MIDI復活ッッ!! レガシーテクノロジーを駆使してインタラクティブミュージックに挑戦せよ!!
スマホゲームのサウンドにはさまざまな制約がつきものということで、そのアレンジも限られたものになってしまいがち。
しかしパオン・ディーピーが2016年内の配信を目指して開発を進めている新作『ワールド・オブ・サマナーズ』では、バトルBGMで最大6パターン、ホーム画面では12パターンのアレンジが用意されているという。
この講演では、同社のゲーム事業部でサウンドディレクターを務める岡本仁志氏と、ミュージックコンポーザーの平山航介氏によって、MIDIを活用したサウンドアレンジの手法が説明された。
『ワールド・オブ・サマナーズ』は、RTS+MOBA+RPGという3つの要素をミックスしたタイトル。大群を率いる爽快感、協力して戦略を組み立てる面白さ、そして時代を超えた「ワープバトル」を楽しめるのが特徴となっている。
講演ではまず、ゲームのプレイ動画が上映され、その中で状況に応じてBGMのアレンジがさまざまに変化していくことが説明された。これは、「インタラクティブミュージック」と飛ばれるものだ。
本作のサウンド作成に当たっては、まず岡本氏が言い出しっぺとなって「Wwise」のMIDI機能を使った制作手法を提唱。そして平山氏がマニュアル確認とテストデータの作成、楽曲作成、「Wwise」用データの作成、実機確認を行ったという。
インタラクティブミュージックにおいては、主に3つのやり方でアレンジが加えられていく。そして本作では、主に(2)と(3)のやり方が用いられているという。
- ピッチやテンポの変化
- BGMのクロスフェード
- 各楽器パートの増減
会場のスクリーンでは、景色が昼から夜に変わっていくのに合わせて、BGMの曲調が変わっていくというデモンストレーションが行われた。
実際には、昼のBGMと夜のBGMが同時に演奏されており、そのボリュームを徐々に変えていくことで曲調の入れ替わりを表現している。これがクロスフェードだ。
続いて「Wwise」についての説明が。これは、Audiokineticが提供しているサウンド用ミドルウェアのこと。いわばゲームエンジンのサウンド機能を拡張したもので、以下のような機能をより手軽に実現できる。
- ループ機能
- ダッキング機能
- デバッグ機能
- 発音数管理機能
こういったミドルウェアがない場合、サウンド担当とプログラム担当の間で意思疎通に時間と手間がかかり、伝達コストが増大していくという。
ちなみに、本作の制作にあたって初めて「Wwise」に触れたあるスタッフは「工数を大幅に減らすことができて、非常に楽だった」と感想を述べたとのこと。
そのため、「Wwise」のようなミドルウェアを購入するための稟議が通らない場合、プログラマーを巻き込んで工数がぐっと減らせることを主張するといいというのが岡本氏の意見だ。
『ワールド・オブ・サマナーズ』には、合計で27曲が収録されることになる。そのうち、ホーム画面BGMは12+1パターンの変化、通常バトルBGMは6+2パターンの変化という形でアレンジが行われている。
「なぜインタラクティブミュージックにしたのか?」という疑問に対し、岡本氏は2つの理由を挙げた
- リアルタイムで変化するゲームの状況をインタラクティブミュージックで表現したい!
- コンシューマーと張り合えるような本格的なインタラクティブミュージックを作りたい!
さて、実際にインタラクティブミュージックを導入するためには3つの問題点が。
1. 既存のゲームエンジンで対応できるのか?
2. CPUはサウンドの負荷に耐えられるのか?
3. 仕様上、1曲の容量は3MB以内にする必要あり!
問題になったのが1曲の容量だ。40秒間のテストデータの段階で、ゲームの仕様を超える5MBになっていたという。そこで、「Wwise」+「MIDI」という方法が考えだされることになったそうだ。
MIDIとは、いわゆる打ち込みで楽曲を作るときに使われる世界共通の規格のこと。鳴らす音程や音の大きさ、ビブラートなどのデータを音源に渡すことで、実際のサウンドが再生される。
MIDIを使ったサウンド制作は昔のゲームサウンドの手法で、かなり面倒なため、ベテランプログラマンーにとっては「トラウマになっているかも?」と岡本氏はコメント。
開発テストとしてバトルBGMのデータをMIDIのみで作成した場合、5MBの曲を1.2MBまで圧縮することができたとのこと。しかし、そのクオリティーはかなり微妙……ということで、別のやり方が模索された。
次にテストされたのは、AudioパートとMIDIパートをミックスするやり方だ。
- Audioパート
どんな状況でも変わらない基本のパート
ギターなどMIDIでは再現が難しいパート
- MIDIパート
同じフレーズを繰り返すパート(フレーズサンプリング)
上記以外のすべてのパート
結果、AudioとMIDIのいいとこ取りが可能となり、本番用データ制作に着手することができたそうだ。
バトルBGM
バトルBGMは6+2パターンのアレンジで、RTPCを使ってアレンジを変えるという方法が採用された。
アレンジ変化のトリガーは、「味方の召喚ユニットの増減」「敵が自軍の拠点に接近」「味方HPが一定以下に減少」という3つの要素。スクリーンでは数値の設定を変化させて、実際に楽曲の雰囲気が変化するデモンストレーションが行われた。
ただし、このやり方でデータを作った場合でも、実装データは約10MB。仕様上で求められる3MBという範囲を大幅に超えてしまっていた。
そこで、Audioパートのレートを恐る恐る下げてみたところ、32~48kbpsというレートでも十分なクオリティーがあるという結論に至ったという。最終的には3MB以内に収めることに成功し、実用化の目途が立ったということになった。
ホーム画面BGM
ホーム画面BGMでは、現実時間に応じた変化とゲーム画面の切り替えによる変化が求められた。
また、サウンドの切り替えやミックスバランスを変化させたいときに用いる「STATE」のいう方法も採用された。例えば、「キャラクターが水中に潜る」「屋内から外に出る」といった瞬間的な状況の変化に使用されるものだ。
本作では具体的に、以下の3つの現実時間でアレンジを変化させているという。
- 午前:6:00 ~ 12:00
- 午後:12:00 ~ 18:00
- 夜間:18:00 ~ 翌6:00
さらにホーム画面、クエスト選択画面、出撃キャラ選択画面、ガチャや装備画面などが、すべて同じ楽曲をアレンジしたものとなっている。
また、サウンド制作の終盤になって「BGMが足りない! なんとかならない?」という話が出てきて、急きょ「Wwise」が持つ機能を使ったアレンジが追加された。その機能は以下の3つ。
- Time Stretch
- Delay
- EQ
これらのエフェクトを加えることで、アンビエントな雰囲気の新たなアレンジが出来上がった。
岡本氏は、「ワルサマ流インタラクティブミュージックの完成!」と語り、コンシューマーとも張り合えて、かつ自由度の高いものが作れるインタラクティブミュージックの利点を強調した。
ただし、10~20秒程度だとMIDIのほうが大きなデータになってしまう場合があることもあるそうで、使いどころを見極める必要があるとのこと。またMIDI自体が多少面倒であることも語っていた。
最後に岡本氏は、スマホゲームでは軽視されがちなサウンドも今後は高品質なものが当たり前になると話し、「プラスアルファでより面白いサウンド、ユーザーに興味を持ってもらえるサウンドを作っていきたい」と締めくくった。目指すのは「音を出して遊ぶのが楽しい!」だ。
CEDEC2016
- 日程:2016年8月24日(水) ~ 8月26日(金)
- 会場
パシフィコ横浜 会議センター - 主催
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA) - 共催
日経BP社 - 予定セッション:200
- 後援
経済産業省
横浜市
一般社団法人情報処理学会
人工知能学会
NPO法人 ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)
日本バーチャルリアリティ学会 - 協賛
<プラチナスポンサー>株式会社Cygames
<ゴールドスポンサー>エピック・ゲームズ・ジャパン
<シルバースポンサー>株式会社ディー・エヌ・エー、任天堂株式会社、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント