【黒川塾47】e-Sports・プロゲーマーに問われる品格とセカンドキャリア

5月24日(水)、黒川文雄氏が主宰する「黒川塾(四十七)」が開催された。異なる立場で発展途上のe-Sports業界に関わるゲスト達から明かされた、日本のe-Sports産業、プロゲーマーが抱える課題を振り返る。

e-Sportsの最前線に立つ者の胸中

2017年1月に行われた第44回黒川塾では、「eスポーツとプロゲーマーの明日はどっちだ!」と題し、e-Sportsを取り巻く環境や抱える課題について語られたのも記憶に新しいところだ。

今回は、その続編ともいえる「eスポーツとプロゲーマーの明日はどっちだ!2」というテーマで、前回とは異なるゲストを迎え、違った立場・視点からトークが展開された。

黒川塾(四十七)ゲスト

  • 筧誠一郎氏:日本eスポーツ協会(JeSPA)事務局長
  • 江尻勝氏:ゲーミングチームDeToNator 代表
  • 大友真吾氏:株式会社CyberZ 執行役員 RAGEプロデューサー
  • チョコブランカ氏:米国EchoFox所属日本初女性プロゲーマー/株式会社忍ism 取締役

左から、黒川氏、江尻氏、筧氏、チョコブランカ氏、大友氏

まずはじめに黒川氏から、アジア競技大会でe-Sportsがメダル種目として採用されたことについての話題が飛び出した。

こうした大会に選手を派遣するためには、その競技の団体が統一されていなければならないなどの条件がある。

筧氏によると、e-Sportsが日本で盛り上がるためには、日本人選手が出場し、選手を応援するシーンが作られることが必要不可欠だとのことだが、現状では選手が出場できる状況には至っていないという。

団体が国内に支部を作り各地の体育協会に加盟する、統一団体がJOCに加盟する、国内大会を開催する、といったハードルがあり、そのすべてを満たすことができていないのが現状なのだ。

2018年にジャカルタで行われるアジア競技大会では、メダル種目ではないものの、公開競技としてe-Sportsが種目として扱われ、そこに向けて、現在3つ存在する団体で話し合いを進めているとのこと。

他の競技に目を向けると、2016年のリオオリンピックでゴルフが112年ぶりに復活したが、e-Sportsと同様に日本ゴルフ協会やゴルフ連盟といった複数の団体が存在する。

それらがオールジャパンとして協力することで、選手の派遣を実現したのだ。

e-Sportsに関しても、役割が異なる3つの団体がありながらも、国内でe-Sportsを普及するという目的は共通しており、JOCが要求する条件を満たす見込みはあると語られた。

また、ゲーミングチームDeToNatorの代表である江尻氏から、国内のe-Sportsシーンに対して感じていることについて話が展開。

江尻氏は、海外のリーグに選手を送り出すなど、国外での活動をすでに始めているが、「筧さんや大友さんのように大会を開いてくださるのは私たちにとって本当にうれしいことなんですね」と、国内での大会について感謝を示す。

その反面、これからはチーム側や選手に課題がのしかかる可能性を指摘。

e-Sportsが興行として成立するためには、他のスポーツと同じように人を集めることが絶対条件だが、現時点では何千、何万人を集めるには力不足と認識しているそうだ。

スタープレイヤー、スターチームが生まれれば人が集まり、グッズが売れるといったサイクルが出来上がり、興行として動いていくことができる。

だからこそ江尻氏は、JeSPAが開催する大会に不満も持っているとカミングアウト。

告知も十分されていない、予選も1チームしか出場しないという有様で、せっかく盛り上がっているタイトルで開催しても、盛り上がっていないように見られてしまうこともあるとし、筧氏に対しネガティブな部分をどう改善していくつもりなのかと問いかけた。

これについて筧氏は、選手や観客にも不自由をかけていることは分かっており、10人ほどいる運営委員たちが、よりよい大会を目指し活動していると回答。

とはいえ、1984年のロサンゼルスオリンピック以前のオリンピックのような、予算がなく、マンパワーで頑張るしかないというのが実状。

そのために、パートナー企業を探したり、選手が光り輝くよう支援をしていける制度を作っていきたいと今後の展望を述べた。

国外から見た日本のe-Sports

江尻氏と同様に、海外で中心に活動するチョコブランカ氏は、海外のチームに所属し、夫のももち氏と共に立ち上げた事業も海外で展開している。

その界隈では、やはり日本のe-Sportsシーンは遅れていて、どうしても中国・韓国・アメリカに目が行ってしまうと言われてしまうそうだ。

とはいえ、海外においてもいい年ながらにゲームをやっていると「いつまでゲームやってるんだ」と言われることもあるそうで、文化に大きな違いはないと感じているのだという。

日本のe-Sportsはまだまだこれからだが、日本は日本のやり方があるのではないかと、前回登壇した馬場章氏の意見に通ずる見解を述べた。

また、国内でe-Sports大会のRAGEを手掛ける大友氏は、まさに日本独自の盛り上がり方を模索しており、日々企画を練っている。

海外のe-Sports大会やショー要素のあるスポーツエンターテインメントを参考に、演出や企画を工夫して会場でしか味わえない空間づくりを試行錯誤しているとのこと。

エイベックス・エンタテインメントとの協業により、6月10日に開催するRAGE vol.4では、ファイナリストのスチール撮影やインタビューの収録、オープニング映像の作成しているとのことで、過去のRAGEと毛色の違う大会になりそうだ。

プロゲーマーに求められる資質とは

続いて、DeToNatorの代表として、選手を育成する立場でもある江尻から、プロゲーマーとしての資質についてが語られた。

江尻氏の考えでは、プロのチームに所属しているからプロなのではなく、プロとしての価値があるからプロなのだという。

10代の若い人がプロゲーマーとなるケースが出てきているが、そこに金銭が発生するため、あらぬ方向に行きやすいと危惧しており、何でお金をもらえるのか、何でパートナーがついてくれるのか、ということを理解しないのは間違いだと、チームの代表としての意見を述べた。

実際のところ、DeToNatorの選手の募集に応募してきて、「お金はいくらもらえますか」という、勘違いをした人が応募してくることもあると暴露。

10年20年とe-Sportsで生きていくため、セカンドキャリアも含め、考え方や行動、ゲームに対し、真剣に向き合う姿勢は、海外の選手と比べてまだまだな部分が多いようだ。

筧氏や大友氏のようなイベントを開く側が、せっかく素晴らしい舞台を用意しても、それを生かすのも殺すのも、主役である選手。

行動・発言のすべてにおいて、プロフェッショナルになることが重要だと、今後のプロゲーマーに必要な資質について熱く述べられた。

プロゲーマーが直面するセカンドキャリア問題

最後に、黒川氏から投げかけられたプロゲーマーのセカンドキャリアについて、事例や予測が語られた。

大友氏が執行役員を務めるCyberZでは、ゲーム実況やプレイ動画が楽しめる動画コミュニティプラットフォーム「OPENREC.tv」を運営している。

OPENREC.tvを選手が一線を退いた後の受け口とも捉えており、実際のところ、配信者として活動する人は増えており、ゲーマーストリーマーというセカンドキャリアが今後増えていくと予測する。

チョコブランカ氏は、自身が夫婦で起業したこともあり、まさにセカンドキャリアの真っ最中。事業の一環で選手の育成も行っているが、格闘ゲームでは珍しいコーチの募集も実施。新しいことに挑戦し、それが誰かのセカンドキャリアになることを目指す。

また、筧氏はJeSPAとしての課題は山ほどあり、1つ1つ整備していかなければならないと考えており、いずれは路頭に迷った業界志望者に働き口を紹介できるようにできればいいと目標を宣言。

ちなみに、DeToNatorに所属した選手は、後にパートナー企業に就職するパターンが多いという。

当然のことかもしれないが、人生は引退の方が長い。

それ相応の覚悟がなければプロゲーマーにはなれないし、現役時に頑張った人がセカンドキャリアを掴むわけで、そういった人は江尻氏もサポートし応援する姿勢だ。

プロゲーマーの現状や未来について、それぞれ違う立場からのさまざまな意見が飛び交いながらも、ゲスト全員のe-Sportsに賭ける熱意を垣間見ることができた。

e-Sportsとプロゲーマーの明日を担う今回のゲストたちの動向に、引き続き注目していきたい