セッションでは、「ソーシャルゲームマーケティングで再現性を持って成果を出す方法」をテーマに、重視すべきKPIやそれらをどういったロジックで生かしていくか、について語られている。
1時間のセッションということもあり、かなり要点を絞っての説明となっている。App Brainの森下氏の対談企画で、より詳細にお話いただいてる内容もあるので、興味のある方はぜひご確認いただきたい。
森下氏のAPP BRAINマーケター特別対談企画(vol.3には三浦氏も登場)
iOS14移行に伴う変化は”重箱の隅”の話
冒頭、森下氏が触れたのは、マーケター界隈で話題の、iOS14とIDFAの許諾について。
iOS14へアップデート後は、IDFAの取得にユーザーの許諾が必要になることで、多くのユーザーがこれを拒否し、ユーザー行動の測定に大きな影響を及ぼす可能性がささやかれている。
森下氏:モバイルアプリマーケターが騒然とした内容ですが、たとえこういった変化が起きても、今回のセッション内容をマスターいただければ再現性を持って成果を出せる、そういったお話を提供できればと思っております。
三浦氏:我々の業界のホットトピックではありますが、いかにここに動じないかがマーケターとしての矜持、みたいなところはありますよね(笑)
森下氏:そうですね。今回のiOS14の話は、IDFAが取得できなくなることで、「ROASって指標が信ぴょう性があるかないか」という話になるかと思うのですが、ROASって細かなKPIですので。
最終的にPLやROIで合ってるか、というもう少し俯瞰した視点で物事を見られる人にとっては、重箱の隅の話ではないかと思っております。
三浦氏:そうですね。事業のKGIを売上、利益に置いてる場合は、この変化にはあまり動じないかと思います。
iOS14とIDFAのユーザー許諾
IDFA(Identifier for Advertisers)は、Appleがユーザーの端末にランダムに割り当てるデバイスID。これを利用して、広告主はユーザーの広告エンゲージメント 、アプリ内のユーザー行動を計測することができる。
IDFAにより、これまでは、ユーザー特性にカスタマイズした広告を配信することができていたわけだが、iOS14移行に伴い、IDFAの利用許諾をアプリごとにユーザーに求める必要がある。
もともと規定値でオンになっていたものを許可性にすることで、オプトインするユーザーの割合は大きく減るとされ、IDFAを利用したユーザー行動の計測に大きな影響を与えると考えられている。
5つの成功事例から学ぶ再現性のポイント
続いて、森下氏と三浦氏が実際に体験してきた成功事例から、マーケティングにおける再現性について解説。セッションの後半ではここで得た学びを元に、実際に何をすべきか、というところにも言及されている。
課金クラスター分析とUIUXフローに基づく適切な改修
1例目は、森下氏が手がけた、リリースしてすぐDAU、売上が減衰したタイトル。減衰している理由を分析し、重課金者向けの改修を行ったことでリブートできたという事例だ。
森下氏:弊社では、アプリの健康状態を解析するツールとして「UIUXフロー」「課金クラスター分析」というものを導入しています。
多くのアプリの売上は、おおよそ課金上位者の20%が作っています。中には上位20%の課金ユーザーが売上の9割を占める、なんてアプリにも携わったこともあります。ですので、全方位の顧客に向けた、当たり障りのない施策は売上においては意味がない、ということがいえると思います。
アプリリリース後、「DAUが減衰、リテンションが悪く、売上も右肩下がり」という状況になった場合、まずはだれがそういう原因を作ってしまっているかを課金クラスター分析で特定しにいきます。
その結果、たとえば高ARPPUのユーザーさんが抜けていることが原因の場合、UIUXフローで当該ユーザーの行動をトラッキングして、どういう時系列でアプリの中を周回し、結果としてどういう抜け方をしてるかを確認します。
こういったところを数字を元に分析して、適切な施策を打っていくということを行いました。つまり、売上に対して感度の高いユーザー郡はどこのクラスターなのかを見つけて、彼らの不満を取り除くことをしました。
広告配信に関わる会社への理解を深める
2例目は広告不正について。森下氏が、広告配信に関わる利害関係者の不正が起こりやすい背景と、それを暴いた経験を語ってくれた。
森下氏:昨今、広告不正というものが流行っております。手口もかなり功名です。
僕が担当したアプリでは、色々な利害関係の影響で、かなり広告不正をやり込まれていたという過去がありました。
広告を配信するときって、大きく分けて「広告主」「ツール会社」「代理店」「媒体社」という4つの利害関係者がいるかと思うのですが、それぞれお金儲けの仕組みがまったく違うんですよね。
そういった背景から、いいようにやられていたところを交通整理したという話です。
なぜこの話をしたかというと、意外と事業をスケールさせる・営業利益を上げるという観点において、ここが一番感度が高い、言い方を変えるとビジネスをグロースさせる足かせになる場所になっていたんです。
広告運用のfeeの条件や媒体の仕入れ金額の開示などや、今までやりこめられていたところの整理をちゃんと行わないと事業が伸ばせないと当時思ったので、ここに着手することになりました。
三浦氏:モバイルマーケティングに限った話ではないかと思うのですが、自分たちが支払ってる広告費の内、どれくらいが代理店で、どれくらいがメディアの取り分で、なぜメディアはそのくらいの取り分がないと成り立たないのか、といったところを理解せずに広告を出している方が、実はものすごい多いのではないかと思っております。
森下さんのおっしゃる利害関係、各社の事業構造を理解していないと、こういう広告不正にハマってしまうことになると思うのですが、森下さんは、入ってすぐにここを正そうと考えたわけですか?
森下氏:そうですね。入ってみて、広告の配信媒体を見たときにまず疑わしいなと思いました。
あとは取り巻く利害関係者、広告主に対して、媒体社と広告代理店が違和感のある組み合わせになっていたりだとか。
そのあたりを感じる中で、もしかして、広告不正が起きやすい座組になっているのではと考えました。
そこで広告測定ツールからRAWデータを吐き出して、納品されているレポートと突き合わせてみると、「あきらかに数値がおかしいぞ」となりまして。1つ1つファクトに基づいて説得していきました。
事業計画に根拠のあるRR、ARPDAU、インストール数を組み込み未来を予測する
3例目は綿密な事業計画という観点。未来を予測する上で、RR、ARPDAU(Average Revenue Per Daily Active User、日別ユーザー1人あたりの平均売上金額)、インストールを正確に知ることは特に重要といえます。
森下氏:未来を予測することは、マーケターとしてものすごく重要なことだと思います。その最たるものが事業計画の作成です。
私も今まで色々なソーシャルゲームの会社にいたのですが、どんぶり勘定のような、おおまかな事業計画を作るところが多い印象です。
根拠のあるRR、ARPDAU、インストール数の予測をちゃんと組み込むと、新規のアプリでも、リリース後の予測した売上に対して、ほぼブレずに着地することが経験上、多いです。
ターゲットによって訴求軸を最適化する
4例目は三浦氏の成功事例。とある海外ゲームの日本展開で、プロモーションをすべき相手を最適化したことで、リリース後半年以上経ってから売上最高位を記録した。
三浦氏:最近は特にですが、アプリリリース直後に売れて、その後伸ばすのが非常に難しい傾向にあると思います。
この事例ではリリース後半年経ってからTVCM等を行い、セールスランキング5位以内に入ったという事例です。
このあたりは、先ほどの森下さんの事例がミクロ的なものだとすると、僕のものはマクロ的なものになるかと思います。
後ほど、どういうタイミングでどういう訴求軸に変えて、どういうターゲット層に届けて売上を伸ばしたのかというような話をしていきます。
過去事例から投資に見合う効果が得られるかを綿密にシミュレーションする
5例目も三浦氏。『ブレイドエクスロード』というオリジナルタイトルにおいて、どう認知をとって、どうローンチの売上に結びつけたのかを解説。
三浦氏:IPタイトルではないので、事前登録期に、OOH(※1)やTrueView(※2)を出して、認知をとるところから進めていったという事例です。
森下氏:流行ってる感を醸成するために弊社もよく使うのですが、OOHの予算決めのロジックって難しいと思うんです。このあたりどういう考えで出すべき、という決断に持っていたかの流れを教えていただきたいです。
三浦氏:具体的にいうと、社内にある過去にやった色々なタイトルの数字から、事前登録期のCPAやリリース直後のLTVを算出して、「いくらぐらいの投資で、どれくらいのユーザーがインストールしてくれたらペイラインに乗るか」みたいなところのシミュレーションを最初に立てました。
簡単にいうと、「OOHとかやってる場合なのか?」「赤字に赤字を重ねないか?」といったところをまず見たということですね。
これを行うと、(若干定性的な判断にはなるのですが)このゲームだったらこれくらいの売上が作れる、過去事例のLTVから参考タイトルの7掛けから1.x倍はいける、といった幅を出せるようになります。
そしてたとえその幅がネガティブサイドにいったとしても、「OOHのコストが回収できない、事業的にまずい、みたいなPLにはならないな」という計算ができる、ということですね。
やる、やらないの意識決定としては、リスク面にとしてはここが大きい理由です。ポジティブサイドのシミュレーション根拠としては、ユーザー調査等を含めて判断しています。
※1 OOH:Out-of-Home Advertising。看板やラッピングカーなど、名前の通り主に野外に設置される広告。
※2 TrueView:YouTubeなどで動画の前や途中で挿入される動画広告。
リリース前にやるべきこと
ここまでの成功事例での学びをマーケティングフローに当てはめていくと、アプリリリース前後でやるべき行動が見えてくる。
森下氏は、リリース前後すべてのプロセスに責任を持ち、売上営業利益を最大化し、事業を伸ばすことがマーケティングの守備範囲であると定義する。
そして、マーケティングプロセスに一定の型(考え方)があれば、ソーシャルゲームマーケティングに再現性が出るという立場に立っている。どのような数値を見て、どういう考え方で意思決定に至るかに注目していこう。
リリース前①:IPやゲームシステムが決まると売上予測はおおよそ導き出せる
森下氏:事業のゴールをどう設定すべきかには「こういう進め方をすればおおよそ外さない」という方法があると考えております。
最初にIP(≒キャラデザ)とゲームシステムを固定できれば、どれくらいの見込みユーザーがいるかがある程度推測できます。
森下氏:搭載するIPが固定できれば、次に知るべきはそのIPファンの想定母集団と想定購買力です。想定母集団はSNSのフォロワー数や定量調査から、想定購買力は当該IPの別展開(アニメ・グッズなど)のマネタイズ状況であったり、世帯年収(可処分所得)、インタビュー調査である程度想定できます。
ゲームシステムについては、アクション・RPGといったジャンルや、GvG・PvPのような採用するシステムに分解します。これにより、そのシステムで実現しうるRRやPUR、ARPDAUの限界値というところがある程度設定できるかと思います。
そして、IPとシステムを固定することで、ベンチマークとなるアプリを定義できるようになります。競合がどういうUIUXフローでマネタイズしているのかはある程度コピー可能になります。
さらに、想定される課金クラスター分布もサードパーティーのデータから算出できるので、結果としてある程度地に足のついた売上予測を作れるかと考えています。
三浦氏:このあたりのシミュレーションは僕もやるようにしておりました。架空の例でいうと、「音ゲーを作ります⇒ガルパってセールスランキングからすると売上これくらいだろう⇒同じシステムでこのIPだとガルパの7掛けくらいだから、月いくらくらい売れる」といった感じですよね。
自社の評価もしておくと、より再現性は高まる
三浦氏:補足でいうと、実現レベルのところで、ちゃんとそのシミュレーションを実現できるだけの能力を自分達が持っているかどうか、という評価もしておくといいかと思います。ここで想定した内容が絵に描いた餅になってしまうので。
獲得周りは特にそうですが、自社評価というのもセットでやるようにしておりました。
森下氏:その通りですね。私の場合、β版をプレイしたタイミングで、競合アプリのクオリティに対してどのくらい劣っているか上回っているか、確認して事業計画の再修正を行っております。
三浦氏:運用中に入った段階だと、レベルデザインをしている人、キャラデザインをしている人の経歴やどういう思想で作ってるか、といったところを把握して、シミュレーションの精緻さを担保するようにはしておりました。
バグなくリリースできる能力が他社と比べて高いか低いかの判断、といったところの情報整理ですね。
森下氏:なるほど、実際にアプリを開発する人たちのスキルセットまで見に行くということですよね。勉強になります。
三浦氏:プロモーションに限れば、クリエイティブチームの状況を把握するようにはしていましたね。
キーパーソンが抜けていないか、逆にこういう人が入ってきた、といったところが、2か月後くらいの獲得で使えるクリエイティブに直接的に関わるんですよね。
ここのクォリティが成否を分けたりもするので、意外と漏れがちな自社評価というところもやってみると再現性も高まるのではないかと思います。
リリース前②:自社分析と市場分析から、綿密な事業計画を立てる
森下氏:弊社では、UIUXフローを利用して、ユーザーがどういう因果関係でこのアプリを遊んでいるかを課金クラスター別に見ております。
森下氏:プロジェクトが進む初期段階でこれがないアプリは、だいたいリリース時にうまくいきません。
プロデューサーの感覚頼みだったり、各機能の仕様書だけアプリを作ったりしてしまうと、最後に機能同士を結合した時に、機能同士が独立してしまい、ユーザー体験上、分離するということがよく起きてしまいます。
そこまで作ったのに、ユーザー体験としてワークしないときの悲壮感はかなりのものです。
そして、「あと1ヵ月リリースが延びると開発費が数千万円かかる。プロジェクトとして後戻りできない!遅延できないからもうリリースしないと!」といった事態になり、結果リリース後、大量出血みたいな状況になりがちです。
ですので、まずは「我々はどのような顧客体験を通じて、売上を立てるのか?」その設計図であるUIUXフローを上記の粒度でFIXさせる必要があります。そこからα⇒β⇒マスター版と作り、ちゃんと初期に作成した設計図通りにアプリを作れているかを確認すると間違いないかと思います。
三浦氏:森下さんの話が自社評価に基づく綿密な分析をしておきましょう、という観点なら、こちらは市場で受け入れられるかどうかを事前に予測しておきましょう、という話になります。
マーケティングは、達成すべき目的があって、それに対して「だれに」「なにを」「どう伝えるか」が戦略のシンプルな話かと思っております。
ファクトを調査していくと、「このゲーム、コア、ライトファンの中で認知率が8割くらいとれれば、70万DLはいけるな」といったところが事前に見えてきます。
三浦氏:仮に目標が100万DLだとすれば、30万DLの乖離を埋めるため、次点のファンといえるカテゴリ対象ファンの獲得に向けて動くことになります。
調査によって、「カテゴリ対象ファンがゲームをやる理由、やらない理由」みたいなところは分かるので、どうすれば態度変容させられるのかを事前に見ておきます。
このあたりを確認しておかないと、たとえば「リリース直後にニッチファンが集まって売上を作ってくれた⇒でも、半年後ぜんぜんユーザーとれない」といった事態になったときに、「もう、ファン取りきってるよね」というところが分からないんです。
事前に見える数字を持っておいて、何をやったらどのくらいのユーザーさんにアプローチできるかを見ておくことが、再現性というキーワードにおいては重要かなと思います。
リリース前③:RR、ARPDAU、インストールの数値根拠に執念を持つこと
森下氏:RR、ARPDAU、インストールの3変数を正確に予測できれば、未来の売上も正確に予測できます。
ですので、どれだけこの3変数に信ぴょう性を持たせられるか、具体的なファクトを持って打ち込めるかというところが重要です。
RRなら、ベンチマークアプリのRRを風の噂で聞いたものではなく、「”実際のRR”を絶対持ってくる」くらいの気概でこのKPIと向き合うということです。
ARPDAUも同様です。第3者ツールの数値を持ってくるのは悪くはないですが、少しブレます。このブレ幅が、PLにかなりのインパクトを与えるくらいのものだと致命的なので、ここもファクトを取りに行くことに執着した方がいいと僕は思います。
リリース前④:アプリ開発の工程は登山に似ている
森下氏:先程申しました通り、α、β、マスター版といったバージョンは、アプリリリースという山を登る中で、目指すべき山をきちんと工程どおり登れているかを確認するための中継ポイントと言えます。
たとえばαの段階で「別の山に登ろう、アプリを抜本的に改修しよう」「新規機能、アレもコレも詰め込もう」という意思決定し始めると、当初握っていたUIUXフローに別の機能が入ってUXとしてワークしないです。
ですので、決めた山はきちんと登りきるようにした方が、再現性は高まるかと思います。機能をあれこれ入れるというのは「当初、高尾山に登ろうとしていたところを、途中から登る山を富士山に変更しました。」というようなものです。
リリース前⑤:プロモの事業計画は柔軟にブラッシュアップする
三浦氏:④がゲームシステム面の話だとすると、こちらはプロモーション面での話になります。
事業計画は、事前登録期のCPAやフォロワー数が、シミュレーションに対して合ってるか否か、という判断ができた時点で、再度引き直した方がいいです。
事業計画を最初に作って、「この通りいかなきゃ」という現場に遭遇したこともあるのですが、事業計画は仮説でしかありません。
なにも見えないところから、なにか数値が見えたときに、それを元に事業計画のブラッシュアップをすることが重要です。
「CPAが松竹梅で組んでいた中の松だったら、予算増額しよう」「フォロワー数がちょっと少ないけど、事業インパクトはなさそう」みたいなところが分析して判断できればいいかなと思います。
最初に「プロモーション費6千万です!よろしく!」みたいなスタートをしている事業だと、(投資しないことによる)機会損失がものすごかったり、逆にもう投資するのをやめた方がいいのにやめられなかったりしてしまいます。
そこを見えてくる情報にしたがってしっかり事業計画ごと変えていくということが、リリース前にやるべきことかと思います。
リリース後にやるべきこと
リリース後は課題も多く見え、やりたいことも多いが、その売上に対する優先度・緊急度にTODOを分解して打ち手を考える必要がある。
現時点で適切な改修を行えるかは、それを判断するに足るファクトを集められるかにもかかっている。
リリース後①:KPIは感度高くチェック!RRの下振れは危険信号
森下氏:精緻に事業計画を作っていると、感の良いマーケターなら、リリース後1日、2日でRRが下振れたのか、ARPDAUが想定値を下回ったのか、DAU(オーガニックと広告の合算)の読みを誤ったのか、どこの予測を外したから売上が上振れた下振れたといったところが分かります。さらにはリリース後1日、2日でおおよその1ヶ月間の売上も予測できます。
森下氏:ソシャゲの売上において特に危険信号なのは、RRの下振れです。結論、ARPDAUやPURの下振れは、短期的には解決可能です。しかしRRは、ゲームサイクルの構造的な問題で起きてることが多いです。
ですので、RRが下振れた場合、マーケ担当者はプロジェクト側を説得するなりして、早急にRRを改善するためのアップデートを最優先でやるべきだと思います。
さらに、RRの下振れの要因となるユーザーがどういう人たちなのかの分析も必要です。ここが重課金者の大量離脱だと、売上も急速にへこみます。そのあたりも加味した上で改修の優先度を決めるということが重要だと思っております。
上記の理由もあって、リリース直後はプロジェクトがゲリラ戦の様相を呈する事が多いので、マーケターは自身の部署の役務だとか堅苦しいことを言わず、アジャイルで動く方が良いと思います。マーケターだから、プロデューサーだからとか言わずに、この一連のプロセスを早く回して事業に貢献できる人がスピーディに対応するというのがアプリ、そしてお客様のためになると私は考えています。
森下氏:KPIを通じて、リリース前に作ったUIUXフローが、ちゃんとワークしているかというところも確認する必要があります。
課金クラスター分析と照らし合わせて、売上に対して影響の感度が大きいクラスターがどこなのかを特定して、それに対してどういった改修を優先的にやっていくべきか計画していきます。
図の例だと、真ん中の赤字で最重要と書かれた場所が、最優先で改修すべき場所だったというところですね。
「課金クラスターのS~SSSユーザー(MARPPU1万円以上)が重複して保有していた資産を分解すらできずにフラストレーションがたまり、高課金ユーザーの離脱を招いていた」という分析をして、マーケター側が「こういったところを根本的につぶすような、アップデートをまずかけましょう」と指示を出すところが重要だと思います。
結果としていれたのが「重複した資産の再利用先を実装する」です。これにより高課金層のリテンションが向上したことに加えて、当初失望してやめたS~SSSユーザーさんが戻ってきてくれました。
これでDAU(特に高課金者DAU)とARPPUのベースが上がり、売上が1.5倍くらいになったという成功事例に結びつきました。
リリース後②:分析で裏打ちされた最適な訴求で売上を伸ばす
三浦氏:①が止血の事例だとすれば、こちらは止血後に伸ばした事例というところですね。ローンチ後、訴求内容を変えていくことが必要かと思います。
この事例でいうと、リリース当初はAD中心で、「見た目が良い」という訴求をしていたのですが、CMを打つに当たって、「効果の落ちてきたADの内容をそのままやっても……」と考えました。
そこで、マス向けのコンセプトをスペックではなく評判を浸透させるところにシフトしました。伝える内容や獲りたいユーザーによってメッセージを適切に変えていくということですね。
そのメッセージを発見するためには、ユーザーアンケートだったり、市場調査をやっていく必要があります。市場調査に関しては、手触り感のある一次情報、自分しか知らない生の情報を仕入れるというところも非常に重要です。
TVCMも、自分でいろいろなCMを見比べて、「地上波の番組と番組の間でこんなCMやられても何にも興味ないよ!」みたいに、自分の感覚を磨いていきました。
ゲームは、社内外からたくさん意見を言われるんですよね。その中で自分が信じるものって、結局自分が見聞きして触れたものしかないと思います。
このときのCMの投資がAD含めて5億円以上打ってたりしていて、そのくらい大きな投資をするときの判断軸は、自分にしか委ねちゃダメだと思うんですよね。
ただ、自分にしかない情報を多く持っていないと、委ねることはできません。そのためにも、Twitterで100人以上のヘビーユーザーの声を拾ったりとか、とにかくいろいろやりました。
三浦氏:もう1つは、リスクの可視化をするためにひたすらファクトを集める、というところですね。「CMによってこのくらいの売上やDAUが実現できる、だからこれくらいの出稿をしていい」といった具合に、判断の軸になるものです。
数値は仮ですが、交通広告に900万円使ったとしたときの、全体への影響の有無みたいなところを考えていました。大失敗するような比率をわからないところに掛けてもダメだし、逆に勝てそうなところが少なすぎてもダメだな、と。
こういったミクロな数字の裏付けとか、事業リスクの可視化をしておかないと、そもそも投資の意思決定ができないと思うので、こちらも並行してやった方がいいですね。
リリース後③:回収期間を短くして、許容CPIを絞っていく
森下氏:グロースフェーズから中期的な投資回収フェーズにおける、最終的に広告配信を決定するための計算ロジックがこれかなと思っております。
森下氏:投資フェーズではCPIやCPD3といった指標で、インストール数やDAUをある程度担保するわけですが、PLに責任を負っている手前、いずれは「利益を出す」「累積の営業利益を最大化させる」というゴールに対して、フェーズを切り替える局面があります。
中長期回収フェーズではROASなどの回収KPIに注目しつつ、投資回収に見合わなくなってきたら、120→90→60日ROASといった具合に回収期間をなるべく短くして、許容CPIをきつく絞っていくことになるかと思います。
事業としてソシャゲのPLしか持っていない(=IP展開などの他マネタイズが事業体として無い)という前提ですが、累積の営業利益・売上を最大化しつつ、中長期回収フェーズで許容CPIを絞っていく場面でいかにアプリを延命させるかが、ソシャゲマーケターの腕の見せどころだと思っております。
マーケティングのプロが考える再現性とは
三浦氏:今日のセッションを聞いて、「やってることたくさんあるなぁ」と感じた方いらっしゃるかと思うのですが、正直、「これやった方がいいですよ」なんてものは山ほど出てきます(笑)
ただ、その根幹になにがあるかといえば、成果を出すために誰よりも調べ、誰よりも執着する、ただそれだけなんですよね。そんな人がいること自体が再現性を高めることだと思っています。
森下氏:いやぁ、ストロングスタイルですね(笑)ありがとうございます!
森下氏:私も言ってること自体は三浦さんとまったく同じなんですが会計、データ分析、統計解析、ファイナンスやエンジニアリング、アドテクノロジーなど、マーケターの守備範囲ってものすごく広いんですよね。
こういったところの知見がないと、そもそも売上やPLにコミットできないので、幅を持った知識をマーケターは持たないといけないなと考えています。
「売上が低迷しているソシャゲのテコ入れして!と突然上から言われたら、まず何から調べますか?」
時間の関係で1つのみだったが、セッション参加者からこんな面白い質問も。
森下氏:えぇ!? うーん、僕だったら健康診断表、さっきの課金クラスター分析を時系列に走らせて、すべてのクラスターがどう推移しているかを分析して、どこが売上に対して感度が高くて足引っぱってるかを可視化しますかね。
三浦氏:僕は反則気味の回答をすると、自身が作り手だった感覚から、ここに違いないというところを決めて、それの裏付けをする分析をするかなと思います。
逆に健康診断的な数字出すと、単に個人的な手間がかかるので、それよりも、ここに違いない、というアプローチをすることが僕の場合は多いですね。
森下氏:もう1つ僕がやるのは、高課金者・微課金者・無課金者みたい分け方でTwitterアカウントを3つくらい持ってるんですが、「どの層のユーザーさんのTwitterがざわついてるか」「各クラスターのTwitterアカウントでどういうつぶやきがどのくらいの頻度であるのか」などはスキマ時間に見たりしていますね。
三浦氏:高課金者のツイートで1個のレビューを引っぱって「ほんとにこれ!」と思うことはけっこうありますよね(笑)
森下氏:(笑)極めて細かい粒度の情報にマーケターはタッチしてないと、こういうインサイトは出てこないですよね。ずっと現場に居続けないと見えないことなので、それが面白いなと思っています。
三浦氏:そうですね。数字だけじゃ見えないところは絶対あると思います。
<登壇者プロフィール>
森下 明氏
株式会社ブシロード 広報宣伝部 副部長
デジタルマーケティング部門立ち上げのために2018年1月に株式会社ブシロード入社。新卒から一貫してデジタルマーケティング領域に従事しており、特にモバイルマーケティング領域に強みがございます。直近ではマーケティング戦略立案やWEBとマスを合算したトータル予算の最適化、各種データ分析手法を用いたアプリ内KPI改善などの業務がメーンになっております。スキルセットとしては、デジタルマーケティング、モバイルゲームプロデュース、データ分析が強み。 以下SNSで情報発信中ですので是非、フォローください。
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森下氏がゲストマーケターを招いた特別連載(掲載:APP BRAIN)
三浦 慶介氏
2008年サイバーエージェント(以下、CA)入社。ソーシャルゲームのプロデューサー・ディレクターとして『ドリームプロデューサー』など多くのタイトルの開発に従事。2011年、ゲーム事業子会社の取締役に就任。2013年より2017年初頭まで株式会社リヴァンプにてオムニチャネル領域を中心に、デジタルマーケティングや新規事業開発に従事。2017年3月よりCAに復帰。ゲーム事業のマーケティングとデータ分析を中心に従事。2020年9月より建設テックの株式会社レゴリスのマーケティング部長。