10周年を迎える初音ミク、その歴史が紐解かれる!
今やボーカロイドとしてだけでなく、多彩なメディアで目にするようになった「初音ミク」。
2007年に登場してから今年で10周年を迎える製品・キャラクターであり、発売元のクリプトン・フューチャー・メディア(以下、クリプトン)はさまざまな取り組みを行ってきた。
今回のセッションでは、クリプトンのチームマネージャー・熊谷友介氏より、クリプトンの事業計画ビジョンや初音ミクが発展してきた背景が語られた。
クリプトンは、クリエイターのためのクリエイターを意味する造語「メタクリエイター」をカンパニーミッションに掲げ、クリエイター向けに商品・サービス・プラットフォームを展開。
音楽の制作や出版、各種ソフトウェアの販売といったコンテンツ面だけでなく、サーバーの設計・開発、3DCGコンサートのシステムなどの技術面にも強みをもった企業だ。
音を使ってサービスや商品を生み出すことがビジネスの原点とのことで、非常にニッチなマーケットでビジネスを展開してきたが、「深掘り」と「応用」を繰り返し、ビジネスの手法を模索しすることで、日本で最大規模の音源販売サービスにまで成長した。
また、クリプトンのすべてのサービスが、企画からコンテンツ制作、インフラ運用までを内製で手掛けている。
外注せずに1から自前で作ると、最初は時間がかかり遠回りに感じられるが、最終的にはさまざまなことができる体力や知識が身に着くと熊谷氏は語った。
その結果、モバイルコンテンツ、キャラクタービジネス、音楽レーベル、VR・MR、コンサート、カフェ運営、ゲーム開発など、クリプトンの事業は多岐にわたっている。
初音ミク誕生の経緯
クリプトンの事業ビジョンについて説明を終えると、本題の初音ミクに関してのトークへ。
初音ミクは、関連楽曲は50万曲以上、YouTubeにアップロードされた関連動画は200万以上、世界各国でコンサートを開催するといった実績を残し、BUMP OF CHICKENやLady Gagaといったアーティストとコラボも実施している。
ボーカロイドという言葉を耳にするようになったのは、初音ミクの登場以降だという人が多いと思われるが、実はそれ以前にも数々のボーカロイドが開発・販売されている。
しかし、リアルな人間の歌声を期待したユーザーには響かず、どれも販売本数は振るわなかったそうだ。
そんな中、クリプトンがリリースしたボーカロイド「MEIKO」が、それまでのソフトと一線を画すキャッチ―なパッケージイラストで販売本数を伸ばし、500本売れればヒットと言われたDTMソフト市場で3,000本を売り上げる大ヒットを記録。
ここから、さらに発展したのが、今や世界中の人が知るバーチャルアイドル初音ミクというわけだ。
熊谷氏はその経緯を、「人間の声にほど遠いというボーカロイドのデメリットを、メリットにできないか考えた結果、アンドロイドという設定で、人間の模倣ではない新たなボーカルの表現手段とした」と、逆転の発想により初音ミクが誕生したことを明かした。
また、初音ミクにとってベストな声を模索したところ、それまでのボーカロイドから一転、声優を起用することになったとのこと。
さらに、MEIKOがヒットした一因でもあるパッケージイラストをイラストレーターを起用することで、今の形ができ上がった恰好だ。
世界中に広まったきっかけは……?
上記のように、従来のボーカロイドとは一線を画す製品であるのは確かだが、楽曲制作ソフトとして発売された初音ミクが、これほどまでに広まった要因について熊谷氏による見解が述べられた。
初音ミクを購入した作曲者が、ニコニコ動画やYouTubeといった動画投稿サービスに、制作した楽曲を投稿する。
すると、それを聴いた人の中には絵を描く人や動画制作のスキルを持った人たちが共感し、PVやイラスト制作などのムーブメントが出来上がったというわけだ。
さらに、それを目にした人が同様に共感し、その楽曲を歌う人や踊る、いわゆる歌い手や踊り手と呼ばれる人たち、創作小説を書く人たち、コスプレをする人たちが次々に現れ、創作の連鎖が世界中に広まっていった。
この「共感」が、初音ミクは広まっていくうえで、大きなキーワードになったと熊谷氏は分析している。
また、インターネットの普及により、すべての消費者がクリエイターなれる時代が到来したことも、その流れを加速させているようだ。
クリプトンは、そういったクリエイターのための環境整備を行い、創作の輪を広げる取り組みを行っている。
ちなみに、初音ミクは韓国でも知名度があり、セッション後の質疑応答では、韓国での初音ミクコンサートの開催に期待する声が挙がった。
世界各国で開催しているコンサートは、さまざまな工夫でコストを圧縮したり、スポンサーによる援助のおかげで実施できているそうで、韓国でもスポンサー企業が名乗り出れば、近い将来コンサートが実現するかもしれない。
そうなったら、韓国においてもますます創作の輪が広がることになるのではないだろうか。