メタルギアシリーズ「生みの親」の退職と独立
遡ること、2015年12月20日、私が毎日新聞のネット版ニュースサイト『まんたんWEB』に以下の記事を書いたことがある。
私の記事は長年に渡り、コナミの著名なIPを築き、ゲームを創りつづけてきた小島氏の退任と当時のコナミの状況を取り上げたものだった。掲載当時、元コナミ社員(私のこと)がコナミの内情と小島氏の退任に理由を書いたということで、「まとめサイト」やツィッターなどのSNS系でとても話題になった。
関東ITソフトウェア健康保険組合に加入できない事情
私の個人的な推測だが、今回の日経の記事は、記者が小島氏もしくはコジプロの現状を取材したところ、「関東ITソフトウェア健康保険組合に加入できなかった」という話があり、それを元に記事が構成されたのではないかと思う。
詳しい記事は日経を参照していただきたいが、関東ITソフトウェア健康保険組合(以下、関東IT)の理事長は東尾公彦氏だ。
東尾氏はコナミホールディングス(以下、コナミ)の取締役に名前を連ねており、もっといえば、上月オーナーの甥でもある。つまり、血縁関係のある親族だ。ゆえに、関東ITの事務系スタッフも東尾氏に配慮したということだろう。
おそらく、実際に理事長である東尾氏に上申したとしても、却下したのではないかと考えるのは自然なことだと思う。このあたりの忖度(そんたく)の経緯は記事中では語られていないが、組合とはいえ、公正公平な立場で判断は難しいと言わざるを得ない環境といっていいだろう。
夢の跡地に新社屋=コナミクリエイティブセンター
ちなみに、東尾氏はコナミの不動産部門である「コナミリアルエステート」の代表も務めている。このコナミリアルエステートは、現在「テアトル銀座」の跡地にコナミクリエティブセンターを建設中。
このテアトル銀座の土地は、シネラマ方式の上映を誇る「テアトル東京」という映画館のあった場所で、筆者はここでスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』を父親と鑑賞した思い出がある。
その後、1981年にテアトル東京は閉館し、その後に完成したのが西武グループの「ホテル西洋」を擁するテアトル銀座ビルだ。
ここは将来的にはゲームなどのクリエイティブ部署が移動するものといわれており、小島氏がコナミ在任中には「あのホテル西洋の跡地にコジプロが子会社として移転する」という噂もまことしやかにあった。
今となっては夢の跡地。とはいえ、小島監督とコジプロも独自の道を歩み始めている。コジプロのコンテンツ「デス・ストランディング」については次回で触れたいと思っているが、斬新なアプローチの作品になるようだ。
血縁を重視した組織体制
さて、話を戻すが、東尾氏に限らず、コナミの組織において血族であることは重要な要素といえる。現在のコナミデジタルエンタテインメント(以下、KDE)早川社長の前任の代表取締役であった田中冨美明(現在のコナミスポーツ代表取締役)氏は、上月オーナーの令嬢と婚姻関係にある。よって一親等の続柄といえる。
ちなみに、上月オーナーのもう1人の令嬢と離婚してしまった音楽出版系子会社の代表取締役を務めていたK氏は、その離婚からしばらくして田中代表取締役から社内で呼び止められ、「お前、もうええやろ」と告げられたかと思うと、すぐに退職手続案内の業務メールが着信し、早期に手続きに入り、結果的にK氏はコナミグループから放追されてしった。
このように、コナミにおける重要な役職ポジションは上月家の血筋の信頼のおける人材が配置されている。
早川社長体制は粛清の結果……!?
ただし、現在のKDEの早川社長は異例中の異例かもしれない。
早川氏は、部長時代には、小学館のコンテンツをゲーム化することなどを主たる業務として辣腕を発揮してきた。
また、ガラケーでのソーシャルゲーム開発に早期から着手し、それを先導し、成功に導いた実力者でもある。さらに、当時の田中代表取締役からの評価も高く、外交コミュニケーション能力もあり、田中体制を引き継いだ外部の血だ。
同時に田中体制下での権力闘争の結果、戦力外通告された要職を排除した結果として体制を受け継いだという声もあるが、現時点での早川氏のコンテンツにおける采配は非常にうまく作用している。過去のIPの掘り起しや、早い判断をする代表取締役として評価は高いと思われる。現在の好業績が続く限り、早川体制は安泰だろう。
いつなんどき何が起こるかわからないという緊張感が蔓延する社内
しかし、そこは血脈を重視するコナミゆえに、いつなんどき、何が起こるかわからない……。
つまり、血族から離れること=コナミグループからの追放、絶縁という図式になるということだ。ちなみにこの図式は、創業から現在のコナミ(特にゲーム系)の成長を加速させる原動力となった過去の役員や役職者たちにとっても同等の仕打ちが待っていた。
幸いにして、役員経験者は過去の保有したコナミの株式があり、それらを売却することで相応の利益を得ているというが、そうでない、持たざる者の新しい人生はなかなか厳しいものがある。
同業他社への転職の規制(ただしこれは民事上、法的な規制はないので署名押印は拒否可能です)、または配達証明郵便などのある種の揺さぶり(こちらも過剰な内容のものは法的な対応措置が可能)などがあり、あまり退職者が声を挙げることはない。
しかし、実際に能力のある者は、退職した後、自身で起業したり、自身でゲーム会社と契約をして開発を推進するなどの活動を行っている。
代表的な事例は、先に挙げた小島氏とコジプロ、「ラブプラス」開発で有名になった「お養父さん」キャラクターこと内田(内P)氏、「キャッスルヴァニア」シリーズの五十嵐氏、コナミの内製コンテンツであった「武装神姫(ぶそうしんき)」も、2012年ごろにプロジェクト自体の採算性を問われて頓挫しているが、当時、担当責任者だった鳥山亮介氏も、その後すぐ独立し、現在は「フレームアームズ・ガール」を立ち上げ成功を納めている。
コナミの上月オーナーが極端に忌避するのは、自社の権益や名誉が毀損されることだと考える。その真意のルーツは創業期まで遡らないとわかりませんが、共同創業されたコナミ社のルーツ、ゲームの権利関係、仕様関係を他社にコピーされたという疑惑と疑念、そして自社のIPとブランドを守るという気持ちからの秘匿主義、排他主義を徹底したものかもしれない。