5Gによる4K映像×4面リアルタイム配信実験
NTTドコモブースでは、「5G」と掲げたトラックを停めており、そのコンテナ内部では壁面の4面を使って映像を流しているデモを行っていました。
来場者は横一列に座って映像を鑑賞するのですが、正面に横長の画面が1面、左右にその半分程度の大きさの画面が1面ずつという配置で、いわゆる「映像のサラウンド」という感じです。
多くの来場者は、「だからどうした?」という表情でコンテナからでてくる姿が目立ちました。この展示はいくつかの見どころがあるのですが、メインテーマでないところから紹介すると、4面映像の投影はソニーの超短焦点4Kプロジェクタの「VPL-VZ1000」で行われていました。民生向けの製品ですが1台あたり約200万円ですから相当なハイエンドモデルといえます。
つまり、このデモは4Kの映像を4面に投影していたということになります(正確には正面7K、左右3Kずつ計6Kの割り振りでした)。まあ、これを聞いたところで「スゲー」ということにはならないでしょうね。
ただ、この4面の4K映像がニコニコ超会議2018の会場で行われているライブの様子をリアルタイム撮影された映像そのままで、しかもそれが5Gの携帯電話網を使って配信されているものだとしたら「え、マジ?」となるのではないでしょうか。
このデモは、ニコニコ超会議2018のステージを4台の4Kカメラで撮影した映像をリアルタイムでH.265コーデックで圧縮(エンコード)し、これをステージ側に設置された5G回線のアンテナから送出し、このコンテナトラックで受信。これを復号(デコード)してコンテナ内で表示していたのです。
前回紹介した『鉄拳7』を用いた実験では、わずか1m未満の距離でしか5G回線の電波を飛ばしていませんでしたが、今回は数十メートルは飛ばしている印象です。
今回は伝送路として5Gで活用される28GHz帯だけを使い、帯域としては1Gbpsを設定していたようです。
4台の4Kカメラからの4つの4K映像は2つずつ2組にまとめられてからエンコード処理を実践し、その結果2つのストリームとして伝送出力しているそうで、データパッケージ上は「2組の8K映像」になって配信しているのだとか。ちなみに、1ストリームあたりのビットレートは約30Mbpsだとのこと。
カメラやアンテナが展示されていた「超踊ってみたブース」。右側壇上の三脚上の4台の4Kカメラで撮影された映像が5Gトラックに5G回線を使って配信されていた。左側奥に見える白い機器が5G回線用基地局アンテナ
ブルーレイなどに採用されているH.264コーデックよりも、さらに圧縮効率の高いH.265(4Kブルーレイなどに採用されているコーデック)を採用しているからこそ、この程度のビットレートで収まっているのかもしれません。
5G回線は、確かに4Kや8Kの映像をスマートフォン向けにリアルタイムストリーミングすることが可能となるように技術開発が行われていると聞いてはいましたが、ボクも実際にこのデモを体験したことで、かなり「そのリアリティー」を感じとることができたと思います。
さて、ライブ会場の写真を見ると相当に人が多いですよね。各人がみんな携帯電話を持っていたとすれば相当に電波が飛び交っているはずです。これでは5G回線とはいえ、混信してしまいそうと思いませんか?
しかし、前回解説したように5Gは混信に強い設計になっていますし、今回の実験に限っていえば、現在の4G回線では利用されていない28GHz帯の電波を使っていたのでその心配が物理的になかったのでした。
ただ、28GHz帯はミリ波と呼ばれ、空気を伝搬する過程で損失が大きいという弱点があります。ちなみに、5G回線はこれ以外に3.7GHz~6.0GHz帯も利用する予定ですから、28GHz帯だけで運用されるわけではありません。現在主流の4G回線は3.6GHz帯以下で運用されていますが、中期的に4G回線が終了したときにはこれらの電波帯も5G回線に利用されることになります。
国産最速スポーツカーの日産GT-Rで行われた時速300km通信テストの内容とは!?
NTTドコモブースには、5Gトラック以外にも興味深い車両が展示してありました。それは、5Gのロゴがあしらわれた日産「GT-R」です。
日産GT-Rは国産スポーツカーの中では最速を誇る1台で、スポーツカー好きのボクもがんばって2013年モデルの新車をローン購入しました(笑)。ちなみに、ローンは今年払い終わります。
そんなGT-RがなぜNTTドコモブースに? なぜ5Gのロゴが?
まさか5G回線が速いから日産GT-Rをイメージカーにしたの?……と思ってしまいましたが、全然違いました。
5G回線は、これまでの4G回線よりも周波数帯が上がるため、電波の到達距離が4G比で短くなることが想定されます。前出の28GHz帯でいえば数百メートル単位で基地局アンテナを設置する必要が出てきます。
そうなると問題になってくるのが、高速移動時のハンドオーバー処理です。
ハンドオーバー処理というのは、回線がつながっている状態で移動している際、それまでつながっていた基地局アンテナから、その時点でいちばん近い別の新しい基地局アンテナへシームレスにつなぎ替える処理です。
基地局アンテナの設置間距離が従来よりも密になることが想定される5Gでは、このハンドオーバー処理は重要です。
その極限状態テストとして、「時速300kmで移動しているユーザーの5G回線をシームレスにハンドオーバー処理できるか」というテーマを実証実験するために、国産車最速の日産GT-Rが選ばれたというわけなのでした。
ドコモの担当者によれば、車両選定の際にはホンダNSX、レクサスRC-FやLCなども検討されたとのことですが、高速安定性、車両コストの面で日産GT-Rに決定したのだとか。
時速300kmというターゲット速度は、新幹線などの高速鉄道車内での5G回線利用を想定したものだそうですが、実際に新幹線に試験機材を持ち込んで実験するのは困難で、何度も繰り返し実験と検証を繰り返すには「時速300kmが出せる自動車」の方が最適だったということのようです。
実際、日本自動車研究所(以下、JARI)の高速周回路(直線部1kmのオーバルコース)で実験したところ、実測時速290kmでのハンドオーバー処理に成功、実測時速293kmで1.1Gbpsの通信にも成功したのだとか。その様子をまとめた動画が下記になります。
動画の中でも紹介されていますが、このテストでは高速ハンドオーバー処理の実験だけでなく、4Kカメラで撮影した映像を高速移動中に5G回線を用いてリアルタイム配信する実験も行われました。配信した映像の面数は違いますが、行ったことは前段で紹介した「超踊ってみた」の5Gトラックのものとほぼ同様です。
毎秒120コマの4K映像をH.265にリアルタイムエンコードしての配信実験を行ったとのことですが、動画にもあるように時速200kmでは見事に成功したとのことです。動画には触れられていませんが、関係者への取材では、この実験に関しては時速300kmでは成功しなかったようです。
というのも、ハンドオーバー処理の実験が成功していることからもわかるように、通信回線としては接続が継続できていたのですが、データ送出側のH.265エンコーダーや、データ受信側のH.265デコーダーの処理遅延があったために、アプリケーション側でのデータ処理エラーが発生してうまく行かなかったようです。
まあこれは5G回線の問題ではなく、いわばアプリケーション側の問題なので、今後、解決できる可能性は高いと思います。
さて、この日産GT-Rですが、自分もオーナーということもあり、車の仕様面についても根掘り葉掘り聞いてしまいました。このあたりの情報にも触れておきたいと思います。
まず、この日産GT-Rの車両は2008年モデルの初期型で、いわゆる中古の車両になります。
この車両を安定的かつ、反復的に時速300km走行できるようにチューニングしたのがDANDELION RACINGです。DANDELION RACINGはNTTドコモがスポンサーになってのモータースポーツ参戦をしていますから、成り行きとしては自然といえます。ただ、興味深いのがこの日産GT-Rのチューニングです。
ベースは確かに日産GT-Rの2008年モデルですが、昨年暮れリリースされたばかりの日産のモータースポーツ部門のニスモの新作エアロパーツをフル装着しています。
さらに、エンジンはニスモのスペシャルチューニングが施されたS1エンジンに置き換わっています。
車両開発は昨年の7月から開始されたとのことですが、同じ車両のオーナー目線から見てもとんでもなく「気合が入った車両」という感じがしました。話がさらにマニアックな方向に進んで恐縮ですが、この車両に搭載されていたタイヤが驚きでした。
ヨコハマタイヤのADVAN A052という、かなり高性能なスポーツラジアルタイヤが履かれていたのですが、このA052って日産GT-Rに適合する純正サイズ(20インチモデル)は市販化されていないんです。
ということは、このタイヤは特注品と言うことになります。たぶん、普通のGT-Rオーナーで「このタイヤほしい」と思う人はいそうです。最後は、なんだかあまり5Gと関係ない話になってしまいましたが、今回はここまでとします。ではまた!