近年の人気キーワード「VR」はこちら
VR対応型HMDが比較的安価に構成できるようになった理由
近年のVRブームの火付け役が「Oculus Rift」(Oculus VR)で、もり立て役が「Project Morpheus」(ソニー・コンピュータエンタテインメント)だったというようなことは前回の話で触れましたが、そもそもこうしたVR対応型のヘッドマウンドディスプレイ(HMD)が、なぜ、こんなに安価に提供できるるようになったのか、不思議だとは思いませんか。
Oculus Riftはテスト量産品のプロトタイプでありながら、DK1で300ドル、DK2で350ドルでしたから、価格は概算で240分の1です。おそらく……ですが、製品版のOculus Riftも、Morpheusも、300~400ドルの価格帯から大きく上がることはないと思われます。では、ここまで価格が下げられた理由はどこにあるのでしょうか。
第一の理由は、安価なアリモノの既存パーツだけで製品を基本構成しているためです。Oculus RiftやMorpheusにおいて、映像表示を担当する根幹パーツの映像パネルは、今では価格が熟れてきた5~7インチ程度のスマートフォンやタブレット機器に用いられている汎用品なのです。しかも、使用枚数はたったの1枚だけ。Oculus Rift、Morpheusは、この5インチ前後の映像パネル(有機ELパネル)の中央に仕切り板を設けて囲い、眼球装着位置に「のぞき窓」を作って、そこに超安価な拡大レンズをあてがっているだけの超シンプル構造なのでした。
しかし、OculusやMorpheusのような、映像パネルに仕切りを設けて簡易的な拡大レンズをあてがっただけのシンプル構成では、見える映像は丸く歪んでしまいます。そこで、表示する映像側に、拡大レンズによる歪みを中和するような「逆」歪みを与える形で描画してやるという「逆転の発想」でこの問題を解決するのです。
これまでのHMDというと、高価な対角1インチ未満の高解像度マイクロディプレイパネルを2枚使ったものがほとんどでした。マイクロディスプレイだと画角が小さくなることから、画角を広く確保しようとしたHMD、……例えば前出の「HEWDD-768」では、小型プロジェクタを2基、HMDに内蔵させていました。光学系も高価な非球面レンズを組み合わせた高度なものを組み込んでいました。そうした「高く付くパーツ」類を徹底排除したことで、Oculus RiftやMorpheusのような低コストなVR対応型HMDを構成できるようになったのです。
スマホを合体させて使うVR対応型HMDも登場!
まとめると、「複雑な光学系が不要」「小型の高解像度マイクロディスプレイではなく、汎用の映像パネルを利用する」という工夫によって、ここまで低コストにVR対応型HMDを実現できたわけですが、映像パネル部分がスマートフォンに使われているものと同等なのであれば「じゃ、いっそのこと、スマートフォン自身を使ってしまえば?」という大胆な発想も生まれました。
そんな感じで誕生したのがサムスンのGalaxyシリーズをペコンとはめ込んで使うVR対応型HMDの「Gear VR」です。Gear VRの開発にはあたってはOculus Riftの開発元のOculus VRが協力しており、「Powered By Oculus」のロゴも付けられています。
Galaxy S6シリーズを搭載して使うVR対応型HMD「Gear VR」。価格は2015年8月時点で26,000円前後
スマートフォンのGalaxy側にも、加速度センサー、ジャイロセンサーは搭載されているはずですが、Gear VRではスマートフォン側のセンサーは使わず、自身に搭載したセンサー類を使う仕様になっています。つまり、Gear VR内蔵側の加速度センサー、ジャイロセンサーを使い、頭部の向きや角度、傾きを検出してVR体験を提供する仕組みです。なお、HMDの絶対位置を取得するポジショントラッキングには未対応なので、Oculus Riftでいうところの「DK1」相当のヘッドトラッキングが実現されます。
現在、発売されているGear VRは「Gear VR Innovator Edition for Galaxy S6」という製品で、Galaxy S6、Galaxy S6 Edgeに対応するものになります。現在はVRアプリ開発者向けという位置付けですが、一般ユーザーも普通に購入することが可能です。ちなみに、執筆時に調べてみたところでは、ヤマダ電機やビックカメラ、ヨドバシカメラの通販サイトでは26,000円前後で販売されているようですね。
スペック的には、Oculus RiftやMorpheusには及ばない部分もありそうですが、VRアプリ自体をGalaxy S6自身で実行するため、VRコンテンツを楽しむのに、パソコンもゲーム機も必要ないというシンプルさは魅力的です。 まぁ、本格的なVRゲーム体験というよりは、カジュアルなVRゲーム体験やVR映像体験を楽しむためのVR対応型HMDという位置づけの製品のようで、おそらくVRユーザーの間口を広げることを想定しているんでしょう。
とはいえ、Oculus VRの協力で開発されたものなので、対応VRコンテンツは同社が運営する「Oculus Store」経由でリリースされる仕組みになっていて、今の時点でも約50タイトルのVRコンテンツがこのストアから提供されています。日本でも人気の高いコロプラの「白猫プロジェクト」のGear VR版も提供されていますし、今後の展開も楽しみです。
次回はVR編最終回として、VR対応型HMDの第3勢力の話やVRコンテンツの可能性についてお話ししたいと思います。