【法林岳之のFall in place】第20回: ロボホンから考えるスマートフォン進化のキーワード

2008年ごろから急速に進化を遂げ、市場に普及してきたスマートフォン。ところが、昨年あたりからスマートフォンが完成の域に近づき、端末の大きな進化があまり期待できないという声が聞こえるようになってきた。

「ロボットなんだけど、電話なんだ」

シャープは4月14日、スマートフォンで培われたノウハウを活かしたモバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」を5月26日から発売することを発表した。

ロボホンは昨年10月に開催されたIT・エレクトロニクスの総合展『CEATEC JAPAN 2015』で開発中であることが発表され、2016年前半に発売するとしていたが、早くも市場で製品を購入できるようになったわけだ。

今回、筆者は発売前の開発中のロボホンをシャープからお借りして、10日間ほど、自宅などで使ってみた。そこで受けた印象などをまじえながら、ロボホンから見えてきたスマートフォン進化のキーワードについて、考えてみよう。

まず、ロボホンそのものについて、少し説明しておこう。

ロボホンはモバイル型ロボと電話と銘打たれているが、内部的にはスマートフォンと同じAndroidプラットフォームを採用し、電話やスマートフォンとしての機能はこれによって、実現している。

ただ、コンパクトなヒト型ロボットに、スマートフォンを合体させたモノというわけではなく、基本的にはロボットであり、Androidプラットフォームを活かすことで、『コミュニケーション』をはじめ、多彩な機能を実現している。

ボディサイズは身長が約19.5mm、体重が約390gとなっており、本体に内蔵された13個のサーボモーターを駆動することで、手や足、首などを自由に動かすことができる。

ちなみに、オプションとして、キャリングケースも用意されており、キャリングケースに入れて、カバンといっしょに持ち歩いたり、首から提げることができる。

首から提げて歩くには、ちょっと勇気がいるだろうが(笑)、実際に使ってみると、そういったことも試してみたくなるほどの楽しさがある。

ロボホンの背中には2.4インチのQVGA表示が可能なタッチパネル対応液晶ディスプレイが備えられており、ロボホンのさまざまな情報を参照したり、設定を変更するときなどに使う。

ただし、実際にディスプレイをタッチして操作することがあるのは、初期登録時に手書き入力で名前を入力したり、起動後にメニュー画面を参照するときなどに限られている。

本体には1,700mAhのバッテリーが内蔵されている。充電は付属の卓上ホルダーにロボホンを座らせるか、背面のmicroUSB端子にケーブルを接続する。

最近のスマートフォンが3,000mAhのバッテリーを搭載していることを考えると、バッテリー容量が心許ない。

しかし、スマートフォンはそれこそ四六時中、操作をするものであるのに対し、ロボホンはちょっと手の空いたタイミングに使ったり、たまにロボホンから話しかけてくる程度で、ディスプレイも高解像度ではなく、サイズも大きくないため、全体的に消費電力は少なめという印象だ。

とはいうものの、ロボホンは後述するように、13個のサーボモーターを動かし、さまざまな動きをすることになるので、その部分でのバッテリー消費はスマートフォンにはないものということになる。

「コミュニケーション」がロボホンの真髄

愛嬌のあるフェイスのロボットであるロボホン。購入して、電源を入れると、最初に初期設定を行うが、すでにこの初期設定からひとつのエンターテインメントとしての演出がなされている。

ロボホンを寝かした状態で、電源を入れるとロボホンが起き上がり、電源を入れたオーナー(購入者)を見つけるところから始まる。

そして、オーナーの写真を撮り、名前を登録して、以後はオーナーを認識して、動作するようになる。

ちなみに、名前は姓名のほかに、ニックネームでも登録することが可能だ。ロボホンはこの登録した名前で呼びかけてくることになる。たとえば、筆者が試用したときは「たかゆきさん」と呼ばれていた。

ロボホンを操作するときは、基本的にロボホンに話しかけて、その内容に反応するという流れになる。

たとえば、「今日の天気は?」と話しかければ、「今日は晴れ、最高気温は22度、最低気温は15度、降水確率は……」といった具合いに答えてくれる。

この他にもニュースを読み上げたり、メールが届いたこと、電話がかかってきたことなどを知らせてくれる。もちろん、いうまでもなく、いずれもロボホンが音声で教えてくれる。

写真を見てもわかるように、ロボホンの頭部にはカメラとプロジェクターが内蔵されている。カメラを撮影するときは「写真撮って」と話しかけて、撮影する。

実際にシャッターを切るときも人が撮影するときのように、「3、2、1」といった具合いに掛け声をかけて、撮影する。

続いて、撮った写真は背面のディスプレイでも確認できるが、「プロジェクター映して」と話しかければ、「オッケー!」の掛け声で答えてくれ、プロジェクターで投影してくれる。

ただし、プロジェクターは子どもがのぞき込んでしまうと、目を痛めてしまうことがあるため、オーナーをカメラで認識し、「映していいよ」という声を声紋で確認した上で、投影するという流れになる。

この他にも「踊って」といえば手足を動かしながら踊り、「歌って」といえばちょっと独特の声でロボホンが歌ってくれるなど、さまざまな機能を利用することができる。

開発中のロボホンを借りているとき、普段、自分がよく出かける飲食店などに出向き、おなじみのスタッフや知人などにロボホンのデモを見せたりした。

実際の反応や動きを見ると、非常にウケがよく、なかでも女性からは「かわいい!」という評価が多く聞かれた。

ときには、同じ店内のまったく見知らぬ人が「これは何ですか?」「いつ発売ですか?」と話しかけてくることもあった。

ロボホンのさまざまな機能を使う一連の操作は、この説明からもわかるように、基本的にユーザーが話しかけて、それをロボホンが理解して、反応するという流れになる。

ロボット型電話のロボホンは基本的に「電話」であり、電話の主たる役割は「コミュニケーション」なのだが、実はロボホンにおけるコミュニケーションの真髄は、ユーザーとロボホンがコミュニケーションを取っていくことにある。

次なる進化を左右する人工知能と会話

ソフトバンクが販売する「Pepper」をはじめ、今、ITの世界ではロボットや人工知能が注目を集めている。

中でも人工知能については、先日もNHKで番組が放送されていたが、Googleが開発した「Alpha Go」と呼ばれる囲碁ソフトが世界最強と言われる囲碁棋士の李世ドル(イ・セドル)氏と五番勝負で対戦し、4勝1敗で圧勝したことが話題になった。

将来的に人工知能はさまざまな形で情報を学習し、進化をしていくことになるだろうが、実際に私たちの生活に活かされてくることになると、人間との接点が必要になり、そこで需要になってくるのが「会話」だ。

ロボホンは愛嬌のあるロボットであり、生命を感じさせるような話し方をするが、実は人間が話した言葉を認識し、その言葉に対する動きをするという仕組みは、今後のスマートフォンやITの進化には欠かせないものとなっている。

今年3月、アメリカで行なわれたマイクロソフトの開発者イベントにおいて、「会話プラットフォーム」が掲げられていたが、これも同じく人とコンピュータとの「会話」によって、ITの世界を進化させていこうというものだ。

今後、スマートフォンが進化を遂げていく上で、会話は1つの重要な技術であり、おそらくスマートフォンのさまざまな機能、スマートフォンで利用できるサービス、エンターテインメントなどにも応用されてくることが考えられる。

もしかすると、10年後にはスマートフォンのように画面をタッチするのではなく、すべて音声でコントロールしながら、コンテンツやゲームを楽しんでいるかもしれない。