日本向けに調整していくカルチャライズの重要性
ネクソンでは、韓国で先行配信されたタイトルを日本で配信、運営する際に、「カルチャライズ」という工程に重きが置かれている。
既存のコンテンツを日本のユーザー向けにコンバートさせていく、ネクソンが得意とするノウハウについて、ネクソンジャパンの水野太介氏が語ってくれた。
水野氏の属するプロダクトデザイン室では、『Maple Story』や『Tales Weaver』、最近では『HIT』や『HIDE AND FIRE』といった日本で運営されているタイトルの、ゲーム内イベントの企画や、アイテムの制作などを行っている。
近年はモバイルタイトルが増え、PC市場よりもユーザーの幅が広くなっている。単純に既存のものをアップデートするだけではなく、より日本のユーザーに刺さるコンテンツ造りというものが重要となっている。
文化間のギャップを埋める
言語の翻訳を行う「ローカライズ」に対して、その地域の文化にあわせてコンテンツを改変していくことが「カルチャライズ」だ。
たとえば、同じキャラクターを各国の人たちが見たときに、その感じ方はそれぞれの文化によって異なる。
韓国人が見てかわいいと感じるキャラクターが、日本人から見ても同じ印象を持つかといわれると、必ずしもそうではない。
日本人がかわいいと思いやすいキャラクターに変更していくことが、文化間のギャップを埋める「カルチャライズ」という作業になるのだ。
実際には、開発段階からコンテンツ制作が始まる場合もあれば、韓国ですでに出ているものを調整する場合もあるという。タイトルによって状況が異なってくるところがカルチャライズの難しいところだ。
水野氏は、すでに出ているタイトルを例に、これらの面についても語ってくれた。
ドミネーションズの場合
歴史シミュレーションゲーム『ドミネーションズ』。
かなり“濃い”イラストであるため、このまま展開していくと、目標のKPIに達しないのではないか、という懸念があがった。
そこで、ターゲットの幅を広げるために、新しいイラストを日本側で新たに制作。ターゲットの層をコア層から、ミッドコア層へと広げてプロモーションが実行された。
HIDE AND FIREの場合
続いてはガンシューティング『HIDE AND FIRE』。
イラストが重厚すぎるというところと、アジア系アイドル感のあるキャラクターが日本人には刺さらないのでは、というところを調整。
キービジュアルやキャラクターを日本向けに調整したほか、日本側で作成したキャラクターを定期的に追加していくという対応をとった。
マビノギ英雄伝の場合
PC向けのMORPG『マビノギ英雄伝』では、新キャラクター追加時に調整を行ったという。
韓国でのリリース後の評判などを考慮し、新キャラクターとして、もっと見た目に惹きがあった方がいいのでは、という課題があがった。
HITのカルチャライズAtoZ
最後は日本で大ヒットした『HIT』。水野氏は、分析からその打開策の検討、実行までを順を追って説明してくれた。
1.日本リリースに向けての課題を分析
リリースにあたって、まずは、日本の運営チームを中心に、韓国版HITの分析を行い、日本ユーザーのニーズに合わせて、ストーリー性やキャラクター性、ゲームシステムの変更が必要であるという判断が下された。
それらを達成するために、デザイン面でいくつか解決しておきたい以下のような課題があるということが浮き彫りになったという。
浮き彫りになった課題
- 課題1:キャラクターがコア層向けのデザイン
- 課題2:主人公が会話シーンで登場しない
- 課題3:キャラクターやイラストのテイストが固定されていない
- 課題4:日本向けとしてはアバターの数が足りない
2.どう課題を解決すべきかを検討
韓国版HITは、元々アクションと世界観に重点を置いた構成。日本で定着させるためには、より主人公、キャラクターに愛着を持たせるための施策が必要であるという判断となった。
その打開策として出たのが、イラストのタッチやテイストなどをどのあたりに着地させるか、そしてそれを改修によって行うか、新規で描き起こすのというところを検討。
そもそもHITの中でどのくらいの画像素材があるか、手を入れなければならないものがいくつか、というところを精査し、工数などを算出していった。
なお、カルチャライズには弊害が起きる可能性もある。
たとえば改修を多数入れたHITの場合は、元々の制作会社で作成された素材がそもそも使えない。
新規作成のコストがかさむため、サービスの状況や費用対効果といったところと照らし合わせつつ、随時判断していく必要があると語った。
3.実際に制作を依頼
単純にイラストを日本向けのものに合わせるだけではなく、ゲーム内の背景、世界観との親和性も大事にすることも重要。このあたりはイラストレーター選びの観点となる。
日本向けのテイストと、もともとある描きこみの多さをバランスよく対応できるBraveking氏は、こういった経緯から採用されたということも明らかになった。
Braveking氏には、登場する全キャラクターの調整などを依頼。6か月ほどの制作期間をかけて、完了となった。
そのほか、ストーリーについては、日本側で全面改修。ストーリーはかなりボリュームアップしたという。
配布用の壁紙やSNSで使えるスタンプなど、いかにも日本向けといった対応も行われている。このあたりの制作には、グループ会社であるgloopsが担当している。
また、HITに4月27日に追加されたばかりの「飛燕」はもともと『OVERHIT』のキャラクター。
HITとOVERHITのカルチャライズ担当者が同じだったということで、追加はかなりスムーズに行われた。
日本のユーザーは、HITに関わらずアバターの需要が高いほか、アップデートやイベントを重要視する傾向にある。
こういったところが、施策や売り方の違いにも影響しており、日本では、アバターはガチャをメインとして販売している。
毎イベントで出すようなことになるため、多くの数が早めに必要となったという。
もちろん、単純にアバターを制作するだけではなく、HIT特有の好みの傾向や、売り上げやユーザーの満足度につながりやすいテーマの選定も行っていく。
こういったところが功を奏してか、HITはローンチから3か月でセールスのトップ10入り、ダウンロード数も300万を突破。
当時、高い等身の3Dアクションゲームが少なかったことも成功の一因ではあるが、カルチャライズとして、ネクソンコリアとネクソンジャパンが密に連携したことが、その成功を大きくしたのは間違いないと水野氏はまとめた。
日韓のゲーム制作の違いあれこれ
最後は、ゲーム制作、特にイラスト面における日韓の違いがテーマ。日韓両方のイラストに触れた水野氏だからこそ気づく、さまざまなポイントを語ってくれた。
日本と韓国のイラストの違い
まずは、イラスト面の文化の違いについて。水野氏は、韓国のデザインを確認したときに懸念となる傾向をいくつか提示してくれた。
ケース1.「過去に日本で流行った気がする」
日本人にとっても違和感はないが、なんだか古いと感じてしまうパターンだ。
日韓の流行の違いと、制作者自体が日本のコンテンツの影響を大きく受けてしまっている場合が多いと分析。
特に、1990年~2000年代の影響を受けていそうなイラストが多いとのことだ。
ケース2.「ディティール(描きこみ)量や配色の違い」
HITもそうだったが、非常に描きこまれたイラストである場合。文化の違いや、欧米圏のゲームにどれだけ親しんでいるかが影響している。
ディティールの差が問題というわけではないが、日本向けと考えると、ターゲット層を狭めてしまう可能性がある。
ほかにも、配色の傾向にも違いがある。韓国、ネクソンは特にだが、緑っぽい青を多く使用する傾向にあるという。これが中国になると黒、日本なら原色の赤、青、黄色など、地域によって異なる。
ケース3.「韓国特有のデフォルメ表現」
日本では使わないデフォルメバランス、等身の違いなどがここに当てはまる。それを良しとするか、その度合は場合によって異なる。
もちろん日本でもアクションゲームなど、スタイリッシュな印象を出したいときは8等身を超えたり、女性向けゲームの場合は長身ですらっとした体形にすることもある。ゲームジャンルやターゲットによりけりだ。
日本は面食いでわかりやすいキャラクターが好き
日本人が特に重要視するのは、キャラクターの顔。等身が高い韓国風のキャラクターが刺さりにくい要因の1つとなっているという。
カットインを入れるなど、キャラクターをアピールする方法を用意する必要があるとのことだ。
また、日本人はカテゴライズしたい人種。そのため、モチーフやキャラクター性がわかりやすいキャラクターを重要視する。
韓国の場合、絵のコンセプトよりも、作家表現の方が優先されている傾向が強い。一見してわかりにくいところが懸念点であると語った。
工程の進め方の違い「日本は計画重視、韓国はまず行動!」
最後は、日韓のゲーム製作の進め方の違いについて。プロダクトデザイン室が、韓国の開発会社とやり取りする中で感じた印象などを紹介してくれた。
韓国人は、日本人よりも、行動に起こすのが早い。その分進行が早く、方向転換もしやすい一方で、各分野がそれぞれに行動を起こしているため、統一感などがとりにくいというデメリットもある。
あとから直す、という作り方は、アップデートをかけられる、PC向けゲームの開発文化がそうさせているのではないかと分析。
日本は国民性か、コンソール文化の影響か、計画を非常に重んじる傾向が強い。目的にはしっかりコミットする一方で、進行がかなり遅く、後半に方向転換がしにくいのが特徴だ。
このあたりは、どちらが優れているという話ではなく、得意不得意があるということを認識することが重要だと水野氏。お互いを理解することで、より円滑な連携につながれば幸いだとセッションを締めた。