[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第63回: ジャパンメイドAAA『シェンムーⅢ』に期待するもの

好奇心や向上心がアイデアやプロダクトを生み、そして起業し、少ない人数でやっていうちは意志の疎通も容易(たやす)いが、順調に規模が拡大して大きな組織になるとそれらは硬直化する……というシナリオは成功した企業の移り変わりを見ればよくある話だ。

成長産業が成熟産業、過剰産業になったその先……

ソニー、東芝、松下、トヨタなど、日本を代表する企業は、日本の発展にとって、それぞれが開発し、提供した商品で貢献したと言えるだろう。

しかし、戦後からすでに70年の時が過ぎ、それら企業の商品は当たり前の商品、悪く言えばどの会社のものでも大差はないというレベルにまで到達してしまって、面白味はなく、新規性も薄い。つまり、成熟してしまった。もしくは、成熟を通り超えて付加価値の過剰投与が起こり、陳腐化してしまったものも多いと思う。

しかし、これらの誕生-成長-成熟というフローは、ハードウェア産業に限ったことではない。ゲームなどのエンタテインメント系のコンテンツやサービスにも同じような側面を見ることができる。

エンタメ的産業の混沌と成長と成熟

1980年の終わりから90年代の前半にかけて、音楽やゲームは、ある種、自然発生的に生まれるものだった。

ゲームに関して言えば、任天堂が市場シェアを独占する前にリリースされた玩具系メーカーの家庭用ゲーム機を筆頭に、さまざまなデバイスとそれに準じたゲームコンテンツが生まれた時期があり、ある種の混沌(カオス)の中から新しいものが多く生まれた。

その後、1994年前後のセガサターン、プレイステーション(初代)における新規参入者(社)たちによって、それらが持っていた新規性や意外性が、新しい顧客を取り込むことにも成功した。コンテンツがカルチャーを作った時代と思えばわかりやすいだろう。

音楽シーンも同様だ。バンドブーム、インディーズなどのカルチャーシーンを経て、新しい音楽のスタイルが生まれ、そこから多くのスターが生まれては消えた。そして、そのカルチャーも定着し、今はそれらの過去のレガシー(遺産)の焼き直しで音楽業界全体が成り立っている。

音楽、映画、ゲームなどのエンタテインメント系カルチャーとコンテンツに関して言えば、「時代の波」「時代の変化」というユーザー志向の変化に伴って、リセッション(再編成)が周期的に起こる。とは言え、それらはなくなるものではなく、カタチを変えているだけのことだ。

こと音楽に関して言えば、すでにCDなどのメディア販売が維持できているのは日本くらいで、海外はサブスクリプションモデル(配信などの定額制)に移行した。

映画は東宝シネマズのみが、有力不動産の活用の一助としてシネマコンプレックスを増やしている。しかし、AmazonプライムやHulu、Netflixなどの配信されるまで待って視聴する方が便利だという声もある。

開発予算と言う十字架

ゲームコンテンツに関して言えば、スマートフォンへの導入以来、いちいち家庭用ゲーム機をセットアップして「レッツプレイ!」という面倒な準備もいらなくなった。そのため家庭用ゲームの顧客の多くがそちらに流れた。

そして、スマホゲームは顧客層の拡大と言う部分において、ゲーム産業に寄与した部分は大きい。このようなに時代が変わる中、よりレベルの高いモノ、より楽しいもの、より驚かせてくれるものを求めるのは世の常だ。

海外のAAAタイトルの動向は?

ある海外系ゲームニュースサイトの情報で、AAA(トリプルエー)クラスのゲームコンテンツの開発費に言及したものがあった。そのゲームコンテンツは『トゥームレイダー』シリーズの続編『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』。

『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』のコンテンツの開発費は約80億から110億円で、それ以外に導入時のマーケティング費用に40億円ほどを投じると言う。

「合計150億円、これがAAAクラスの開発導入予算」と言われれば、それ以上申し上げることはないが、果たして、この予算感や規模感に追従できる企業がどれだけいるのだろうかと思う。ちなみに、この金額はハリウッド映画のA-Bランクくらいの作品の予算感だ。

一方で、日本のゲーム開発会社はそれらゲームコンテンツの予算の規模感をどのように捉えているのかという点が気になる。

日本のゲーム開発の規模感も肥大化傾向

2015年ごろの発表だが、セガゲームスが一般的な話として「市場に導入するスマホコンテンツで、最低限他社との競合レベルを超える作品を提供するには開発費は4億円から5億円をかけないと難しい」と説明していた(あくまでもスマホゲームの事例として)。

2015年の段階では、その金額規模だったが、今はひとケタが変わっていると感じている。

年初にリリースされたスマホ向け大型RPGゲームは開発費15億円、宣伝費5億円程度を投じているコンテンツもある。

かつて、セガがリリースした『シェンムー』は64億円と言う開発予算をかけたと聞く、また小島秀夫氏が開発した『メタルギア』シリーズ作品、『ファイナルファンタジー』シリーズ作品も個別に見れば、同程度の開発予算が掛かっているという。

開発予算は関わった人数(各パートによって人月の工数が異なる)×開発期間(伸びれば伸びるほど予算が増す)×デザイン(こだわればこだわるほどリテイクなどの追加工数がかかる)×声優(キャストに人気声優を集めることの困難さ)などの総和であり、開発が長期に及べば開発予算も膨張する。

ゲーム開発の規模が巨大化し、完全な分業体制になって久しいが、細かいジャンルごとのプロフェッショナルが生まれることはプラスだが、ゲーム全体を見渡してトータルにプロデュースできる人材は少なくなっている。

ちょうど、先に事例を挙げた『シェンムー』シリーズの最新作品、『シェンムーⅢ』が当初の発売予定の2018年下半期から2019年に変更を発表した。6万人超希望のバッカーがクラウドファンディングで投じた資金は、開発規模から考えれば1年ほどで消化しているはずだ。

今回の発売予定時期の変更は、ゲーム内容のさらなるブラッシュアップという理由だが、予算とのせめぎ合いはまだまだ続くことだろう。

世界が期待するジャパンメイドのAAAコンテンツ『シェンムーⅢ』への期待は高まる。そして、膨大な予算を投じてどのレベルのコンテンツに仕上げるのかは注目する。

未だ成長と成熟を重ねるゲーム産業の中で『シェンムーⅢ』はどのような姿を我々に見せてくれるのだろうか。過剰を削ぎ落とし、成熟したジャパンメイドのAAAコンテンツのモデルケースとして、『シェンムーⅢ』は注目すべきコンテンツに違いない。

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