[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第12回: スマホコンテンツ会社の未公開株って?(後編)

命あるものは年を取る。人間は生まれた瞬間から死に向かって老化する。最近は劣化という言葉が主流のようだが、老化の1 つに「無関心」という心の衰えがあるのではないだろうか。若いころはオシャレして、流行りの雑誌を読み漁り、ショップをはしごした経験があっても、年を取ると情熱や感性は薄れ、量産品や街角の洋品店で購入することに抵抗がなくなる。これは無関心という老化だ。

無関心が詐欺の扉を開く

このところ沈静化したように思っていた「振り込め詐欺」(政府発表では『母さん助けて詐欺』)だが、手を替え、品を替えて巧妙な手口になっているという。

詐欺で一般的に狙われるのはご高齢の方で、報道によればそのような家庭の構成や人物を特定したリストを基にアタックが行われているという。

スマホゲーム会社の未公開株式

一般的な詐欺事案であれば、このコラムで取り上げる必要はないが、先日、ゲーム会社に勤務する私の知人親族に「弊社(スマホゲーム会社。以下、A社)の未公開株式を購入しませんか」という営業ダイレクトメール(郵便)が届いたという話を聞いた。

そのダイレクトメールが届いたころを見計らって、今度はA社の女性社員B氏を名乗る人物から、電話での営業があったという。

さらにB氏は、知人の親族宅を訪ねて資料を見せ、未公開株式の購入をすすめた。ちなみに、不可解なのは、B氏の名刺にある法人住所は、A社がネットで公開している会社の住所と異なる場所にある。

未公開株式(会社)売買の場合は、証券会社が株式公開を前提に販売するか、役員、社員(持ち株会など)、取引先、支援先などの購入してもらうケースが一般的。違法ではないが、電話営業の上で、見ず知らずの一般人に営業をかけるという事例は聞いたことがない(※)。

※この点は私の見識不足であれば後日訂正をしたい。

お金を払えば有名媒体でも記事になる

ちなみに、このA社の営業資料は、新進ベンチャー系企業を取り上げることで有名な『ベンチャー通信』のもの。

世の中にはお金を払えばどんな内容でも紹介してくれる媒体がネットでもリアルでも存在するが、この『ベンチャー通信』はどうだろうか。

また、著名人がローカルテレビ局でキャスターを務める番組でも企業紹介された実績があるようで、こちらはお金を払えば取り上げるという「有料パブシリティ番組」だ。

経歴は裏付けが取れず

A社の代表C氏は、高校卒業後に大手ゲームメーカーで3DCGのクリエイターを経て、起業をしたという経歴が見受けられた。この大手ゲームメーカーには個人的なルートで当時のC氏の在職確認をしたものの、現在に至るまで確認ができていない。

同時にA社のサイトから代表C氏の経歴問い合わせを行ったが、返信はいただけていない(現時点で約3週間が経過)。

A社は、日本証券協会が定める「グリーンシート」というベンチャー企業向けの非上場株式が売買できる制度、銘柄に指定されていた時期があるが、2015年に銘柄から取り消しを受けている。

取り消しの理由は不明だが、これに起因して自社で未公開株式の販売営業している可能性がある。

グリーンシートの銘柄取り消し

さらにいえば、実態としてのA社の活動はやや不透明である。

プレスリリースは配信しており、一部のニュースサイトでは、「コンテンツリリースのお知らせ」「四半期決算の案内」「会計期の変更」などが案内されていることがわかる。

これらの事実が何を意味するのかはともかく、企業が積極的に活動していることを「訴求する目的のもの」だとすると道理がよく見えてくる。

ネット上で散見できるプレスリリースからわかることを挙げると、2014年に株式販売で集めた資金4.5億円のうち、7割を別会社に投資を行っている。

この件も会社発表によると内容調査中となっており、「自社で行った投資をどう調査するのか?」と投資家が不信感を抱くような事案といえよう。

ちなみに、投資を受けたD社は別事案で係争案件を抱えており、「被害者の会」が結成され訴訟中になっている。この件もA社とD社の双方のいい分がループしており、あらかじめ「そのように準備された」投資ではないのかという疑いもある。

このA社が、どのような意図で、見ず知らずの個人から未公開株式の売買を巡って資金調達を行っているかという意図は現時点では不明だ。業績も四半期(3ヵ月)売り上げは10万という発表もあり、目を疑う金額が公示されている。

ただ、よく考えてみてほしい。

株式公開というテクニックによらずとも、規模の大小に関わらず、可能性がある企業やコンテンツであれば、クラウドファンディングという手法や、大手の会社からの資金調達も可能な現代だ。

さらにいえば、信用や業務実績があれば政府系、都市銀、地銀などからの融資も可能だ。内容を公開できない事案だから未公開株式というワケでもあるまい。

現時点で何が「詐欺」か、そうでないかは断定ができない。しかし、無関心が心に隙間を作り、その隙間を狙って悪意が暗躍する。老化、劣化などといわず、常に関心を払うことに越したことはない。

A社を取り囲む動向が変わるようであればまた機会をあらためて報告しようと思う。