[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第16回: ポケモンGOがもたらすライフスタイルの変革

2年前から、ねこを飼い始めた。家ねことして一生、家から出ないねこになるはずだった。しかし、飼い始め て7ヵ月くらいしたあるとき、外の景色を見せたところ気にいってしまったようで、それ以来、夜になると家のドアから外に向かって鳴き声を上げるようになった。「外へ行こうよ」の合図だ。だいたい、決まって21:00か22:00くらいになると1時間ほどかけて、近所の公園やコインパーキングなどをねこと散歩 するようになった。

夜の公園の異変

冒頭部分を読んで、ゲームのコラムじゃない……と思われた方もいるだろうが、実はねこの散歩で見る風景が7月22日を起点に変わった。

おわかりだろうが、日本でのポケモンGOの配信が始まったその日の夜のこと、公園のみならず、町内のお店、コンビニ前、交差点、地元で名前が知られた寺社仏閣などには、夜の時間帯にも関わらず、多くの若者を中心にスマホを持って徘徊する光景が拡がっていた。

中にはスマホの画面を見ながら「このポケスポット、3丁目の方のお寺のところじゃねーの」という会話も聞こえる。間違いなくトレーナーのみなさんだ。

ポケモンゲットだぜ!

ポケモンGOが日本で配信が開始されたのは、7月22日の10:00ぐらいだったような気がする。

当初、Android版が先行配信されたというニュースがネット上に流れ、iOS版はまだか? くらいに思っていたころにはすでにiOS版の配信がスタートしていた。

僕自身は、渋谷の客先に向かう途中で、銀座線渋谷駅を降りたところで「フシギダネ」をゲットしたのが最初のポケモンだった。

その後は、とにかく歩き回っている。ちなみに、僕は出先のアポイントが多いので1日の移動距離は同年代の人に比べても多い方だろう。

最初は「どんなものか?」 と思って始めたが、一度プレイし始めるとても面白い。詳しい遊び方や、攻略法などはGame Deetsの記事を参照してほしいが、オリジナルの『ポケモン』のオリジナルゲームを知らなくても楽しめるということがとても重要なポイントだと思う。

単なる流行りもの?

オリジナルの『ポケモン』を知らなくてもできると書いたが、確かに「流行っているから」とか「友だちがやっているから」「アメリカで人気だから」などという話題性先行で始めたプレイヤーも多いはずだ。

ゆえに、日本での配信開始から1ヵ月ほど経過した9月くらいにはその本当のポテンシャルやプレイヤーの動向や実態が明らかになってくるのではないだろうか。

もしかすると、一般的なスマホゲームよりも客離れは早いかもしれない。ダウンロード率に対しての残留率、定着率が気になる。

とはいえ、仮に流行りものであったとしても、多くの人がゲームコンテンツに関心を持ってくれる状況はゲーム産業全体にとっては歓迎すべきことだと思う。

岩田聡氏、一周忌へのローンチか……

ポケモンGOの北米でのローンチは7月6日。その日の公式WebサイトにはNiantic CEOのジョン・ハンケ氏からのプレイヤーへのメッセージが綴られている。

Nianticアジア統括本部長の川島優志氏は、7月8日に岩田氏へのメッセージをアップした。

「岩田さん、ようやくここまで来ました。どうか空からどれだけの人々が外へと飛び出していくか、見ていてくださいね」

まさに、ポケモンGOのゲームの世界観とともに、プレイヤーと、今は亡き岩田氏へのメッセージを捧げた。

僕個人の日本人的な発想かもしれないが、岩田氏の命日、7月11日にポケモンGOの導入を間に合わせたかったのではないだろうかとは考え過ぎだろうか。

時間は有限、アプリは無限

冒頭で述べたように、配信当日の夜を越えて、週明けには、街でスマホを見ながら歩く人が増えた。信号待ち、地下鉄駅の地上出口、公園のベンチ、繁華街、ランドマークなどで多くの人が立ち止り、画面をスワイプする姿を見かける。
川島氏がメッセージを残したように、故・岩田氏への思い描いた夢が実現したように見える。

任天堂の総意として、スマホゲームに否定していた過去を振り返り、2015年3月のDeNAとの提携発表会見で、「ゲーム機とスマホの両方のためにプラスになるという答えが見つかった。

早期に複数のヒットタイトルを生み出したい。任天堂のプラットホームの再定義への取り組みになる」といっていたことが思い出される。

しかし、トレーナーであるユーザーの持っている時間は残念ながら平等かつ有限な24時間。

無限にあるスマホゲームの中で、ポケモンGOがその時間を独占する可能性は高い。それらポケモンGO以外のスマホゲームがリセッション(落ち込む)する可能性も大きい。

さらに7月24日、サンディエゴで開催中のコミコン2016で、ポケモンGOにおける「トレード機能」の実装をコメントした(時期未定)。

これらが促進されればされるほど、他のスマホゲームを起動する時間は削減されるだろう。

ポケモンGOのゲーム内ARを用いた「移動」と「収集」の楽しさに、「育成」と「対戦」、そしてハンケ氏が明言した「交換」が実装される時期も近いと思われる。

さらにいえば『Ingress』の重要な要素であった「協力・連携」も重要な追加要素ではないだろうか。

ライフスタイルの変化をダメ押しするか?

かつてソニーがウォークマンを開発し、自分の好きな音楽が好きなときに、好きな場所で聴けることで音楽のライフスタイルの変化をもたらした。

すでにゲームでも、スマホがポータルになったときから、そのライフスタイルの変化は徐々に始まっている。
「ポケモンGO」はその変化をさらに加速させることだろう。

外界とシンクロした現実世界とゲームの融和、それを一度でも味わったプレイヤーは、もう元の世界(室内)には戻れない……そんな気がする。