意外に人気が高いiPhone 7 Plus
まず、ボディカラーについては、新色のブラックとジェットブラックの人気が高く、中でもiPhone 7 Plusの256GBのジェットブラックはオークションでも13~14万円というプレミア価格で取引されている。
光沢感のあるジェットブラックは指紋などの跡がつくことを敬遠し、ブラックを選ぶ人も多く、iPhone 7 Plusではいずれも4~5週間待ちのようだ。
また、おととしのiPhone 6/6 Plus、昨年のiPhone 6s/6s Plusでは、海外市場での売れ行きに比べ、国内市場は4.7インチディスプレイ搭載のiPhone 6/6sの比率が高く、今年3月発売のiPhone SEも順調な売れ行きを見せるなど、コンパクトモデルの根強い人気がクローズアップされた。
しかし、今回は比率こそ、4.7インチディスプレイ搭載のiPhone 7が高いものの、従来モデルに比べ、5.5インチディスプレイを搭載したiPhone 7 Plusの比率が増えているようだ。
これは両機種が基本的に同じスペックであるものの、iPhone 7 Plusがデュアルカメラを搭載し、光学ズームで2倍、劣化を抑えたデジタルズームを組み合わせて10倍の望遠が可能ということが要因と見られる。
さらに、容量については、32/128/256GBの各モデルがラインアップされたが、従来モデルで「ちょうどいいサイズ」とされていた64GBモデルがなくなったため、容量選びに悩むユーザーも多いようだ。
従来モデルでは価格の安い16GBを選ぶと、OSのバージョンアップ時などに容量不足で困ることが多いといわれ、64/128GBモデルがおすすめとされてきたが、今回の128/256GBモデルは「そんなに大容量じゃなくても……」と考える人が多いという。
もっとも、3つの容量のモデルの価格差は、約1万円ずつなので、1万円増で容量が4倍、あるいは2倍になることを考えれば、お買い得ともいえるのだが……。
防水防じん対応にFeliCa搭載のiPhone 7/7 Plus
今回のiPhone 7とiPhone 7 Plusは、基本的なデザインこそ、従来のiPhone 6/6 Plus、iPhone 6s/6s Plusの流れを継承しているが、内部的には大きくリニューアルされている。
中でも新たに対応した防水防じんが設計に与えた影響は大きい。
たとえば、ホームボタンが物理的なボタンから感圧式に変更されたのは、元々、酷使されたホームボタンが故障の原因になることが多かった上、浸水を防ぎたかったという意味合いもあるだろう。
iPhone 7とiPhone 7 Plusで廃止された3.5mmのイヤホンジャックも賛否両論があるが、パーツを減らすと同時に、防水のために、筐体から1つでも穴を減らしたかったという意図がある。
ちなみに、アメリカでのSpecial Eventのプレゼンテーションでは、「イヤホンジャックは交換手が手動で電話回線をつないでいた時代から使われていた古い技術。勇気を持って、これをやめて、デジタル時代に合ったインターフェイスへ進化させたい」という旨の説明が行われていた。
防水と並んで、もう1つ注目されるのが、非接触IC技術の「FeliCa」の搭載だ。
Special Eventでは「iPhone 7/7 Plusの10の進化ポイント」の1つに数えられたが、場所がアメリカということもあり、会場での反応はそれほどでもなく、説明もごく短時間に限られていた。
というのも、アップルはすでに非接触IC技術の「NFC」を利用したモバイル決済サービス「Apple Pay」をアメリカなどでスタートさせており、FeliCaを利用したApple Payは日本のみの提供とされたためだ。
FeliCaはご存じのとおり、国内ではさまざまな分野での非接触IC技術として採用され、中でも各携帯電話会社が提供する「おサイフケータイ」の核となる技術とされてきた。
FeliCaは日本以外に、香港やシンガポールなど、いくつかの国と地域で交通系サービスに採用されてきた実績があるが、これまでApple PayはNFC準拠のType A/Bと呼ばれる非接触ICのみをサポートしてきた。
ところが、日本は早くからおサイフケータイが普及していたこともあり、店舗などに設置されている非接触ICのリーダーライターはFeliCa対応が中心で、FeliCaを搭載しないiPhoneではこれらのサービスに対応することができなかったわけだ。
こうした状況を見て、これまで一部のメディアは「FeliCaは所詮、日本ローカルの技術。グローバルでビジネスを展開するiPhoneがサポートするわけがない」などと否定的な見方をしていたが、今回のiPhone 7とiPhone 7 PlusでFeliCaが搭載されるることになった。これはどういうことなのだろうか?
FeliCa搭載は日本だけのためではない?
まず、FeliCaが「日本ローカルの技術」という見方だが、NFCの業界団体である「NFCフォーラム」はもともと、FeliCaを開発したソニー、当時、携帯電話で最大シェアを持つメーカーのNokia、半導体メーカーのフィリップスセミコンダクターズ(現在はNXPセミコンダクター)と共同で設立したものであり、当初からFeliCaも1つの規格として、扱われてきている。
ここ数年、NFCフォーラムでさまざまな議論が重ねられ、関係各社のアピールが行なわれた結果、FeliCaは「Type A/B」と並ぶ「Type F」という非接触ICの規格として認められ、国際規格に組み入れられている。
また、携帯電話業界の標準化団体として知られる「GSMA」は、NFCフォーラムでの規格化を支持し、2017年4月以降に発売されるNFC準拠の端末には、Type A/Bだけでなく、Type Fも搭載するように働きかけていく方針を打ち出している。
アップルはこの方針をいち早く先取りし、iPhone 7とiPhone 7 Plusに搭載したことになる。
ちなみに、アップルは現在のSIMカードで主流となっている「NanoSIM」がGSMAで標準化された際もいち早く採用しており、今回も同様の動きをとったという見方もある。
さらに、非接触ICのチップそのものについてもそれぞれの規格に対応したチップを搭載するのではなく、1つのチップに「Type A/B」「Type F」を統合され、必要に応じて、利用できるようになってきている。
現に、国内で販売されているAndroidスマートフォンではFeliCaを搭載し、おサイフケータイのサービスが利用できる一方、NFC準拠のType A/B対応サービスが利用できるものが主流になりつつある。
ただ、いくら日本市場でiPhoneが半数近いシェアを持つとはいえ、日本市場のためだけにいち早くFeliCa搭載モデルを製造するというのも、これまでのアップルの取り組み方から考えると、やや不自然な印象を受けるかもしれない。
なぜなら、アップルは対応する通信方式や周波数帯(バンド)の対応などを除けば、基本的に世界共通仕様の製品を製造しているからだ。
ところが、発売後に明らかになった情報によれば、この点も納得できる答えが見つかっている。
9月7日のSpecial Eventでの発表時は「日本向けモデルにFeliCaが搭載される」という情報が提供されていた。
しかし、発売後にハードウェアを分解した情報を掲載する海外サイトで、日本以外で販売されるiPhone 7とiPhone 7 Plusにも日本で販売されるモデルと同じように、非接触ICとして「Type A/B」と「Type F」が搭載されていることが明らかにされた。
つまり、ハードウェア的には日本のものも海外のものも基本的には同じものということになる。ただし、海外で販売されるモデルは、「Type F」がソフトウェア的に無効になっており、OSのバージョンアップなどがない限り、有効にできないと見られる。
ちなみに、国内で販売されるiPhone 7とiPhone 7 Plusには、背面に「総務省指定」という表記がプリントされていることが話題になったが、これは単純にFeliCaが搭載されたから記載されたのではない。
iPhone 7とiPhone 7 PlusにはSuicaカードの読み取りなどに利用するリーダーライター機能が搭載されているが、この機能を利用するときの電界強度が一定以上の場合のみに表記されるものであり、現在は技適マークなどのように電子的な表示が許可されていないため、背面にプリントすることになったわけだ。
アップルとJR東日本のFeliCa搭載に対する思惑
では、なぜ、アップルはiPhone 7とiPhone 7 PlusにFeliCaを搭載したのだろうか。
前述のように、NFCフォーラムでの規格化を受け、いち早く支持したという見方もあるが、当然のことながら、製造コストは増えるため、今のところ、日本でしか利用できないFeliCaに対応してもメリットは限定的であり、費用対効果もそれほど大きいとは言えない。
そこで重要なカギを握ってくるのがApple Pay対応で実現されるJR東日本の「Suica」の存在だ。
実は、今回のiPhone 7とiPhone 7 PlusのFeliCa搭載については、JR東日本や日本の携帯電話会社がかなり積極的に関わっているとされており、前述のNFCフォーラムでのType Fの規格化にも貢献したといわれている。
アップルとしては、FeliCaを搭載し、Suicaに対応することにより、1分間に60人が通過できる世界最速の改札システムを持つJR東日本のインフラでじゅうぶんに実績を積み、Apple Payが利用できる範囲を店舗などでの決済から交通系サービスなど、多岐に渡る分野に拡げていきたいという思惑があるようだ。
また、JR東日本にとっては、国内でモバイルSuicaのサービスを提供しているものの、スマートフォンでの利用率はそれほど高くない上、多くのユーザーがフィーチャーフォン(従来型携帯電話)で利用している。
こうしたユーザーを巻き取っていくためには、Androidスマートフォンだけでなく、iPhoneでも利用できるように環境を整えていく必要があり、積極的に働きかけたようだ。
さらに、現時点ではまだ将来的な推測に過ぎないが、今回のiPhone 7とiPhone 7 PlusのFeliCa搭載を推進したJR東日本の取締役副会長の小縣方樹氏は、「将来的にはインバウンドの需要にも応えていきたい」とコメントしており、将来的に訪日旅行者がFeliCaを搭載したiPhoneでSuicaのサービスを利用できる可能性に含みを持たせている。
日本は2020年に東京オリンピックが控えており、当然のことながら、訪日旅行者は今まで以上に増えると予想されている。
そのタイミングでiPhoneをはじめ、各社のスマートフォンでSuicaが利用できるようになれば、世界的にも強力なアピールになると見られる。
もちろん、これらは各社の思惑や目論見でしかなく、必ずしもそのとおりに物事が運ぶとはいえないが、今回のiPhone 7とiPhone 7 PlusへのFeliCa搭載は、今後のグローバル市場のモバイルビジネスに大きな影響を与える試金石になるのかもしれない。