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【黒川塾46】カジノビジネス的知見で考えるe-Sportsの賞金付き大会への課題とは?

2月20日(月)、黒川文雄氏が主宰する「黒川塾(四十六)」が開催された。「景表法、カジノビジネスのエンタメ的考察」というテーマで、カジノ専門研究科・木曾崇氏と山本一郎氏が、e-Sportsやガチャ商法の課題や現状を語った。

e-Sports業界がクリアしなければならない「景表法」

1月13日に行われた黒川塾(四十四)「eスポーツとプロゲーマーの明日はどっちだ!」では、e-Sportsやプロゲーマーを取り巻く環境についてさまざまなトークが飛び出した。

その中で、日本においては景品表示法により、海外のような高額な賞金の大会を開催することができないという問題が挙げられた。

今回の黒川塾(四十六)では、山本一郎氏と国際カジノ研究所の所長・木曾崇氏をゲストに迎え、「景表法、カジノビジネスのエンタメ的考察」というテーマで、景表法や賞金に関するe-Sportsが抱える問題、ソーシャルゲームにおける現状の課題に焦点が当てられた。

e-Sportsに関しては、EVO-Japanの運営委員を務める山本一郎氏

木曾崇氏。自身のブログにて、e-Sportsの賞金付き大会が、景表法などのいくつかの法令に抵触する可能性を指摘している

ゲームがギャンブル”等”依存症に含まれる?

まず最初に、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(いわゆるカジノ法案、IR推進法案)によるパチンコ業界への影響や、オンライン販売により黒字に転ずる競艇や競輪などの公営競技の話題へ。

警察庁の警告により、パチンコ業界はIR推進法案が動き出す前より、業界内でガイドラインをまとめて順守するよう動き出している。

というのも、ギャンブル等依存症への対策が本格化する動きがあり、昨年12月26日には「第1回ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」も開催されており、パチンコ業界として対策を取らなければならない背景がある。

ここでゲーム業界に関わってくるのが、ギャンブル等依存症の”等”に、経済的対価を費消する競技、つまりオンラインゲームやソーシャルゲームも含まれてくる可能性があるということだ。

木曾氏によると、現時点ではギリギリ含まれないが、今後の展開次第では含まれてくるという。

特に、青少年がのめり込んでしまうという問題になると、そこが論点として取り上げられる可能性を指摘した。

これについては、さまざまな議論が各方面で行われており、パチンコにおいても依存症になってしまう原因が遺伝的な要因やパチンコに触れる機会などまちまちで、責任の所在はどこにあるのか、という点についても議論になってくる。

さらに、オンラインゲームやソーシャルゲームなどの勝ち負けのあるもの、いわゆるゲーミングにまで議論が及ぶと歯止めが効かなくなってしまうことに山本氏が言及。

そこから、将棋や囲碁、麻雀はどうなのか……といった具合に、議論が広がりすぎてしまう危険性を懸念している。

さらに木曾氏からは、青少年問題にまで話が及ぶことについて、一時期の韓国と同じような状況にあるとの見解が述べられる。

韓国では、2006年~2008年くらいまで、ギャンブル依存症が問題となったが、それが今は青少年のゲーム依存へ議論が移っているという。

依存の対象がギャンブルから「青少年に悪影響があるもの」、つまりゲームへと矛先が向けられたのだ。

山本氏は、日本においては、青少年のゲーム依存にまで議論が及ばない雰囲気があるとしつつ、ゲームが原因で自殺や引きこもりなど増えて社会問題化してしまった場合、依存症問題に影響してくると指摘する。

現在、3月までに依存症対策基本法を成立させようという動きがあるのだが、議論の対象は、ギャンブル等に含まれる公営競技、富くじ、パチンコ・パチスロ、FXといった金融。

ゲームに関しては、その議論に入らないよう、ギリギリで踏ん張っているという状況のようだ。

将来、e-Sportsで賭けができる可能性

続いての話題は、日本型カジノで、e-Sportsが賭けの対象になるかどうかという点について。

世界のカジノに精通する木曾氏によると、イギリスやラスベガスでは、すでにe-Sportsにベットすることが始まっているという。

e-Sportsには、

  • 参加料を支払い賞金をめぐって戦い、総取りを争う
  • 観戦者が競技の結果にベットする

という2つのギャンブル要素を持っているが、いずれにしても賭博にあたり、所轄官庁のもと公営競技として行うという建付け以外は難しいという議論になりやすい。

木曾氏からは、e-Sportsによる賭けを実現する可能性として、ゴルフの大会と同じようなモデルが例として挙げらた。

ゴルフの大会は、参加者が参加料を支払っているものの、それは運営費に充てられる。賞金はすべてスポンサーが提供しているものなのだ。

景表法では、賞金スポンサーとゲームタイトルの提供者が同一ではない必要があるため、このような形式でなければ実現できない。

プレイヤーが支払った参加料が賞金に使われることが、景表法に抵触するということだ。

また、e-Sportsの大会に出るには、当然そのゲームを購入し、練習することになるが、ゲームに対しお金を払っているため、販売促進にあたることも景表法で問題になる。

賞金獲得のためにお金を払うようなタイトルは、パッケージソフトだろうとなんだろうとNGということになってしまう。

これまでの日本のe-Sportsは、このような決まりをしっかり確認せず、大丈夫だろうという見込みで大会を開いてしまっていたため、昨年、大きな議論へと発展してしまった。

しかし、その結果、景表法上問題ない範疇がはっきりとしたため、現在はその中でできるe-Sportsゲームを作ろうという動きがでてきているそうだ。

また、刑法賭博罪との兼ね合いを考えると、競艇なら船舶振興、カジノなら観光振興といった、日本で賭博を認めさせるそれなりの大義名分を掲げなければならないとのことだ。

e-Sportsカジノ競技化に向けた国内外の動き

上記のように、e-Sportsには多くの問題、法律、監督官庁が絡んでいることから、そう簡単ではないと前置きしつつ、木曾氏はe-Sportsをカジノの中の競技として認めさせることを目標にしている。

そのためにも、まずはポーカーなどのプレイヤー同士が戦って賞金を取り合うもの認めさせ、その延長としてe-Sportsを加えていく計画だ。

海外に目を移すと、セガサミーやコナミといったメーカーが、日本のコンテンツを海外に売っていくことを考えており、すでに、Konami Gaming(コナミの米国現地法人)が、カジノのスロット機の製造業でトップに立っているという。

それだけでなく、e-Sportsをカジノ競技として取り込もうとする流れを手動している、日本が起点となってアメリカ側のルールを変えていっている段階だそうだ。

では、日本ではどんな動きが必要かというと、山本氏は「まずは日本の今の法律の中でできる最適なものをやってみて、「ほらいいでしょ」というところを示してから次のフェーズに移るべきだと思っています。」と、今度e-Sports業界が取るべき方針を示した。

景表法はもとから存在していたルールで、そこを確認しなかった業界に非があることは明白。それが昨年、白黒がはっきりとして、実現できる範囲が分かったため、その中で何ができるかを考えるべきなのだろう。

射幸性商売は業界を破滅へと導く

セッションの後半、黒川氏からソーシャルゲームのガチャにおける広告誤認が、今後より顕在化して、訴訟や返金事例が増えるのではないか、という疑問が投げかけられた。

これに対し山本氏は最近の事情を説明。半年くらい前から返金の仮処分は増えてきているという。

優良誤認を引き起こすような文言でガチャを回させるというところはあるが、微々たる事例のようだ。

ゲーム業界も1年前と比べて優良誤認や不実記載に関して、誤解させるようなガチャの記載にしないように注意しており、自己浄化作用があるような会社が少しずつ出始めている。

今回のような仮処分のような事例が表立って出てきたときに、業界としてどう対応していくかは今後、注視していきたいとのこと。

ちなみに、中国では、きちんとルールを守らないと取りつぶされてしまうことから、しっかりと確率表記をするようになっているという。

ゲームに関しては日本のほうが先を行っていると思っている人ほど、そういった事例を知らない人が多いというのが、日本のゲーム業界のガチャに対する意識のようだ。

木曾氏からは、「あまり射幸性商売に向かない方がいい」という警鐘が鳴らされた。

射幸性を追求するとライトユーザーが離れていき、いわゆる重課金者しか残らず、いざ規制が強くなったときに、ユーザーが誰もいなくなる事態になるという。

「重課金者によって成り立つ構造とは異なるビジネスモデルを考えてほしい」と、ギャンブルを生業とする立場から、ゲーム業界にメッセージを贈り、締めくくった。

日本で数少ないカジノ研究者として、射幸性を煽りすぎるビジネスの危険性を語る木曾氏。射幸性を追求した結果、パチンコ業界は崩壊してしまったため、ゲーム業界は同じ轍を踏まないためにも、違ったビジネスモデルを展開すべきなのだろう