【法林岳之のFall in place】第12回: どうなる? 2016年のモバイル業界

年が明け、2016年がスタートした。前回のこの連載でも触れたように、2015年はスマートフォンの普及が進む中、新しいモバイルのカタチとして、Androidフィーチャーフォンなどが登場する一方、スマートフォンそのものの進化は少し落ち着きを見せ、各社のラインアップもハイスペック指向からミッドレンジの購入しやすいモデルに注力する方向が見えてきた。昨年末には総務省で進められてきた携帯電話料金タスクフォースの意見がまとまり、各携帯電話会社には「スマートフォンの料金負担の軽減および端末販売の適正化に関する取り組むこと」が要請された。こうした動きを受け、2016年のモバイル業界はどうなるのだろうか。今回はネットワークと端末を中心に、いくつか見えてきていることをピックアップしながら、2016年のトレンドを予想してみよう。

進化を続けるモバイルネットワーク

国内の携帯電話サービスは、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク(ワイモバイルを含む)の3社がネットワークを構築し、サービスを提供しているが、ここ数年で通信方式の主力を3GからLTEに切り替え、スマートフォンやタブレットもLTE対応モデルが主流になりつつある。実は、世界的に見てもこれだけ早く新しい通信方式への切り替えが進んでいる国と地域は珍しく、モバイルネットワークの進化という点においては、日本は韓国などと並び、世界の最先端にあるといわれている。

現在、国内で最も高速なデータ通信が利用できるのは、NTTドコモが「PREMIUM 4G」のサービス名で提供する受信時最大300Mbpsのサービスだ。対応端末としてはシャープ製AQUOS ZETA SH-01Hがすでに販売中で、今年3月にはNEC製のモバイルWi-Fiルーター「Wi-Fi STATION N-01H」も投入される予定だが、2016年にはさらなる高速通信が実現することになりそうだ。

その1つが新たに割り当てられた3.5GHz帯を利用したサービスで、当初の計画ではNTTドコモが今年10月、auは今年6月にサービスを開始するとしている。将来的には光ファイバー回線に匹敵する1Gbpsの高速通信の実現が目指しているが、当初は受信時最大370Mbpsからスタートする見込みだ。ただし、この3.5GHz帯を利用した高速通信サービスの恩恵を受けられるのは、おそらく各社の夏モデル以降で、エリアも都市部の混雑しているところや屋内などのエリアを補完する形で展開される。

ところで、こうした通信の速度は、いずれもそれぞれの通信方式の理論値であるため、実際にその通信速度が得られるわけではない。特に、電波を利用するモバイルデータ通信は、複数のユーザーで周波数帯域を共用するため、100Mbpsを超えるモバイルデータ通信のサービスでも実効速度(実際に通信をしたときの速度)は、数Mbpsから数十Mbps程度になることが一般的だ。

しかし、理論値による通信速度の表記は、「消費者に誤解を与える」という主張から、昨年7月に総務省がモバイルデータ通信の実効速度を表わすガイドラインを決め、そのガイドラインに基づいた計測結果が年明け早々に、各携帯電話会社から発表された。

詳しい計測方法や内容、結果などについては、各社のWebページを参照していただきたいが、全国10都市が選ばれ、約1,500点の結果が公表されている。速度の表記も「受信最大 150Mbps(ベストエフォート)、受信実効速度は14.1~37.6Mbps」というように表記されている。実効速度の計測は特定の携帯電話会社が有利にならないように、公平性が考慮されたものであり、いずれも実際に市販の端末で計測した実測値なので、その内容はある程度、信頼できるものといえそうだ。もし、自宅や学校、勤務先など、自分が普段、よく出かける場所が対象であれば、計測結果をチェックしてみるといいだろう。

端末やプラットフォームの選択肢は拡がるか

新しい周波数帯域の活用などで、さらに進化を遂げそうな各社のモバイルネットワークだが、肝心の端末についてはどうだろうか。

前回の「2015年のモバイル業界を振り返る」でも説明したが、この1~2年、スマートフォンそのものの進化はある程度、落ち着きつつあり、端末の仕様もハイスペックのものばかりではなく、MVNO向けのSIMフリー端末などを中心に、ミッドレンジのモデルが充実してきている。

こうした流れは2016年も継続すると予想されていたが、冒頭で触れた総務省の携帯電話料金タスクフォースで、各携帯電話会社の端末購入時の割引サービス(月々サポートなど)がやり玉に挙げられ、高価格帯の端末を割り引いて販売しにくくなることもあり、ミッドレンジのモデルが今まで以上に充実することになりそうだ。iPhoneやGalaxyシリーズなど、グローバル向けのフラッグシップモデルは、今後も継続して販売されるだろうが、端末購入時の割引サービスの恩恵が受けにくくなるため、アップルやサムスンが自らプロモーションに力を入れていかなければ、これまでのような人気は得られないかもしれない。

また、端末そのものではなく、プラットフォームという切り口で見ると、iOSとAndroidの争いに、Windows 10 mobileが割り込めるかどうかが非常に注目される。Windows 10 mobileについては以前にも本連載で説明したが、Windows 10 mobileが動作するスマートフォンでは、パソコンのWindows 10と同じユニバーサルアプリが動作するうえ、スマートフォンにディスプレイやキーボードを接続して、パソコンと同じように使える「コンティニュアム(Continuum)」という機能を利用することが可能だ。ちなみに、コンティニュアムはすべてのWindows 10 mobileの端末で利用できるわけではなく、対応機種のみで利用することができる。今のところ、国内で発表、もしくは発売されたモデルの範囲では、アクセサリーメーカーとして知られるトリニティが1月に販売を開始する「NuAns NEO」というモデルが対応を表明している。

トリニティのNuAns NEO

Windows 10 mobileはどちらかといえば、ビジネスユースの印象が強いが、実はXboxやGrooveミュージックなど、エンターテインメントのアプリも標準で搭載されている。プラットフォームとしてはまだ動き始めたばかりなので、どれだけ魅力的な端末がそろい、アプリが充実してくるのかが成否のカギを握っているが、固定化したモバイル業界の構図にWindows 10 mobileが風穴を開けられるかが注目される。