[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第19回: セミナーセッションの活かし方

「黒川塾」という勉強会を始めて、4年が経った。ご存じない方もいると思うので簡単に説明をするが、黒川塾の元になったイベントがある。ちょうど、ブシロードの副社長を退任したタイミングで、2010年の7月ころのことだった。知人たちの間で、「黒川さんが仕事を辞めたらしい」「少し元気がないらしい……」「だったら盛大に『(ブシロード卒業の)お疲れ様』の会をやってあげよう」……という主旨のもと、私の知らないところで「大黒川祭り(だいくろかわまつり)」という会が開催されることになった。

大黒川祭りは生前葬だ……

よくわからない開催主旨だったが、自分が主導でもないので、ここは身を任せることににした。会場は秋葉原のDJバー「MOGURA」。

今でも「大黒川祭り」でインターネット検索すると出てくるが、開催は2010年7月22日だった。

古くからの知人・友人はもちろんのこと、会ったことがない人まで来場いただき、最終的にキャパシティ150人のところに200人以上に人が集まってくれた。

この会で初めて知り合った人もいた。「なんだか面白そうな人のイベントなので来た」というのが理由だったようで、その人たちとは今も親交がある。

人生とは奇妙なものであり、人との出会いはありがたいものだと思っている。そんな「大黒川祭り」は、私の50歳記念の区切りとして振り返る、とても楽しいイベントだった。声優の榎本温子さんが特別ゲストとして来て頂いたことも思い出深い。

あれだけの人が集まるのは最初で最後かも知れないと思い、自分の中では「これは(大黒川祭り)生前葬なので、もうこれで思い残すことはない」と思ったのだ。

そして、黒川塾への足掛かりへ

当然ながら、祭りのあとの静けさや、寂寥感(せきりょうかん)はあったものの、そのまま何もしないわけにはいかない。

働かざる者食うべからず。その後、ご縁をいただき、コナミデジタルエンタテインメント(以下、コナミ)を経て、NHNJapan(当時:以下、NHN)へと転職していくことになった。

コナミでは、当時ガラケーでヒットし始めていた『ドラゴンコレクション』の宣伝販促関係に携り、NHNではPCオンラインゲームを数タイトル、スマホ向けのゲーム開発を数タイトル開発管理。そして、運営までの責任者をやらせていただいた。

その中で、日々、自分の業務に埋没していること、なんとなく新しい接点や新しい知見を得ていく機会が減っていることに気が付いた。

まあ、大きな企業ほど社内で完結できることも多くなるし、外部からの提案も増える。おのずと、外交的というよりも社内政治の方が多くなる。そんなことも自分としてはちょっとネガティブな要素が増えつつあった。

何もしなければ、加齢と共に出会いは減る

そんな社会人としての日常の中で感じたのは、このままではいけないという危機感だった。50歳を超えて責任のある立場になったとはいえ、別に技術があるわけでもない、人徳があるわけでもない、知識が豊富にあるわけでもない。

さらには、昔はいっぱいあった出会いの機会や、知識が自然と身に着くような時間も明らかに減っている。
だったらそのような技術、人徳、知識・知見のある人に出会えるチャンスを作ろうと思ったのが「黒川塾」への足掛かりだった。

手探りながらも、大黒川祭りから、人と人、知識と知識、言い換えるならば、人と知識が出会う場所と時間を創ることを考えた結果生まれたのが黒川塾だ。

黒川塾の1回目のエンタテインメントの未来を考える会 

幸いなことに、黒川塾は2012年6月22日の開始から、2016年6月で4年目を迎えた。

さらに、9月に40回目を迎えることができたのは、自分の知識を得たいというモチベーションもあるが、むしろこの会の主旨に賛同して登壇いただいた数多くのゲストのおかげだと思っている。

そして、来場いただいた数多くのお客様のおかげでもある。数えたことはないが、毎回平均すると約50名のお客様にご来場いただいている。

となると、総計で約2,000人の方々に来場いただいたことになる。一般的な数とすれば少ないかも知れないが私個人としてはとても素晴らしい数字で、身に余る光栄なことだと思っている。

この場を借りて御礼を申し上げたい。

黒川塾39回目のエンタメ的人工知能(AI)セッションの登壇者(左から)松原様、伊藤様、三宅様

100回目に向けて

先日、パシフィコ横浜で開催されたCEDEC2016で、個人公募したセッションが採用され、1コマのセッションを開催させていただいた。
こちらも公募を支援いただいた知人やCEDEC事務局、ゲストとしての登壇を快諾してくれたメンバーに深く感謝を申し上げたい。

どの程度かはわからないが、自分が地道にやってきた活動が少しでも評価いただけることは大変うれしい。

黒川塾に関しては、冒頭に述べたモチベーションがいつまで続くかはわからないし、残りの人生がどれほどかもわからないが、勉強する気持ちがある限りは続けていきたいと思っている。

4年で40回、順調にいったとしたら60歳を迎えるころには100回になっているかもしれない。

セッションの活かし方

僕自身が自分で黒川塾を開催していて思うのは、参加して何を得るかということが重要だと思う。

何か1つでもいいので、自分の中の言葉や知識として語れるようなものが残れば、それで参加した意義はあるのではないだろうか。

技術系ならば、紹介された技術を自分でも実際にやってみることをお勧めしたい。この「やってみる」「語ってみる」ことができればそれでいいと思う。

「黒川塾」もその視点で、そこから始まった。

まずはやってみようという、その一歩から始まった。特別なものは何もない。誰でもやろうと思えばできる。そんなことの積み重ねに過ぎない。いつかあなたとお会いできることを楽しみにしている。