『キャンディークラッシュ』の成長を牽引するKing Japan枝廣氏の手腕に迫る

2017年11月、Kingが誇る大人気パズルゲーム『キャンディークラッシュ』がリリースから5周年を迎えた。日本においてもたくさんの人にプレイされているのはご存知のとおり。今回、その成長を牽引するKing Japan代表取締役の枝廣憲氏に、キャンディークラッシュやKingの歴史、ライフスタイルについて聞いてきた。

モバイルゲーム市場で勝ち続ける秘訣は自分の”直感”――

『キャンディークラッシュ』といえば、キャンディーを消すだけの簡単な3マッチパズルながら、豊富なステージ数やポップで爽快感のある演出で人気を博している。

2017年11月14日(火)付けでリリースから5周年を迎えており、全世界で約30億ダウンロード、累計で1.1兆回もプレイされているというモンスタータイトルだ。

本作を手掛けるKing Japanの代表取締役、枝廣憲氏には以前、連載「中の人に聞く攻略法」で、日本向けローカライズの裏話やパズルのコツについて語ってもらった。

今回、5周年を迎えるにあたり、これまでの思い出やゲーム会社の社長としてどんな働き方をしているのか、キャンディークラッシュの成長を支える枝廣氏の人間性を探っていく。

King Japan代表取締役の枝廣憲氏

日本にヒット作を提供する社長の選球眼

――本日はよろしくお願いします。Kingのタイトルは海外で提供されているものを含めると、200以上もあるそうですが、日本でリリースするタイトルはどのように決めているのでしょうか?

枝廣憲氏(以下、枝廣):実は、僕1人で決めています。

もちろん、多少の相談はしますが、人の意見を聞くよりも直感的なものを大事にしたいなと思って。

事前に海外のマーケットで評価などを聞いても、最後はだいたい自転車を漕ぎながら考えて決めます。

割と最後のジャッジは、会社の外で決めることが多いです。

――「これはいける!」と思う瞬間てどんな感じですか?

枝廣:本当に直観です。気持ちいいと思ったらいけると思います。

カジュアルゲームをヒットさせるのってすごく難しいんですけど、シンプルであるがゆえに、演出面などの脇の工夫とかが大事になります。

それこそ音とかアニメーションとか、細かいところのディテールをこだわっているかというのが結構大事かもしれないです。

――日本でリリースされるゲームは、基本的にすでに海外でリリースされているものでしょうか?

枝廣:そうとは限らないです。

ヨーロッパのスタジオに出張して、開発中のタイトルのコンディションだったりとか、マーケットポテンシャルだったりとかをみて判断します。

ものによってはグローバルローンチと同じタイミングで日本でリリースしますし、海外を先行させて様子を見てから日本にしようか、という場合もありますし。

――Kingは世界中にオフィスを構えていて、開発進行中のゲームがたくさんあると思います。常時、何ラインほど動いているのですか?

枝廣:実際に何ラインというのは、把握しきれていないんです。

Kingは社員数が約2,000人で、世界にオフィスやスタジオが13拠点あります。

その中で、ロンドン、ストックホルム、バルセロナに大きなスタジオがあるのですが、ここだけでかなりの本数が走っていて、ちょっと把握しきれないんですよね。

別に隠しているわけではありません。

数え出したらいくつあるのか……、まぁ50~100のレベルではないですね。

そのあたりは情報を取りこぼさないように見るようにしています。

――日本でリリースしてみて、「これは失敗だったな」と思ったタイトルはありますか?

枝廣:正直言うと、どれも失敗とは思ってないんですけど、日本と海外でユーザーさんの動きが違うなと思ったタイトルはありますね。

ただ、失敗という切り口でみるとないなぁ。

日本のゲームユーザーの皆さんは、欧米圏だったりアジア圏の他の国のユーザーさんと比べると、長く深く遊んでいただけるというイメージがあります。

基本的にどのゲームに関しても、日本に合うと思ってリリースしているので、数字的な部分や反応はいいですね。

――以前、キャンディークラッシュのファンの方に話を聞いてみたら、キャンディーが消えたときの音とか演出が好きでプレイしているとおっしゃっていました。

枝廣:他のゲームにも総じて言えると思いますが、コンマ1秒ズレるだけで人間って気持ち悪く感じてしまうんですよね。

キャンディーがパッと消えた後に、ポンって音が0.1秒後にくると「ん?」ってなる。

これを「1フレーム」とか「0.1秒の世界」とか言いますが、このズレがあるかないかだけで、技術的な部分やこだわり的な部分の追求が見られるかと思います。

キャンディーが消える音やアニメーションが多くの人を魅了する。効果音のタイミングにもこだわって気を配っているという

Kingの歴史を振り返る

――初歩的な質問なのですが、Kingの1作目がキャンディークラッシュなんですか?

枝廣:いえ、Kingはそれ以前にもたくさんのゲームを作っています。

2003年に設立されて、もともとはPCで遊ぶFLASHゲームを作っていた会社です。

現在でもロイヤルゲームスというサイトにアクセスしていただければ遊べますよ。英語しかないですが。

僕らの作ったゲームの初期版のようなものがありますよ。

――そこから時代が流れて、スマートフォン向けゲームの1作目がキャンディークラッシュ?

枝廣:そうです。

――ということは、スマートフォンの世界に進出していきなりヒット作を生み出したのですね。

枝廣:FLASHゲームでちょっと芽が出始めて、その後Facebookにゲーム出したんですよ。

その当時はまだ他のゲーム会社さんが世界No.1と謳ってらっしゃったんですけど、そこを初めて超えた会社がKingだったんですよ。

そのとき提供していたのが『バブルウィッチ』です。

――バブルウィッチの方が先にリリースされていたんですか。

枝廣:そうですね。

その後、矢継ぎ早にキャンディークラッシュが出て、世の中の反応は「すごいゲームが出たぞ」と。

「Facebookでキャンディークラッシュやろう」ってなってたんですけど、モバイルの世界がこれからくると感じて、いち早くキャンディークラッシュをモバイル向けに展開したんですね。

Kingのタイトルの多くはFacebookにてプレイできる。モバイル版とのデータ連携もできるので、場面に合わせて環境を選択できる

それでご存じのとおりビックバンが起きて、2013年の1年間で、もうとんでもないことに……(笑)。

僕はそのときサンフランシスコにいたので、目の当たりにしていたわけですよ。

それで日本語版が出たわけですが、ローカライズがめちゃくちゃで「なんじゃこりゃあ! 台無し!」みたいなことがあってですね、思い出深く私の記憶に刻まれております(笑)。

――日本向けのローカライズを改革したことが、キャンディークラッシュにおける枝廣さんの功績ですね。

枝廣:もちろんテキストも大事なんですけど、適切な表現の仕方もありますし、演出のタイミングも重要です。

地域によっては宗教や文化的な背景もあるので、そのあたりをすべて照合しながら、日本っぽいものをいくつか作っていきました。

――では、これまでキャンディークラッシュのローカライズやプロモーションを手掛けてきて、思い出に残っている出来事を教えてください。

枝廣:「App Ape」さんが出した日本のユーザー数が多い企業ランキングでLINEさんに次いで2位だったことがあるんですよ。

ゲーム会社単独では1位でしたが、これが僕の中では大きな達成感がありました。

数々の日本のゲーム会社が歴史を積み重ねてきているマーケットで、Kingというブランドがヨーロッパから進出して、欧米文化不毛の地といわれる日本でユーザー数1位を成し遂げたということは、非常に思い出深いですね。

――5周年を迎えたばかりですが、これから6周年、7周年……、10周年に向けて、どういったゲームにしていきたいか、その想いをお聞かせください。

枝廣:まずは5周年ありがとうございますという気持ちが非常に強いです。

移り変わりの激しいマーケットで、5年間もこれだけ評価いただいてるゲームは少ないと思っています。

今年はアメリカのマーケットでNo.1に返り咲いたり、ソニー・ピクチャーズさんの映画『The Emoji Movie』(邦題『絵文字の国のジーン』)でキャンディークラッシュの世界を表現していただいたりと、いろいろなことがありました。

アメリカではキャンディークラッシュのテレビ番組も始まっています。

キャンディークラッシュのテレビ番組は、米CBS局で放送中。ゴールデンタイムのレギュラー番組だという

他にも「MOSCHINO(モスキーノ)」というファッションブランドとのコラボレーションなど、1つのゲームとしてはこれまで規定されていたフレームから大きく飛び越えることができた1年でした。

これが5年目にして起きているというのが、ゲーム業界に吹かせた新しい風だと思っていて、キャンディークラッシュはどこまでもイノベーティブでなければいけないと思っています。

ゲーム内のアップデートはもちろんですけども、またここから5年間続けるとしたら、もっと違ったところでも世界観を作って、より新しいことが必要になってくるのかな。

ゲーム会社社長の夜は遅い……

――そんなキャンディークラッシュをここまで導いてきた枝廣さんですが、1週間のスケジュールはどんな感じですか?

枝廣:1週間ですか?

まず月曜日と木曜日の朝はジムに行ってます。

ここ(King Japanのオフィス)から歩いて3分くらいの場所にあるジムです。

必ず9:00から50分、体を動かして、うちは10:00が始業なのでそれまでには必ず出勤します。

最初は週1回で通っていたのですが、足りないと感じて月・木の週2回通っています。

今回、特別に氏のデスクを撮影させていただいた。物が散乱してない仕事がしやすそうな環境だ

足元には、簡易的なエクササイズペダルも! 体力作りに余念がない……!

――その他のスケジュールはやはりその時次第ですか?

枝廣:そうですね。

あと、だいたい年に10回前後くらいの出張がありますね。

――月に1回ぐらいのペースですね。

枝廣:そうですね。

ヨーロッパもあればアメリカ、アジア、国内もありますし、期間の短いものから長いものまであります。

――国内の拠点はこちらのオフィスだけですよね?

枝廣:そうですね。

ただ、他社さんとお仕事することも多いですし、それこそ『キャンディークラッシュ ソーダ』のリリースイベントは北海道でやりましたし。

あちこち飛び回っています。

スケジュールを確認しつつ質問に答える枝廣氏。本人いわく「あまりパツパツではない」スケジュール感だそうだ

――さすがに忙しそうですね。

枝廣:夜に予定が入っていることが比較的多いですね。

毎日のように飲んでいる週もありますね(笑)。

――では、平日は遅い時間に帰宅することが多いのですか?

枝廣:そうですね。子どもが起きている時間に帰ることはレアですね。生まれて9か月ですので。

なので朝は必ず子どもと接するようにしています。

――おむつを替えたり、寝かしつけたり、お風呂に入れたりと、大変な時期ですね?

枝廣:お風呂に入れるのは実はちょっと苦手なんですよ。

完全に自分だけの時間にしたいんですよ。考え込むので。

あと、お風呂の中で寝てしまうこともあるので……。

お風呂のお湯が冷たくなるまで寝てしまうこともあるくらいなので、危ないですね。

育児は妻に甘えっぱなしなところはありますね。

――ゲームをプレイする時間はありますか?

枝廣:自社のゲームですし、素晴らしいゲームだと思っているのでキャンディークラッシュはよくプレイします。

最近は『バブルウィッチ3』も多いですかね。

枝廣氏が最近プレイすることが多いという『バブルウィッチ3』。日本でKingがリリースした中では最新作のタイトルだ

――以前、King Japanのプレミアムフライデーの取り組みを取材させていただきましたが、その他に何か面白い活動はされていますか?

枝廣:隔週で社員の1人が幹事になって、社員みんなでランチに行っています。

オフィス(恵比寿)の近くのお店に行くことが多いですね。

――恵比寿界隈でおすすめのお店ってありますか?

枝廣:これが死ぬほどあるんですよ!

オフィスを青山から恵比寿に引っ越してきて、もっとも改善されたのは食事なくらいです。

デートするにしても、会食するにしても、家族で行くにしても、いい店が多いです。

ラーメンも多くて、「ちょろり」というおいしいラーメン屋があります。

とりなご」という有名な鶏料理店もおすすめです。

あと、僕がいま推しているのが、会社のすぐ近くにある「鶏敏」という焼き鳥屋。

最近だと、夜にミーティングが長引くと、ここまで運んでもらいます。

これまでいろんな焼き鳥屋に行きましたけど、鶏敏が1番旨いです!

恵比寿の飲食店について熱く語っていただいた。美味しいものを食べて体とメンタルのコンディションを整えるのも、群雄割拠のモバイルゲーム界を生き抜く秘訣なのかもしれない……

――キャンディークラッシュをはじめとした、Kingタイトルを成功へと導く原動力が分かった気がします。本日はありがとうございました。

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