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VR市場が目指す未来とは!「黒川塾(三十三)」をレポート

2月26日、黒川文雄氏が主催を務める「黒川塾(三十三)」が、スクウェア・エニックスのセミナールームで行われた。今回のテーマは「バーチャルリアリティの未来へ 3」。その様子をレポートする。

VR業界のそうそうたるメンバーが登壇した今回の黒川塾

「黒川塾」は、音楽やゲーム、映画、ネット、ITなど、すべてのエンターテインメントの原点を見つめ直し、来るべき未来へのエンターテインメントのあるべき姿をポジティブに考えることを趣旨とする会だ。主催の黒川氏が毎回ゲストを招待し、彼らとのトークを交えながら、そのときのテーマを掘り下げていく。

黒川文雄氏。セガエンタープライゼズ(現在のセガ)、デジキューブ、ブシロードなど、さまざまな企業でエンタメに関する流通や広告、企画開発、運営など、多岐にわたって活躍。あらゆるエンタメジャンルに精通したメディアコンテンツ研究家

33回目となる今回のテーマは、「バーチャルリアリティの未来へ 3」。「Oculus Rift」や「PlayStation VR」などの発売も間近に迫り、VR元年ともよばれる2016年にピッタリのテーマとなった。

また会場には、最新VRコンテンツを来場者が試遊できるよう『Penta VR』と『London height Height』も用意されていた。

会場に用意されていた『Penta VR』をプレイしている、本日の登壇者でもある吉田修平氏。Penta VRは、仮想空間で絵を描くことのできるVRコンテンツだ

PlayStation VRを使用する『London height Height』。両手にもったセンサーで、物をつかむ、ドアを開く、銃を撃つなどのアクションが行える

今回の「黒川塾(三十三)」では、ゲストとして以下の4名の方が登壇した。なお、登壇予定だったPANORA編集長の広田稔氏は、インフルエンザのために欠席となり、その代わりにAdvanced Micro Devices(AMD)社ディレクターのダリル・サーティン氏が急きょ、登壇することとなった。トークでは、黒川氏の質問に、ゲストが答える形で行われた。

黒川塾(三十三)ゲスト

  • 吉田修平氏:株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント
  • ダリル・サーティン氏:Advanced Micro Devices(AMD)社のVR関連のディレクター
  • 藤井直敬氏:株式会社ハコスコ代表取締役、VRコンソーシアム代表理事
  • 渡部晴人氏:株式会社gumi VRエンジニア

左から黒川文雄氏、吉田修平氏、ダリル・サーティン氏、サーティン氏の通訳の方、藤井直敬氏、渡部晴人氏

2周め’を迎えているVR業界の今

最初に黒川氏は、VR業界の「今」についての質問を、ゲストに投げかけた。

黒川文雄氏(以下、黒川氏):藤井さんがVRに関わられてから、今のVRのダイナミズムについてどのようにお考えですか?

藤井直敬氏(以下、藤井氏):最初は、世界初ということでお金が回り始めていましたが、今は1周回って2周めにはいっていると感じます。2周めだと世界初ではないので、「なぜ、VRに予算をかけないといけないのか」という質問を、一般の方からもいわれるようになり、それに答えられないと、VRコンテンツが作れないというステージになってきています。ゲームなどはまだいいですが、プロモーションなどは、厳しいですね。少し前はOculusなどのVRを使ったイベントが頻繁に見られましたが、今はあまり見なくなりました。また、たとえあったとしてもニュースにならなくなったと感じます。VRも、効果とコストの兼ね合いが大事になってきたと思います。

黒川氏:個人でVRコンテンツを作られていた渡部さんは、VRのトレンドがダウンしていることを感じますか?

渡部晴人氏(以下、渡部氏):個人の視点からですと、市場トレンドは下がってますが、開発に関するトレンドは伸びてきていると思います。開発のノウハウも確立してきていますし、大手パブリッシャーからもVRタイトルが発表されています。

すでに1ステージめが過ぎ、一般からもVRがシビアな目で見られる始めているという藤井氏(写真左)。一方の渡部氏は、開発者の視点からだと盛り上がっていると話す(写真右)

海外では映画業界やストリーミングなどがVRに注目

日本では、VR業界のトレンドが停滞していることを指摘する藤井氏。黒川氏は、海外パブリッシャーとの交流が豊富な吉田氏とサーティン氏に、海外、特に北米と欧米のVRトレンドについて聞いたみた。

黒川氏:吉田さんにおうかがいしますが、海外のVRトレンドは盛り上がっているのでしょうか。

吉田修平氏(以下、吉田氏):ずっと盛り上がっています。ゲームより、医療サービスやスポーツのストリーミングなどが増えている印象です。ベンチャー企業もより大きなコンテンツ、アメリカの4大スポーツであるNHLやNBAをライブ配信するなど、目立つものにアプローチすることで、一般向けにリーチしようという試みが見えます。

黒川氏:AMD側では、VRビジネスをどのように考えていらっしゃるのでしょうか。また北米のVRに関するトレンドについても教えていただけますか。

ダリル・サーティン氏(以下、サーティン氏):VRはとても盛り上がりを見せています。ただ盛り上がっているのは、技術者やアーリーアダプター、ゲームの開発者だということも認識しています。AMDとしては、ゲーム以外、教育などのマーケットも積極的に取り込んでいく予定です。コンテンツに関しては、2016年、2017年に形になるものを作り出そうと取り組んでいます。

黒川氏:北米では、アトラクションやスポーツにVRを取り入れる動きがあるとうかがっています。

サーティン氏:北米と欧米の市場では、本当に多くの会社からスタートアップも含めて、VRスタジアム、マルチプレイなどのアプローチを受けています。いちばん盛り上がりを見せているのは、映画業界です。360°映像体験だけでなく、インタラクティブ性のある映像コンテンツが盛り上がってきている印象です。

吉田氏:本日プレイできる『London height Height』も、インタラクティブストーリーのゲームです。これが映像系のエンターテイメント業界にとてもウケています。

サーティン氏:インタラクティブシネマはとても没入感の高いコンテンツなので、ビジネス面では優れたコンテンツだと思います。技術面から見ると、そのようなコンテンツを作るのは、フルでレンダリングをするゲームを開発するのと同じぐらい複雑です。

海外では、さまざまな業界でVRが注目されていると語る吉田氏(写真左)とサーティン氏(写真右)

これからのVR業界にはB to B to Cが必要

黒川氏は、ローエンドのVRゴーグルを提供するハコスコの藤井氏に、次の施策について質問。藤井氏は、これからVR市場がとるべきスタイルについて言及した。

黒川氏:Oculus Riftなど、ハイエンドなVR機器が次々と登場しますが、藤井さんとしては、ハコスコの次のフェーズについて何かお考えでしょうか。

藤井氏:スマホ系のVRコンテンツだと、1回プレイして終わりというように、ユーザー体験者のアクションが次につながらないことが多いです。そのためお金が回らない。現在のようにB to C(個人消費者を相手とするサービス)でやるとスケールがでないので、B to B to C(個人消費者を相手とする企業を、手伝うサービス)にしなければならないと考えています。

今はコンテンツの珍しさで人気がありますが、スポンサーが効果を確認できないので、2度、3度と次につながっていません。そこをクリアしないといけないと思いますが、そこまで考えている人は、世界でもあまりいないと感じています。

すでに「新しいコンテンツ」という段階を通り過ぎたVR業界に、危機感をもっていた藤井氏。B to B to Cが今後の課題となるのだろうか

HMDの価格とマーケット

HMD(Head Mounted Display:ヘッドマウントディスプレイ)の高額な値段は、一般ユーザーに普及する壁になっているが、解消されることはあるのか。サーティン氏は、HMDもほかのゲーム系ハードウェアと同じような理由で、値が下がるだろうと予測する。

黒川氏:ダリルさんは、HMDの価格面で思われていることはありますか?

サーティン氏:高額なHMDと高額なPCの組み合わせは一般向けではありません。ただ、時間が経つにつれ、高額のものも値段が下がり、購入しやすくなっていきます。それが自然な流れだと感じます。良いゲームやコンテンツをユーザーが購入することで、ハードウェアの価格も下がってくれると思います。

Google Cardboardのように安価なものもあるが、しっかりとVRを体験したいなら、高額なHMDがほしいところ。サーティン氏がいうように、VRのよいコンテンツがそろえば、ハードウェアのほうも手ごろになってくれればいいのだが

吉田氏:OculusのHMDなどが生み出す体験に比べると、安いほうではないかと思います。ただ、今回はマーケティング的な意味で、いい勉強になりました。Oculusは安いと思わせておいて、599$でだして高いと思われました。逆にHTCは噂で1,000ドルだと思わせておきながら、実際は799ドルで、高いけど安く思わせました。この手法は、マーケッターの方には勉強になるのではと思います。

VRコンテンツを作る側として

次に黒川氏は、VRコンテンツを作る側である渡部氏と吉田氏に、近況や日本のパブリッシャーの状況について質問した。

黒川氏:渡部さんにお聞きしたいのですが、個人のスケールとgumiでのスケールの違いについて、どのように感じていますか?

渡部氏:個人ですとモチベーションに左右され、素材を作るのも大変でした。そういったところが、gumiに入社したことで解消されました。

渡部氏は一時期、会社で仕事、自宅では趣味でプラグラムを行う、二重生活だった。そのときは、生活環境的にかなり厳しかったそうだ

黒川氏:日本のパブリッシャーは、海外ほど、コンテンツを作っているという情報がでてきておりません。そこで、日本のコンテンツパブリッシャーの状況と吉田氏自身の状況について教えてください。

吉田氏:この前のTGSでは、けっこう日本のパブリッシャーさんのコンテンツが出展されていましたね。ただ私が感じているのは、これまでのトラディショナルな大手パブリッシャーよりは、コロプラさんやgumiさん、GREEさんといったモバイル系の企業の方が積極的で、「先にやるんだ」という思いを感じます。

VR市場を盛り上げるには?

最後に黒川氏は、これからVR市場を盛り上げる方法について、ゲスト全員に質問。特に吉田氏は、これからのVR業界に関わる者として、クリエイターがもつべき心構えについて熱く語った。

黒川氏:VR市場を盛り上げるにはどういうことが必要だと思われますか?

渡部氏:いわゆる大作ゲーム、キラーコンテンツが足りないと思います。『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』など、それぞれの大作に対応したスピンオフ作品がでれば、盛り上がるのではないでしょうか。

藤井氏:いちばん大事なのはあきらめないこと、やめないことです。続けないと何も成し遂げられません。

サーティン氏:VR市場を広げるには、先ほど藤井さんがおっしゃったB to B to Cが1つの方法になると思います。例えば、中国ではHTCが中国最大手のネットカフェと提携し、インターネットカフェで気軽にVRを体験できるようになる予定です。そうなると、誰もが高価なPCを買う必要はなくなります。このように、すべての人に体験をしてもらうことが大事です。体験をしてはじめてVRをほしいと思いますし、買いたいと思うからです。

吉田氏:みなさんがおっしゃったことは、すべて大事なことだと思います。付け加えるとすると、VR市場なり、立ち上げたいと情熱をもってきている人が、ここまで引っ張ってきたと思いますが、大事なのは、その企業や関係している人が、いい体験を届けるんだと「こだわる」ことだと思います。

この新しい技術であるVRは、体験しないとわかりません。しかし、初めて体験する人がいい体験をしないと、逆に「VRはよくない」と思わせてしまい、逆効果になってしまいます。現在、VRが流行ってきているので、さまざまな企業が手を出して、質の悪いVRを体験させることもあります。そういうのは、VR業界にとってもよくないと思いますね。

Oculusさんも、Valveさんも、我々も、何とかVRをものにしたい、世の中に伝えたいという強い想いと「いいものをだすんだ」という連帯感や責任感をもっています。我々も今年は、コンシュマー向けに、「これだ!」というのを出してていきます。

コンテンツを作る方も、本当にそれがいいものになっているのかどうか、クリティカルな目で見てほしいですね。作っている側はVRに慣れてしまい、またコンテンツをわかっているので、それが一般ユーザー向けに合っているのか、わからなくなってきます。

そのため、展示する前に、VRコンテンツをやったことがない人にやらせてみて、それで大丈夫かどうか確認していただけたらと思います。

VRの開発者に対して、VRのよいコンテンツを一般ユーザーに提供するための心構えを語った吉田氏。このようなVRへの真摯な情熱が、VR業界を今のような注目されるコンテンツへと育てたのだろう

黒川氏とゲストのトークセッションの後、わずかな時間で来場者からの質疑応答が行われた。ARやVRの規格についてなど、そこで質問された内容とそれに対するサーティン氏と吉田氏の返答を紹介する。

Q:例えば、ドローンを火事現場に飛ばして、それを消防士さんが見るといった、仮想空間と現実空間をつなげるようなコンテンツやAR(拡張現実)はどのような取り組みをなされているのでしょうか?

サーティン氏:AMDとしては、ARもVRと同じように注目しています。カテゴリとしては製造業や医療、サービス業にも展開できると思っています。もちろんゲーミングでも、ARは興味深いコンテンツになると思います。

ただ、さまざまなAR関連の方と話をするのですが、ARのソリューションは簡単に見えて、思ったよりハードウェア面が複雑だという印象です。コンテンツやハードウェアを作るのは、VRより難しいと感じています。ただ、どちらもこれから成熟するものですので、ARにもこれから取り組んでいく予定です。

吉田氏: 例えのお話で、ドローンの映像をVRで見るとありましたが、ドローンの映像をVRのHMDで見ると、けっこう、胃にくるものがあります。

この場合、消防士がトレーニングをしてVRを利用するということは考えられますが、エンターテインメントのコンテンツとしては、初めてVRをプレイされる方に不快感を与えないように注意したいと思います。

Q:ここ1、2年ほど、VRの話題が出始め、スタート地点に立ったという印象をもっています。ただ、Oculus Riftにしろ、PlayStation VRにしろ、Gear VRにしろ、同じVRではありますが、それぞれ異なるコンテンツをもっています。

それらが今後、1つの道に収束するのか、それとも独自性をもってそれぞれ違う道にいくのか、どのようにお考えでしょうか。

吉田氏:VRのアプリケーションは非常に広いので、VR技術を使ったデバイスはもっと増えると思います。VRとARがいっしょになったものとか、そういうのもでてくるのではないでしょうか。

ただ、初期の段階はどうなのかといいますと、OculusさんのシステムとHTC Vive、PSVRはパフォーマンス的に似ているんですよ。

コンテンツを作られる方は、特にUnityとかUnrealとか作られていると、簡単にすべてのフォーマットで作れますし、そうでなくても基本PSもPCベースのアーキテクチャですので、同じコンテンツを多数のプラットフォーム化するのは、比較的簡単だと思います。

サーティン氏:同じような問題は、ゲームエンジンやそれに類するツールにおいて、ゲーム業界でもありました。これに関してはSDKを組み込むことで対応してきました。そして、VRについても、それと同じようなことが起こると思っています。

また、共通規格化という面では、「OSVR」の団体がスタンダードな規格を作ろうという取り組みをしていますので、そちらもこれから進んでいくものと思います。