『DURANGO』は大きな「夢」を見てスタートした
本セッションでは、『DURANGO』の開発を務めているクリエイターのヤン・スンミョン氏が登壇し、本作の開発過程で起こったさまざまなエピソードを発表。
そもそもDURANGOは、本当に大きな夢を持ってスタートした作品であったと語る。
今回は、開発チームが持っていたという4つの夢に沿って、振り返りが行われた。
- 半永久的なMMOワールド
- 常に変化していく環境
- ユーザーが実際に野生環境に遭難したような体験をさせたい
- 特別な成長モデルを導入する
1.半永久的なMMOワールド
DURANGOは、他のMMORPGのようにチャンネルが分かれておらず、1つの世界で多くのユーザーが同時にプレイできる。
決まった場所に家などの建築物を作るのではなく、どこでも開拓して自由に建築することができるようになっており、こういった世界の中でユーザーが地図を作っていくゲームを作ろう、という夢があったという。
実際にプロトタイプでテストをしてみたところ、最初はすぐに大陸が人間で埋まってしまったという。
人口密度の問題を解決するために、次に考えられたのが人口の流入に応じて新大陸をオープンする形式。
しかし、このような形式を取ると、新しい大陸と古い大陸で大きな差が出てしまったという。
古い大陸は建物が多く空いている土地がないが、新しい大陸は、建物が少なく、人口も少なくなる。
大陸間の差をなくすために、古い大陸を消滅させてしまうということも考えたが、古い大陸には多くの定住プレイヤーがおり、大陸の消滅はそのユーザーを悲しませることになってしまう。
さまざまなテストや議論を経て、最終的には、「安定島」「不安定島」という2種類の大陸が登場する形式に落ち着いたという。
安定島は、時間が経ってもなくならないので、安心して開拓と建築を進めることができ、不安定島は周期的に消えては現れるということを繰り返す。
不安定島の存在により、プレイヤーはいつでも新鮮な探検をプレイすることができるようにしたとのこと。
2.常に変化する環境
こちらの実現のために開発チームが取り掛かったのが、環境のシミュレーション要素。
大陸単位に「肥沃度」の要素を組み込んで、種を撒き、草食動物は植物を食べ、肉食動物は草食動物を食べて……という形式で、食物連鎖をそのままシミュレーションをしていったという。
これを、大陸単位でシミュレーションしていったところ、土地の面積によって食物連鎖の速度が変わるという結果が出てきた。
実際のゲームでは、面積がもっと広がるので、ロジックも複雑化していったという。
しかし、特定の資源が絶滅してしまうと、必要な物資が集められなくなり、ゲームの進行自体ができなくなってしまう。
それを防ぐため、資源のスポット、クレーターという概念が追加されていった。
結果的に、初期にあったシミュレーションの夢は、ある程度は妥協したものの実現できたとのこと。
3.ユーザーが実際に野生環境に遭難したような体験をさせたい
開発チームには、「人間が恐竜時代にタイムリップしたらどうするか」ということをユーザーに体験させたいという夢もあったという。
たいていのゲームでは、NPCが与えるクエストを達成することで、ユーザーのモチベーションを引き出していたが、初期のDURANGOにはクエストが存在しなかった。
はじめは、クエストなしでユーザーの行動パターンを引き出す大きな軸は、「生存」と「協力」と考え、ドキュメンタリー番組なども参考にしながら、システムが構築されていった。
初期のバージョンでは、空腹度や喉の渇きなどの生き残りに関連した要素を全部ゲージで作っていったという。
しかし、この仕様だと多くの問題が発生した。
お腹が空いていて、喉は渇いていない、体温は上がっていて……という複雑な状態を、モバイルの小さな画面でプレイヤーに伝えるのが困難になってしまった。
また、生き残るためにプレイをしていると、そちらにばかり気を取られて文明が発展していくようなことが見られなかったという。
さらに、ゲームを作っていくうちに、サバイバル要素のあるインディーゲームが登場し始め、この要素はあまりほかのゲームとの差別化にはならないという結論に至った。
最終的にサバイバル要素は趣だけを残して、「疲れ度」という要素に単純化したとのこと。
さまざまなテストを重ねていく中で、ソロプレイヤーのモチベーション問題も指摘されたという。
本作は、元々は協力プレイを前提としているので、仲間と組んでプレイすることを推奨したが、新規で入ってくるプレイヤーはソロプレイヤーがほとんどだった。
ソロプレイだと、どうしても必要な物資が手に入らないケースが出てくるため、すぐにゲームを離脱する要因になってしまう。
開発チームはこれを受け、初期のころは、ソロプレイヤーがモチベーションとなるものを探すまでは、ガイドによるオン・ボーディング(※)が必要ではないかと考え始めたという。
※一般的には新入社員を組織に慣れさせるプロセスのこと。ネクソンでは、新規ユーザーに対してゲームのガイドをしていくことをオン・ボーディングと呼んでいる
チュートリアルの要素は、DURANGOのゲーム性と合わないため、慎重に作られていった。
しかし、なかなか思うように行かず、散々悩んだ挙げ句、ディレクターが一直線のガイドを取り入れることを決定。
1時間くらいの、若干のストーリーが入っているガイドで、これを入れてみたところ衝撃の結果が出たという。
ガイドを入れた瞬間、ユーザーが1時間ずっとゲームを夢中でプレイしていたそうで、このユーザーの反応を見て、ディレクターも「入れたほうがいい」と評価が変わったとのこと。
しかし、ガイドの追加後は、ガイドが切れた瞬間にユーザーが離脱してしまうという問題も発生した。
これを解決するために取り入れられたのが、決められたミッション内容をこなしていく「任務」だったという。
任務を与えられることで、ソロプレイをしていたプレイヤーが、ガイドが終わったあとも継続してプレイするようになっていった。
当初のNO NPC, NO QUESTというコンセプトは覆ってしまったものの、結果的に開発チームはこの過程によって、クエストの重要性というのを再確認できたという。
4.特別な成長モデルを導入する
MMORPGは、大まかに「サンドボックス型」と、「テーマパーク型」の2つにに分けることができる。
- サンドボックス型:スキルツリーが非常に複雑で、成長は自由にできるがユーザーが自分で方向性を見出す必要がある
- テーマパーク型:「レベル」の概念が存在し、レベルさえ上げていけばそれなりの強さになる
スンミョン氏がディレクターにDURANGOの方針を聞いてみたところ、サンドボックス型だったそう。
しかし、自由度の高い、複雑なスキルツリーは、あまりにもラーニングカーブ(学習曲線)が高くなる。
スンミョン氏は複雑なスキルツリーはユーザーにとってもわかりにくいと考え、3つのレベルを基盤にしたものを提案したという。
しかし、それでも次第に複雑化していってしまい、テスト段階においても、テスターが理解をするのが難しいという報告があったという。
大規模なCBTを控えていて、このテストでユーザーがこれを理解するのは難しいと考え、ディレクターの判断によってレベルの要素が導入された。
戦闘でレベルアップをするのがあまりにも効率的なので、ユーザーがみんな戦闘ばかりをやっている、というような問題は発生したものの、おおむね好評。
その後も議論が重ねられ、今のようなレベルと、スキル系列別のレベルを共存させる形に落ち着いた。
レベルのおかげでラーニングカーブが下がり、ユーザーに「私は採集家だ」「私は建築家だ」といったアイデンティティーが生じて、おのずと役割分担までできるようになったとのこと。
また、戦闘についてのエピソードも語られた。
スンミョン氏は、はじめは戦闘について大きな夢は持っていなかったものの、初期のメンバーに『マビノギ英雄伝』のプログラマーとアニメーターがおり、戦闘に関しても高いレベルの実現が求められた。
戦闘については、プレイヤー間の同期の部分が難しく、さまざまな試行錯誤が行われた。
他の要素と比べるとじっくり開発が進んでおり、今も改善方法を模索しているという。
成功の秘訣はユーザー対象のテスト!
スンミョン氏はここまでを振り返り、DURANGOがここまで成功できたのは、3つの要因があるとした。
1.外部ユーザーを対象にテストをたくさん行う
最初に挙がったのが、外部ユーザーを対象にテストをたくさん行った点。
これにより、多くのフィードバックを回収することができ、(心は痛んだものの)参考になったという。
また、モチベーションとラーニングカーブに関しては、これは外部の人を対象にしたテストでのみ検証が可能な部分であり、多くの付加価値も出る。
こういった多数のデータを集め、信頼性を高める努力をしていったという。
2.チーム内で生産的な討論文化を持つ
スンミョン氏は、ディレクターとの議論の場で、あえて先頭に立って反論を言うなど、現場において自由な討論の雰囲気を作るために努力したという。
その過程で、自由な意見交換ができ、チームのビジョンを統一させることもできたそう。
討論の結果が出なかった場合は、多数決で決めてしまいたいという誘惑に陥ったものの、最終決定はディレクターが下すこととし、ディレクターが決めると、チームはそれに従うというルールにした。
討論の過程が、その後の意見の統一にも役に立ったという。
3.ビルド(開発版バージョン)ごとに夢の方向性が正しいのか検討する
ゲームを作るには数年間の開発期間がかかるので、最新のトレンドに合わせるため、テストバージョンごとに実現する夢を再検討していったという。
場合によっては、夢を取捨選択する場合もある。夢を諦めるときには、なぜその夢を見ていたのかを考えて、いい代案を作るために努力しなくてはいけないとスンミョン氏は語った。
最後にスンミョン氏は、ジャンルの文法を否定してみるのも重要とコメントした。
DURANGOにおいては、レベル、クエストという要素を排除しようとした結果、この2つがなぜ存在して、どういう役割をしていたのかということを再発見できたという。
いったんジャンルの文法を否定してみることが、ありきたりなゲームにならずに、思いもよらない妥協点を見い出すことにつながったそうだ。
韓国では大人気で、日本でも年内にリリース予定のDURANGO。
さまざまなデータ解析が行われており、ゲームを面白くするためのロジックがふんだんに盛り込まれている。
2018年リリースのスマホゲームで、目玉となるのは間違いなさそうだ。
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