CEATECが家電ショウではなくなった!?
ボクもすっかり失念していたのですが、CEATECは、何の略かというと「Combined Exhibition of Advanced Technologies」の頭文字を取ったものです。
ラスベガスで毎年1月に開催されているCESは「Consumer Electronics Show」なので家電ショウ、そのものズバリの名前です。
でも、CEATECはそんなカッコよさげですごい名前だったんです。
今年のCEATECはどんな開催コンセプトになったかというと「CPSとIoTの展示会」というコンセプトになったんだそうです。
IoTはいいですよね。最近聞き慣れたキーワードですから。
「Internet of Things」の略で、身の回りのものがインターネットやイーサネットに接続することで、相互連携した機能やサービスを提供する概念を表したキーワードです。
一方のCPSは、あまり聞き慣れない言葉ではないでしょうか。
CPSとは「Cyber Physical System」の略で、コンピュータ世界やネットワーク世界と、物理世界……すなわち我々が住む現実世界を相互連携させて、新しい機能やサービスを送出していく概念のことです。
ピンとこないかもしれませんが、例えばわかりやすいのはビッグデータ解析とかです。
身の回りのあらゆる情報をセンサー類から把握・取得しておき、一見ランダムな情報にしか見えないデータ群も、解析手法やアルゴリズムを使って分析すると一定の法則が見えてきたりします。
この情報を人の役に立つ現実世界でのサービスに応用すれば、CPSといえるわけです。
こちらの分野には、AI(人工知能)が大きく関わってきそうです。
AIの具体的な活用といえばロボット、自動運転、コンピュータビジョン処理とかが挙げられるわけで、そういった分野もCPSに含まれそうです。
あるいは、もう少し我々の身近な領域に解釈すれば、最近流行し始めたVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)なども、CPSの概念の範疇ということができるかもしれません。
まぁ、今年のCEATECに家電ショー的な要素がまったくなくなってしまったか……というと、実際に、見てみた実感としてはそんなこともなくて残り香的な匂いは感じました。
ただ、来年は「ああ、CEATECはCPSとIoTの展示会になったなぁ」と実感することにはなるかもしれません(笑)。
以上のことを踏まえつつ、CEATEC JAPAN 2016で見ることができた、スマートフォンなどに関連した話題をレポートしていきたいと思います。
外国人や聴覚のある方と話せる「しゃべり描きUI」とは?
健常者にとって音声を使った会話が難しい相手……というと、どんな人を思い浮かべるでしょうか。
まず筆頭に挙げられるのが、聴覚に障害のある方たちでしょうか。
こうした方たちと会話するための最も直接的な会話手段は手話ですが、一般の人で収得している人はそう多くはありません。
それと、外国の人と会話するのも、言語の違いがあるので難しいといえます。
そんな「音声を使った会話が難しい状況」をテクノロジーで改善できないか……として三菱電機が取り組んでいるのが「しゃべり描きUI」です。
三菱電機ブースでは、このスマホ/タブレット向けの斬新なユーザーインターフェースを実際に体験することができました。
「しゃべり描きUI」の使い方自体はシンプルです。タブレット端末に向かって音声でしゃべると、これが音声認識されてテキストに変換されます。
これを画面にただテキスト表示するものはすでに存在しますが、「しゃべり描きUI」では、この変換されたテキストを、指でなぞった軌跡にグラフィックとして表示させることができるのです。
なので、ペイントソフトのようなものと組み合わせて使えば、図版や絵を組み合わせた筆談が行えます。
たとえば、医者から自分の症状の説明を受けるときに、レントゲン写真にマークや文字を出しながら説明ができます。耳が遠めなお年寄りにも便利そうです。
ブースで体験したデモでは、このテキストを翻訳機能と組み合わせることで外国語を表示させることもできるようになっていました。
実際に体験したデモの中で特に感銘を受けたのは、タブレットを相対する位置関係で、2人で見る事を想定したデモです。
2人のユーザーは対面で画面上の同一の書類フォームを見ることになり、画面にはそれぞれのユーザーの向きに2枚の書類が表示されています。
片方のユーザーが、書類の書き方の指示を「しゃべり描きUI」を使って自分で見ている側の書類に書き出すと、その翻訳版テキストが相手側の書類フォームに出現するのです。
これは、大勢の外国の人が訪れる2020年の東京オリンピックの時の案内所なんかで実用化してほしい技術(アイディア?)だと思いました。
メガネ型スマートデバイス「MOVERIO」を2年ぶりにモデルチェンジ!
2016年2月に発表されたはいいものの、長らくリリース時期が未定だったエプソンのメガネ型スマートデバイス「MOVERIO」の第3世代「BT-300」の発売が11月末に決定したようです。
今回のCEATECでは、一般来場者が触れられる最初の機会になったことで人気を集めていました。
先代「BT-200」では、960×540ピクセルの0.42インチの透過型液晶パネルを採用していました。
それに対しBT-300では、1,280×720ピクセルの0.43インチ有機ELパネルを採用したことがホットトピックとなっています。
BT-300の表示画角は23°で、公称値としては2.5m先に40インチ画面があるようなイメージと紹介されていますが、100°近い昨今のVR-HMDなどと比較すると狭めではあります。
ディスプレイ部の高画質化に連動してか、内蔵カメラもBT-200の30万画素のSD解像度カメラから、500万画素のHD解像度に向上したのもポイントです。
BT-200は、HDMI接続された映像を無線で飛ばすワイヤレスミラーリングアダプターが付属するモデルが設定されていましたが、BT-300ではその設定がありません。
しかし、BT-300はBT-200だと未対応だった無線映像伝送規格の「Miracast」に対応しているので、それほど実害はないはずです。
最近はMiracastに対応したスマートフォン(スマホ)も多いですから、スマホの画面をBT-300に飛ばして使うことができます。
ボクは昨年、先代BT-200を10日間ほど借りていたことがあるのですが、そのときの印象と比較すると、BT-300の映像は自発光の有機ELパネルの恩恵なのか、コントラスト感がすごく向上していました。
MOVERIOは、現実世界の視界と映像パネルの表示映像をオーバーラップさせて表示することができる、いわばARチックなスマートデバイスなワケです。
BT-200では、真っ黒な映像を表示していても、映像パネルの矩形輪郭が薄く見えていたのに対し、BT-300ではそうした事がないんですよね。
これはバックライト方式の液晶と自発光式の有機ELの違いなんだと思います。発色もいいですし、解像感も上がっているので、BT-300は総じてより高画質になっていると感じました。
ところで、BT-300はホストPCと接続して使うのではなく、単体で使えるスマート端末です。
実は、トラックパッド付きのコントローラ部分がAndroid端末になっているんです。
BT-200も同様の構成で、BT-200ではAndroid 4.0ベースの端末でしたが、今回のBT-300はAndroid 5.1ベースの端末にアップグレードされています。
ただ、BT-200もそうでしたが、BT-300もメガネ型スマート機器であるため、完全にAndroid端末の要求仕様を満たしていません。
そのことから、Google Playストアのアプリは利用できなくなっています。BT-300のアプリは、エプソンが運営する「MOVERIO Apps Market」から入手する必要があります。
ボクが会場で実際に体験して面白いと感じたMOVERIOアプリは、「RICOH THETA」シリーズで撮影したような360°全天全周映像(動画)を見られる映像プレイヤーでした。
BT-300は加速度センサーとジャイロセンサーを内蔵しているので頭部の向きの検出に対応しています。
なので、全天全周映像を再生した状態で首を動かせば、好きな方向の映像が見られるのです。
前述したように、BT-300の画角はそれほど大きくはないので、VR-HMDで見たときほどの没入感や迫力はありません。
でも、BT-300はメガネを付ける感覚で装着できますから、カジュアルにこうした動画を楽しむにはいい感じです。
このエプソンのBT-300もそうですし、マイクロソフトの「HoloLens」もそうですが、ボクとしてはこうしたメガネ型スマートデバイスが、はやくスマホそのものになってくれないかなぁ、なんて思ってしまいます。
そうしたら、歩きスマホも危ないものじゃなくなるかもしれませんからね(笑)。
Google謹製AR対応スマホがLenovoから発売
Lenovoブースは、PCやモバイル系に関心があるユーザーにとっては非常にネタ満載な展示を行っていました。
まず、大画面スマホが大好きなボクが足を止めたのは、6.4インチ(2,560×1,440ピクセル)画面サイズの「Phab2 Pro」です。
製品名の「Phab」は「Phone」と「Tablet」の合成語である「Phablet」から来ているもので、ちゃんと本体だけで通話もできるAndroid 6.0ベースのスマートフォンです。
6.4インチといえば、ボクと「ただならぬ関係にあった」(笑)、ソニーの「XPERIA Z ULTRA」と同じ画面サイズです。
搭載SoCはSnapDragon 652なので、ミドルアッパークラスです。
でも、CPUは4+4のオクタコア、RAMが4GB、ROMは64GBで、GPUは最上位OpenGL ES3.2準拠のものですから、ハイスペックです。
ただ、製造プロセスルールが上位SnapDragon 800型番の14nmよりも1世代古い28nmなので、動作クロックや省電力性能には妥協がある感じです。
ボク的には「6.4インチ大画面で、そこそこ高性能なスマホ」というだけで大興奮なのですが、Lenovoブースはそこが訴求ポイントで展示していたのではないのです。
このPhab2 Proは、Googleのスマホ向けAR技術「Tango」を搭載した世界初のスマホで、今回、日本では一般向けとしては初公開だったためとても注目度が高かったのです。
「わぁ、画面が大きい。ステキ」といいながらPhab2 Proを手に取っていたのは、ボクくらいだったかもしれません。
このTangoとは、2014年に初めて発表された時は開発コードネーム「Project Tango」だったのですが、今は「Project」が取れて正式名Tangoに落ち着いたようです。
AR(拡張現実)というと、前出MOVERIOのようなメガネ型デバイスが連想されがちですが、Googleは、このAR技術を現状のスマホに標準機能として実装していく提案を開始したのです。
「スマホにAR?」「意味あんの?」と突っ込まれそうですが、かつて携帯電話にデジカメ機能を統合した際にも同じ事がいわれました。
誰もが持つスマホにAR機能が標準搭載されていくことで「ARを当たり前のものにした上で巻き起こるシナジー効果」にGoogleは期待しているのだと思います。
どんなことができるのでしょうか。
Phab2 Proをカメラモードにすると、画面にカメラで捉えたリアルタイム映像が表示されます。
一見普通のスマホと変わらないように思えますが、実は、Phab2 Pro上で動作しているTango機能が、今カメラで捉えている現実世界情景の3D情報を把握しているのです。
ブース内のデモでは、テーブルだけが置いてある仮設リビングルームに対して、大塚家具製のソファや椅子などをARで配置できる体験を楽しめました。
つまり、現実世界を捉えているカメラ映像に対して、CG製の大塚家具の椅子を部屋の立体構造、サイズ感に辻褄が合う様に置くことができわけです。
3D空間を把握しているので、現実世界に実存するテーブルにめり込むような位置でCGソファを置くことはできません。
ちゃんと物理シミュレーションが働いて、衝突してほんのりと弾かれてしまいます。
つまり、たとえば、自分の家のリビングの景色で大塚家具製の家具を置いたときの部屋の見映えを確認することができるわけです。
この他、カメラで捉えている現実世界の情景画面にタッチで複数のマーカーを置き、そのマーカー間の距離を計測することもできました。
これは、さりげなく便利です。
物差しや巻き尺がなくても、カメラを起動してその情景で計測すればいいわけです。
たとえば賃貸住宅の物件見学の際、「ここの隙間に置ける冷蔵庫や洗濯機の大きさはどのくらいかなぁ」とスマホでホイホイ計測して記録できてしまうんですから。
「普通のスマホとARの組み合わせ」も、なんとなく便利な気がしてきませんか。
このPhab2 Proは、11月下旬から税別49,800円で発売開始予定とのこと。画面サイズや機能を考えると、価格もけっこうリーズナブルです。
この他、Lenovoブースでは、次世代スマートフォン、次世代タブレットのコンセプトモデルを展示していました。
1つは、「折れ曲がるスマホ」です。腕に巻き付けるのもよし、車の内装に引っ掛けるのもよし、自転車のハンドルに括り付けるもよし、アイディア次第で色んな活用ができそうです。
折れ曲がるディスプレイパネルは、液晶や有機ELの両方で実現可能ですが、耐久性に課題があるともいわれています。
実際に製品として出てくるかどうかに、期待がかかります。
もう1つは、折れ曲がるタブレットでした。
根幹アイディアは前出の曲がるスマホと同じですが、その折れ曲がる構造自体にそれほど特殊な利便性を見出していないのが、逆に潔いです。
どういうことかというと、タブレット的な使い方をしたいときは、1画面の大画面で使用。
ポケットに入れたり、あるいは電話機として使いたいときには、真ん中で折って半分画面サイズのスマホスタイルで使うというワケです。なかなか面白いですね。
そうそう、今回のCEATECで展示されていたものはモックアップモデルで実動モデルではありませんでしたが、研究開発現場では実動モデルが存在するそうです。
とはいえ、市場投入時期などについては明言できないとのこと。
IGZOとFFDが携帯情報機器のディスプレイを変える?
シャープブースでは、今年も先端の液晶パネル技術の展示を行っていました。
8K関連の展示なんかもありましたが、本稿では、スマホやタブレットなどの携帯情報機器向けの展示内容に絞って紹介することにしましょう。
シャープは、近年、テレビ向けではない、中小型サイズの組み込み機器向けの液晶パネルには「IGZO」ブランドを強く訴求しています。
IGZOとはイグゾーと読むのですが、実はこれはIn(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)により構成される酸化物(O:酸素)の半導体のことです。
IGZO自体は液晶のことではなくて、液晶画素を駆動するためのTFT回路の半導体素材のことを指します。
IGZO-TFTは、液晶画素の駆動電圧をOFFにしても液晶画素の状態には影響がないため、表示状態が変わらない場合は電気消費がなくて済みます。
この他、従来のシリコン系TFTと比較してリーク電流も小さいという利点もあります。簡単にいうと、シャープのIGZO液晶パネルはとにかく省電力性能がすごいということですね。
IGZOにはそうした優秀な電気特性があることから、液晶画素を駆動させるTFT回路もシンプルにできるため、液晶画素の微細化にも長けているんです。
つまり、小さいサイズの高解像度液晶パネルを作りやすいという特長もあるわけです。
ブースでは、VR-HMDへの採用を想定した、超高精細IGZO液晶パネルが展示されていました。
このIGZO液晶パネルは、わずか2.87インチで1,920×2,160ピクセルの解像度があります。画素密度は約1,008ppiです。
ちなみに、「HTC VIVE」や「Oculus Rift」に採用されている有機ELパネルは約3.6インチで1,080×1,200ピクセルで、画素密度は約450ppiでした。
両者とはディスプレイパネルの方式が違いますが、今回展示されていたIGZO液晶パネルは2倍以上の画素密度があることになります。
VRやARに対応したHMDの高解像度化は、今後ますます進んでいくことでしょう。
シャープは、中小型サイズの組み込み機器向けの液晶パネルでは、フリーフォームディスプレイ(FFD)という技術も実用化しています。
これは、液晶パネルをほぼ画素単位に自由な形状で切り出して製品に使える技術です。これは液晶画素を駆動するゲートドライバーなどを、画素単位に形成することで実現しています。
ブースでは、前出のIGZO技術とこのFFD技術の両方を駆使した先端の液晶パネル達も展示されていました。
丸形や楕円形のIGZO×FFD液晶パネルは、スマートウォッチや、ウェラブル機器などに適合しそうですし、自動車のメーター装置にも応用がききそうです。
中でもボクが特に感銘を受けたのが、携帯電話に応用した展示でした。
一見すると普通の縦長長方形のスマートフォンに見えますが、よく見るとその長方形の四隅の角が丸くなっていることに気付かされます。
しかも、外枠(額縁)がほとんどありません。本体上面のほぼ全領域が画面で、なおかつ四隅はスタイリッシュに丸みを帯びている……というわけです。
これまでは「長方形の画面をいかに本体デザインにはめ込んでいくか」がスマホのデザインのポイントになっていました。
このFFD技術を使えば、表示機能とデザインを相互連携させた新しいスタイルのスマホも創出できそうです。
レポートの最後に、癒やしのスマートフォン動画ネタを置いておきます(笑)。
昨年の「CEATEC JAPAN 2015」で衝撃のデビューを果たしたシャープのロボット型携帯電話「ROBOHON」ですが、2016年5月からついに販売が開始されています。
今年のCEATECのシャープブースでは、外装が微妙にカスタマイズされたROBOHONたちが、音楽に合わせて踊り出すファッションショー風のステージが行われたのです。
一般的なスマートフォンの場合、スマホに自分好みの見た目を演出したいときには、自分好みの保護ケースをはめ込んだりします。
しかし、ROBOHONの場合は、ケースに入れるわけにもいきません。そこで、ROBOHONでは、脱着可能な外装パーツで着せ替えして見た目のカスタムを楽しむのです。
それでは、今回はここまで。また、来年のCEATECにも行ってみたいと思っています。