遅れてやってきた名作『アート・オブ・コンクエスト』に見る、廃課金勢対策の困難さ

昨年、中華系デベロッパーLilithGamesが「本格派シミュレーションゲーム」と題して日本市場に投入してきたのは『アート・オブ・コンクエスト』。Appliv Gamesでも初期の攻略についての記事を掲載していますが、ライターの安土桃子はもっとちゃんと攻略しろ。というわけで、海外版がそこそこ好評なのを指くわえて見てたんですが、ついに日本語版アプリが登場! という話題を聞きつけて早速インスコしてみたところ、これがまた面白い。

私のゲーム遍歴を少し話していいですか。いいですね。私はシミュレーションゲームが大好きです。アクション性のあるRTSもやりますし、『信長の野望』や『ハーツオブアイアン』のようなじっくり系も大好きです。

そんな私が30代にドはまりしていたのは『ヒーローズマイトアンドマジック』という作品群でして、類似作品として『マスター・オブ・マジック』や『バトルフォー・ミドルアース』といったざっくり洋ゲーのシミュレーションをやり込んでいたのです。

そして、この作品、『アート・オブ・コンクエスト』は、システムといいゲーム性といい外観といい、はっきりと私の好きな『ヒーローズマイトアンドマジック』の系統をくんでいることが分かります。

日本語版でも出ている『ヒーローズマイトアンドマジック4』は私は名作だと思います。シングルプレイですが、しっかりとしたゲーム性と最高の音楽でファンタジー世界のイマジネーションを堪能したいという人がおられましたら是非どうぞ。

というわけで、私の好きなジャンルのゲームですので、定額課金とアイテム、英雄などを買い足して微課金プレイに精を出します。年末から年始にかけて、ざっと1万5,000円ぐらいでしょうか。

スタートダッシュするほどではないけど、サーバー(ワールド)内では全体100位圏内の中堅プレイヤーとして頑張っておるわけです。

このゲーム、英雄が部隊を率いて戦場に出る仕組みになっている以上、英雄の数と質、両方重要です。部隊を率いて戦場に出る英雄のスタミナがある限り、攻め続けることができます。

初期にやってくる英雄3人はもちろん、一度の出撃でスタミナ3を使うグロート、ブルマン、ローズの3人は対人戦、攻城戦の要になる英雄です。

もしも課金して英雄を買ってもいいぞ、ということなら、グロートが一押しです。というか、グロートの育成次第で中堅から上位に食い込めるかどうかが決まると言っても過言ではありません。

また、クソ強い狼さんが頑張るフェンリル、魔境というタワーライクダンジョンが進めば貰えるマイク・フェイは育成をお薦めの英雄です。

この英雄、ショップで買うか、パックで買うか、宝箱のロトでもらうかのいずれかでないと、欲しい英雄をピンポイントで手に入れることはできません。

少なくとも使える英雄を見極めて、最初1人だけ安値で買える英雄をきちんと吟味しないとその後苦労することになります。

もちろん、ジャブジャブに金を使えば英雄全員そろえるのも訳なくできるのですが、問題は英雄や部隊を強化する方法が複数あることです。

まず、英雄は戦闘をこなすごとにレベルアップしていきますが、それは単純にヒットポイントとマジックポイントと野良攻撃力、スキルアビリティが増えるだけです。

英雄の特性・能力を示す「統率」「武力」「防御」「魔力」はカネ払ったり運よく得られる褒賞を引き当てたりしない限り、なかなか強くならない仕掛けになっているのです。

平たく言えば、カネをかければ英雄はとても強くなります。英雄の能力を引き上げるアイテムを装備することも大事ですが、これは「魔鏡」と呼ばれる武器合成用のレシピの得られるダンジョンを攻略せねばならず、そのためにはある程度英雄や部隊のレベルが上がっていることが必要で……と、そう簡単には強くなりません。

率いることのできる部隊は、特色に富んでいます。当初から率いているポピュラーな「人間」や、その人間の士気をくじくので強い「リッチ(亡霊)」、堅いトレントと優秀な弓兵で押す「妖精」、人間キラーのリッチに強い武士などを擁する「アライグマ」、戦車やロボといったメカを率いて固く守る「ドワーフ」の5種族を都度都度スイッチさせながら国力を上げていきます。

基本的には、人間、リッチ、アライグマが三すくみのようになっていますが、そこに英雄やドラゴン、保有技術の強さが影響してくるのでそう単純ではありません。

戦闘も、この手のゲームではよくあり勝ちな雑魚部隊の数=兵力=ヒットポイントというようなあっさりした仕組みではなく、ちゃんと部隊で雇った一人ひとりがヒットポイントを持ち相手をタゲって攻撃しているので、とても良くできています。

英雄や部隊には一定期間で使えるスキルが用意され、英雄のスタミナが続く限り何度でも戦闘ができます。

また、戦闘のキーとなるドラゴンは課金の程度が進むごとに複数管理でき、ドラゴンの体力がなくなると卵から新しく孵化させたドラゴンをまたレベルアップさせ直して体力を戻してどんどん攻めていくといった方法も可能です。

シミュレーションゲームの割には基本資源である聖水と材木がクッソ余るのがムカつく以外は、ゴールドと貴重資源3種類はまあまあ不足気味になるあたり、とても良くできています。

プレイヤーの領地は自分の国の首都か、所属するギルドが保有する都市のいずれかに置かれることになり、戦争に晒されやすい前線の大都市、巨大都市は生産ボーナスをもらえますし、プレイヤーの多いギルドからの投票によって選出される国王から役職を任命されたり、都市の城主になると生産ボーナスや保有できる兵隊の数が増えて戦争が有利になったりと、マルチプレイのシミュレーションゲームとしては基本がしっかりと押えられ、非常に素晴らしい出来です。

6つある国の中から1つを選び、それ以外は常に敵対状態になっているものの、ギルド単位で敵国でも仲が良かったり、同じ国なのに都市占領で妨害してくるギルドが出てくるなど、国際色が豊かなゲームでありがちな「国をまたいで日本人同盟ができる」とか「言葉の通じない敵からいつも野良デュエルを吹っ掛けられる」といった殺伐とした雰囲気も楽しめます。

何より、先行しているサーバーに新しくプレイヤーが入ってくることは稀で、サーバーの移動もよりプレイヤーが強くなっている古いサーバーにしか移動できないため、プレイが進むにつれて増えていく引退者によって徐々にギルドメンバーが削られて行きながらも声を掛け合いながら次の目標、次の攻略、次のイベントへと進んでいく醍醐味が得られるのがこのゲームの大変優れた点です。

とにかくゲームとして仕様面でイケてないところはちゃんと潰されているので、ほとんどストレスなくシミュレーションゲーム単体としては遊べるような高い品質になっている、と言えます。

ところが……まあ、対人戦のあるシミュレーションゲームですからどうしようもない部分はあるのですが、ぶっちゃけ廃課金無双なところが強く出ているゲームでもあります。

日本人だけでなくフィリピン、アメリカ、欧州などからも来ているプレイヤーが集まってワールドが構成されているのですが、私のいるワールドでも他のプレイヤーのところでも雲霞の如く中国人プレイヤーが固まって1つか2つの国を仕切っています。これがまた、強いのなんの。

たどたどしい中国語を使ったり、英語の話せる中国人プレイヤーと対話をしていると、日本人が2人目以降の英雄を買うのに7,400円という値段をかけて増強するかどうか悩んでいるところ、どうも中国人のやっているアプリでははるかに安い金額で英雄を雇えたり、「統率」「武力」などの英雄の能力を上げられるアイテムを買うことができているようです。

そりゃ中国人強いはずだわ、強くするはずのアイテムが日本人より安く売られているんだから。しかも、海外版と今回リリースされた日本語版では同じサーバー、ワールドでゲームをすることになるわけですが、海外版でだけ使えるスクラッチギフトが存在しているようで、日本人プレイヤーはそもそも不利だということが段々分かってきます。

まあ……課金するのは萎えますわなあ……絶対勝てないじゃんこんなの。先方と同じぐらいの廃課金でやろうとしたら、結構な費用が掛かるだろうと思いつつ、いざデュエルしてみると「相手の英雄の能力合計よりも300以上低い状態で、部隊の攻撃力も魔法力もペナルティ喰らっています」という状態で、勝てるわけないじゃんこんなの。

ゲームとしてすごく良くできているのに、英雄の能力差、それもべらぼうな課金量で惨敗してめども立たないことがハッキリすると、日本人で頑張って課金しているプレイヤーにくっついてコバンザメをしたり、それでも勝てそうな相手を見繕って善戦を祈念したり、マップ上をうろついている敵の資源輸送車をセコく襲って嫌がらせをしたりといった、最低限のプレイしかできなくなってしまいます。

ゲームとして課金要素がある以上、どうしても課金しているプレイヤーが有利にならざるを得ず、勝ちたければ課金しろと煽られざるを得ないのは分かります。

英雄もドラゴンも技術もレベルが上がるごとに次のレベルまでの経験値や時間がたくさんかかるために果てしなく遠く、そのレベル差をデュエルで見せつけられると「ああ、大将ずいぶん課金頑張ったんですね。じゃ、あっしはこの辺で」と無事敗北、白旗上げて英雄全員重傷になり4時間休みを余儀なくされます。

そういう現実を見せつけられるたびに、ひとり、またひとりと、引退者の背中を見送る日本人ギルド……でも、数と結束で頑張って盛り返そうとする日本人の姿を見ると、いろんな多国籍ゲームで見る「日本人の良さ」や特質を垣間見る思いがあるのです。

日本人が一丸となって日本人国王を選出しようとし、中国人に攻め込まれている日本人都市があると強いスズメバチに立ち向かうミツバチのように勝てないデュエルでも何度もやれば相手のスタミナを削り切れるとばかりに奮闘する日本人の姿を見ることができます。

ああ、『トラビアン』でも『EVEONLINE』でも良く見る光景だ…そしてそれは、美しい。サーバー内の全プレイヤーが見られる世界チャットでは中国人が憚ることなく中国語を書き込み、多数派のはずの英語圏プレイヤーから嘆きの個別メッセージが送られてくる中、攻勢に抗う日本人プレイヤーが粛々と応戦している姿。

逆に言えば、良くできているんですよ、このゲーム。英雄の成長曲線とデュエル以外は。基本的に、人間部隊を償還できる3人と、グロート、フェイが本当に強いわけですが、その強さを引き出すには英雄レベルと、課金で効率よく高められる能力とが必要で、本当の意味で微課金の雑魚プレイヤーは無双できます。

それでもなお、この名作シミュレーションゲームで蹂躙される楽しさを味わいたいマゾい人たちは、ぜひご参戦ください。序盤は面白いし、本当によくできていますよ、このゲーム。感動するほどに。

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