『Ingress』のジョン・ハンケ氏と『シーマン』の斎藤由多加氏の超トークステージ!
この対談では、『Ingree』と『シーマン』という異色の2タイトルがどのように生まれたかが語られた。
さらに、ARやVRといった新しい技術でゲームがこれからどう変わっていくのかについても、熱い討論が行われた。
『Ingress』の生みの親としておなじみのジョン・ハンケ氏だが、『Google Earth』や『Google ストリートビュー』を手掛けたことでも知られている。
また、1993年にリリースされた世界初のMMORPG『Meridian_59』の開発者でもある。
現在はポケモンたちが登場する位置情報ゲーム『Pokémon GO』の開発に取り組んでいる。
一方の斎藤由多加氏は、他にもない奇抜な発想のゲームを世に送り出してきたクリエイター。
『シーマン』だけでなく、ビル建設ゲーム『ザ・タワー』や人海戦術落城アクション『大玉』といったタイトルも世に送り出している。
2つの偉大なゲームが生まれたワケは?
斎藤氏は「群衆をいかに導くか」というゲームに魅力を感じているといい、『ザ・タワー』や『大玉』はそこから生まれたタイトルであるという。
また、『シーマン』は「架空の人格を作ってみたい」とい発想から生まれたゲームで、最近話題の人工知能のはしりとなっている。
ここ5年ほどの間、斉藤氏は百科事典のような地図アプリ『EarthBook』の開発に専念していたそうだ。
これは、時間軸に沿って変化するビジュアルを通して地球儀のようなマップで歴史を学べるアプリで、ゲーム開発で培ったノウハウで「どう見せるか」という要素を高めているという。
いわば、ゲームから地図へという形だ。
いっぽうのハンケ氏は、『Google Earth』から『Ingress』へと、活躍の舞台を地図からゲームへと移している。
ハンケ氏は『Google Earth』を開発している間にも「これがゲームになったら面白い」と考え続けていたそうで、それが『Ingress』の誕生につながっている。
一見すると対照的に見える2人だが、実際にはハンケ氏は『Meridian_59』でMMORPGの開発を経験しており、ともにゲーム開発をホームグラウンドとしていることが対談の中で浮き彫りになった。
『Ingress』はあまりゲームらしくないゲームだが、ハンケ氏は「モバイル」と「GPS」という新しい技術がこのゲームを生み出したと語る。
それまでになかった新技術を、どのようにユーザーに見せていくのか。これが『Ingress』を開発するにあたっての大きなテーマとなっていたという。
斎藤氏は『ゲーム開発者はユーザーをモニターの前に張り付けておきたいと考えるが、なぜユーザーを屋外へつれ出したいと考えたのか?』とハンケ氏に問い掛けた。
ハンケ氏は3人の子どもの父親でもあり、息子の1人は『マインクラフト』にどっぷりとハマっているとのこと。
その子たちを何とかゲームから引き離したいというのが、『Ingress』の原点の1つのなっていると明かしてくれた。
「日本の親たちもそう考えるが、テクノロジーの最先端にいる人はあまりいわないイメージだ」と返答する斎藤氏。
これに対してハンケ氏は、「ゲームから学べることもたくさんある。私は『バランス オブ パワー』で国際関係や経済といったことに興味を持ったし、『EarthBook』も同様だろう。『Ingress』でも歴史的な建物などを探訪して何かを学んでほしい」と話した。
これに対して斎藤氏は「ユーザーを能動的に行動させる何かがある」と話す。
そういったユーザーの行動を「神の視点」と呼ぶ斎藤氏だが、それを体験させるのがゲーム開発者としての仕事だと考えているそうだ。
ハンケ氏は、『シーマン』という、一見すると気持ち悪いゲームがなぜ生まれたのかと斎藤氏に尋ねた。
斎藤氏は、それまでのゲームの「逆」をやってみたかったそうで、キャラクターがユーザーに対してあれこれ指示してくるのも、その表れとなっている。
ちなみに、当時の斎藤氏がゲーム開発の資金を借りにいったところ、銀行員に「過去のゲームと比べて同じ部分がまったくない」と融資を断られてしまったそうだ。
ARとVR――新たな技術がゲームをどう変えるのか?
続いて、最近話題となっている2つの新技術、AR(拡張現実)とVR(バーチャルリアリティー)に関するトークが行われた。
実はハンケ氏は、VRに対してネガティブなイメージを持っており、ARのほうに可能性を感じているという。
これには斎藤氏も同意。VRはユーザーを現実から切り離し、ARはリアルでの経験をより豊かにするものだと語った。
ハンケ氏は、映画『マトリックス』で描かれていたような、バーチャルな世界での暮らしはピンとこないといい、「VRもARもどちらも使い道はあるが、よりARに可能性を感じている」と語る。
最近体験したPlayStation VRでは海の中に潜ってサメと遭遇するシーンがあったそうだが、「怖すぎて、よすぎる。もしかしたらリアルを軽視してしまうかも?」と話していた。
斎藤氏は現在、『ザ・タワー』シリーズの新作の構想を進めているとのこと! 会場のスクリーンでも、そのプロトタイプを披露してくれた。
画面に映るのは殺風景なビルの階層のグラフィック。しかし、そこに動き回る群衆の姿が現れると、急転してリアルな風景に見えてくる。
斎藤氏は「なぜ、急にリアルになるのか自分でもわからないが」と前置きし、自分の画面の中に投影することでイマジネーションが膨らむのではないかと話した。
自分もハンケ氏も、人とのつながりを大事にする世代だからこそ、上手に人の出会いを作り出したいと話す。
ハンケ氏もこれに同意し、「みんなといることで満足感が生まれる。そのお手伝いをしたい。技術とはそういうものだ」と述べた。
ここで斎藤氏が、客席の中にドワンゴ会長の川上量生氏を発見!
斎藤氏に促されてステージに上がった川上氏は、ハンケ氏の子どもの話に非常に共感するといい、「テレビを見せない、ゲームをさせないというのは難しい」と話した。
ゲームは人生の練習でもあり、エンターテインメントが現実の世界にどうフィードバックされるかを、常に考えないといけないと述べていた。
ハンケ氏は、「ゲームはよりよくなってきているが、中毒性も増している。そこから何が生まれるのか? いいことがあれば積極的にゲームを遊んでいいし、それは開発者たちの課題でもある」と返答。
これに対して川上氏は「ネットで完結しないことが、このニコニコ超会議のコンセプト。現実とネットが融合したほうが面白い」と語った。
話題は続いてAIの話に。最近ぎ、囲碁の世界でプロ棋士がAIに負けたことに斎藤氏が触れ、「面白いことはみんなコンピュータに取られてしまうのでは?」と問い掛けた。ハンケ氏は「農業が機械任せになっても、ガーデニングや野菜づくりに励む人はいなくならないだろう」と答え、「やれることと、やらなくていいことが選択できる社会へ向かっていくのでは?」と述べた。
ハンケ氏に「ARやVRで何を作りたいですか?」という聞かれた斎藤氏は、「物事をリアルに描くのは得意ではないので、見た目は絵がダサいけれど、動きを眺めているとその向こうに何かがあると思えるものを作りたい」と返答した。
ユーザーのイマジネーションに委ねてしまうというのが、斎藤氏の考えのようだ。
最後に川上氏は、「VRは楽しいし、新しいものを早く体験したいと思う。けれど、新しいものだけがユーザーの求めているものだろうか?」と疑問を投げかけ、「ときどきは退化が起こったら面白いと思う」という持論を披露してくれた。
また、ハンケ氏は「踊ってみた」のステージを見て、未来のエンターテインメントがここにあると感じたという。「いっしょに行動し、お互いに影響を与え合うことで、何かが生まれるはずだ」と話した。
斎藤氏は「まだまだ話し足りないが、世代が近いせいか私とハンケ氏は考え方が似ている。別の機会にもっと話を聞いてみたい」と語った。川上氏もこれには同意。
別の機会にこの3人の話を聞けることに期待しよう!
ニコニコ超会議2016 開催概要
- 開催日:2016年4月29日(金・祝) 10:00 ~ 18:00
- 会場:幕張メッセ(千葉市美浜区中瀬2-1) 国際展示場1~11ホール、イベントホール
- 主催:ニコニコ超会議 実行委員会
- 超特別協賛:NTT
- 特別協賛:SUZUKI 大和証券
- 協賛:日本航空株式会社
- イカス号協賛:任天堂株式会社
- 後援:総務省 農林水産省 防衛省 文化庁 千葉県 千葉市 WORLD COSPLAY SUMMIT
- 入場券:【前売券】1,500円 【当日券】2,000円 【2日間通し券】2,500円(前売販売のみ)