横須賀で自治体に役立つ講演会を開催
ローンチの1ヵ月後というタイミングを狙ったかどうかはわかりませんが、8月21日に横須賀の世界三大記念艦「三笠」で、「リアルワールドを楽しもう! ~安心・安全に「Ingress」や「Pokemon GO」で遊ぶために」と題した講演会が開催されました。
それまでの自治体に関する報道の中で疑問に感じることがあり、どうやらその答えが得られそうだということで、行ってまいりました! 実はこれが初の横須賀でした。
講演会開催経緯
ポケモンGOの登場以来、あちこちの自治体が反応するようになったのは、いろんなニュースで見聞きしていると思います。
すでにタイアップを発表しているところもあれば、独自の活動を始めているところも。
しかし、マナーの悪いプレイヤーに迷惑している、来てもお金を落とさない、うちには恩恵がない、といったネガティブな反応もチラホラ見られました。
そんな中、位置情報ゲームを取り入れた施策の先駆者として、横須賀市がリテラシーを提唱するとともに、新たな楽しみ方を推奨しようというのが講演会の目的。
開催したのが横須賀市、というところがポイント。
平成26年から、横須賀市はナイアンティックや地元のAG(エージェント)の協力のもと、Ingressを活用した観光集客事業に力を入れてきたからです。
登壇者は、
- 堀正岳氏(横須賀のIngressイベントをサポートしてきているブログ「ライフ×メモ」管理人)
- 白井暁彦氏(神奈川工科大学准教授)
のお2人でした。
全体の概要
講演会は、横須賀市長の挨拶に始まり、
- 横須賀市と繋がりのある千葉市長と福岡市長からの応援ビデオメッセージ
- 横須賀市長による「ヨコスカGO宣言」
- 堀正岳氏の講演「IngressからPokemonGOへ リアルワールドゲームとリテラシーのケーススタディ」
- 白井暁彦博士の講演「遊びと研究とクリエイティビティ」
- 堀氏進行による白井氏とのパネルディスカッション
と続きました。
最後は記念艦三笠の講堂部分の側面がオープンし、参加者はそのままリアルワールドへ飛び出すという展開に。
講演内容は非常に内容の濃いもので、IngressやポケモンGOといったリアルワールドゲーム(位置情報ゲーム)との関わり方に悩む自治体の方は必見の内容だったと感じております。
横須賀市長 が「ヨコスカGO」宣言!
開催に先立って、横須賀市長の吉田雄人氏が挨拶。
「横須賀市はポケモンGO、リアルワールドゲーム、こういったものを積極的に活用していこう、ユーザのみなさんを応援していこうと思っている」と力強く述べました。
なぜなら、「社会的な使命、経済的な効果を高めていけるツールになると思っている」からだとか。
今では社会に欠かせない車やバイクも、登場当時は仕事がなくなるじゃないか、危ないじゃないかといろいろ批判されたはず。
しかし、ルールやマナーを護って運転すれば快適。その結果なくてはならないものになり、橋や道路を整備するまでの社会的なインフラにまで成長しました。
リアルワールドゲームも、今はとやかく言われるかもしれませんが、ルールとマナーをしっかり護って活用すれば、車と同じくらいの役割を担う存在になると考えているとのことです。
吉田氏は「リアルワールドゲームの可能性を、みなさんの手で育ててほしい!」と来場者に熱く呼びかけました。
千葉市長の熊谷俊人氏はその応援ビデオの中で、
「ポケモンGOに大変関心を持っています。仲間といっしょに街を歩く、見てみるといった面白さを作っていく新たな手法になりうると思っています。横須賀市の活動は大変注目に値します」
とコメント。
福岡市長の高島宗一郎氏も、
「ゲームに使われているGPSの機能、デジタルの技術を使って街の施設を認知する仕組みは、観光分野だけでなく、健康づくりや防犯、防災に活用すれば、街作りの可能性はもっと広がると思います」
として、今回のイベントが、テクノロジーを使った新しい街作りのきっかけになってほしいと期待を寄せていました。
その後、吉田氏による「ヨコスカGO」宣言がなされました。
横須賀は地域の発展のためにゲームを活用し、その可能性を模索していくことを宣言したのです。
「ヨコスカGO宣言」の全文は、公式サイトに掲載されています。
- 「地域の違いを体感する」
- 「ご当地グルメは堪能すべし!」
- 「強くなるだけがゲームじゃない」
の3つを挙げていますが、これは、Ingressにも通じていることだと感じました。
というか、おそらくIngressのエージェントなら、いわずともすでに実践していることかもしれませんね。
堀正岳氏「ポケモンGO、すべてはこれから」
講演のトップバッターは堀正岳氏。
「IngressからPokemonGOへ リアルワールドゲームとリテラシーと自治体活用について」と題して、IngressやポケモンGOの特徴や歴史を紹介。
現状の課題を紐解き、自治体がポケモンGOを活用するにはどうしたらいいか、また横須賀市には何を期待しているかを語りました。
堀氏はポケモンGOリリース後のダウンロード数など、その人気ぶりを数字とグラフで紹介。
世界120カ国でサービスインしたポケモンGOですが、8月1日時点で1億ダウンロード、アメリカだけで2,000万、日本でも1,000万ユーザーと推定されているとのこと。
売上げはすでに2億ドルを突破。しかも日本でローンチしたタイミングで、課金のカーブが上向きになったと推定されているとか(私もちょっと課金しました)。
Ingressは世界で1,500万ダウンロードを超えている、すごい! と思った記憶がありましたが、ポケモンGOが1億とは。
しかもすでに1ヵ月前ですからね。今はプラス何千万の世界でしょうか。
そんな中、堀氏は「そろそろポケモンGOは終わったと言い始めるひとがいるだろう」と予言。
しかし、「Ingressは3年かけてルールが変わってきた。人が増えるにしたがってルールが変わってきた。これはポケモンGOにもいえること。すべてはこれから」と牽制。
堀氏がナイアンティックから聞いた情報によれば、ゲームとしては最少公約数のところだけで始めているのだそうです。
さまざまなゲーム性は、これから盛り込まれるのだとか。
あまりの人気に社会問題化。しかし「新しいルールは生み出さなくてもいい」
続いて、現状の課題も分析されていきます。
各地で取りざたされる禁止措置の例を読み解くと、本当に迷惑をこうむっている人と、懸念を抱いているだけの層が混ざってるようだ、と分析。
メディアを賑わせるポケモンGOの問題は、スマホを開くことで、その空間にいることに別の意味が流れ込んできて、それを争い始める。
その摩擦が社会問題の根底にはあったりする、のだそうです。
そういった問題について、ポケモンGOの兄貴分であるIngressはどうしていたか。
ポケストップよりはるかに多くのポータルを持つIngressですが、プレイヤーの数からいっても問題がここまで大規模でなかったとのこと。
また、commやSNSでの呼びかけなどエージェント自身による自浄作用があったことも功を奏していたようです。
ポケモンGOにはcommがないため、自浄作用は弱そうだとも。
では、ポケモンGOで問題が起きたときどうすればいいのか。ここはいろいろな方が知りたいポイントでしょう。
堀氏は「ポケモンGO対応フロー」を紹介しました。見ると「Police GO」のパターンが多いことに気づきます。
ユーザー同士の接触がトラブルやヘイトを生みやすいIngressとは違い、現在のポケモンGOにまつわる問題の多くは、周辺に及ぼすトレーナー自身の行動に限られています。
従って、ルールで守れるところはルールで、マナーの部分はマナーで対応できる。
つまり、意外と新しいルールを生み出さなくてもいいというのが現実であると述べました。
ただし、人が集まりすぎる、ゴミの問題、このあたりからグレーゾーンになるとのことです。
いちばん面倒なのは、各自で認識が違うそのマナーの問題で、どうしたらいいの? と思いますね。
記事でもよく見受けられるのも「マナーの悪い人達」といった表現です。その答えは、堀氏が自治体に推奨する活動の中にありました(後述)。
今、自治体がやれる3つのこと
そんな中、自治体はリアルワールドゲームとどう向き合ったらいいのでしょうか。
堀氏は、
- 現実の世界に対してゲーム世界のレイヤーがあり、その上に人の歴史や行動の情報があり、多層的になっている
- こういう情報を上手く利用して、ゲームの中の行動が歴史に繋がる、お店に繋がるという形で人を誘導していくといい
とアドバイス。
そして、具体的に今自治体ができることとして
- ポケストップとジムの配置を提案しよう
- 地元のポケストップを紹介しよう
- ポケモンの出現頻度を提案しよう
の3つを提案しました。
マナー問題の答えがここに!「ヨコスカGO宣言に期待したいこと」
最後に堀氏は、ヨコスカGO宣言に期待したいこととして
- トレーナーとしてまじめにプレイすることを支援してほしい
- トレーナーと地元をつなぐ情報のハブになってもらいたい
- イベントを提案、主催し、そのノウハウを公開してほしい
という3つを挙げました。
特に「トレーナーとしてまじめにプレイすることを支援してほしい」というのには大きな理由がありました。
堀氏曰く「まじめにプレイする人、つまりガチな人ほど新しい遊びを作り出し、新しい場所にいき、想像しなかったようなことをやってくれるから」。
しかも、長くやっている人ほどマナーはどんどんよくなっていくといいます。
「マナーが悪い人は時間とともに排除される傾向があるので、長く続けられることを支援すると前向きな方向に動いていくと思う」とも。
これにはなるほどと思わされました。
プレイヤーを排除することに力を注ぐのではなく、本気で楽しもうという人を支援するほうが、自然といい方向に向かうはずだというわけです。
これは今後の方向性を考える上で、大きなヒントになるのではないでしょうか。
「相模原Ingress部」誕生の経緯や、その活動の成果を紹介
続いて登壇したのは、神奈川工科大学准教授の白井暁彦氏。
その実績を説明するだけで講演時間の半分くらいは終わってしまうのではないかというほど、さまざまな取り組みをしている方です。
今回は「遊びと研究とクリエイティビティ」というテーマで、
- 遊びの本質とは何か?
- 「Game Play」から「Game Making」へ
- 動的複合ペルソナ 「ポケモンGO」以降の「公共ゲーム」の設計
という3つを軸に、「さがみはらどこでも博物館・相模Ingress部」という位置情報ゲーム(具体的にはIngressを活用した研究実績)と、その成果や効果、ポケモンGOに期待できることなどを語りました。
白井氏によれば、Ingressの登場によって、従来の「遊び」の定義が随分変わったのだそうです。
遊びとは何かを学術的に解説すると、遊びの成立とは、遊ぶために遊ぶのであり、その特徴は以下の特徴がそろっているとき、遊びが成立。遊戯状態にあると定義できるのだそうです。
- いつでもやめられる「自由な活動」であること
- 選択の自由がある「未確定の活動」であり、先が読めないこと
- 遊びの世界を支配する「規則のある活動」
- 現実とは区別がつく「虚構の活動」(写実でもよい)
- 現実世界に富を生まない「非生産的活動」
- 日常と非連続の「隔離された活動」
これがIngress以降になると、
- 止められない、終わらない
- 先が読めない
- 日常に重畳
- 非生産的活動
- ルール変更が多い
- 現実と区別がついていない人が多い
と変化したといいます。確かに身に覚えのあることばかりだと思います。
そして、現代は言語や文化に依存しない設計として、これからは「感覚運動遊び」が重要な時代だとしました。
Ingressで遊びの要素を取り入れたところ、成果アップ!
遊びとは何かを踏まえた上で、街を1つの博物館と見立てて、地域の文化、自然の学習活動の場として提供するという「フィールドミュージアム」をつくるという取り組みがあります。
この中で、最終的にIngressが役に立ち、「相模原Ingress部」が誕生したといいます。
フィールドミュージアムを作るにあたり、当初はGoogleマップを使って、市民学芸員による探訪会の無料コンテンツ化を試みたそうです。
しかし、制作に時間がかかり、コストをかけた割にアクセスされないという課題が生まれたとのこと。
また、高齢者向けには街歩きイベントが多いが、子供向けのワークショップにするには危険もあるといった問題もあったそうです。
インフラを整備し、ワークショップや年々活動を増やし、先進的な展示物の開発も行い、どこでも博物館が具現化。
それなりの成果も挙げましたが、来場者アンケートをとった結果、中高生から大学生、そして20代へのアプローチが弱かったと判明したのだそうです。
このままシステム開発を続けていく意味があるのか? と考えていたところへ、Ingressが登場。
宮城県石巻市の復興支援、岩手県Ingress活用研究会の活動、横須賀市のさまざまな施策など、自治体が取り組みを始めていたIngress。
シティセールス、観光を中心に盛り上がりを見せており、「人を外に連れ出す設計の最先端のスマホ利用ゲーム」であると分かったそう。
そこで、「ファクションにこだわらない」「博物を知り相模の国を愛する」「ゲームを楽しみ節度をわきまえる」の3つを心得に「相模原Ingress部」が立ち上がりました。
すると、博物に興味がない層、博物館の活動に興味がない層、ゲームにしか目が向かない層も取り込んだ、無料で面白いフィールドミュージアムが実現できたといいます。
もともと歴史的なものがポータルになりやすいIngressなので、街を博物館とするにはぴったりだった模様。
市民による自発的なイベントの発案行動にも発展するなど、その市民協働の試みは大きな成果を上げたようです。
白井氏は相模原Ingress部の活動を踏まえ、時代は「Game play」から「Game Making」へ。
単にプレイするのでなく、ルールは自分たちで整備し、コンテンツを能動的に作り上げていくことが大事と説きました。
「ポケモンGO」が連れてくるのはこういう人たちかも!
白井氏は市民協働の活動の成功例を踏まえ、ポケモンGOがもたらす可能性についても解説しました。
ポケモンGOが連れてくる客層を分析すると、ポケモン世代は、今の中学生から30代前半くらいまで(その上の年代であるIngressのメインプレーヤー層とは異なる)。
これは「従来の客層が来そうにないところ」に連れてくるチャンスだといいます。
特に「ファミリーやお年寄りをサポートすることで、大きく伸びる可能性があり、具体的には、小学生ファミリー、老夫婦、おじいちゃんと孫、女子高生グループなどがターゲットになりうる」と述べました。
そのいっぽうで、現代はポケモンGOに限らず、あれもだめ、これもだめとう風潮の中、子供が遊ぶ場所すら奪われていると指摘。
「法律や条例、特区で整備し、代替現実ゲームに対する考え方を明文化すべきだ」といいます。
また、
- 誰にとって何が迷惑なのか? をはっきり市民に周知させる必要性
- プレイヤーに自由の代わりにルールを守らせる
- チートに対しては厳格に処分すべき
- 「税金でやるからには」を意識すること
- 強さだけを追求するプレイは「全員敗者」になる
なども提言されました。
最後は、ポケモンGOを超える「ポケモンGOの面白さ」を自分で開発するつもりで遊ぶべき!(=ポケモンGOだけに頼らずに)としました。
講演自体は、大学で学生向けに行っているものとのことで、かなり学術的な話も含まれていましたが、かなり強引に要約すると
- 自治体とリアルワールドゲームの相性はいい。それをIngressを活用した活動で実証した
- リアルワールドゲームを活用して遊びの要素を取り入れると、さまざまな層の足を動かすことができ、地域への関心を高められる
- さらに知名度の高い「ポケモンGO」では、Ingressでリーチできなかったあらたな層をターゲットにできる
- 市民協働で活動するのもおすすめ
- ただし、きちんと法などを整備し、明文化しておくべきではないか
- プレイヤー側も、レールに乗るだけでなく、自らの楽しみ方を見つけてみよう
- 「#ポケクリGO」で遊んでみて!
ということになりそうです。
最後のパネルディスカッションでは、ポケモンGOの面白さを追求した1つの遊び方として、AR写真をタグ付きでTwitterに投稿する「#ポケクリGO」を紹介し、講演を締めくくりました。
エージェントにできることもありそう
冒頭の市長挨拶を聞いて真っ先に感じたのは、ネガティブに扱われるより歓迎の姿勢を示してもらったほうが、プレイヤーとしてはうれしいということでした。
大事にされていると思えば、自分たちも行動で返そうという気持ちになりませんか。
IngressのAGは、全員がほめられる人たちではないかもしれませんが、これまで、自分たちが長く気持ちよく楽しむためにも、運営側の思いを組んで応えてきたのではないかと思ったのです。
このあたりは、堀氏が最後に提言されていたガチ勢支援とも一致します。
また、マナーというのは非常に曖昧なもので、そもそもそれが頭に(習慣として)入っているかいないかで、行動が大きく変わってしまいます。
たとえばゴミのポイ捨てをする人は、どこにいてもポイ捨てをしているはず。
そういう人たちがなんらかの理由で集団化すれば、ポケモンGOでなくても目立つでしょう。
春のお花見、夏のバーベキュー、シーズン時の登山道などがいい例です。
人が訪れるということを目的としている場所は、ポケモンGOでなくても、別の理由で聖地化して、人が押し寄せる可能性もあります。
むしろクレームを入れてポケストップを削除したり、ポケモンの出現自体を止められたりするだけ、ゲームのほうがまだマシかもしれません。
とにかく、まだまだすべてはこれから。エージェントはトレーナーでもあるケースが多いので、過去の経験を踏まえ、お手本を見せられるといいですね。
初の横須賀になったワケ
初めての横須賀は、台風の直撃を受けて延泊になるというハプニングもありましたが、その分楽しめました。
特に白井氏おすすめのAR写真はツボにハマり、記念艦三笠の甲板で、ドブ板通りで、ネイビーバーガーや海軍カレーとともに、とあちこちでポケモン入りの風景を撮りまくりました。楽しかった!
「実は横須賀は初めてでした」というと、これまで多くの活動に関わってきた堀氏から「あれ~? 去年はどうしていたのかな~?」と笑われてしまいました。
実はワタクシ、ミッションやユニークポータルの訪問、キャプチャーにガツガツできないタイプでして……。
でも、こういう講演会があると行こうと思えるのだなと自分でも気づけた次第です。
Ingressを使った復興イベントも、これからあるであろうポケモンGOのイベントも、ミッション以外のこともやればいいのでは!?
有名人AGの対談なんかがあれば、ミッションにさほど興味がない方も、足を運ぶのではないでしょうか。
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