ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS渋谷上空ARバトルを体験:街中でスマホARを楽しむとはこういうことだ!?【第52回: 西川善司のモバイルテックアラカルト】

去る9月6日、PC(Steam)とPS4向けにコナミとCygameの共同開発ゲーム『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS』が発売されました。この作品のオリジナルは、2003年にPS2向けに発売された『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』ですが、Cygames側の開発チームからコナミへのラブコールが実り、今回コナミとの共同開発体制で完全リメイクされて再登場したのです。

本作はゲームプレイがリファインされただけでなく、4Kグラフィックス描画に対応し、VR-HMDにも対応しているのがホットトピックです。

4Kグラフィックス描画でゲームを楽しむにはPS4Pro、あるいは高性能PCが必要になります。VR-HMDは、PS4ではプレイステーションVRに、PCではOculus Rift、HTC VIVEに対応します

実はこの『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS』の発売に先駆けて、渋谷の街中でスマートフォンを活用したユニークな販促イベント・デモ「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS 渋谷上空ARバトル」が行われました。

このイベント・デモを体験してきたので、今回はその様子や技術的な解説をしたいと思います。

2種類のARバトル「地上から見上げて観戦」「ガラス窓越しに観戦」が楽しめた

今回のイベントは、設定としては『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS』に登場する2体の戦闘ロボ(オービタルフレーム)が、突如渋谷の街上空に出現してバトルを繰り広げる様を一般市民たるユーザーがたまたま目撃!! というものです。

出現するオービタルフレームは、作中の主役メカのジェフティとアヌビスの2体です。この2体がなんと渋谷の名所、スクランブル交差点上空でミサイルを撃つわ、レーザーソードで斬り合うわ、でド派手に空を飛び回ります。

ただし、2体のオービタルフレームは現実世界には実在しません。当たり前ですね。

これを見るためには、専用アプリを実行させたスマートフォンをかざす必要があります。会期中は11:00から20:00まで、スマホを渋谷の街中の指定の2箇所からかざせば、拡張現実(AR)世界で展開されるバトル観戦を楽しむことができました。

雰囲気としてはこんな感じです。

『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS 渋谷上空ARバトル』観戦中の筆者

指定の2箇所は、SHIBUYA109の入口付近とMAGNETの屋上展望台スペースです。

SHIBUYA109の入口付近といえば、ものすごい数の人々が往来する場所ですから、スマホ越しで見ると画面下部は往来する人々が映っていて、画面上部は渋谷おなじみの電光看板が立ち並ぶ色鮮やかな光景が広がることになります。

1つめの会場はSHIBUYA109の入口付近。場所的にちょっとゲーマー層とは違う人たちが往来している関係で、けっこう素通りする人も多い。ただ、筆者のようにスマホを上に向けてわーわーいってると関心を示す人も出てきたり

以下が、SHIBUYA109の入口付近から観戦したときの様子です。この動画は専用アプリから直接録画したものです。

SHIBUYA109の入口付近から観戦したときの様子

こちらがスマホを掲げて上を見ているので、それに気を取られ、目線を上に上げてキョロキョロする人々も適度にいたりして、それが渋谷上空で戦い合う2体のオービタルフレームを探している感じになって、それこそ「天然のモブ」という風情で面白いです。

次はMAGNETの屋上展望台スペースから観戦したときの様子です。

MAGNETの屋上展望台スペースから観戦したときの様子

そうです。SHIBUYA109の入口付近からは地上から上空を見上げるようにしてバトルを見る感じでしたが、MAGNETの屋上展望台スペースから観戦では、同じバトルを目の前で窓ガラス越しに見ることになります。

地上から見上げて観戦したARバトルは「目撃者」という風情でしたが、高層階からの窓越しの観戦は、なんというか「一般市民なのに戦闘に巻き込まれちゃった感」が味わえました。

このイベント・デモの技術解説

このARバトル観戦のアプリはAndroid端末、iOS端末の2バージョンが出ていますが、それぞれGoogleのARcore、Apple ARKitをベースに制作されているそうです。

ユーザーがスマホを動かすことで生じる画面の動きとCGキャラクターの動きの辻褄が合っているのは、カメラ画像から特徴点を抽出し、それらの点座標情報の3次元的な動きを検出して処理しているからです。

ただ、この作品はCGキャラクターが巨大で、しかもそれが比較的、遠方に存在していることから、前述したような特徴点の点座標検出ベースの処理系だけでは誤差が大きくてうまくいかなかったのだそうです。

そこで、ARマーカー群をユーザーの比較的近い位置に置き、このARマーカーの位置・傾き情報も組み合わせることで、前述の誤差を吸収低減させることに成功したとのことです。

SHIBUYA109の入口付近でオービタルフレームとAR記念撮影。このように会場となっている場所にはARマーカー付きの柱が立てられていた

MAGNETの屋上展望台スペースの様子。窓にARマーカーが貼り付けられているのがわかる

先ほどの動画を見た方は、SHIBUYA109の入口付近のシーンでは一定間隔で立っている「ARマーカー付きの柱」に気が付いたと思いますし、MAGNETの屋上展望台スペースのシーンでは窓ガラスにARマーカーが貼り付けてあったのに気が付いたと思います。実は、これらの存在によって、スマホの位置・向きなどの検出精度が上がっているのです。

なお、こうした複数のマーカーで位置補正する技術はCygamesが特許出願中であるとのことです。

ちなみに、2体の戦い合うオービタルフレームたちは、現実世界で手前にあるARマーカーの柱や窓枠を避けて描画されていることに気が付きましたか。この表現があることで、目の前にあるスマホ画面を見ているにもかかわらず、2体のオービタルフレーム達は遠方にいる……という説得力を増しているわけです。

さて、映像を注意深く見ていた人は、もう1つ興味深い表現に気がついたかもしれません。

それは、2体のオービタルフレームたちが、渋谷の街中のビルの後ろに隠れたり、あるいはビルとビルの間から飛び出してくるような表現です。

オービタルフレームが柱や窓枠を避けて描画されるのは、先ほどのARマーカーの種明かしでなんとなく「仕組み」が想像できますよね。

ですけど、CGのオービタルフレームたちが、現実世界の遠方のビルとの前後表現にまで配慮されて描画されているのは不思議だと思いませんか。これは、けっこうなハイテクと力業で処理しています。

実は、今回の舞台となる渋谷スクランブル交差点付近のビル群の立体構造を、レーザー式の測域センサーで計測して3Dデータ化してしまったというのです。さすがにビルのテクスチャ画像などは取得はしていませんが、AR側の3D空間側では「見えないビル」がちゃんと立ち並んでいるということです。

なので、それら「見えないビル」がオービタルフレームの前に来れば、オービタルフレームはこれに遮蔽されて見えなくなったり、あるいはそれら「見えないビル」の輪郭で切り取られたような見え方になると言うわけです。

こうした表現に気が付かなかった人は、上の動画をもう一度注意深く見てみましょう。

終わりに

渋谷での「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS 渋谷上空ARバトル」は9月9日で終わってしまいましたが、このアプリ自体は9月30日まで公開されているそうです。

さすがに、ARマーカーを組み合わせた正確なスマホのトラッキングや測域センサーベースで構築した「見えないビル群」による遮蔽表現などは楽しめませんが、カメラで捉えた実写風景とシンプルに合成されたオービタルフレーム同士のARバトル映像は楽しめるようになっています。

アプリでは、現実世界とオービタルフレームの合成写真が撮れる。動画も撮影可能。

今回、この「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS 渋谷上空ARバトル」を体験してボクが新鮮に感じたのは、「遠方にある巨大なCGキャラクタを使ったAR表現の面白さ」です。

これまでの多くのARやMRのデモはリビングや仕事場など、比較的狭い空間にCGオブジェクトが近場だけに出現するものが多かったですが、今回のこの作品のように大きなCGオブジェクトが遠くに行ったり、近くにやってきたりする表現には可能性を感じました。

巨大ロボが現実世界の立体遮蔽構造の影響を受けながらダイナミックな動きで接近、離脱を繰り返す表現はARとしては斬新

ビルとビルの合間から飛び出してくる巨人から逃げるARとか、できたら楽しそうです。測域センサーを使った建造物の立体構造までを応用したARアトラクションは、街中で実現するのは難しそうですけど、たとえばテーマパークみたいな場所だったら、立地的にも商業的にも実現性は高そうな気がします。

筆者が体験したときには、著名ゲームクリエイターの水口哲也さんも来られていました。いっしょに記念撮影。水口さんは今、VR対応のテトリス「TETRIS EFFECT」を開発中!


さて、この連載も今回が最終回となりました。約3年間続けてきましたが、この連載のおかけで、スマホに関していろいろと勉強するチャンスや必然性が産まれ、仕事の幅が結果的に広がり、やってきてとてもよかったと思います。ご愛読ありがとうございました。

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