アプリのダウンロード不要!
もはや、詳しい説明は不要かもしれないが、簡単におさらいしておこう。シンプルにいえば、従来、ユーザーが通過儀礼のように行ってきた、ほしいアプリをポータルからダウンロードする必要がなく、URLをクリックするだけでゲームを始めることができるのが「ゲームプラス」だ。
また、そのURLをメッセンジャーなどのツールを使って友人にもシェアすることができ、なおかつ、いっしょにプレイすることも可能というものだ。
さらにメリットとして大きいのは、アプリがスマホの空き容量を圧迫するのに対して、「ゲームプラス」はそのような負荷はなく、容量、通信制限などをさほど気にせずゲームプレイに集中できるという点が大きな優位性だ。
つまり、従来のAppStoreやPlayストアというポータルとは異なるコンテンツの商流として注目をされるものとなった。
この手のサービスの場合、コンテンツが追い付いてこないことが多いが、「ゲームプラス」の発表によると、賛同するパブリッシャー52社がコンテンツ導入という前提の表明しているという。
楽天は↘・BXDは↗?
遡ること3ヵ月前、4月4日に楽天による「楽天ゲームズ(R Games)」が同様のHTML5を活用したゲームポータルを導入した。だが、こちらはゲームファンを牽引するほどのキラーコンテンツに欠ける状況での導入になってしまったことと、楽天の潜在顧客へのリーチがうまく機能せず、あまり話題にはなっていない。
また、同様のHTML5でのゲーム開発とゲームポータルへの時代の流れを象徴するかのように、5月19日に発表されたバンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)とドリコムによる業務提携と新会社BXDも明らかになっており、HTML5を活用したアプリ・ゲームコンテンツ市場への新たな取り組みが注目されている。
こちらはBNEが得意とするキャラクターIPをフルに活用したコンテンツをドリコムが開発するという、従来の座組みを強化した共同事業体として手堅い印象を受ける。
デジタル封建社会の君主、AppleとGoogleはどう受け止めるのか?
今回の「ゲームプラス」の発表と、そのあとに開催した黒川塾51の開催後、デジタル系、経済系の紙面、メディアの論調は以下のようだ……。
1つは、従来のAppleやGoogleのポータルに集約されるビジネスモデルからの脱却というもの。しかし、その論調は一見すると当たっているように思えるが、あまり正しくはない。
例えば、ゲーム系に限っていえば、各社が独自のゲームポータルを保有し、決済手段を用意したらどうだろうか。
確かに、一部のメジャーポジションを有するゲームパブリッシャーがそれに近いことを展開しているところもあるが、「アプリドリーム」を夢見るようなインディー系パブリッシャーや個人がそれらを自前で整えて導入することが叶うだろうか。
それは否であろう。そこは、黒川塾に登壇した識者たちも口をそろえて「決済手段など自前で準備して保有管理するのは無理がある。ポータルの手数料(※)はそれらをカバーするもの、ゆえにポータルの必然性がある」という。
※:手数料は30%といわれている
同時に、それらポータルのすばらしいところは、ゲームのみならず、ユーティリティー、サービス系、エンタメ系などありとあらゆるコンテンツのアプリが一同に確認、閲覧でき、宣伝販促的には集客に対して大きな効果があり、さらにそのサービスを享受できる点だ。
このあたりは「ゲームプラス」が「ゲーム」と銘打っている以上、太刀打ちはできないだろう。
現代型デジタル封建社会の共同体
私は、ネットにおけるポータルとは、領主と民衆における「現代型デジタル封建社会」の共同体の縮図だと考えており、Apple、Google、Amazon、Facebookなどはそのポータルとして最先端であり、それらの頂点と位置付けている。
そして、もう1つの論調は、「ゲームプラス」が既存のアプリ市場を転換し席巻するのか……という論調がある。
これに関していえば、おそらくそれも難しいのではないだろうか。この場合の「難しい」はできないという意味ではなく、市場を拡大することはできるが、AppleやGoogleに取って替わることはないという意味だ。それは「ゲームプラス」側も、「(従来の)市場を壊すのではなく、拡げたい」といっていることからもわかると思う。
もちろん、それはYahoo! が持つ自前のビジネスとの相乗であって、ゲームをフックに、もしくはほかのサービスからゲームへの誘引などを行うという意味でのYahoo! 内のエコシステムの強化という側面もあると思われる。
現代型デジタル封建社会の農地解放か……
今回の「ゲームプラス」のポータルでの課金料率は公開されていない。
それらの課金料率は、既存のAppleやGoogleとは異なるもので、さらには導入早期に賛同しコンテンツを独占的にはリリースしてくれたパブリッシャーに対しては、コンテンツ業界の通例として料率などの条件は優遇されるものだろう。
さらには、従来型のポータルとは異なり、コンテンツの事前審査を行わないこと、ゲーム更新などの手続きにおいてパブリッシャー側の意思とアクションを促進することを考えるとなど、性善説に基づく「場所貸し」という解釈もできる。
世界におけるアプリ市場の収益の大半が日本からのものであり、それだけ大きな市場においての新しいアクションが警戒されることは無理もないことだろう。
また、AppleやGoogleが危惧するのはかつて日本にeBayが進出しようとしたときのようにYahoo!側が対抗措置として、手数料を無料にしたことなどが浮かぶのかもしれない。
今回の「ゲームプラス」の発表から今に至るところでは表立っては双方に大きな動きはないが、「ゲームプラス」デジタル封建社会における農地解放に値する出来事かもしれない。