Galaxyブランドの回復を狙う
SamsungのGalaxyシリーズといえば、世界のスマートフォン市場をリードしてきた存在だ。
国内はアップルのiPhoneが強さを見せているが、グローバル市場に目を向けると、Androidスマートフォンがより大きなシェアを持ち、中でもGalaxyシリーズはフラッグシップモデルの「Galaxy S」シリーズを筆頭に、ミッドレンジの「Galaxy A」シリーズ、タブレットの「Galaxy Tab」シリーズ、大画面とSペンで新しいスタイルを確率した「Galaxy Note」シリーズなど、幅広いラインアップで市場全体をリードしてきた実績を持つ。
ところが、昨年8月に発表した「Galaxy Note 7」が発火・発煙トラブルを起こし、生産中止に追い込まれた。その損失は6,000億円を超えるともいわれ、Galaxyシリーズのブランドが大きく傷ついたと報じられていた。
Galaxy S7 edgeが国内外で好調な売れ行きを記録し、Galaxy Note 7そのものも非常に完成度が高かっただけに、残念な印象が残った。
Galaxy Note 7の発火・発煙トラブルについては、今年1月に2社が供給するバッテリーの内部構造に問題があることが明らかになり、今後はGalaxyシリーズ全体の生産工程などもすべて見直すことが発表された。
中でもバッテリーについては外部の識者で構成する「Battery Advisory Group」を起ち上げ、「8-Point Battery Safety Check」と呼ばれる試験や「Multi Layer Safety Measures」と呼ばれるソフトウェア設計の安全対策に取り組むことが発表され、信頼性の回復に積極的に取り組んでいる。
さらに、昨年は2月のMobile World Congress 2016(MWC 2016)の開催に合わせ、「Galaxy S7 edge」「Galaxy S7」をスペインのバルセロナで発表したが、今年のMWC 2017では後継モデルの発表を見送り、3月29日にアメリカのニューヨークで開催する自社イベント「Unpack 2017」で発表することがアナウンスされた。
約1ヵ月の違いだが、Samsungとしてはしっかりと準備をして、万全の体制でフラッグシップモデルを発表しようという考えたようだ。いわば、Galaxyシリーズのブランド価値を回復する再スタートのイベントとして、今回の発表を位置付けたわけだ。
5.8インチと6.2インチのinfinity Displayを搭載
今回、アメリカのニューヨークでは「Galaxy S8」「Galaxy S8+」の2機種が発表された。Galaxy S8は5.8インチ、Galaxy S8+は6.2インチのSuperAMOLED(有機ELディスプレイ)を搭載する。
グローバル市場では大画面のモデルの売れ行きが好調だが、従来のGalaxy S7 edgeの5.5インチに比べ、ひと回りもふた回りも大きなディスプレイを搭載したモデルがラインアップされることになった。
ちなみに、「+」(Plus/プラス)のネーミングが付加されたディスプレイサイズの異なるモデルは、国内で販売されたことがないが、実はグローバル向けでは「Galaxy Note 5」と事実上の兄弟モデルとなった「Galaxy S6 edge+」を発表してきたこともあり、今回だけの特殊な事例ではない。
5.8インチと6.2インチと聞くと、かなり大きいと考えてしまうかもしれないが、実は一般的なスマートフォンのディスプレイが16:9の比率であるのに対し、Galaxy S8とGalaxy S8+はいずれも18.5:9という縦長のディスプレイを搭載しており、Samsungでは「infinity Display」と名付けている。
この18.5:9という縦横比は、WebページやSNS、メールなどを利用する縦長の画面で、より多くの情報量を表示できることに加え、映画などの映像コンテンツを横向きに再生したとき、左右にできる黒い枠が少なくなり、迫力ある映像を楽しめることを考慮したという。
大画面化でボディサイズへの影響が気になるところだが、ボディ幅はGalaxy S8が68.1mm、Galaxy S8+が73.4mmに抑えられている。Galaxy S7 edgeのボディ幅が72.6mmなので、Galaxy S8は0.3インチ大きなディスプレイをよりコンパクトに搭載し、Galaxy S8+はボディ幅でわずか0.8mm増で0.7インチも大きなディスプレイの搭載を実現している。
そして、実際に実機を手にしてみると、従来モデルとの違いは明確になる。
今回のGalaxy S8/S8+はGalaxy S7 edge同様、ディスプレイの両端を湾曲させたデュアルエッジディスプレイを採用しているが、背面側も前面のディスプレイ側と同じ比率で湾曲させ、前後面をシンメトリー(対称的な)形状に仕上げられている。
そのため、手にしたときの感覚は非常に薄く、今まで以上に手にフィットして、持ちやすいという印象を持った。
また、縦長のInfinity Displayを搭載できた理由の1つでもあるが、今回のGalaxy S8/S8+ではGalaxyシリーズの特徴の1つでもあったハードウェアキーによるホームボタンがなくなり、ソフトウェア表示に変更されている。
つまり、本体前面のディスプレイ面にはまったくノイズのないデザインに仕上げられているわけだ。最近のAndroidプラットフォームではむしろハードウェアキーによるホームボタンは少数派になりつつあり、それに追随した形ともいえるが、ホームボタンの位置には感圧式センサーが内蔵され、押したときに反応があるハプティック機能も組み込まれている。
ちなみに、ホームボタンや戻るボタンなどのナビゲーションキーと言えば、Galaxyシリーズは他機種と違い、ホームボタンの右側に戻るボタンを配するレイアウトを採用してきた。ところが、最近のAndroidスマートフォンはホームボタンの左側に戻るボタンを配するレイアウトが多く、他機種からの移行ユーザーが戸惑うと指摘されてきた。
今回のGalaxy S8とGalaxy S8+ではこれをカスタマイズできるようにしている。ホームアプリもホーム画面からアプリ一覧ボタンをタップして、アプリ一覧ボタンを表示する「TouchWiz」を採用してきたが、今回はホーム画面から上方向にフリックすると、アプリ一覧が表示される仕様に変更している。もちろん、従来と同じ使い勝手にも設定できる。
指紋認証に加え、虹彩認証や顔認証に対応
従来のGalaxy S7 edgeではホームボタンに指紋認証センサーが内蔵されていたが、ハードウェアキーによるホームボタンが廃止されたことで、指紋認証センサーは背面のカメラ部の横に移動した。
前述のように、両機種ともボディ幅はある程度、抑えられているが、ボディの縦方向は長くなっているため、手の大きさによっては背面のカメラ部横の指紋認証センサーを使うには、端末を持ち直したり、カメラのレンズ部を触ってしまう人もいるかもしれない。
ただ、認証のレスポンスは良好で、センサー部分も背面ボディと同じカラーで仕上げられているなど、完成度は高い。
そして、Galaxy Sシリーズとしては初めて搭載されるのが虹彩認証だ。国内では富士通製のarrows NXなどでおなじみだが、眼の虹彩を専用カメラで読み取る生体認証になる。
仕組みや使い勝手はarrows NXなどと同じで、虹彩を登録後、本体を顔の前面に持ってくれば、瞬時にロックが解除できる。しかも指紋認証センサーと併用できるため、状況に応じて、2つの生体認証を自由に使い分けることができる。
この虹彩認証と同じようなスタイルで使えるが、もう少しライトなユーザー向けといえそうなのが顔認証だ。これは顔の輪郭などを生体認証のデータとして持つもので、虹彩認証とは排他利用となっている。
顔認証はこれまでの各社の携帯電話やスマートフォンなどで採用されてきたが、写真などでもロックが解除されてしまうなどのリスクもあり、どちらかといえば、手軽に使いたいユーザーに適しているといえそうだ。
カメラは昨年のGalaxy S7 edgeに搭載されたデュアルピクセルカメラが高い評価を得ており、今回のGalaxy S8とGalaxy S8+にも12MピクセルのCMOSイメージセンサーとF値1.7のレンズ、光学手ブレ補正対応のものが搭載された。
画像処理などのソフトウェアは向上しているはずだが、基本スペックは変わらない。これに対し、インカメラは世界的な自撮りブームを反映し、8Mピクセルに同じくF値1.7のレンズを組み合わせ、オートフォーカスにも対応した新設計のモジュールが搭載されている。
興味深いのは国内でも人物撮影時にグラフィックで飾る「SNOW」が人気を集めているが、これと同様の機能が搭載されており、自分撮りのときにはリアルタイムでエフェクトを表示しながら撮影することができる。
Galaxy S8とGalaxy S8+の心臓部であるCPU(ベースバンドチップセット)については、10nmプロセスで製造されたオクタコアプロセッサーであると発表されたのみで、製造メーカー名などの情報は明らかにされていない。
ただ、過去の事例などから鑑みて、Qualcomm製Snapdragon 835と自社製Exynosの最新版を搭載した2つのモデルが用意され、供給先の携帯電話事業者によって、提供するモデルが選ばれることになりそうだ。ちなみに、メモリーは4GBが搭載され、LTEは最新のCat.16に対応する。
この他にも日本語対応は未定だが、「Bixby」と呼ばれるインテリジェントサービスが提供され、本体側面には専用のボタンが搭載される。音声入力やカメラによる映像認識などで、関連情報を検索したり、ユーザーの自然言語を理解して、メッセージ送信などの簡易操作ができるなど、AI(人工知能)的な機能を目指したものが搭載される。
ところで、日本のユーザーにとって、気になるのは、今回のGalaxy S8とGalaxy S8+が日本市場に投入されるのか、出るとすれば、どの携帯電話事業者から出るのかといった点だろう。今回の発表では4月21日にグローバル市場向けに発売されることがアナウンスされたものの、残念ながら、日本市場向けの展開についてはいっさい、言及がなかった。
とはいえ、過去の例を見れば、おそらく日本市場向けにいずれかのモデルを投入することはほぼ確実だろう。順当にいけば、Galaxy S8が投入されることになるだろうが、昨年、Galaxy Note 7を投入できなかったという事情もあり、状況によっては6.2インチディスプレイを搭載したGalaxy S8+も投入される可能性もじゅうぶんに考えられる。グローバル市場向けの展開も気にしつつ、国内各社の発表もしっかりとチェックしておきたい。