私自身は賛成反対という2つのスタンスではなく、あくまでも中立的なスタンスで考えている。それでもいくつかの懸念点がある。
闘会議2018にて。JeSU理事のGzブレイン代表取締役社長浜村弘一氏(写真右)とJeSU代表理事でセガホールディングス代表取締役社長岡村秀樹氏(写真中央)
プロゲーマー認定で「ベーシックインカム」は発生するのか?
まず、今回のJeSU発足以前から「プロ」として活動し、それをもとに生計を立てていた人たちにとって、改めてプロ認定を受けることは抵抗があるという話を見聞きすることがある。ただし、あくまでもそれは心理的な障壁に過ぎず、プロ認定を受けること自体が「損」かといわれれば「損」はないと思う。
プロ認定……、もらえるものはもらっておくという気持ちでもいいと思う。
1つ懸念があるのは、大会の賞金がプロとしての労働報酬を前提にしているという現在のロジックからすれば、そのプロゲーマー認定がJeSUとの契約で「正社員」や「契約社員」的に応じた処遇を受けると考えられる。または「大会優勝という成績優良者」のみへの処遇、報酬制度と言い換えてもいいだろう。
しかし、JeSUとの契約が「正社員」や「契約社員」的なものだとすれば、JeSUにプロゲーマー認定されていることで「ベーシックインカム(最低所得保障)」が発生するような条件の契約でないと、ロジックとしては正しくないのではという考えも浮かぶ。
それらは、今の時点でははっきりと見えてこない。おそらく、現在の情報を元にすれば、そのような契約ではなく、単なるプロゲーマー認定という「称号」のみだろうと思うが、早期に情報の開示をしていただきたい。
アマチュアとプロの境目がもたらすメリットとデメリット
例えば、読者のあなたがユーチューバーになりたいと思ったら、あとは行動を起こせば、あなたもユーチューバーの仲間入りだろう。
しかし、そこで再生数を稼げるようになるかどうか、広告収入などが右肩上がりになるかどうかは、あなたがアップする動画やそのセンス次第だ。このようなあまたのユーチューバーやそれに類したエントリーユーザーがいるおかげで、私たち視聴者は面白動画や珍しい動画に出会うことができるのだ。
そこには、入口や方法論を制限しないことによるメリットがある。
そのユーチューバーを免許制にしてみたらどうだろうか? ユーチューバーの免許、そもそも、何をもって免許の定義するのだろうか?
面白いことの定義は人によってさまざまで、ニュースを中心にやりたいユーチューバーもいれば、かつての「JACKASS(ジャッカス)」のような危険を顧みない動画を投稿したいと思っているユーチューバーもいることだろう。
ユーチューバーをプロゲーマーに置き換えてみればわかりやすい。
それぞれ異なるジャンルのゲーム、異なるプレイスタイルなど、それぞれのよさがある。間口が広いことで、誰でも自由にユーチューバーとして活動して、うまくいけば年間数億円の収入を得るチャンスがある。
一方、うまくいかなければ、いずれ更新頻度が落ちて興味や関心もなくしてやめてしまうことだろう。
でも、誰でもその可能性を感じたりすることは重要なことではないだろうか?
芸能界はどこにでも入口の扉があるが、逆にいえばたくさん出口がある世界だと思ってもらえればいい。プロ認定を受けて、なきものはゲーマーに非ずに近いこの扉はプラスなのかマイナスなのか……。
4年後のことをコミットすることは誰もできない
2018年2月9日から2月25日までの17日間、大韓民国江原道平昌郡にて平昌オリンピック冬季競技大会が開催された。参加選手からすれば4年のタームは長いようで短い。仮にオリンピック種目にeスポーツが採用された場合も同様であろう。
人生の貴重な時間を消費することだろう。
ちなみに、今回の平昌オリンピック開催前の2月5日から7日までの期間、江陵(カンヌン)市で平昌オリンピック公認eスポーツ大会「Intel Extreme Masters(IEM)」が開催された。その際にゲームタイトルとして選定されたコンテンツは、韓国で人気を博した『スタークラフト2』だ。
私が今から15年ほど前に、韓国のPCゲーム事情を調べに行ったときから前作の『スタークラフト』は人気の高いコンテンツで、現地のPC房(バン)を見学するたび、ほとんどのプレイヤーが『スタークラフト』に興じていたことをよく覚えている。
それらの事情もあってなのかどうか確認はできないが、『スタークラフト2』が正式種目になったのは、オリンピック開催国である韓国のeスポーツ事情に配慮したものだったという想像は難くないだろう。
ちなみに、もう1つのコンテンツは、「平昌オリンピック」をテーマにした公式ライセンスゲーム『スティープ ロード トゥー ザ オリンピック』(Ubisoft)で、ウインターエクストリームスポーツを題材にしたものでオリンピックに相応しいタイトルだと思う。
今回の『スタークラフト2』のように、開催国への配慮があった場合、それを4年間の間どのように準備し対応するのかというは難しい課題だ。とあるゲームに集中してやってきたが、読みが外れてしまうこともあるかもしれない。東京の次に行われる2024年のパリオリンピックでは、現実の問題になるかもしれない。
「バッハさんに聞いてください」
2月10日に開催された闘会議のファーストステージイベント、JeSUの一般へのお披露目会見で、 eスポーツの採用に関して 岡村秀樹理事長はこういった。
「バッハさんに聞いてください」
正直な気持ちだろう。舗装はされていないが、まず道は作った。しかし、このあとどのように道を馴らして整備し、どのようなものを走らせるのかはJeSUオンリーの課題ではない。ゲームパブリッシャー、プレイヤー、私のようなゲーム関連周辺で仕事するもの、さらには一般のみなさんの意識も大きく関与してくる。
肝心の国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長も『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』の取材に対して、
「我々は人々の間に非差別、非暴力、そして平和を広めたいと思っています。暴力や爆発や殺戮に満ちたビデオゲームは、この方針に合わないのです」
と語ったという。「じゃあ、ダメじゃん」というため息交じりの嘆きが聞こえてきそうだ。
しかし、時代は変わる、人も変わる。
ゲーム産業は、今また新しい変化を迎えようとしている。
かつて音楽産業で働いた私が感じていることは、1980年代後半から1990年代半ばまでCDを中心にメガヒットが相次いだ記憶がある。音楽産業が絶頂を迎えた時期だ。
しかし、その後、粗製乱造が祟ったか、さらには音楽配信に市場を塗り替えられたと思われるが、「ライブコンサート市場」の規模はそれに反して右肩上がりに転じた。
ゲーム産業にも同じことが起こる可能性を期待することはできる。家庭用ゲーム市場がダウントレンドになる中、スマホゲームへの嗜好転換も大きく進んだ。これによってゲームに関与する周辺人口は増えたことだろう。
さて、次に考えるべきはゲームにおける「ライブコンサート市場」は「eスポーツ市場」に他ならない。
今回のJeSU発足、プロゲーマー認定、それぞれにさまざまな賛同、異論はあるものの、関係者の努力によって道はできた。あとは誰がどのように進むかだ。
これから先もゲームとその関連ビジネスは成長することだろう。
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