Microsoftの開発者イベント「Build 2016」開催
Microsoftといえば、私たちの生活や仕事において、最も関わりがあるのは、パソコンの「Windows」や「Office」になる。
現在のCEOであるサティア・ナデラが就任して以来、「モバイルファースト、クラウドファースト」をキーワードに掲げ、モバイル業界にも積極的に関わる姿勢を見せている。
国内でも昨年、久しぶりにWindowsプラットフォームを搭載したスマートフォンが登場し、注目を集めている。
今回のBuild 2016では、まず、初日の基調講演でCEOのサティア・ナデラ、Windows&デバイス担当エグゼクティブバイスプレジデントのテリー・マイヤーソンが登壇し、昨年7月に公開されたWindows 10が従来のWindows 7/8.1などを大きく上回るスピードで展開され、すでに全世界で2億7000万を超えるデバイスで動作していることが明らかにされた。
そして、これを受ける形で、今夏、1年ぶりの大幅なアップデートとなる「Windows 10 Anniversary Update」を公開することが発表された。
昨年7月に公開されたWindows 10は、1年間限定という形で従来のWindows 7/8/8.1からの無償アップデートが提供されていたが、その期限を迎えるのを機に、新機能を追加した「Windows 10 Anniversary Update」を公開するというわけだ。
今夏に提供されるWindows 10 Anniversary Updateは、必ずしも「パソコン向け」という位置付けではなく、パソコン、タブレット、スマートフォン、Xbox One、Microsoft Hololens、IoT向けに提供される。
一部のメディアで、「今回のBuild 2016ではWindows 10 Mobileスマートフォンに関する言及がなかったから、スマートフォンから撤退するのでは?」といった憶測が報じられた。
しかし、Microsoftはパソコン向けやタブレット向け、スマートフォン向けなど、さまざまなデバイスに供給される「Windows 10」を1つの「Windows 10」と捉えている。
今夏に提供されるWindows 10 Anniversary Updateに搭載される新機能の多くは、当然のことながら、パソコンだけでなく、スマートフォンにもタブレットにもXbox Oneなどのゲーム機にも適宜、搭載されることになる。
会話プラットフォームによる進化
新しいWindows 10 Anniversary Updateでは、具体的にどんな機能が搭載されるのだろうか。
最初に明らかにされたのはWindowsの新ブラウザ「Microsoft edge」での生体認証だ。
Windows 10には指紋認証や虹彩認証を利用した生体認証でサインインができる「Windows Hello」が搭載されているが、これをブラウザでも利用できるようにする。
たとえば、会員制のサイトにログインするとき、Microsoft edgeを利用していれば、本体に備えられた指紋センサーや赤外線カメラなどを利用した生体認証で、サインインできるようになるわけだ。オンラインショップなどを利用するときにも便利な機能だろう。
次に、Surfaceシリーズをはじめ、2in1パソコンなどに採用されているペンの機能が「Windows Ink」として強化される。
従来のWindows 10でもペン入力は利用できたが、Windows InkはOSレベルで実装されるため、文字を手書き入力したり、付せん紙アプリに手書きでメモをしたり、ペンで絵を描くといったことを幅広いアプリで利用できるようになる。
現在のWindows 10でも搭載されている音声入力対応のパーソナルアシスタント「Cortana」が大幅に進化する。
現在のCortanaは主に情報検索などに利用されているが、今後はさまざまなアプリを連携させ、ユーザーに代わって、交通手段やホテルの手配など、「アシスタント」らしい機能が利用できるようになる。
ちなみに、CortanaはWindowsパソコン向けでなく、すでにWindows 10 MobileやiOS向けにも提供されているが、今後は複数のデバイス間をまたいで利用することも可能になるため、スマートフォンの通知をパソコンで確認するといった使い方もできる予定だ。
そして、今夏に公開されるWindows 10 Anniversary Updateをはじめ、今後のWindows 10の進化で重要なキーワードになるのが「会話」だ。
Cortanaをはじめ、現在、Windows 10でも一部、音声入力が可能だが、Microsoftでは「Conversation as a Platform」、つまり「会話プラットフォーム」と位置付け、ユーザーとコンピューターの間の会話や対話を利用したプラットフォームを展開していくことを明らかにした。
この会話プラットフォームは現在のCortanaで利用しているような単なる音声入力ではなく、ユーザーが話した内容を理解し、それに合った対応や提案ができる環境を目指している。
しかも、これは1つの単純な機能ではなく、Windowsに搭載されるさまざまなアプリや機能を連携する形で実現されるという。
この会話プラットフォームを活かし、新たに提供される「Bot」サービスを組み合わせることで、今までにない利用環境を実現する。
Botは俗に「人工無能」などと呼ばれているものがあるが、現在もLINEなどで話しかけると、自動的に反応を返してくるBotがある。
こうしたBotをより高度な反応ができるようにして、サイトに組み込んだり、サービスなどと組み合わせて利用できることが考えられている。
たとえば、ユーザーが受信したメールを元に、出張の予定を立て、Cortanaから提案されたホテルのサイトにアクセスすると、ホテルのサイトに用意されたBotと応答し、対話しながら、日程、部屋の種類などを順に選んでいくといった流れで操作ができる。
こうしたサービスがすぐに利用できるわけではないが、現在のようなユーザーが文字を入力したり、項目をいくつも選びながら操作する環境ではなく、普段の生活で人々が交わしている自然な会話のように、コンピューターと対話しながら、多彩なサービスが利用できる環境を目指している。
カギを握るUWPアプリの充実
昨年7月に公開されたWindows 10だが、これまでのWindowsとは少し趣が異なる部分がある。それはアプリケーションの仕様だ。
これまではパソコンで動作するWindowsであれば、ほぼ同じアプリケーションを利用できたが、Windows Phoneなどのスマートフォンとは互換性がなく、限られたアプリしか利用することができなかった。
これに対し、Windows 10では従来のWindowsで利用してきたアプリケーションに加え、パソコンでもWindows 10 Mobileが動作するスマートフォンでも同じものが利用できる「UWPアプリ」が提供され、Windowsストアからダウンロードすることができる。
今回のBuild 2016では、新たにXboxでもUWPアプリが購入できるようになることが明らかにされ、開発者がXbox One向けと他のWindows 10デバイス向けに同じアプリを提供できる環境が整うことになった。
さらに、Windows 10 Anniversary UpdateではXbox開発モードが実装され、Xbox Oneを開発キットのように活用できるという。
Microsoftが開発者向けにUWPアプリの開発を積極的に促している背景には、Windows 10の公開から8カ月以上が経った現在でもなかなかUWPアプリが増えていないためだ。
そこで、少しでも多くの開発者が簡単かつ効率的にUWPアプリを開発できるように、Build 2016ではUWPアプリの開発環境に関する解説やセッションに時間が割かれ、iOSやAndroidプラットフォームとコア部分を共通化できる開発環境などもデモが公開された。
UWPアプリを充実させていくことにより、パソコンのWindows 10はもちろん、Windows 10 Mobileを搭載したスマートフォン、ゲームコンソールのXbox Oneでも多彩なアプリが相互に利用できるからだ。
他のプラットフォームと共通化されたアプリが利用できるということは、開発者にとって効率よくアプリを展開できるというメリットがあるが、ユーザーにとってもパソコンとスマートフォンなど、複数のデバイスで同じアプリが利用できるため、デバイス別にアプリを探さなくても済む上、新しいアプリの体験も増えることになる。
Windows 10 Anniversary Updateへ向けた取り組みは、すでに「Windows Insider Preview」と呼ばれる開発バージョンの検証サービスで公開されており、一部の機能は実装される。
国内ではようやく起ち上がったばかりのWindows 10 Mobile搭載スマートフォンの市場だが、Windows 10 Anniversary Updateへ向けて、これからの各社の新しい動きが増えてくることになるかもしれない。