それは私怨から
その存在は聞いていたが、実体を伴って遭遇したのは、忘れもしない2016年7月16日のお台場、Aegis Nova Tokyo(以下、ANT)における計測時間中だった。
お台場の完全な劣勢といえる状況下で、膨大な妨害リンクと戦いながら、シャードを追いかけているときのことだ。
海岸付近の東屋、に不審な集団がいることに気付いた。黒いタキシードにサングラスをかけ、女は黒いドレスという出で立ち。
みな楽しげに酒を飲みながら、無限ピーマンを食べている。
恐る恐るそばに近寄ってみると、礼服姿のあやしい人物から「お酒ありますよ! ごいっしょにいかがですか!!」と誘われた。KSLの旗を持っていた。
実はそこがANTにおけるKSL陣営の本部であり、声を掛けてきたのがKSL陣営のお~な~(オーナーのこと。またはおーなーと表記するらしい)だったのである。
すかさずチームリーダーに連絡を取った。
すずまり「大変です。担当エリア内にKSLの本拠地とおぼしきポータルを発見しました! 複数集結してるようです。なんかやらかすかもしれません」
チームリーダー「え~~~~~(汗)」
そしてその後、青息吐息で確保に向かったシャードが、本部ポータルから放たれた2本の緑のリンク(!)に蟹挟みにあうという悲劇に見舞われた。
それは以前本コーナーでお届けしたとおりである。
おのれKSL同好会!(笑)
お台場以外でもKSL同好会にじゃまをされたという疑惑が持ち上がっていたようだった。
ウワサには聞いていたが、あからさまに組織的な活動をしているシーンを目撃したのは初めて。そこで、どのような組織なのかをいつか調べ、暴いてやろうと思っていたのである。
KSL同好会とはなんなのか
イン活(Ingress活動)していると、自分がCF(コントロールフィールド)を構築しようと思った瞬間、突然目の前を横切るリンクにすべてを台なしにされた経験は誰にでもあるだろう。
見ればやたら長く、とても自分の手ではCFが作れないような……。
※画面はスキャナの地図が新しくなる前のものです
「クソリンク」とは、そんなリンクのことを指す。どこからどこに伸びているのかスクロールしないとわからないような、CF化が困難なほどやたら長いリンク。
相手側だけでなく、自陣のCF構築の妨げになるような迷惑なリンクを揶揄していわれている。「お題リンク」などとも呼ばれることもあるようだ。
そんな自由奔放な長いリンクを愛する集団がKSL同好会である、と世間的には推測されている。
コミュニティの会員が2,500名超え!
各方面への聞き取り調査から、KSL同好会が発足したのは2015年1〜2月ごろと判明した。
一般公開されているGoogle+内のコミュニティと、戦略HO(ハングアウト)という常設HOに分かれており、コミュニティへの会員数は2,581人(2017年1月20日時点)。
戦略HOは120人弱が登録しているという。なんということだ。会員が2,500名を超えているとは!
KSL同好会はクロスファクション、つまりどちらの陣営に所属していても入れる。
KSL同好会では、そもそも最初に陣営カラーを聞かないという。どちらの陣営かなんてそんなことはどうでもいい、それがKSL同好会である。
いろんなことに嫌気がさした人もいれば、純粋にKSLを愛している人もいる。メンバーはさまざまな理由でKSL同好会へ参加してくるようだが、KSL同好会に入りたい。それでいいようだ。
大きなイベントや決まり事が決められるといわれる戦略HOのメンバーには、デザイナー、音楽関係者、IT技術者、主婦、銀行員、ニート、英語教師など多様なメンバーが在籍するらしい。
実は外交部も存在し、中国語やラテン語をも駆使するというから恐れ入る。
メンバーのプレイスタイルはさまざまで、陰口のていねいな収集、縛りプレイ、不戦不殺プレイを得意とするメンバーも多いとのこと。
そんな同好会のモットーは「うっかりとやりっ放しはクソリンクの華」だそうだ。うっかりやってしまったそれは、失態ではなく華なのである。ポジティブシンキングである。
また、イベントや制作物の評価基準として「思ったよりすごい」かどうかが大事にされているという。
「メンバー個人の多様性の確保に重点を置いた運営をしており、しなければいけないことを埋めていくよりも、やりたい人の仕事を集めていって、できたものを積み重ねていく形を取っている」とあるコアメンバーらしき人物は話していた。
なんだかよくわからないが、そんなこんなで実際運営は良好で、XFの全国組織として男女比も50:50に近い形でイベントが開けているそうである。
ちなみに、エンライテンドやレジスタンスという陣営に「オーナー」は存在しない。アノマリーの際にファクションリーダーが立てられるが、オーナーとそれは違う。
しかし、KSL同好会にはお~な~が存在した。ファクションとしては、オーナーがいることがめずらしいのだが、お~な~以外にも実は「ご神体」がいるらしい。
なんだそれ、という感じだが、本当のようだ。
KSL同好会のこれまでの活動と爪痕
個々のイン活におけるKSLはさておき、発足当時のKSL同好会は、コミュニティとしては理想のKSLをお布団の中でイメージするエア演習や、HOでのチャット活動がメインだったらしい。
しかし、KSL同好会は徐々にその活動を活発化させていく。
これまでの主な活動は、2015年の第1回江ノ島クソリンク夏祭り、宇都宮アトリエ通り壁画プロジェクト、そしてあのANTへの参加と第2回お台場クソリンク夏祭りなどが挙げられる。
そして、記憶に最も派手な爪痕を残したのは、冒頭でもご紹介したANTだろう。
一部ではお台場以外の場所でもなんらかの動きがあったと推測されているが、それについてKSL同好会広報部では「詳しいことは陣営の機密なのでお答えできない」としている。
そこでなんとか中心人物に接触できないかと機会をうかがっていたところ、1月某日都内に現れるとの情報をゲット。現場に急行した。
お~な~「Ingressには興味ないんだよね!」
そこにいたのはスーツ姿にサングラスの男性。KSL同好会について聞きたいというと、渋々応じてくれた。
場所は新橋。すでに泥酔状態だったお~な~に「こっちきてくれる?」といわれて行った先は、ワインがおいしいちょっとおしゃれな居酒屋だった。隣には和服姿の女性がいた。熟女である。
――発足の経緯、KSLに目覚めたきっかけは、Ingress界におけるKSL同好会の存在意義についてなど、いろいろ聞きたいことがあります。あなたは……。
お~な~:あのね、Ingressのプレイヤーに配布されているスキャナープログラムにはね、マルウェアが混入してるの。
このマルウェアは、知らないうちに「CFを作らなければいけない」 と、使用者を洗脳するように仕組まれてるの。
スキャナーに洗脳されて、Ingressに遊ばれている人はいませんか~? 一刻も早く洗脳から解放され、Ingressで遊んでくださ~い。
――あの……マルウェアなんてないと思いますが……。
お~な~:知らないの? 2014年ごろからかなあ。スキャナーに洗脳されてIngressに遊ばれてしまっているエリアボスが日本全国に多数見受けられたの。
彼らはスキャナーに操られ、他のプレイヤーのプレイに対してさまざまな因縁をつけるようになっていったの。
そんなときですよ。KSL同好会は2015年2月に、世界に先駆けてスキャナーにマルウェアが混入している事実を察知しました。
そこから、不幸にもCFに洗脳されてしまったAG(エージェント)の方々を、CFのない正常な世界に連れ戻す為の活動を開始したってわけ。
おかげさまで現在は、スキャナーの洗脳から解放されたAGたちのサロン的な位置付けとして、本邦におけるIngressの最大級のXF組織となっているわけですよ。ハッハッハ~!
――マルウェアのことはさておき(怒)、KSL同好会はIngressにおける自由の象徴ということでしょうか。
お~な~:さ~ね~? どうかしらね? みんなが好きに考えたらいいんじゃないの。
――中の人が考えるクソリンクとは? 同好会として何か定義があるんですか?
お~な~:デカルトの方法序説的な立場を取っています。いいですか? 本来はクソリンクなんてものは存在しないのですよ。ただのリンクが存在するのみです。
観測者が「このリンクは不愉快だなぁ。クソリンクと呼んでやろう」と考えたもののみがクソリンクと呼ばれるの。
スキャナーの中には、クソリンクはありません。クソリンクは、クソリンクと呼ぶエージェントの心の中に、そう! 心の中にあるの!
また、これとは別に日本語特有の謙譲表現として、自分の引いたリンクをへりくだって「クソリンク」と呼ぶ事もありますね。愚息、粗品、粗茶、弊社、拙宅、拙著、みたいなもんですね。
――なんかわかったようなわからないようなお話しですが。Aegis Nova TOKYOにおけるお台場の活動について振り返って、あそこで何をしていたのですか。
無限ピーマンを食べているところは、計測中に確認済みです。なんせ声を掛けられましたから。
お~な~:あら? そうなの? 全然覚えてないなあ。あのときはねぇ、KSL陣営の勝利に向けて、各陣営に潜り込ませた諜報員に指示を出していたかな。いや~とにかくいそがしかったよ!
――捕捉しようと向かっていたシャードを、目前で蟹挟みされました。あれはどのような作戦だったんですか。まさか緑のリンクでやられるとは思ってなかったです。
お~な~:それは陣営の機密事項だから、お答えできませんねぇ。
――お台場以外の場所でも妨害行為をしていたのではないかという疑惑が持たれていますが、それについてどう思いますか。
お~な~:君、なんてこというの? 断じて妨害活動ではありません! KSL陣営の勝利に向けた活・動です!
――KSL同好会は第3陣営だと主張してますが、ANTの勝敗はどう考えますか。
お~な~:おかげさまで、KSL陣営の圧・倒・的・勝利でANTを終えることができました。それだけは明白ですね。
――何をもって勝利とするのか、そこを教えていただきたいのですが。
お~な~:それが分からないなんて、やっぱりキミもマルウェアにやられてるんだよ。
――だからマルウェアなんてないですから(笑)。 ところで、隣の女性はだれですか。
お~な~:KSL陣営のおかみよ?
――おかみさん、ですか。お~な~のおっしゃることがよく分からないのですが。
おかみ:ごめんなさいね。この人趣味悪いし、悪意もあるし、人も悪いしセクハラもするけど、KSL陣営においては絶対キレたりしないっていう安心感があるのよ。
――もっとよく分からなくなってきました。ところでお~な~の本職はなんなんですか?
お~な~:人心を惑わすこと~~!
おかみ: バカいってるわよね。この人こう見えて、本当は医学博士なの。その筋では結構有名な医者なんだけど、本職でも学会とかグループ作りちらす性癖があってねぇ。
Ingressでもいろんなコミュを作りまくってるのよね。アタシもよく「Ingressはいいから、アナタは人命救ってて!」っていうんだけどね。
お~な~:そもそもオレ、Ingressには興味ないもーん!
――ええっ!? Ingressに興味ないのにやってるんですか?
おかみ:いわせておいていいから(笑)。
おかみ曰く「実はかなり権威ある人物」とのことだが、まるでそんな風には見えなかった(実話)。
キャラクターの捏造だと思われるかもしれないが、本当にこういうキャラクターだったのである。逆にそのいい加減さが運営にとってメリットになっているのかもしれない。
KSL派生コミュニティにあなたもすでに飲まれているかも
お~な~の話を聞いていて1つ気になったのは、「いろんなコミュを作りまくってる」という部分だった。
そこで、KSL同好会が新年会を開くという情報を入手したので、潜入調査を行ったところ、KSL同好会から派生したものではではないかと疑われるコミュニティが複数存在することが判明した。
それらは「勘亭流グループ」と呼ばれているらしい。
以下が、KSL同好会との関わりが疑われるコミュニティの一部である。
- クソリンク撲滅委員会
- 位置偽装研究会
- 転色のダーマ神殿
- Project Lycaeum
- Ingress New Waver Japan XF
- Ingress 紛争解決センター
いずれのコミュニティも、思いついたらすぐ作りたがってしまうお~な~によって生み出されたらしいが、実際にお~な~が運営に関わっているわけではないようだ。
「KSLは人材が多いので、お~な~が作ったコミュをのれん分けする形で運営しているんです。そのほうがうまくいく」などと語るコアメンバーの発言を耳にした。
KSL同好会から「クソリンク撲滅委員会」が発足したというのなら、それはどういう背景なのか。聞いてもニヤリとされるだけで、詳細は明かされなかった。
ちなみに、なぜ勘亭流と呼ばれているのか。それはお~な~がすぐ勘亭流というフォントでアイコンを作りたがるかららしい。
すこぶりはごほうび♪
KSL同好会がきっかけでうまれた言葉もあるという。それが「すこぶり」だ。
- すこぶり【名詞】:迷惑行為への善意に見せかけた指摘、いちゃもん。
- すこぶる【動詞】:迷惑行為をしている人を善意に見せかけて上から目線で諭すこと。
出典:KSL同好会
あるときCOMMで、同じ陣営のAGからそのプレイスタイルについて「すこぶる評判が悪いですよ」と嫌みをいわれていたことに端を発する。
以後、怒られたりdisられたり煽られたりすることを「すこぶられる」というようになったようだ。
「すこぶりはごほうびです!」「クソリンクを引いたらエリアボスにすこぶられちゃいました。てへっ」「お家に帰ってすこぶられるまでが作戦です」といった感じで使われる。
すこぶられたのは自分が自由だから。つまりいい状態である! ということなのだろう。
KSL同好会に潜入した結果
しばらく眺めていたが、地位ある立派な大人達が、ファクションに関係なく、ことあるごとに楽しげに集っているのがKSL同好会であり「解放されたい自由な大人のパラダイス」というのが筆者の印象だ。
戦略HOは、非常に幅広い話題に満ちている。
KSLゆえに話しも投げっぱなしかと思いきや、どんな話題も深く展開していくところに、むしろメンバーの知性や教養、好奇心の強さを感じた。が、おおむね「下ネタよりだったりもするのだが。
うっかり失言が起きたとしても、やんわりなだめながらも、自然にネタへと展開させ、はじき出すことがない。むしろうっかりは大歓迎であり、仲間の証のようにすら扱っている。
あるコアメンバーらは
- 「他のメンバーの投げた無茶振りコメントを、あり得ない捕球率で片っ端からキャッチしていくというのは、私としては戦略HOの他に誇れる長所なのではないかと考えております」
- 「ドン引きと遠慮は負けといわれているんです」
とコメントしている。
「おのれKSL同好会! あの日のチームリーダーに変わって……」と思いながら、新年会に潜入した際は、みなに混じってハイボールを飲みつつ、うっかり楽しく餃子を食べてしまった。
聞けば、車椅子が必要で、浜松のアノマリーは参加を断念したというAGに対して、ANTではKSL同好会という形での参加を実現している。
とても楽しめたようで、よく聞いてみるといい話なのである。どちらの陣営にも属せない心を持った人たちのよりどころになっている感じすらした。
KSL同好会は”思ったよりすごかった!”と、またしてもうっかり感心してしまった筆者であった。と、褒め殺して反撃に変えたい。クレームが大好物のお~な~への営業妨害行為である。
KSL同好会の活動は、引き続き監視していくつもりだ。
(C) Niantic, Inc.