今回、インタビューを受けていただいたのは、本作でプロデューサーを務める、NHN PlayArtの池田康隆氏。
さらに、本インタビューには、ゲーム音楽の作曲で活躍する音楽ユニットACEも同席。ACEは、本日初公開となった本作のオープニング楽曲「金色のレシピ」をはじめ、本作のあらゆる音楽を創り上げている。
池田プロデューサーには、本作のゲーム性や開発の経緯など、ACEのお二人には、楽曲制作についてを中心にお話を伺ってきた。
ACEとは?
- CHiCO(ちこ):作詞家/作曲家/ヴォーカル/音楽プロデューサー
- 工藤ともり(Tomori Kudo):作編曲家/音楽プロデューサー
2009年12月ユニバーサルミュージックより「あの流星の空の向こう 君と繋がるアーカイブ」でメジャーデビュー。ACE自身の活動の他に、ゲームやCM、映画などのサウンドトラックの制作やメジャー/インディーズのアーティストへの楽曲提供やアレンジなどで活躍。
「金色のレシピ」ミュージックビデオ
- 歌:花守ゆみり
- 作詞・作曲:ACE
スマホで広がるアトリエの世界
――本日はよろしくお願いいたします。まず、「アトリエ」シリーズをスマホで、しかもオンラインRPGで出すことになったきっかけを教えてください。
池田プロデューサー(以下、池田):僕自身が「アトリエ」シリーズを好きだったということもあって、「いつか何かやってみたい」と考えていて、実は企画書だけは以前から作っていました。
コーエーテクモゲームスさんへは4、5年前から提出させていただいていたのですが、なかなか製作に着手できるきっかけがなくて……、それが動けるようになったことが始まりかなと思います。
――4,5年を経てコーエーテクモさんから打診の返事がきた、ということでしょうか?
池田:いえ、コーエーテクモさんからは以前から「ぜひ、やりましょう!」という返事はいただいていたのですが、弊社の状況的に着手できなかったことが原因です。
当時、僕自身も別のプロジェクトに携わっていたことや、いろいろな背景があってなかなか進めることができませんでした。
今年、2018年になったというのは、あくまでタイミングの問題ではありますが、プロジェクトを進めることができて幸いです。プロジェクトが始まってからも、コーエーテクモゲームスのガストブランドとは密にコミュニケーションを取りながら進めています。
――「アトリエ」シリーズがお好きということですが、これまでに約20作ほどの作品が発売されていますよね。池田さんは、どの程度プレイされているのでしょうか?
池田:第一作目の『マリーのアトリエ 〜ザールブルグの錬金術士〜』から全部やっています!
――ということは好きなシリーズをやってみたい、という熱量がすべての始まりなんでしょうか。
池田:もちろんそれも理由の1つですが、やり込めるゲーム設計があるということも理由の1つかなと思っています。「アトリエ」シリーズって、やり込み要素がシリーズを追うごとに増えていきますよね。
そのあたりがオンラインゲーム向きかなと感じていて、オンライン上で再現したら面白くなるのではないかと思っていたところが大きいかなと思います。
シリーズファンと新規プレイヤー、どちらも入りやすい世界観
――歴代キャラクターの中ではロロナが事前登録でのプレゼントが決まっていますが、ほかにもゲーム内で登場する予定のキャラクターなどは決まっているのでしょうか?
池田:もちろんあります。マリーはすでに発表させていただいていますが、歴代のキャラクターをどんどん登場させていく予定です。
「アトリエ」シリーズは、だいたい毎年1本は新タイトルが発売されているので、それに連動する形でも何かできたらなと考えています。
――ということは、まずはシリーズのファンに向けた作品という位置づけになるのでしょうか?
池田:もちろんそうです。僕自身そういう形にしたいと思っているところもありますので、今のところはその路線ははずれないようにしたいと考えています。
――逆に、今作ではじめて「アトリエ」に触れる方は意識するところはあるのでしょうか?
池田:「アトリエ」シリーズのファンが楽しめることを注力して作っているのですが、まったく知らない方も問題なくプレイできるように設計しています。
たとえばシナリオにおいてはメインシナリオと各キャラクター、すべて新規で用意しています。
登場アイテムや用語などは一部「アトリエ」シリーズから引用していますが、シリーズを知らない方でも楽しめると思います。
――では、これまで家庭用向けゲーム機向けに展開してきたシリーズのシステムをスマホ向けにしようとしたときの、苦労みたいなものがあったらお聞かせください。
池田:家庭用ゲームでは当たり前の要素も、スマートフォンに持ってくるとそれが当たり前ではなくなる要素の取捨選択が一番苦労しているところです。
例えばアイテムひとつの見せ方もそうですが、「アトリエ」シリーズのアイテムはとても情報量が緻密で、「品質」「特性」「属性」など、テキストや細かい装飾で詳しく見せてくれています。
しかし、スマートフォンの画面でそのまま再現しようとすると、アイテム1つの情報を提示するだけでも文字がいっぱいになったり、文字を小さくしなくてはいけないなど、スマートフォンの画面でプレイするには最適でない状態が多数出てきてしまいます。
そのため、スマートフォンで表現する際、もともとある魅力の要素を編集して実装するという心がけを各要素で行っています。
中でも一番苦労しているのはアイテムの設計と調合システムですね。この辺りもガストブランドと相談しながら決めています。
それに加え、気軽に遊べるような区切りをつけるというところも意識しています。
1クエスト2~3分、最大でも5分で終わるくらいにして、気軽に起動して、気軽に遊べるようにしています。
――最も注力したところを挙げるとするとどこでしょうか?
池田:一番はグラフィックです。今回はちょっとキャラクターはデフォルメしたり、フィールドも3Dと2Dを織り交ぜて、見せ方を2Dっぽくしています。
スマートフォン版は、家庭用ゲーム機のデザインクオリティと比較されると圧倒的に描画力で負けてしまうので、独自の路線を追求しつつ、綺麗に見える方法はどうするべきかを考えた結果、今のデザインコンセプトとなりました。
スマホゲームならではのやり込み要素に期待
――「アトリエ」シリーズといえば、繰り返しプレイする中毒性や、やり込み要素が特徴でもあると思いますが、今作にも踏襲されるのでしょうか?
池田:そうですね。見た目はかなりシンプルにはしているのですが、調合における特性のレベルアップや特性継承といった要素は入っています。
素材採取マラソンをして、素材をかき集めて調合しまくって、好みの特性と品質を持ったアイテムを作り出して……、といった遊びができるようにはしていますし、本当に自分の望む装備を作ろうとした場合は、かなりやり込まないといけないような仕様です。
――クローズドβテストではスマホ向けのUIということもあって、かなり遊びやすい印象でしたが、やはりやり込める内容ということですね?
池田:そのとおりです。見た目はシンプルに、中身は奥深く作らないとゲームとして長持ちしないというところもあるので。そこはやはり外せなかったですね。
――調合システムはシンプルな印象です。今作ならではの調合の特徴はありますか?
池田:特性の継承、中間素材、レシピによる調合という基本的なところはシリーズの流れを汲んでいるかと思いますが、今作の特徴としては、大きく4つほどあります。
1つ目は、完成アイテムは純粋に品質が高ければ強くなるという設計にしています。ベースとなる素材の品質が高ければ高いほどに完成品の品質がよくなり、強くなるというシンプルな構図です。
2つ目は、素材自体を強化できる「素材強化」というメニューを用意しています。同じ素材を掛け合わせることで素材自体の品質をアップできるという仕組みです。
3つ目は、装備強化のメニューがあります。こちらは完成した装備自体を強化できるだけでなく、同じ装備を調合すれば、完成後でも品質アップが可能になります。
4つ目は、好みの特性を100%継承できる「特性継承枠」を利用できることです。「特性継承枠」という部分に引き継ぎたい特性を持った素材や装備をセットすることで、完成品に特性を継承できますっていうことになります。
――ということは、まずは品質を高めるというところを目指していくという形になるのでしょうか?
池田:そうですね。より良い素材を手に入れて調合するということが大事になります。
今作ならではの要素として、素材自体をかけ合わせることで、素材自体を強化して品質を上げることができるようにもなっていますね。
――素材の品質が重要ということは、今作ではガチャだけでは強い装備は作れないということになるのでしょうか?
池田:そんなことはないです。ガチャの装備は、出現する時点で品質が高いので、それをそのまま完成品として受け取るだけでもいい装備として獲得できます。
ただ本作においては、ガチャから出現する装備をあえて素材で受け取ることも可能です。
素材で受け取ると、自分で調合する必要(エーテルを消費する)がありますが、素材として受け取って、自分で素材を強化したり、特性を任意のものを継承したりといった、調合前にアレンジして完成させることも可能です。
かなりこだわる人は、特性継承をしまくって、高いLvの特性が付属するアイテムを、装備調合時に使って継承させる……ってこともできます。
――ガチャからはキャラクターも排出されますが、過去シリーズのキャラクターなどもここから入手することになるのでしょうか?
池田:キャラクターの登場の仕方はさまざまですが、オーソドックスにガチャから登場することは考えています。ほかには、特定のクエストをクリアすることで入手できるものもあります。
――イベントなどは、期間限定のものを開催していくことになるのでしょうか?
池田:そうですね。「錬金術士試験」みたいなものや季節イベントなどは、定期開催で考えています。
試験については、特定の課題をクリアしていくと、貢献度がたまっていき、それをランキングボードのような見せ方で、自分の成績として確認できるといったイベントです。
それで、貢献度やランキングに応じて報酬がもらえるという流れですね。
――本作はオンラインRPGということで、マルチプレイが実装されています。マルチ専用のマップやイベント、マルチでしか入手できない素材など、ならではの要素はありますか?
池田:マルチプレイでしか登場しないモンスター、リーダーしか入れないダンジョンなどは、今後のアップデートで実装予定です。そこではマルチプレイモードでのプレイが必須になりますね。
――発表会では調合をいっしょにできるという内容もありました。
池田:「みんなで調合」ですね。現状機能としてはあるのですが、いろいろと考えるところがありまして、実装は時期を見てかなと思います。
やるならもう少し煮詰めないといけないかな、と。
――一方で、CBTの段階でも、メインシナリオはかなり多いように感じました。遊ぼうと思えばかなりガッツリプレイできるのではないしょうか?
池田:CBTでは、メインシナリオが12章、これに加えてキャラクターごとのシナリオやクエストを一部実装しました。
CBTではなかったんですが、正式サービス時からは、育成系クエストやチャレンジクエストみたいな繰り返し強敵に挑むような要素も実装します。
メインシナリオを終えられた後でも、毎月のアップデートで各種の遊びを実装します。自分の好みに合った素材集めだったり、強化を徹底したりなど、スマホゲームらしい遊び方もできるようになっています。
――ゆくゆくはメインシナリオの追加なども?
池田:もちろんそれもありますけど、どちらかというと繰り返し遊べるコンテンツの方が多くなるかと思います。
季節イベントやコラボイベント、どんどん追加されるキャラクターにあわせたイベントを定期的にやっていく感じになるかなと思います。
シリーズ20周年のプレッシャーと戦った作曲
――続いてACEのお二人が担当する、本作の音楽についてお伺いします。まずは、ACEさんに依頼することになったきっかけを教えてください。
池田:僕が元々ACEさんの楽曲が好きだったのが理由ですね。開発に着手し始めてからすぐの段階で声をかけさせていただきました。
工藤ともりさん(以下、工藤):お話をいただいた時点では、「アトリエ」シリーズに対するイメージが曖昧なものだったので、まずは資料をひととおり見せていただきました。
また、楽曲をケルト音楽みたいな感じにしたいというオーダーをいただいたのですが、幸いなことに、僕らはケルト音楽がものすごく好きだったということもあって、ぜひやらせてくださいと返事をしました。
このような始まりでしたので、最初はそこまで強く感じてなかったのですが、昨年迎えたシリーズ20周年記念の重みなどで、どんどんプレッシャーがかかっていきましたね(笑)。
――普段、お仕事の話をいただいてからプレッシャーを感じるようなことは多いんですか?
工藤ともり:もちろんあります。
CHiCO:段々とプレッシャーを感じることが多いですね。
ただ、『アトリエ オンライン』に関しては、資料を見せていただいて、すごく幸せなイメージを感じたので、やってみたい!という気持ちの方が強かったです。
工藤:「アトリエ」シリーズは音楽がやはりすごい有名なところもあったし、作曲している方にも知り合いの方がいまして。音楽の印象の方が割と先行していた感じです。
なので、「アトリエ」シリーズっていうとゲームの内容よりも音楽、「こういう音楽だよね」ってイメージはなんとなくありました。
――ちなみにお二人は「アトリエ」シリーズをプレイしたことはありますか?
CHiCO:シリーズ名を耳にしてはいましたが、プレイし始めたのはこのお話をいただいた後ですね。『フィリスのアトリエ 〜不思議な旅の錬金術士〜』をプレイしました。
――実際に遊んでみて、どうでしたか?
工藤:すごく面白かったです。元々調合がウリのゲームだというのは知っていたのですが、それ以外はよくわかっていなかったんです。
ただ実際にプレイしてみると、純粋なストーリーや調合の面白さにすごく惹かれていきましたね。
プレイを始めてから楽曲をこういう風にしようか、みたいなアイデアがいっぱい出てくるようになりました。
CHiCO:一番最初に楽曲に取り掛かったときは、あえて前作に引きずられないよう、プレイせずに作ろうかなと思ってたのですが、徐々に行き詰まりまして……。
今までのファンの人、そして20年の重みがあるタイトルなので、アトリエならではのいいところを見逃してはいけないなと思い直して、それを研究とまでは大げさですが、プレイして感じてみようと思いました。
ちゃんとプレイしてよかったと思います。とても純粋で新鮮でした。
――シリーズものの案件では、過去作をプレイすることって多のでしょうか?
CHiCO:基本はしますね。
工藤ともり:そうですね。ただ、あまり突っ込まない程度にやるというのを心がけています。
今までのユーザーさんを無視はできないけど、かといって過去作に気を取られると新しいものができない。シリーズものはそのあたりが難しいです。
OP曲「金色のレシピ」はキラキラした学園モノ感を表現
――オープニング楽曲の「金色のレシピ」というタイトルには、どういった想いが込められているのでしょうか?
CHiCO:実は題名案がいっぱいあって、今の「金色のレシピ」というタイトルではなかったんです。
最初は「君を笑顔にしたい」私の気持ちに焦点をあてて書いてたのですが、工藤くんがもっとアトリエらしい歌詞があるはずと厳しく何度も駄目出しをしまして、その結果、アトリエらしい歌詞、そして「君の笑顔を得れるようなレシピがあったら、それを見つけるための冒険に出る」という歌詞に書き直しました。
どんな仕事も突き詰めるとそうかもしれないですが、私個人は誰かのために、誰かが幸せになるために音楽を作っていきたいと考えています。
そういう人生のモットーが、ゲームを遊んだときや、コンセプトや脚本などを見せていただいたときに、今作にすごいフィットすると思ったんです。
題名や歌詞は、そんな想いを込めて泣きながら書きました(笑)。
工藤:サウンドについては、王道だったりちょっとエスニック風だったりとか、さまざまな種類のオープニング楽曲がありましたが、今回は王道路線にしようと。そして、『フィリス』をプレイしたときに感じたような純粋さを乗せたら、すごくいいものになるかなと考えました。
――「金色のレシピ」で音楽的にこだわったところ、ここに注目してほしいみたいなところはありますか?
工藤:やはりケルト感、世界観はありつつも普遍的な曲になるよう色々試行錯誤しております。
民族楽器、日本でいうと尺八や三味線もそうですが、ケルト楽器は聴くとどこか異国といいますか、一瞬でその世界に引き込んでくれる、そのような魅力があると思いますので、BGMもそうですがOPにもケルト楽器を曲のアレンジに取り入れています。
CHiCO:ケルト音楽のミュージシャンが、あまりやったことないようなことを細かいところでやっていますね。
あとは「学園もの感」みたいなのを出すため、いろいろな鐘の音を試しました。そのイメージがあったので、最初のタイトルにも無意識に「鐘」という文言が入ったんでしょうね。
工藤:それとミュージックビデオではワンコーラス、曲の半分が流れますが、フルコーラスVerも是非聞いて頂きたいと思っています。2番からドラマティックな展開にしています。
それと歌っていただいた女性主人公役の声優、花守ゆみりさんのレコーディングもとても楽しく、素敵な感じに歌って頂きました!
――MV以外の、ゲーム内の曲などもお二人が手がけているのでしょうか?
CHiCO:そうですね。 絶賛今製作進行中ですが、全部やらせていただいています。
工藤ともり:当初は全編ケルト音楽でいこうという話だったのですが、それだけで全部を表現するのが意外と難しいということになりまして、ブラジルのサンバっぽい曲だけどアイリッシュ楽器を使っているとか、悩んだところは結構ありますね。
CHiCO:実際にケルトかどうかは重要ではなく、なるべくケルト感や異国感、『アトリエ オンライン』にぱっと入れるような世界観を、このゲームの世界のリアリティをトータルで作ろうという話はしました。
ただ、ケルト音楽をいっぱい研究して、ずっと聴いていると、ある種のケルトっぽさみたいなものに無意識にカテゴライズしてしまう部分があります。
そこに囚われすぎてしまうと、音楽が狭くなってしまうと思って、そうならないようにすることに苦労しました。
1,000個以上のアイデアが詰まったスマホが作曲の道具
ゲームタイトルごとの世界観を表現することの難しさについて質問したところ、「音楽の方向性を決めることが作曲の80%」と話す工藤さん。
思いついたメロディはすぐにスマホのボイスメモを使って鼻歌を記録しているそうで、1,000個以上のアイデアがスマホに入っているのだという。
あっという間に出来上がる曲もあれば、ボイスメモに入れたアイデアを100個並べても良い素材になりそうになく、とても時間がかかったり、最初のコンセプトから見直したりすることもあるとのこと。
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