SnapDragon 835は10nm FinFETの最先端製造プロセスで製造される
SnapDragon 835は、製造プロセスが最先端の10nm FinFETになります。
FinFETとは、立体的に積層させたトランジスタ(別名:3Dトランジスタ)でプロセッサを構成する最新製造プロセス技術です。
10nmのFinFETは、このFinFET製造プロセスの第2世代に相当するものです。ちなみに、「SnapDragon 820」は、第1世代FinFETの14nm製造プロセスを採用していました。
製造プロセスが微細化すると、チップサイズは小さくなり、より低い電力で駆動できるようになるため消費電力も下がって発熱量も低下します。
また、より高いクロックでプロセッサを駆動させることができるようになるので性能も向上します。
ちなみに、14nm FinFET製造プロセスのSnapDragon 820に比べて、新型の835は、チップ面積比較で約30%も小さく、一辺あたり3mm小さくなっているそうです。
わずかな違いのように思えるかもしれませんが、基板を小さくできるようになることから、搭載バッテリーを大きくすることができるなどのメリットが生まれます。
Qualcommによれば、一般的なスマートフォンで、SnapDragon 820から835に置き換えると、消費電力は25%小さくなり、2.5時間はバッテリーでの使用時間が延長されるだろうとのことです。
CPUはARMの64ビット命令セットの「ARMv8-A」を採用した「Kryo 280」で、8コア構成。
「SnapDragonでCPU8コアだって!?」と、胸がザワザワした人もいるかもしれません。
そんな人はきっと、8コアCPUのSnapDragonとして2015年に「発熱に伴ったパフォーマンス低下」で世間を騒がせた「SnapDragon 810」を思い出したに違いありません。
その後のSnapDragon 820では、4コアCPUに戻りましたからね。
今回の835は、再び8コアCPU仕様になるので「今度は大丈夫?」と心配になるのも無理はありません。
まぁ、実際にモノ(製品)が出てきていない以上、はっきりしたことはいえませんが、今回は製造プロセスが1世代(1段階)微細化しているので大丈夫だとは思います。
GPUは、「Adreno 540」。
これはモバイル向けGPUとしてはかなり高機能なモノになりそうで、DirectX12対応、OpenGL ES3.2対応で、理論性能値は(シェーダープロセッサの数にもよりますが)、500GFLOPS以上はあるとみられます。
これは、「Xbox 360」のGPUの2倍以上の性能値です。Qualcomm側の発表によると、「Adreno 530」と比較して25%ほど高性能になっているとのことです。
SnapDragon 835の充実した周辺I/O機能
SnapDragon 835はメディア性能も高く、インターフェース機能も最新のものに改められています。
まず、映像処理は、H.265に対応したハードウェアエンコーダとデコーダを搭載していて、4K/60HzのHDR映像が取り扱えるようになっています。
HDMIは2.0、Blutoothは5.0に対応します。DSPには、「Hexagon 682」を搭載。
Qualcommによれば、このDSPにより、立体音響処理をDSDコーデックで32ビット、384kHzで行え、6軸自由度のVR-HMDの動き処理から映像表示まで(Motion to Photon)の総遅延時間は15ms以下だそうです。
これが本当だとすれば、VR対応のWindows PCにも引けを取らない性能レベルといえます。
最近、スマートフォンやタブレットで複数のカメラを同時活用する機種が出てきていますが、DSPはそうしたカメラの処理の高速化にも貢献するそうです。
遠近を同時撮影するもの、異なる画角を同時撮影するもの、カラーと輝度を同時撮影するもの……など、複数カメラの活用方針はいろいろですが、そうした処理にDSPが役に立つというわけです。
Googleの複数種のカメラを用いて周辺環境の3D情報を取得する仕組みである「Tango」の高速化にも、このDSPが役に立つと見られます。
また、モデムは「Qualcomm SnapDragon X16 LTE MODEM」を搭載します。
これは、IEEE802.11ac MU-MIMO(Multi-User Multi-Input Multi-Output)に対応するもの。
対応無線LAN環境下では、同時複数ユーザーがそのネットワークに参加しているときでも速度低下を抑え込むことができる技術です。
また、最新のIEEE802.11ad規格にも対応します。IEEE802.11adは、60GHz帯の電波を使って理論通信速度6Gbpsを実現する最新の無線LAN規格です。
ミリ波と呼ばれる光の特性に近い電波のため、遮蔽物に弱い特性はありますが、他の周波数帯の電波干渉に強く局所的な高速通信を行うためには適しています。
まぁ、既存の無線LAN規格と補完関係にあるため、有力視されているのです。
話は若干ずれますが、仮想現実(VR)のヘッドマウントディスプレイの無線化には、この60GHz帯の電波が活用されていくと見られます。
セキュリティ認証においては、Qualcommが誇る最新「Qualcomm Haven Security Suite」に対応します。
これは簡単にいうと、セキュリティ上、重要な各種認証データなどをハードウェア的に守ることができる仕組みです。
たとえば、仮にハッキングを受けて、端末のメモリ全体を読み出されたとしても、重要な認証データはそこには含まれないような仕組みがハードウェア支援で実現されるのです。
SnapDragon 835が人工知能に対応するってどういうこと?
最近、なにかと話題になる人工知能(AI)ですが、SnapDragon835では、この来たるAI時代を見据えた機能を添えているとQualcommは主張しています。
ただ「AI」というと、とても漠然としていますが、実際には、SnapDragon 835は「機械学習(Machine Learning)型AIプラットフォームに対応しうるSoC」ということです。
SnapDragon 835自体がAIになるというわけではありません(笑)。
機械学習型AIの実行部分は、ネットワーク側の向こう、現状、いわゆるクラウド側に実装させるのが常識です。
端末にAIそのものを実装するには、プロセッサの処理能力としてもメモリ容量的にも限界があるからです。
では、何がどうSnapDragon 835がAIプラットフォームに対応しているかといえば、端末側に実装されている各種センサーからのデータ……それこそ、
- カメラで取得した映像
- マイクからの音声
- 位置情報や加速度センサーやジャイロからの端末のモーションデータ
などを機械学習型AIに適したデータに変換することに対応している……というような意味合いです。
たとえば、カメラで取得した映像を丸ごと送ってしまうとムービー1本分になってしまいます。
その映像に映っているオブジェクトの抽出やその動きデータなどを解析するなどして、AIが学習するのに必要なデータだけを送るのです。
こうした「高次元なデータに変換する」工程には、データ並列コンピューティング能力が欠かせません。これに役に立つのが、GPUコアだったり、DSPコアだったりします。
Qualcommも、SnapDragon 835に搭載されるDSPのHexagon 682が、機械学習型AIに必要なデータを処理するのにとても適している、と説明していました。
SnapDragon 835はスマートデバイスへの採用だけにとどまらないかも!?
いちばん気になるのは、SnapDragon 835を採用した製品がいつごろ出てくるのか、といったところだと思います。
これは、早ければ2017年の前半から、遅くとも2017年後期には出てくると見られています。
スマートフォンやタブレットといった「見慣れた形態」の製品が主だったものになるはずですが、今年は、それ以外の形態の製品も出てくるのではないかと予測されています。
まず、1つは「スマートグラス」と呼ばれるようなメガネ型に代表されるウェアラブル型の携帯端末です。
正面を向いたまま、視界前方に表示される画面を操作するタイプのスマート端末が、2017年にいよいよ現実的な製品として出てくるといわれています。
そうした製品に、SnapDragon 835が使われるのではないか、と噂されています。
今回のCESで、ODG(Osterhout Design Group)社のメガネ型スマート端末「R8」と「R9」がSnapDragon 835ベースであることがアナウンスされていました。
それと、SnapDragon 835が、「Windows 10」に対応することが明らかになっています。
2016年12月に中国で開催されたWinHECでは、「64ビットARM系プロセッサ(ARMv8)でフルスペックのWindows10が動作するようになる」というニュースが電撃的に発表され、話題を呼びました。
今回、そのSoCにSnapDragon 835が含まれることが判明したのです。
「Windows 8」時代にも、ARM系CPUで動作するWindows 8が発表されて湧いたことがありましたよね。そうです「Windows RT 8」です。
Windows RT 8は、その搭載機として初代「Surface」と「Surface2」がリリースされましたが、ここで終焉を迎えてしまいました。
後に発売された「Surface3」には、ARM系CPUではなく、インテルx86系のAtom x7-Z8700が搭載されましたからね。
Windows RT 8は、Windows環境下ではいまだアプリケーションの主流スタイルであるWin32のデスクトップアップリケーションを動作させることができませんでした。
不人気となってしまったのは、このあたりに原因があるといわれています。
しかし、2017年に登場するとされているARM系CPUで動作するWindows 10では、卓越したコードエミュレーション技術で、Win32ベースのアプリケーションをも動作させることができるというのです。
このあたりに興味がある人は、マイクロソフトの公式ページで公開されている動画を見てみて下さい。
https://youtu.be/A_GlGglbu1U
というわけで、SnapDragon 835で動く、フルスペック版Windows 10ベースのタブレット、パソコンは、確実に出てくると思います。
それどころか、もしかしたら、SnapDragon 835の省電力性を活かし、前出のODGのR8のようなメガネ型端末や、マイクロソフトHoloLensのようなHMD型端末が、続々と出てくるかもしれません。