャッド氏。
アメリカ人ながら日本にも在住歴があり、ヨーロッパのゲーム開発にも精通したジャッド氏は、ヨーロッパのゲームデベロッパーの特徴を解説した。
ジャッド氏によると、ヨーロッパのデベロッパーが得意としているのは、以下のようなジャンルのゲームだという。
- FPS
- 経営シミュレーション
- アクション(特に東欧を中心にミリタリー系アクションが盛ん)
- サッカー
そしてジャッド氏は、ヨーロッパのデベロッパーの強みを「コストはリーズナブルでありながら、技術力が高い」と分析。
ヨーロッパには、20年以上にわたってゲーム開発に携わってきた開発者が多く、ゲーム開発のノウハウが蓄積されているという。さらに人件費についても、高い国から低い国まで選択できる幅が広いと話す。
ほかにも、大きな特徴として文化の多様性を挙げた。
ヨーロッパには、さまざまな国や言語が集まっているため、多言語対応や多様な文化性を持ったゲームを作ることにおいて、アメリカや日本に先んじている。
また、ヨーロッパのデベロッパーの強みとして以下のような点を紹介した。
- TwitchやYouTubeでのゲーム配信が盛んなため、動画配信サービスへの連動に強い
- E-Sportsの文化が定着しているので、E-Sports向けの開発に慣れている
- アニメやアメコミなどIPタイトルが多いため、日本のIPにも適応してスピーディーに開発できる
- PCゲームの開発が中心だったため、ハイエンドなコンソールプラットフォームの技術に適応している
- アメリカの文化と日本の文化の中間点なので海外進出の第一歩として適している
そしてジャッド氏は、「日本のコンソールゲームメーカーは課金モデルへの適応で、海外に対して遅れをとっている」と語る。
コンソールゲームに課金モデルを乗せるのが得意なヨーロッパのデベロッパーと組むのは、日本のパブリッシャーにとっても大きなメリットになるという。
ヨーロッパでは、政府がゲーム産業をサポートしている国も多く、クオリティーはこれからも上がっていくだろうとジャッド氏は締めくくった。
オーストリアの最新のスマホゲームを紹介!
続いて登壇したのは、オーストリアのゲームデベロッパー・ドンキーキャットのマルコ・ヴォシッツ氏。
ドンキーキャットでは、カードゲーム『シュナプセン』を発展させたスマホゲーム『Schnopsn HD』が100万DLを達成し、30万人のアクティブユーザーを抱えているという。
続けてヴォシッツ氏は、ドンキーキャットが来年初頭にリリースを予定している2つの新作を紹介した。
1つめの『QWARKS』は、カラフルなキャラクターブロックを4つつなげて消していく落ち物パズルゲーム。
オンラインでほかのプレイヤーと対戦できるのが特徴となっているほか、ミッションに沿ってブロックをすべて消すパズルモードは100ステージも用意されているという。
マネタイズは広告が中心で、基本プレイ無料のゲームになるとのこと。最終的には課金要素も入れていく予定になっているそうだ。
ヴォシッツ氏が発表した2つ目のタイトルは『Goods World』。
『ポケモンGO』のポケモンを資源に置き換えたゲームと、ヴォシッツ氏は解説
こちらは『ポケモンGO』や『Ingress』のようなGPSと連動したARゲームとなっており、現実世界で森に行けば木から木材が入手でき、池に行けば魚が入手できるという。
集めた資源は、さらに多くの資源を集めるための斧などの道具を作る素材となるほか、オンラインでほかのプレイヤーに売ることができる。最終的に、地域で一番お金持ちになるのがゲームの目標だ。
ヴォシッツ氏に続いて発表を行ったのは、オーストリアの大手ゲームデベロッパー・スプロイングのペーター・ヴーツル氏。
スプロイングは、オーストリアで2001年に創業した古参のゲームデベロッパーで、2014年からはパブリッシャーとしても活動している。
ヴーツル氏が紹介してくれたのは、スプロイングが11月中にリリースする予定の新作『KISS:ROCK CITY』だ。
アドベンチャーゲームとリズムゲームを足したような内容で、ロックスターを目指すプレイヤーをKISSのメンバーがサポートしてくれるストーリーとなっている。
プロモーションをKISS自身が行っており、ゲームオリジナルの楽曲が10曲あるなど、KISSファンにはたまらない作品といえるだろう。
政府による助成でゲームデベロッパーが次々誕生
ゲーム開発者による新作発表の後は、オーストリア経済振興社のカール・ゲンザー氏から、オーストリア政府によるベンチャー企業へのサポートについての紹介が行われた。
「オーストリアにカンガルーはいません(笑)」とユーモラスに切り出したゲンザー氏は、オーストリアの状況を解説してくれた。
オーストリアの国土面積は北海道と同じくらい。人口も860万人と、国の規模は小さいが、ヨーロッパの中心にあることから近年、日本企業が次々と進出してきているという。
ゲンザー氏は、オーストリアに拠点を持つ日本企業を紹介。任天堂も2014年にウィーンに新オフィスを設立している
そんなオーストリアでは、政府がベンチャー企業へのサポートに力を入れており、最近でもベンチャー企業の立ち上げ支援として、日本円にして約213億円の予算を割り当てることが発表されたという。
そのため、多くのゲーム開発者がオーストリアに集まってきており、新たなゲームデベロッパーが誕生しているのだ。
国民の100人に1人が訪れるゲームイベント「Game City」
最後に発表を行ったのは、オーストリア最大のゲームコンベンションイベント「Game City」の運営を行っているマイス・アンド・メンのタレク・シャリフ氏。
Game Cityは今年で10周年を迎えるゲームコンベンションイベントで、毎年8万人の来場者があるという。
数字だけ聞くと少ない印象を受けるかもしれないが、これはオーストリアの人口の1%にあたり、同国内での影響力は非常に大きいイベントとなっている。
毎年の会場は、歴史的建造物であるウィーン市庁舎。歴史感あふれる内装のため、ファンタジーや歴史ゲームを出展するメーカーから好評を得ているという。
メーカーによる出展以外にも、ゲーム業界を志望する学生のためのセミナーや、E-Sportsのオーストリア大会決勝が行われるなど、盛況を極めている。
シャリフ氏は「Game City」の来場者のデータを公開し、オーストリアのゲームユーザーの特徴を解説した。
来場者のほとんどがオーストリア国内のウィーン近郊に在住しており、10代の学生が半数を占めている。
最もよく遊ばれているプラットフォームはPCが多く、続いてスマートフォンとPS4が続くという。
現在、ヨーロッパで行われるゲームイベントは、ドイツのケルンで行われている「gamescom」が最大で、続いてフランスの「Paris Games Week」が続いている。
シャリフ氏は「Game City」をこれらに続く規模にしたいと話し、来場者が体験できるVRの展示を増やしていきたいと展望を語った。
ヨーロッパのゲーム産業のハブ(中核)として、さらなる活性化を続けていくオーストリアからどのような新作スマホゲームが誕生するのか、今後も注目していきたい。