[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第47回: イノベーションは常に古くて新しいモノにある

今の10~20代の方々にとってはまったくわからないアイテムかもしれないが、1979年、ちょうど私が大学1年生のころにソニーから「ウォークマン」が発売された。このときのウォークマンは、カセットテープで録音した音楽を聴くためのコンパクトな音楽再生機器。現代のアイテムに言い換えると、AppleのiPodだ。ウォークマンはソニーで先行して発売された小型録音機「プレスマン」をベースに設計改良されたもので、プレスマン(用途は新聞記者などの取材録音用などを想定)にあった録音機能をなくして軽量化し、小型で革新的なメカニズムをもったプロダクツ(製品)であった。

音楽が持ち運べるという革新

ウォークマン登場以前の音楽を聴くというライフスタイルは、家庭にあるステレオセットで聴くか、または大型のラジオ付きカセットレコーダー(通称ラジカセ)で聴く、録音するというスタイルしか選択肢がなかった。

ウォークマンの誕生は、それらの既成概念を大きく覆すもので、自分の好きな時間に好きな場所で好きな音楽を聴けるという、人々の生活に大きな革新をもたらした。それらは音楽産業と家電産業の大きなイノベーションであったことは誰もが認めることだろう。

モノの小型化というのは日本人ならではの特徴的なモノ創りといわれている。当時のソニーは、それが会社のセールスポイントであったと記憶している。

すでにあるものを小型化するという点でいえば、その後も多くのプロダクツがリリースされた。

携帯電話という言葉自体がすでに「死語」になりつつあるが、今人気の女性お笑い芸人・平野ノラさんが持つ黒くて電話帳くらいある90年代初頭の移動電話(当時はそう呼んでいた)も、登場からちょっとのサイクルで手持ち型に変わり、その後はアンテナ付に変化し、折り畳み式などの亜種を経て、現在のスマートフォンに姿を変えた。

このサイクルも10年ちょっとでここまで変貌を遂げた。おそらく、この先の10年でも大きく変わっていくことだろう。

イノベーションは古くて新しい!?

ゲームコンテンツとそのハードに関しても大きく変革してきた。

ゲームウォッチ、ファミリーコンピュータ、スーパーファミリーコンピュータ、ゲームボーイ、任天堂DS、3DS、Wiiなどなど……。そして、今春発売になったNintendo Switchまで考えると移動しながら、好きな場所で、好きな時間にできるようになった。スマホゲームもいうに及ばずである。

その中で、10月5日に「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」として発売された。ハードウェア自体は持ち運びを前提にしたものではないが、かつて売れに売れた名機「スーパーファミコン」をミニマイズ(小型化)してリメイクしたプロダクツだ。

発売4日で36.9万台を販売したというから驚かされる。

今の40~50代にはあのころのノスタルジーを持って迎えられ、若者にはレトロフューチャーなデザインと今プレイすると新鮮味あふれるゲームコンテンツが収録されていることも魅力なのかもしれない。

もちろん、先に述べたような持ち出しができるわけではないが、HDMIケーブル1本でテレビモニターに接続が可能、コントローラーは操作しやすいように、あえて当時のままのサイズで同梱されているあたりも良心的な配慮といえるだろう。

個人的な感想に過ぎないが、ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコンは、とにかくかわいいし、ほどよいミニマイズ加減が愛おしい。

収録されているゲームコンテンツは、先行販売された欧米版と日本版では若干異なる。その点の好き嫌いは個人の嗜好によるが、日本向けのニーズを前提に考えているということだろう。

シンプルでわかりやすいという温故知新

ヒット商品のポイントがわかれば苦労はしないが、ハードウェアでもコンテンツでも、わかりやすいことが重要ではないだろうか。

最近ヒットした家電商品に、新進のメーカーが製造した炊飯器があるのだが、これはおいしくお米が炊けるが保温機能はない。しかし、売れに売れているという。機能を削ぎ落とした結果、ヒットしたといっても過言ではないだろう。

ゲームもまたしかりではないだろうか。シンプルでわかりやすい遊び方、共有する楽しみが、あのころのゲームにはたくさんあったような気がする。

話が若干逸れてしまうが、先日、私が主催するトークセッション「黒川塾54」(10月19日開催)に、元カプコン、現オカキチの代表取締役である岡本吉起氏にご登壇いただいた。

その際に岡本氏が教えてくれたゲーム制作で重要なポイントは、

ゲーム内容のプレゼンテーション段階で面白い、その企画書や資料関連を見て面白い、遊んで面白い、繰り返しやって面白い

というものだった。

今のゲームにそれがないというわけではないが、たくさんケーブルをつないでセッティングに準備がかかる割りに、一過性のエンタテインメントだったり、ゲーム内のアイテムがインフレする一方だったり、さらには運営面に力が入っておらず最初はにぎやかなスタートだったものが早いタイミングで過疎化が始まったしまうものなどがあった。

今回、ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコンに収録されているゲームとそのハードがいつまでも色あせないのは、シンプルでありながらも奥が深いということに集約されるのではないだろうか。

温故知新とはよくいったもので、そこにさらにハードウェアとしての革新や簡素化をプラスしたものが成功のポイントではないだろうか。

最後に個人的な希望的観測をいえば、セガゲームスにおいても過去の名機ハードウェアをリプロダクトするか、第三者に意匠権利を貸与し、当時の代表的なゲームコンテンツを収録して発売することでゲームを囲む市場は活性化するのではないだろうか。

なんといっても日本はこれから先は高齢化社会なのだから。