【法林岳之のFall in place】第35回: 弱点解消で各携帯電話会社に攻勢をかけるMVNO各社

各携帯電話会社から設備を借り受け、割安な料金プランで「格安スマホ」「格安SIM」を提供するMVNO各社。当初はリテラシーの高い一部のユーザーのみが利用するというイメージだったが、最近では徐々に一般的なユーザー層にも拡がりを見せつつある。MVNO各社がマイナス点の解消に取り組み、各携帯電話会社に対して構成を強める環境ができあがりつつあるようだ。

「格安スマホ」「格安SIM」の弱点

「格安スマホ」「格安SIM」という言葉を見かけるようになってから、数年が経つ。

各携帯電話会社に比べ、割安な料金で利用できることがアドバンテージとされているが、各端末メーカーが供給するSIMフリー端末にも各携帯電話事業者にはない魅力的なモデルがラインアップされるなど、内容も充実してきている。

サービスを提供するMVNO各社の中には、すでに100万契約を超えるところも表われ、順調な成長ぶりを見せている。

今年3月に発表会を開催したLINEモバイルでは、昨年9月にサービス開始以来、着実に契約者を伸ばしてきたが、ここのところ、音声通話が可能なプランを契約が伸びており、メインの回線として、LINEモバイルを選ぶユーザーが増えてきたと分析している。

女優の「のん」(左)をCMキャラクターに起用したLINEモバイル。左はLINEモバイル代表取締役社長の嘉戸彩乃氏

しかし、格安SIM市場、SIMフリー市場が拡大する一方で、さまざまな問題も顕在化してきている。

たとえば、国民生活センターは4月に「こんなはずじゃなかったのに!“格安スマホ”のトラブル」と題した報告書をまとめ、格安スマホに関連する相談が前年に比べ、約2.8倍に増えていることが明らかにされている。

端末の電源が入らなくなり、修理期間中に代替機が提供されず、1ヵ月近く利用できなかったり、問い合わせの窓口が電話しかなく、なかなかつながらないといった事例が挙げられている。

MVNO各社が提供するサービスの場合、各携帯電話会社でスマートフォンを契約するときと違い、回線契約と端末の販売が基本的には分離されているため、サポートやトラブルの対応も別々ということになる。

そのため、端末が故障して修理を依頼してもMVNO各社は、ほとんどの場合、各携帯電話会社のように代替機を提供するといった体制を整えていない。つまり、各携帯電話会社のような手厚いサポート体制を持っていないわけだ。

また、サポート窓口については、筆者も以前、こんな話を耳にしたことがある。MVNO各社と契約したユーザーがスマートフォンの画面上に接続するネットワーク名として、「NTT DOCOMO」の文字が表示されるため、ドコモショップでサポートを求めたところ、「ドコモで契約したスマートフォンではないので、サポートできない」と断られてしまい、「ドコモはなんて高飛車なんだ!」と怒ってしまうケースがあったという。

これはいうまでもなく、ユーザーの勘違いであり、サポートはMVNO各社や端末メーカーが請け負うことになる。

本来、格安スマホのアドバンテージであるはずの料金面にも弱点はある。

たとえば、各携帯電話会社の料金プランでは、国内の音声通話が定額、もしくは5分以内の音声通話が定額というサービスを提供しているが、MVNO各社の料金プランは基本的に30秒20円の従量制で通話料がかかるため、音声通話の利用が増えると、結果的に割高になってしまうケースも起こり得る。

そして、MVNO各社のサービスで必ず話題になるのが速度の問題だ。電波を利用したモバイルネットワークのデータ通信サービスは、理論値こそ何百Mbpsといった通信速度が掲げられているが、多くのユーザーでネットワークを共有することになるため、当然のことながら、利用状況に応じて、通信速度は低下する。

これに加え、MVNO各社の場合、各携帯電話会社に接続するネットワークの帯域(「ネットワークの道幅」と考えればわかりやすい)を決めて、契約しているため、その契約と利用者数によって、さらに大きく通信速度が変わってきてしまう。

MVNO各社が設備を借り受ける各携帯電話会社とじゅうぶんなネットワーク帯域で契約すれば、自社の契約者数が増えてもじゅうぶんな速度が得られるが、その半面、コスト高になり、料金を高く設定しなければ、採算が取れなくなってしまう。

逆に、料金を安くするために、ネットワーク帯域をギリギリに契約すれば、多くのユーザーの利用が集中するお昼時や夕方以降は通信速度の低下が避けられない。ひどいケースではTwitterのテキストが辛うじて読める程度で、Webページも画像がなかなか表示されないといった速度でしか通信ができないこともある。

しかし、実際にどれくらいの速度が得られるのかは、実際に使ってみないとわからない部分も多い。

そこで、MVNO各社は「ウチは速い!」と積極的にアピールするわけだが、4月21日には消費者庁が「FREETEL」のサービスを提供するプラスワン・マーケティングに対し、同社のWebページに掲載されていた「『業界最速』の通信速度」という記載には「合理的根拠がない」として、文言を修正するように措置命令を出している。

もともと、通信速度の実効速度については、各携帯電話会社がLTEサービスを提供し始めたころから、通信速度の実測値を比較する記事や広告が展開されてきたが、業界関係者の間では、刻々と電波状況が変化する携帯電話サービスにおいて、「数台程度の端末や数十回程度の計測で、簡単に優劣は判断できない」と指摘されてきた。

そのことを踏まえ、総務省ではあらかじめ決めた場所と時間帯、方法で通信速度を計測し、それを実測値として公開するように、各携帯電話会社に義務づけ、現在はその実測値が各社のWebページに掲載されている。

MVNO各社の広告もかつての携帯電話会社と似たような誇張した表現が増えてきたことから、各携帯電話会社と同じように、MVNO各社も一定のルールに基づいて計測した実測値のみを掲載した方がいいのではないかと指摘されはじめてきた矢先に、今回のFREETELに対する措置命令が出された格好だった。

着々と弱点を克服すべく、動きはじめたMVNO各社

割安な料金というアドバンテージがありながら、各携帯電話会社のサービスに比べ、いくつもの弱点が指摘されてきた「格安スマホ」「格安SIM」だが、MVNO各社も手をこまねいているわけではなく、着々と弱点を克服すべく、動き始めている。

たとえば、MVNO各社は各携帯電話会社と違い、店舗を持たないところが多い。そのため、契約をするにしても端末を購入するにしても問い合わせをするにしても直接、応対ができる場所がなく、初めて「格安スマホ」「格安SIM」の契約を検討するユーザーには敷居が高く感じられてしまう。

そこで、MVNO各社は昨年あたりから自社ブランドの販売店を展開したり、家電量販店の即日開通が可能な受付カウンターを設置するなど、積極的にユーザーとのタッチポイントを増やそうとしている。

東京・渋谷のセンター街にオープンした「mineo渋谷」は対面で契約や問い合わせに対応する

MVNO各社の自社ブランド販売店は各携帯電話会社に比べ、まだまだ規模は遠く及ばないが、中にはすでに100店舗を展開するところもあれば、カフェなどを併設した旗艦店を開店するなど、各携帯電話会社とはひと味違ったショップ戦略を採るところもある。

1階にはカフェも併設されており、待ち時間にはコーヒーやスイーツが楽しめる

家電量販店の受付カウンターの確保競争も激しくなっており、今年3月にはLINEモバイルがビックカメラとヨドバシカメラで一気に10店舗で即日受け渡しカウンターをオープンするなど、積極的な取り組みを見せている。

また、前述のような故障時の対応に取り組むMVNO各社も増えてきている。

たとえば、ONEモバイルONEでは同社の補償サービス「あんしん補償」に加入したユーザーに対し、修理時に代替機を提供したり、イオンモバイルでは東京の八重洲にオープンした専門ショップ「イオンモバイル八重洲」において、代替機を貸し出す預かり修理を受け付けている。

中にはMVNO各社で購入した端末だけでなく、各携帯電話会社などで購入し、MNPで移行してきた持ち込みの端末についても同様に補償を提供するところもある。

そして、音声通話についても各社揃って、オプションサービスで音声定額を提供し始めている。

プランの内容はMVNO各社によって異なるが、たとえば、楽天モバイルでは「楽天でんわ かけ放題 by 楽天モバイル」で月額2,380円でのかけ放題、「楽天でんわ5分かけ放題 by 楽天モバイル」で月額850円で5分以内のかけ放題を提供している。

しかも、これらのMVNO各社の音声定額サービスは、インターネット経由のIP電話サービスではなく、一般的な電話サービスで利用されている中継電話サービスと同じしくみを利用しているため、比較的、音質もよく、途切れることなく、安定した通話が可能だ。

前述のMVNO各社の実効速度については、設備を借り受ける各携帯電話会社との契約が関係するため、即座に状況が変わるわけではないが、各社ともネットワーク品質がユーザーの満足度を大きく左右することをわかっており、コストとのバランスを取りながら、対策を進めているようだ。

LINEモバイルでは音声契約の比率が増え、メイン回線として選択されるようになってきたと分析する

MVNO各社が着実に弱点を克服してきたことで、今年はMVNO各社にとって勝負の1年だといわれている。

対する各携帯電話会社も「格安スマホ」「格安SIM」を意識した施策を少しずつ打ち出し始めており、いよいよ各社の競争が激しさを増すことになりそうだ。目先の料金だけにとらわれることなく、各社の姿勢をじっくりと見極めるようにしたい。