【法林岳之のFall in place】第36回: Windowsとクラウドサービスでスマートフォンを取り込むマイクロソフト

開発者向けイベントという位置付けもあり、一般のユーザーにはあまり関係ないように見えるが、ここ数年、マイクロソフトが推し進めてきた「モバイルファースト、クラウドファースト」という考えを進化させ、「Intelligent Cloud, Intelliggent Edge」というキーワードを掲げ、パソコンやスマートフォンといったデジタルデバイスをクラウドサービスとシームレスにリンクさせることにより、新しいデジタルライフの世界を切り開こうとしている。Build 2017で発表された内容やデモなどもまじえながら、紹介しよう。

今秋、Windows 10 Fall Creators Updateをリリース

Game Deetsを愛読いただいているスマートフォンユーザーにとって、「パソコン」や「Windows」は、どういう存在だろうか。

ある人にとっては「仕事のツール」、ある人にとっては「ゲームやエンターテインメントの道具」、またある人にとっては「スマートフォンが取って代わったもの」「スマートフォンがあるから不要になったもの」と考えるかもしれない。

しかし、そんなデバイスごとに区切った考え方は、過去のものになってしまうかもしれない。

5月10日から12日にアメリカのシアトルで開催されたマイクロソフトの開発者向けイベント「Build 2017」

マイクロソフトは2015年7月、これまでのWindowsの集大成ともいえる「Windows 10」を発表した。Windows 10のリリースに伴い、数年ごとのメジャーバージョンアップをやめ、半年から1年に一度程度のペースでアップデートを重ねていく方針を打ち出した。

同時に、2015年7月から約1年間、Windows XP/Vista/7からの無償アップグレードも実施し、多くのユーザーがWindows 10への移行を果たした。その後、Windows 10は2015年11月に「Windows 10 November Update」、2016年8月に「Windows 10 Anniversary Update」、今年4月に「Windows 10 Creators Update」を公開し、順調にアップデートを重ねてきた。

そして、今回のBuild 2017では今年秋に「Windows 10 Fall Creators Update」をリリースすることを明らかにし、基調講演ではその機能の一部を紹介した。

初日の基調講演に登壇したサティア・ナデラCEOは「Intelligent Cloud, Intelligent Edge」を解説

今秋リリースされるWindows 10 Fall Creators Updateでは、PCとスマートフォンの連携が1つのテーマとして掲げられている。

たとえば、普段、自宅やオフィスなどでパソコンを使い、文書を作成しているとき、何らかの理由で作業を中断する必要があったとしよう。そんなとき、これまでであれば、パソコンを持ち出したり、スマートフォンやタブレットに作りかけの文書をメールで送信したりして、外出先でも何とか作業の続きをしようと試みていた。

今秋、新たに「Windows 10 Fall Creators Update」が公開される

しかし、Windows 10 Fall Creators Updateに搭載される「Windows Timeline」という機能を利用すれば、わざわざメールで送信しなくても作業を続きを他のデバイスで行なうことが可能になる。

Windows Timelineはパソコンで利用していた履歴を保存しておくための機能で、必要に応じて、過去にさかのぼって作業を再開することができるが、他のデバイスとの連携にもこの機能を活かすことができる。

オフィスのパソコンで文書作成を中断し、持ち歩いているモバイルパソコンで再開したり、パソコンで閲覧中のニュースページの続きを外出時にスマートフォンで確認できるようにするわけだ。

ユーザーが利用したアプリや開いたファイルの履歴が参照できる「Windows Timeline」

このように書くと、「でも、Windowsのスマートフォンじゃないとダメなんでしょ」と考えてしまうかもしれないが、Windows TimelineはWindowsに連携するスマートフォンを登録する仕組みになっており、Windows 10 Mobile端末だけでなく、AndroidやiOSにも対応する。

他のデバイスとのシームレスな接続を実現するため、Windowsに連携するデバイスを登録する。Windows 10デバイスだけでなく、AndroidやiOSにも対応

また、同様の連携機能として、「Cloud-powerd Clipboard」も搭載される。これはパソコンで利用しているクリップボードの機能をクラウドサービスを経由することで、パソコンからAndroidスマートフォンやiOS端末(iPhone及びiPad)と連携させるものだ。たとえば、パソコンで検索した目的地の地図の情報をクリップボードにコピーし、スマートフォンで利用することができるわけだ。

さらに、Windows 10で標準搭載されたオンラインストレージサービス「OneDrive」の新機能として、「OneDrive Files On-Demand」も搭載される。

クラウド上にさまざまなデータを保存しておくことができるオンラインストレージサービスは便利だが、スマートフォンで利用する場合、すべてのファイルを同期してしまうと、スマートフォン側のストレージを圧迫してしまう。

そこで、「OneDrive Files On-Demand」では必要なファイルだけをオンデマンドで利用できるようにする。実は、同様の機能はWindows 8/8.1に搭載されていたが、Windows 10では削除されており、今回のWindows 10 Fall Creators Updateで復活することになる。

この他にもAIを活用した編集が可能なビデオ編集ソフト「Story Remix」が追加されるなど、Windows 10 Fall Creators Updateはその名のとおり、クリエイターを意識した機能が追加される見込みだが、その一方で、ここまで説明してきたように、パソコンと他のデバイスをクラウド経由でシームレスに連携させたり、アシスタントサービスの「Cortana(コルタナ)」のAIを活かした環境を提供するなど、クラウドサービスを軸にさまざまなユーザーの利用環境を充実させようとしている。

AIを活かしたビデオ編集ソフト「Story Remix」では、AIを活かし、ビデオの主役となる人物を変えて映像を生成することが可能

もはやパソコンだけではない

スマートフォンやタブレット、パソコンをシームレスに連携させる環境を目指したWindows 10 Fall Creators Updateは気になるが、そうはいってもパソコンがあっての話でしかない。スマートフォンやタブレットを利用するモバイルユーザー、中でもパーソナルで利用する一般ユーザーにとっては、今ひとつピンと来ない部分があるかもしれない。

しかし、マイクロソフトが提供するサービスやアプリは、パソコンユーザー以外にとっても有用なものを目指している。

たとえば、前述のオンラインストレージサービス「OneDrive」やパーソナルアシスタントサービスの「Cortana」は、いずれもパソコンだけでなく、AndroidプラットフォームやiOS向けにも提供されており、OneDriveなどはビジネス文書の保存だけでなく、スマートフォンで撮った写真のストレージとしても有効に活用できる。

Cortanaについてはさらに幅広いシーンでの活用が検討されており、今回のBuild 2017でもその片鱗を見ることができた。

Cortanaはクラウドベースのアシスタントサービスだが、パソコンやスマートフォン以外に、音声操作専用スピーカーの開発が進められており、すでにオーディオ機器メーカーのHarmanKardonに加え、IntelやHPも参入を表明している。

つまり、家庭の居間などに置かれたスピーカーに「今日の天気は?」と話しかければ、内容を認識して、答えを返してくれるような使い方ができるわけだ。もちろん、そんな簡単な用途だけでなく、旅行の予定を調整したり、レストランを予約するなど、もっと「アシスタント」らしい活用も視野に入っている。

こうした家庭用の音声操作専用スピーカーとしては、アメリカでAmazonがクラウド音声認識サービス「Alexa」を搭載した「Amazon Echo」を販売しており、昨年来、高い注目を集めている。AppleもiPhoneやiPadに搭載されている「Siri」を単独で動作するスピーカーの発売を検討しているといわれており、今後、AI対応の音声操作専用スピーカーが1つの大きな市場になることが期待されている。

また、クラウドベースのサービスとしては、翻訳サービス「Microsoft Translator」も注目される。国内ではSkypeを利用したリアルタイム翻訳のデモが公開されたことがあるが、今回はPowerPointによるプレゼンテーション中に演者が話す内容がリアルタイムで翻訳され、プレゼンテーションのスクリーンに表示されるという内容だった。

これを実現しているのはMicrosoft Translatorの翻訳プラグインで、今後、さまざまなアプリやサービスへの導入が進められる見込みだ。ちなみに、Microsoft TranslatorはAndroidやiOS向けのアプリが公開されており、音声入力や文字入力だけでなく、カメラによる撮影の入力、チャット形式の会議など、さまざまな機能が利用できる。

さらに、マイクロソフトは新しい製品ジャンルとして、昨年来、MR(Mixed Reality/複合現実)を実現する「Hololens(ホロレンズ)」の開発を進めている。昨年のBuild 2016では自社製のHololensを開発者向けに供給を開始することがアナウンスされたが、今年はそれを受けて、実際に開発した事例がいくつも取り上げられていた。

中でも日本でも何度か公演を行なっているエンターテインメントショーの「CIRQUE DU SOLEIL(シルク・ドゥ・ソレイユ)」がHololensを装着し、ステージ上に舞台を仮想的に組み上げていく様子は非常に興味深い内容だった。

Hololensを装着したスタッフが並ぶステージ上には何もないが……

Hololensを通した映像ではステージ上に舞台装置や演者が描かれている

実際のステージ上には何も存在しないが、Hololensを通して見るステージ上には舞台装置や演者が描かれ、必要に応じて、位置を変更したり、装置に色やグラフィックを付けていた。こうした仮想的に何かを描くものとしては、VR(Virtual Reality/仮想現実)やAR(Augmented Reality/拡張現実)が話題だが、現実世界との融合を目指したMRもさまざまな応用が期待される。

マイクロソフト製のHololensに続き、acerからも開発者向けにHololens対応MRヘッドセットが開発者向けに販売される。左のマイクロソフト製コントローラーをセットにして、399ドルで販売される

一般の個人ユーザーにとって、マイクロソフトといえば、「Windowsの会社」という認識だが、GoogleやAppleとはまた違った形でスマートフォンをはじめとするモバイルの世界にアプローチし、これまでにないビジネスを展開しようとしている。

端末そのものやOS(プラットフォーム)ばかりが注目されがちなモバイル業界だが、そういったものにとらわれず、クラウドとAIを活かしながら、新しい切り口でアプローチを進めるマイクロソフトの今後に期待したい。