【西川善司のモバイルテックアラカルト】第23回: 『シン・ゴジラ』の映画ポスターはAR対応だった!A440のプロモーションにARを応用する取り組み

7月某日、A440のプロデューサー兼CEOの金丸義勝氏、クリエイター兼CTOの西澤雄一氏を取材する機会がありました。A440はジョイントベンチャー企業で、同時多人数参加型のVRシステムの開発を手がけるABALに参加しているコア企業の1つです。

A440のARプロモーション/マーケティングを取材してきました

先日、ABALが手がける新VRシステム「ABALシステム」を体験する機会に恵まれましたが、それは後の回で機会があれば紹介します。

今回は、A440が手がけてきているユニークな「スマートフォンを使ったARプロモーション/マーケティング」について紹介したいと思います。

A440は、コンピュータグラフィックス(CG)とエンターテインメントを結びつける、さまざまな技術を開発しているプロダクションスタジオです。

A440のプロデューサー兼CEOの金丸義勝氏(右)、クリエイター兼CTOの西澤雄一氏(左)

あの『シン・ゴジラ』の映画ポスターがARに対応していた!

A440のメインメンバーたちは、かつて、プレイステーション向けのAR(拡張現実:Augmented Reality)関連の技術開発を行ってきたエンジニアで構成されています。

現在もソニーが提供している「SmartAR SDK」ライブラリの開発コアメンバーである……というと、この業界の人でエンジニア系であれば「ああ!」と腑に落ちるかも知れません。

このSmart AR SDKを開発するにあたり、自身でもゲームアプリを開発しています。

中でも一般ユーザーに最も有名なのは、初音ミクをフィーチャリングしたPS Vita向けARゲーム『ミクミクホッケー』でしょうか。

そんな彼らは、今、ARをプロモーション/マーケティングに応用したユニークなサービスを提供しています。

そのうちの1つが、「オルタレイ」です。オルタレイシステムを楽しむための専用アプリ『オルタレイ』はiOS版とAndroid版が提供されていて、無料で利用できます。

オルタレイ起動画面

オルタレイは、QRコードのような幾何学図形コードではなく、写真やイラストのような自然画像をマーカーにしてARコンテンツを起動できるのが特徴です。

例えば、オルタレイを起動するとメインメニューが現れますが、ここから、現在大ヒット上映中の怪獣映画『シン・ゴジラ』を選択してみます。

オルタレイの起動画面からシン・ゴジラを選択した直後の画面

これでスマホがカメラモードになりますから、ここでシン・ゴジラのポスターに向けて、スマホのカメラをかざしてみましょう。

すると、スマホのカメラが捉えている現実世界のポスターの貼ってある壁が、グズグズと壊れ始めて大穴が開きます。

その壁穴の向こうにCG世界の街並みが現れ、ゴジラが暴れている様子が見えるのです。

シン・ゴジラのA4版チラシにオルタレイをかざしてみると……!

映画ポスターを認識した時点で、カメラで捉えた壁の角度はオルタレイ側で把握します。

この映画ポスターに対してスマホの向きを変えると、穴の中のCG世界を違った角度から覗くことができ、あたかも本当に映画館の壁に穴が開いたかのように、壁穴のゴジラを観察できます。

格好いいアングルでゴジラを捉えられたら、ぜひ撮影ボタンを押して写真を撮ってみましょう。新聞の号外風の画面ショットが得られますよ。

この号外風スナップのフレームバリエーションは、全部で7種類もあるそうです(笑)。

穴の開いた壁から、ゴジラがこちらを睨んでいる姿を激写! 撮影したAR写真は、新聞号外風に出力される。本来は大判のポスターにかざすことを想定しているので、チラシでやるとややスケール感が小さくなってしまう点に注意

このシン・ゴジラのプロモーションARは、認識対象画像がシン・ゴジラのポスターの図柄になっているわけですが、その画像の大きさが基準となってARコンテンツの大きさが決定されます。

なので、大判のポスターであればあるほど巨大なARゴジラが暴れてくれます。

映画パンフレットやA4サイズのチラシでも、楽しめることは楽しめますが、サイズ感は小さくなります。

オルタレイは、同じ夏休み中の公開であるCGアニメ映画『ルドルフとイッパイアッテナ』にも対応しています。なので、映画館に行ったときはこちらもオルタレイで試してみましょう。

主人公の黒猫ルドルフが、自分の映画の予告編をお茶の間で眺めているジオラマのようなCGシーンが展開されるはずです。

オルタレイの起動画面からルドルフとイッパイアッテナを選択した直後の画面

このCGシーンはリアルタイムでレンダリングされているので、開始直後は「テレビを見ているルドルフ」の後ろ姿しか拝めません。

スマホを動かして、前に回り込めばちゃんと正面の顔を見られます。

ちなみに、これらの映画ポスター連動ARコンテンツのCGパートは、ゲームエンジン「UNITY」で制作されています。

ルドルフとイッパイアッテナのチラシにオルタレイをかざすと……

自分の映画の予告編を、テレビで見ているルドルフの姿が見られる。予告編は実際にムービーとしてユーザーも楽しめる!

ARをビジネスに活用する取り組みは他にも!

このオルタレイですが、プロモーション/マーケティングに特化したシステム構成、作りになっているため、かなりスピード感のある制作が可能になっているそうです。

それこそ、「来週から開始するキャンペーン向けのARコンテンツを仕込みたい」という要望にも応えられるとのこと。

もちろん、ARコンテンツのボリュームにも依存するとは思います。

前出のルドルフとイッパイアッテナのようにシンプルなコンテンツであれば、依頼を受けてから公開まで1週間前後しかかからないそうです。

実際、ルドルフとイッパイアッテナも、そのくらいの超短期のプロジェクトだったとのことです。

A440では、オルタレイ以外に、アーティストの展示会やイベント、雑誌や商品の特別企画や特典などのさまざまなARアプリの開発も担当しているそうです。

最近では、日本が誇る世界的なファッションデザイナー、三宅一生氏が今年、3月から6月まで開催していた個展「三宅一生の仕事」展向けのARコンテンツを手がけています。

三宅一生氏の個展「三宅一生の仕事」展向けのARコンテンツのイメージ

テーブルなどに置いた個展ポスターにスマートフォンをかざすと、三宅一生デザインの作品を着たCGマネキンが出現し、あたかも卓上ファッションショーのようなリアルタイムCGが動き出します。

三宅一生氏のようなベテラン・ファッションデザイナー向けの個展で、最先端のAR技術を連動させるという試みは、業界内外に大きな衝撃を与えたようです。

なお、こちらは個展の終了と共にアプリの公開は終わっています。

A440が手がけた作品で、今でも公開中で、なおかつかなりのアクセス数を誇っているものもあります。

音楽ユニットE-girlsのベストアルバム『E.G. SMILE -E-girls BEST-』の初回生産版に封入された特典「E.G.MAP」に連動したARコンテンツです。

E.G.MAP専用ARアプリの起動画面

E.G.MAPとは、E-girlsのサブグループDream、Happiness、Flowerを大陸に見立てた地図型ポスターです。

これは、ただのポスターではありません。

地図中の各大陸、あるいは大陸内にあるメンバーをイメージした仮想の国たちに向けて、専用ARアプリを起動したスマートフォンをかざします。

すると、地図の位置に応じて対応するE-Girlsのメンバーそれぞれが出演する、ショートビデオブログが見られます。

なんでも、そのショートビデオブログはかなりの高頻度で更新されているそうで、ファンからはかなりの人気を誇っているのだそうです。

E.G.MAPはこんな感じ。E-girls公式サイトにはPDF版が無料公開されている

E.G.MAPに専用ARアプリをかざしてみたところ。E.G.MAP自体は今はPDFで公開されており、アプリも無料で利用できるので誰でも楽しむことができる。アプリはiOS/Android両対応

もともとは初回生産版封入特典だったE.G.MAPですが、今ではE-girls公式サイト内のE.G.MAPページにて、E.G.MAP図柄のPDFが無償公開されています。

これをダウンロードして印刷し、手持ちのスマートフォンに専用アプリをインストールすれば、誰でもE.G.MAP連動ARコンテンツを楽しめるようになりました。

E-girlsのファンで知らなかった人は要チェックですね。

地図上の特定エリアにクローズアップすると、E-girlsのメンバーのビデオが楽しめる。こちらも大きくE.G.MAPを印刷した方が見やすい

おわりに

実は、ボクは今回のA440を取材するまで、ARがプロモーションやマーケティングでこんな風に活用されているということを知りませんでした。

現在は「ARアプリを起動したスマートフォンを認識対象物に向ける」というアクションが必要なので、ARを使うユーザー側に「ARを使うぞ!」というモチベーションが求められます。

例えば、E.G.MAPのARが継続的に人気があるのは、E-Girlsのファン達の「E-Girlsの近況が知りたい」という熱いファン心理が原動力となっているからでしょう。

しかし、これが近未来的に、スマートフォンがウェアラブル……もっと具体的にいえば、メガネ型のスマートフォンになったとします。

それなら見た方向の視界からAR認識対象を引っ張ってこられるようになるので、より気軽に、そして自然にARコンテンツと触れあうようになっていくはずです。

「ARは面白いけど、何に活用していいのかわからない」ということが、しばしば聞かれますが、今回の取材で「ARの新しい応用の方向性」を知ることができたのは大きな収穫となりました。

(C)2016 TOHO CO.,LTD.
(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会