[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第60回: 国境なきイベントへの招待

去る3月28日、29日に東京ビッグサイトで開催された「Slush Tokyo 2018」を見学してきた。このイベントは、本コラムで紹介しているようなゲームやエンタテインメント系の展示会ではない。Slush Tokyoのコンセプトは、世界最大級のスタートアップイベントと称し、夢を掴もうとする国内外の才能あふれる若き人材と世界的な起業家、投資家、エグゼクティブ、企業、ジャーナリストたちがマッチングする2日間のイベントだ。

Slush Tokyo 2018とは?

Slush Tokyo 2018には約6,000人の参加者があり、会場内に配置されたブースではそれぞれのテーマに基づいてセッションや展示が行われていた。

写真提供:Slush Tokyo

特徴は、ほぼすべてのやり取りが英語で行われるということ。もちろん、出展者が日本人の場合や、在日の大使館が後援するような展示者は日本語での会話が可能だが、出展者の多くが海外からの直接出展というケースで、質問をしたり、説明を聞いたりするためには最低限の英語力が必要だ。

会場内は、ここが日本とは思えないほど外国人の比率が高く、まるで海外の展示会に来たような印象を持った。

そして、すべてのブースがカッコよく仕上げられており、いわゆる東京ゲームショウ的なものや、コミックマーケット的な日本オリジンのものとは一線を画するものだった。

出展の中でも目立ったのは、

  • 健康を視野に入れた新規テクノロジー
  • 仮想通貨やブロックチェーンの仕組み
  • もしくはそれらの安全性を担保するようなアイディアやコンテンツ

などで、ゲーム、エンタテインメント的なものは一部のVR展示に限られていた。

ちなみに 日本からの出展では、地方自治体として仙台市、横浜市などの出展もあり、それぞれの自治体が推進する新規事業の出展も目を惹くものがあった。

無人船ドローンのコンセプトモデル(仙台市出展ブースより)

このイベントを見学して思ったことは、「ストレートに面白い」ということ。加えて、起業すること、何か新しいことを始めるということは、このようなさまざまな人種や思想、立場を越えたコミュニケーションの先にあるものを目指すのではないかということを感じた。

TOKYO SANDBOX 2018とは?

「TOKYO SANDBOX」は過去に、Tokyo Indie Fest Game Show(東京インディーズ・ゲームフェスティバルゲームショー)名義で2015年と2017年に開催されたイベントの延長線上に位置するもので、基本的な開催のコンセプトは、インディーズ系ゲームの見本市的な展示体験会だ。

単なる展示ではなく、プロト(試作)のものを出展して、一般の参加者にデバッグしてもらうような意味合いも兼ねてのものと思っていいだろう。

同時に、ここで知り合うインディーズゲーム開発者同士の横の連携や、新しいパートナシップの見つける場所になっているようにも思う。今年の「TOKYO SANDBOX 2018」は、4月14日、15日に浅草橋ヒューリックホールで行われた。出展は72組になるという。

この「TOKYO SANDBOX」も、先に挙げた「Slush Tokyo 2018」同様にイベントのオーガナイザーがガイジン(外人)。オーガナイザーのKevin Limさんは、日本でkulaboという会社を立ち上げており、積極的にこのイベントを推進している。

ゆえに、ちょっと外国っぽいというか、テイストが明らかに日本のステレオタイプの展示会と異なるものを感じた。

イベントオーガナイザーのKevin Lim氏(右)と筆者(左)

当日、会場に配置された展示とゲームの中で、個人的に気になったものをピックアップする。いかにもインディーズ的なものから、もうこれはプロのしわざというものまで多種多様だった。

注目ゲーム1:重機vs焼売

写真を見てもよくわからないと思うが、焼売の上にポツンと「点」のように見えるグリーンピースだけをショベルカーを使って落とすというゲームだ。専用のクレーン操作用レバーとコントローラーまで用意してあり、ゲームの完成度うんぬんを越えた存在感。

かつて、筆者が企画した重機破壊ゲーム『モンケン』を彷彿とさせるものがある。ただ、これをどうやってビジネスにするんですか? という質問には「ノープランで作っています」という割り切った回答もインディーズっぽくて素敵だ。

ちなみに、同じ出展チームのミストスプレーをデバイスとして使用した『シュココーココ』も興味深かった。いい意味でコツコツと積み上げる「部活」っぽいスタンスが、インディーズを象徴していると思った。

注目ゲーム2:サリーの法則

本作は、Nintendo Switch向けにリリース済みのゲーム。インディーズゲームといえども、ほぼプロ集団の開発手腕が発揮されているタイトルと言えよう。

今回の出展コンテンツは、2人協力プレイを前提にしたもの。2人の息の合ったプレイでクリアする必要がある。

コロコロと転がるかわいらしいキャラクターのイメージもよくできている。ゆるいプレイかと思いきや、徐々に難易度は上がっていくので、初級者から上級者まで幅広い層が楽しめる1作になっている。

注目ゲーム3:VIDEOKID(ビデオキッズ)

ドット絵がノスタルジーを誘う1980年代のアタリのゲームをイメージさせる良質な作品。それもそのはず、元ネタはアタリの『ペーパーボーイ』。本作では、新聞ならぬ「ビデオカセット」を各戸に配達するというゲーム。俗にいう、オマージュコンテンツだ。

キャラクターは、あの名作映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する「マー■ィー」にそっくり。この「■―ティー」以外にもたくさんのオマージュキャラクターがゲーム内には登場する。ゲーム自体はスピード感のある展開で、キャラクター操作で気を抜くとすぐに障害物に衝突してしまう。難易度調整など、最後のチューミングでいい塩梅になってほしい。

注目ゲーム4:Shaolin5(シャオリンファイブ)

地獄の少林拳道場バトル、それが『Shaolin5(シャオリンファイブ)』。少林寺の焼き討ちから生き残った5人の少林ゾンビが、魔物と少林拳で勝負するというゲームだ。

やっつけても、やっつけても湧き出てくるような少林ゾンビ、まさにイメージは不死身の百人組手。雰囲気はまったく異なるが、斜め視点から見たバトル版『パックマン』のようなイメージ。

キャラクター設定は地獄の監獄の演出などビジュアル面の秀でたセンスを感じるコンテンツ。開発者によるとアジア、北米市場狙ってコンテンツをチューニングしているとのことで今後展開が楽しみだ。

注目ゲーム5:Floor Kids(フロアーキッズ)

会場でもひときわ目を惹くダンスバトルゲームが、『Floor Kids』(フロアーキッズ)。すでに開発中のニュースはいくつかのサイトで情報を読んでいたが、実際に触れるのは今回が初。出展版は日本語にローカライズされていた。

プレイはダンストリックを組み合わせてダンスバトルを行うもので、どの操作がどのダンストリックになるかというのをあらかじめよく理解した上でプレイした方がいい。

もしくは、UI上でそれらの操作をアシストするような演出がプレイ中にあるとベターだろう。キャラクターメイキングも秀逸で、ゲーム自体が醸し出すCOOLな雰囲気は、今回の出展タイトルの中でも群を抜いていた。

さて、ここでピックアップした上記の5タイトル以外にも、たくさん良作があった。イメージ的に言えば、ドット絵の1980年代を感じさせるようなシューティングゲーム、パズル、サウンド系などたくさんのコンテンツに出会うことができた。このTOKYOSAND BOXを通じて、切磋琢磨し、新しい出会いがあり、よりよいコンテンツが正式にリリースされること期待している。

VR系コンテンツの出展は、会場のブース配置の関係で、わかりにくい場所になってしまったことが残念な要素。会場では、ステージイベントがTwitchで生配信されていたが、これらを会場内でチェックできるような環境が整うと、もっと盛り上がったかもしれない。

今回紹介したSlushTokyoとTOKYOSAND BOXは、東京ゲームショウとも、コミックマーケットともちょっとテイストが異なる海外系イベント。新しいコンテンツや新しいチャレンジは混沌(カオス)から生まれることだろう。