【法林岳之のFall in place】第13回: 学生さんはおトク? 学割の主戦場はデータ通信量に

例年、1月から3月にかけては、携帯電話の契約が最も多いシーズンといわれる。その対象となるのが新入学や新社会人と呼ばれる人たちだ。中でも学生については各社とも力を入れており、この時期には「学割」と呼ばれる学生向けプランが発表される。今回は春商戦へ向けた学割を見ながら、その内容と思惑をチェックしてみよう。

なぜ、学割なのか?

現在、国内の携帯電話の契約数は日本の人口よりも多い1億5,000万を超え、国民の全員が1人当たり1回線を持つところまで普及している。実際には、会社から携帯電話やスマートフォン、タブレットが支給され、1人で複数回線を持っているケースもあるため、実際の普及率はもう少し低くなるが、それでも実働世代はほぼ1人1回線を持っているといえそうだ。

こうした携帯電話の普及が進んだ背景にはさまざまな要因があるといわれるが、世代という切り口で見た場合、各携帯電話会社がそれぞれの世代やセグメントを対象にした施策を打ち出し、それがうまく実を結んできたという見方もできる。たとえば、NTTドコモと富士通が手がけるシニア向け端末「らくらくホン」はその典型的な例であり、他の携帯電話事業者も同様のジャンルの端末を開発し、現在でも安定した人気を保っている。最近ではauが子どもを持つママをターゲットに、「ハンドソープで洗える」ことをテーマにした「DIGNO rafre」というスマートフォンを京セラと共に開発し、話題になった。目にするもの、手にするものをすぐになめたり、かじったり、投げたりしてしまう乳幼児を持つママでもスマートフォンをハンドソープで洗って、きれいにしておくことができるという考えに基づいている。

ハンドソープで洗えるスマホのDIGNO rafre

これに対し、料金面で各社が取り組んできたのが、今回の主題である「学割」だ。学割はいうまでもなく、学生を対象にした割引きサービスで、交通機関や映画館など、さまざまなところで実施されている。

携帯電話業界で学割を最も早く手がけたのはauだ。2000年11月に「ガク割」という名称で関東と中部地域を除く地域でスタートし、12月からは関東、中部でも受け付けが開始された。割引きの内容としては、中学校、高等学校、高等専門学校、大学、短期大学、大学院、専修学校などの学生を対象に、月々の基本使用料と通話料が50%割り引かれるというものだった。当時はまだ携帯電話の契約数が約5,800万(2000年12月現在)程度で、普及率は50%に満たないレベルである上、主な用途は通話が中心。メールもまだ各社がiモードなどの携帯電話向けネットサービスを始めたばかりという状況だった。ちなみに、当時の料金プランでは基本使用料の最も安いプランで月額3,480円(無料通話分600円を含む)だったが、ガク割の適用を受けると、その他の費用を含めても月に2,000円強で携帯電話が利用できたため、当時の学生にとって、大きな魅力だったといわれている。その後、NTTドコモやソフトバンクも同様の学割サービスで追随し、学割は各携帯電話会社の春商戦の定番的なキャンペーンになっていく。

各携帯電話会社がこうした学割を実施する背景には、当然のことながら、若い世代のうちに自社の携帯電話を契約してもらい、慣れ親しんでもらうことを狙っているが、その一方で、若い世代の内、とりわけ高校生以下の世代は携帯電話の料金を保護者が支払っているケースが多いため、家族もいっしょに取り込みたいと考えている。特に、2006年に同じ携帯電話番号のまま、他の携帯電話会社に移行できる番号ポータビリティ(MNP)の制度がスタートしてからは、家族丸ごとの移転を目指し、各社の学割施策にもかなり力が入った。

割引きは料金からデータ通信量へ

そんな春商戦おなじみの販売施策だった学割だが、今年は少し内容に変化が見えてきた。これまでの学割は基本的に契約者本人、もしくは家族の月々の基本使用料などを割り引くという手法を採ってきた。これに対し、今年は月々のデータ通信量を一定期間、増やすという手法に切り替えてきた。家族を含めた料金割引も継続しているが、割引額がグッと抑えられているのもこれまでと少し違う点だ。

まず、最もインパクトが大きかったのはauで、25歳以下のユーザーを対象に、毎月データ容量を5GBプレゼントするという施策を打ち出した。条件としては、新規契約、もしくは機種変更で端末購入時に加入し、同社のデータ定額サービス5/8/10/13のいずれかを契約することが挙げられている。ちなみに、中学校1年生が契約した場合、中学校3年間、高校3年間、大学4年間、卒業後の25歳までの3年間で、合計13年間で780GBももらえる計算になる。これに加え、25歳以下のユーザーとその家族はデータ定額料を1年間、毎月1,000円割り引く。これにより、学生本人はデータ定額5GBを契約すると、通常5,000円の料金がかかるのに対し、学割適用期間中は月額4,000円で10GBまで使えることになる。ちなみに、auが固定のインターネット回線とセットにしたときに料金を割り引く「auスマートバリュー」とも併用できるため、auスマートバリュー適用時は月々のデータ定額料が2,590円まで抑えることが可能だ。

今年の春商戦で学割施策に大きく舵をとったau

次に、NTTドコモは新規契約、もしくは機種変更で対象機種を購入した25歳以下のユーザーを対象に、月々の基本使用料から12カ月間、800円を割り引き、同時に36カ月間、毎月5GBをデータ通信量としてプレゼントするという内容だ。ただし、NTTドコモの場合、すでに「U25応援割」という名称で25歳以下のユーザーを対象に、毎月の基本使用料からの500円を割り引き(カケホーダイプランの場合のみ)、データ通信量を1GB増量するという施策(いずれも26歳誕生月まで)を実施しており、これと組み合わせることで、基本使用料が最大12カ月間、毎月1,300円が割り引かれ、データ通信量は最大36カ月間、毎月6GBが増量される計算になる。ちなみに、組み合わせられるパケットパックはデータMパック(標準)、データLパック(大容量)、シェアパック15(標準)、シェアパック20(大容量)、シェアパック30(大容量)の5種類となっている。

ソフトバンクは「ギガ学割」と題し、当初、25歳以下のユーザーと家族を対象に、パケット定額サービスで利用できるデータ通信量を36カ月間に渡って、毎月3GB増量し、基本使用料もホワイトプランは3年間で月額1,008円を割り引き(基本使用料0円)、スマ放題とスマ放題ライトの場合は2年間で月額1,620円を割り引くという施策を打ち出した。ところが、ソフトバンクよりもあとに発表した他社の学割施策が有利だったため、急きょ、25歳以下のユーザーを対象にしたデータ通信量を3GBから6GBに増量する対抗策を打ち出している。

同じソフトバンクグループ内のワイモバイルは、25歳以下のユーザーを対象に、同社が提供するスマホプランS/M/Lの基本使用料を1年間、毎月1,000円割り引き、データ通信量も2倍にするという学割施策を発表している。ちなみに、最も容量の多いスマホプランLの場合、月額4,980円で最大14GBまで利用できる計算だ。

大人ユーザーがうらやむデータ通信量の増量

それぞれに組み合わせられるデータ定額サービスやパケットパックなどが限られているものの、若い世代のユーザーにとって、これだけのデータ通信量が増量されるというのはかなり魅力的であり、中でもオンラインゲームを楽しんだり、動画コンテンツを視聴して、月々のデータ通信量の許容量を超えてしまい、月末は低速で通信を利用せざるを得ない状況に追い込まれた経験のあるユーザーにとっては、まさに朗報と言えそうだ。

ただ、これだけ若い世代が優遇されると、当然、25歳を超えるユーザーから不満の声が上がっており、各社の発表でも「若い人だけでなく、オッサンももっとデータ通信を使いたいが、何も施策はないのか!」とツッコミ的な質問が飛び出してしまうくらいだった。

ただ、今回の学割施策の背景には、総務省の携帯電話料金タスクフォースで、携帯電話の契約や端末販売に付帯する各社の割引制度、中でも販売奨励金をベースにした端末の割り引きやMNPユーザー向けの優遇施策を改善(解消)するように促されたこともあり、「料金の割引は少なめにして、データ通信量を増量するなら、問題ないでしょ」という各携帯電話会社の思惑も絡んでいる。そのため、今後はさまざまな販売施策でデータ通信量を増量するなどの形が採られる可能性があり、今年の春以降の各社の動きが気になるところだ。