5V5の実装でPC向けMOBAに匹敵するゲーム性を実現
『Vainglory』といえば、これまで3対3のルールで戦うMOBAタイトルだったが、2018年の初頭に5対5で戦う「5V5」モードの実装を予定している。
従来はレーン(味方と敵の拠点をつなぐ道)が1つしかなかったが、5V5では一般的なMOBA同様3レーンとなり、より戦略的なバトルが味わえるようになる。
そもそも、基本のモードを3V3にしたのは、開発時のモバイルデバイスのスペックやテクノロジーを考慮したことに起因するとのことで、それらの課題が解決された今になって、実装に着手したという背景だ。
マップが広くなったこと以外にも、マップ中央に流れる川の流れや、仲間にすることができるドラゴンなど、戦術に幅が広がる要素が数多く盛り込まれているという。
また、120fpsで動作する滑らかで美しいグラフィックも見どころの1つ。
『Vainglory』のYouTubeチャンネルでは、以上のような5V5モードの特徴を紹介する動画が公開されているので必見だ。
この5V5モードについて紹介された日本でのメディア向け発表会には、世界大会「World Championship 2017」にも出場したDetonatioN GamingのViViRoyaL選手、ViViQIZ選手、tatuki217選手も登壇。
ViViRoyaL選手は、
- 3V3より人数が2人増えたこと
- マップに大きな変更が加えられたこと
を注目しているポイントとして挙げた。
5V5で戦術が広がる――。Taewon Yun氏インタビュー
今回インタビューさせていただいたのは、Super Evil Megacorpのグローバル・パブリッシング ジェネラルマネージャー、Taewon Yun(テウォン・ユン)氏。
5V5モードの特徴や、氏から見た日本のe-Sportsシーンについて聞いてきた。
――本日はよろしくお願いいたします。はじめに、Teawonさんの経歴を教えてください。
Taewon Yun氏(以下、Teawon):私はSuper Evil Megacorpでグローバル・パブリッシング ジェネラルマネージャーを務めています。
運営やマーケティング、カスタマーサービスなど、ゲームを開発すること以外のすべてが私の仕事です。
以前は、Blizzard EntertainmentやWargaming、Electronic Artsなどに在籍しており、PCゲーム事業を経験してきました。
モバイルゲームに携わるのは、Super Evil Megacorpが初めてです。
――新たに実装される5V5モードに関して、これまでユーザーからの要望はあったのでしょうか?
Teawon:はい。非常に多かったです。
カスタマーサービスの担当者が入社後に初めて運営にレポートした要望が、5V5モードの実装を望むユーザーの意見でした。
それくらい、5V5モードを望む声は多かったです。
――5V5モードを触ってみて、PC向けのMOBAのゲーム性に近付いた印象を受けました。現在、『Vainglory』をプレイしているユーザーは、PCのMOBA経験者が多いのでしょうか?
Teawon:私たちもPC向けMOBAの経験者が多いのかと思っていましたが、実際は半数以上がPCゲームを一切プレイしたことがないユーザーです。
『Vainglory』が初めてのMOBAだという人が多いです。
――5V5モードでは、従来の『Vainglory』とはどのような違いが生まれるのでしょうか?
Teawon:1番のポイントは戦術に幅が広がるということです。
3V3も楽しいモードですが、上達するにつれて、敵の場所や行動が予測できるようになってきます。
5V5はマップが広いですし、新しいモンスターや障害物があるので、常に相手が何をしているのか考えなくてはいけない、ドキドキするような感覚を味わっていただけると思います。
――やはり、レーンが3つになったことが大きな違いですね。
Teawon:もちろんレーンが増えたことで戦術の幅が広がります。
しかし、それ以外にもいろいろな要素を盛り込んでいて、例えば、マップ上にドラゴンが存在します。
このドラゴンは倒すと仲間にできるのですが、相手より先に攻撃する、相手チームが攻撃したのを横取りする、相手がドラゴンに夢中になっている隙に違うレーンから攻める、などの戦術が考えらるでしょう。
また、マップの中心には川が流れて、流れに逆らって歩くとスピードが遅くなり、流れに沿って歩くと速くなります。
他にも、テレポートブーツというアイテムを使うとマップの好きな場所に移動できるのですが、テレポートした直後は目が回ってしばらく動けなくなります。
――マップの種類によって異なる戦術が生まれたりするのでしょうか?
Teawon:5V5のマップは基本的には同じ構成になっています。
ただ、冬に雪が降ったり、春には花が咲くなど、季節ごとに変化を付けることは予定しています。
将来的にはマップの作りにも変化を加えたいですね。
今日お見せしたマップでは、四隅がそれぞれ四季を表していて、自分がマップのどのあたりにいるのかが分かるようになっています。
――四季って国によってよりけりだと思うのですが、『Vainglory』は世界中いろいろな国の人がプレイしています。四季がない国の人にとってはあまりピンとこないのでは?
Teawon:おっしゃるとおりです!
実は先日、インドネシアでイベントを開催して同じマップを見せたのですが、インドネシアは赤道直下にあるので雪は降りません。
ですが、実際に雪が降らない地域に住んでいても、頭の中でのイメージはあまり変わらないようで、そこは世界共通かなと思います。
後発の利を生かせる日本のe-Sports
――『Vainglory』がリリースされた3年前と比較して、e-Sportsの競技タイトルとして注目が高まっている印象はありますか?
Teawon:そうですね。とても注目が集まっている実感があります。
私は世界各国のカンファレンスでプレゼンをする機会があるのですが、以前はモバイルゲームのe-Sports化に否定的な意見が多かったです。
しかし、つい先日、韓国で開催されたG-STAR 2017では「e-Sportsはバブルになっているから気を付けなければいけない。」という逆のことをプレゼンするくらい、本当に状況は変わってきていますね。
――Teawonさんから見て、日本のe-Sportsシーンはどんな印象をお持ちですか?
Teawon:日本は今、スタート地点にいると感じています。それはすごくいいことです。
私は20年近くe-Sportsに携わっていますが、最初は今のような競技ではなく、ゲームの催し物の1つと見られていました。
それが今では、持続可能なものにしなくてはいけない、エコシステムを作らなくてはいけないと、業界も変わってきました。
日本はその世界が経験してきた15年、20年の積み重ねを享受できる立場にいるのです。
――最後に、Teawonさんの今後の目標をお聞かせください。
Teawon:5年後にはモバイルゲームを使ったe-Sportsがメジャーになって、今のPCゲームが主流なe-Sportsよりも大きいものになると信じています。
モバイルというプラットフォームは、誰でも持っているし、どこでもできるのが強みです。
サッカーや野球などの人気のある競技は、最初は友達と遊びで始めて、学校の部活に入部する、といったステップがあります。
e-Sportsにはまだそれがないのが現状です。
段階的にe-Sportsに入っていける道すじを作るのが1つの目標です。
また、プロになったゲーマーの方が、ちゃんと収入を得て生活ができるようにすることも重要です。
ゲームに関係のない会社にもe-Sportsの可能性に気付いていただき、投資していただくことで、e-Sportsの関係者がe-Sportsで食べて行けるようにすることも目指しています。
――本日はありがとうございました。
インタビューを終えて、筆者は第44回黒川塾を思い出した。
日本eスポーツ協会(JeSPA)で理事を務める馬場章氏の「世界の動向をキャッチアップして、後発の利を生かせれば、世界の先頭に立つ可能性がじゅうぶん残されている」というコメントは、まさに今回Teawon氏が語った日本のe-Sportsの印象と合致しているのだ。
このインタビューの後、複数あったe-Sports団体による新団体の設立発表、プロライセンス発行の決定など、日本のe-Sports界は目まぐるしく状況が動いている。
2018年以降、日本のe-Sportsに世界の注目が集まることになるのかもしれない――。
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