ゲームメディアの有識者が2015年を代表するゲームを選定!
去る3月18日(金)に行われた「黒川塾(三十四)」のテーマは、ゲーム・エンタメ系メディア有識者による、「2015年 エンタテインメントの未来を考える大賞」の選定だ。
2015年に印象に残ったコンテンツなどを振り返りながら、これからのゲーム業界についても語り合う、過去と現在、未来をつなげる会となった。
今回の「黒川塾(三十四)」で登壇したゲストは、以下の4名。Game Deets編集部からも編集長の辻が登壇した。
黒川塾(三十四)ゲスト
- 林克彦氏:KADOKAWA『週刊ファミ通』編集長
- 平信一氏:リインフォース代表取締役、『電ファミニコゲーマー』編集長
- 佐藤和也氏:朝日インタラクティブ『CNET Japan』編集記者
- 辻英之氏:ナイル『Game Deets』編集長
「今」、あえてゲームメディアを立ち上げる理由
最初に黒川氏は、それぞれの有識者の「今」についての質問を投げかけた。
黒川文雄氏(以下、黒川氏):辻さんにうかがいたいのですが、なぜ、あえてこの時代に、新たなメディアを立ち上げようと思われたのでしょうか。
辻英之氏(以下、辻氏):以前、雑誌でインターネットを使ったゲームを紹介しておりまして、あのときの面白さが忘れられないというのが1つ。
そして、メディアの立ち上げは何度もできるものではありませんので、人生最後の立ち上げとして、現在の会社に入社して行っているという経緯があります。
黒川氏:新たなメディアとして、ゲームメーカーから、ユーザーへのリーチ方法などを問われることはありますか。
辻氏:もちろん、それはよく聞かれる質問です。今、『Game Deets』のターゲットは、ゲームをかなりプレイするコアゲーマーです。
彼らはゲーム内でも中心に位置することが多いので、彼らが何か始めると、周囲のプレイヤーにもそれが広がっていき、結果的にゲームが広く認知され、プレイヤーの裾野が広がる可能性があります。
それを狙って、あえて今はコアゲーマーをターゲットにしています。
黒川氏:『電ファミニコゲーマー』を立ち上げた平さんはいかがでしょうか。
平信一氏(以下、平氏):4Gamerにいたころ、ゲーム情報に限らず、ニュースサイトにある記事の見られ方がどんどん変わってきたことを感じました。
具体的にいいますと、4Gamerのトップページからではなく、ツイッターのタイムラインから記事に飛び、読んだらすぐに離れていく感じです。
そのため、面白い記事を書くのは大事ですが、それだけでは成り立たないと思い、違う形のメディアを模索していました。
その後、ドワンゴの川上さんとお話する機会があり、今にいたる感じです。
黒川氏:スマートニュースやニュースピックスなど、その形態がメディアとして問われることが多々あります。それなのにあえて同じ形にしたのは、かなり挑戦的に思えます。
平氏:いろいろいわれますが、メディアの機能は2つあると考えています。1つはスマートニュースなどのような、情報の流通とピックアップ。
もう1つは、ゼロから取材して情報を作り出すことです。両方ともいいと思いましたので、いっしょにやっている感じです。
黒川氏:林さんの立場から、電ファミさんのことを競合と思っていらっしゃいますか?
林克彦氏(以下、林氏):どちらかというと相互送客ができると思っています。ゲームメディアが増えて活性化するのはいいことですし、その中で「ファミ通は面白いよね」といわれるように私たちががんばれば、結果的にファンにも還元できます。
黒川氏:佐藤さんと辻さんは、電ファミニコゲーマーさんのスタンスをどう思いますか。
佐藤和也氏(佐藤氏):自分たちからコンテンツを生み出そうという姿勢が、しっかりと見えているのは、とてもいいことだと思います。メディアとしては、流通だけで生み出すものがないと意味がありません。
辻氏:1人のユーザーとしても注目しています。ゲームメディアが複数あるということは、面が広がることでもあり、業界全体でいいループに入るべきですので、お互いに成長していければと思っています。
Webにおけるゲーム攻略の意義
黒川氏:多くのプレイヤーは、ゲームの攻略をネットで探すようになりましたが、メディアがWebサイトで攻略を行う意義について教えてください。
林氏:信頼性を担保できる点です。メディア側では、しっかりと裏付けのある、正確な情報を出すことができますし、そこは紙でもWebでも変わりません。
攻略本は相対的にみると売り上げが下がってきていますが、まだまだ売れるコンテンツは残っています。紙がなくなるという時期から、残るものは残るという時期になったと感じますね。
平氏:スマホ、紙、Webでお客さんも違いますし、それぞれ役割があると思っています。私はインタビューをよくやるのですが、雑誌のインタビュー記事にあるデザイナブルなところに憧れます。
林氏:Webや紙、動画など全部やってきましたが、突き詰めると、結局企画が大事だと思います。ニュースリリースを掲載するだけではバズらないから、それをどう料理するかが、メディアとして大事です。
佐藤氏:一時期の流れとして記事の量産やPV至上主義などがありましたが、読みたい方に向けて面白い記事を書くというのは、変わらないと思います。
辻氏:紙だからWebだからと、求められていることが違うとは思いません。ただ、痛感しているのは、スピードが大事だという点です。
2015年~2016年のエンタメの流れ
「2015年 エンタテインメントの未来を考える大賞」を決めるにあたり、2015年から2016年にかけてのゲーム全般のトレンドは何だったのか。スマホゲームやコンシューマーゲーム、VRなど、さまざまなキーワードが飛び出した。
黒川氏:昨年から今年にかけて、注目されてきたエンタメの流れについて教えてください。
辻氏:最近では、スマートフォンゲームの内容も一昔前の家庭用ゲーム機と変わらないようになり、開発費も高騰しています。しかし、その一方で、『ねこあつめ』のような素朴でシンプルなゲームが人気になり、売り上げもしっかりついてきました。
そのため、現状では割りと両極端な状況になっていると感じます。アイデアさえ突出しているのなら、スマートフォンのゲームで当てることができる素地があるのは、面白いと感じました。
1つ当たったゲームがあると、同じようなゲームが世界中から次々と出てくるため、競争率はかなり激しくはありますが、まだまだスマートフォンのゲームビジネスには夢があると思います。
佐藤氏:eスポーツとVRがキーワードだと思います。特にVRは、ゲーム以外にもリーチしようとしていたニュースが多かったと感じました。
平氏:これまでは手軽に体験できるゲームが流行ってきましたが、ここにきてVRなど、濃い体験のほうに傾いてきていると思います。
今は『ガルパン』のマサラ上映や『キンプリ』の応援上映のように、日常では体験できないことが求められてきていると感じます。その流れの1つに、VRがあるのかもしれません。
林氏:2016年はコンシューマー勝負の年だと思っているのですが、2015年はそれにつながる1年だったと思います。
スマホは相変わらず元気ですが、たとえば「スプラトゥーン甲子園」では親子がいっしょにイベントを楽しみ、『ブラッドボーン』のようなPS4のオリジナルタイトルも登場し、PS4の売り上げも伸びてきました。
そういった点から、2015年はコンシューマーの濃いゲーム体験を、ユーザーが楽しんでくれた年だったと思います。
スプラトゥーン、ねこあつめ、グランブルーファンタジーに決定!
黒川氏:昨年、注目されたゲームタイトルやデバイス、コンテンツ、パブリッシャーさんなどをお聞かせください。
林氏:2015年ですと、『スプラトゥーン』が群を抜いていました。あのゲーム性(TPS)をあれだけキャッチ―に、幅広い人たちが遊び、かつ熱中させ、世間的な注目も浴びました。
そして、その成功を見て、コンシューマーゲームもまだまだイケると感じました。
平氏:2015年は、スプラトゥーン一択です。TPSのタイトルで、日本で100万本超えたのはないと思いますし、そういった意味でも革新的でした。
特に、コミュニティ周りの運用が飛び抜けてよかったと感じます。海外だと、コミュニティマネージャーが、1つのバズワードにもなっているのですが、スプラトゥーンでもツイッターのアカウントを追うと、やることなすことユーザーさんに大反響でした。
日本のほかのタイトルでは、そこまで運用されていないことのほうが多いと思います。
今のコンテンツ消費のされ方は、コミュニケーションとセットなんですよ。ゲームを買わせるためのツイッターの使い方ではなく、記事やイラストなどを使い、日常的にスプラトゥーンという軸で楽しませるということを、任天堂さんは徹底していると思います。
佐藤氏:私もスプラトゥーンですね。昨年、いちばん遊んだゲームがスプラトゥーンですし、多人数対多人数のゲームを、あれだけ一般向けに落とし込んだのは記憶にありません。
また、「スプラトゥーン甲子園」で、賞金制の大会より人がいたというのは、それだけで注目するべき点だと思います。
今は、ゲーム動画でゲームを見る文化が定着していますが、そうなると時代の流れとして、勝ち負けがハッキリとした、ゲーム動画に合ったゲームが流行ります。そういったトレンドも含めて、人気になったのではないでしょうか。
辻氏:私も個人的にいちばん遊んだのはスプラトゥーンですが、それ以外ですと『ねこあつめ』を推したいですね。
実際、Googleといっしょに「リアルねこあつめ」などの企画を行ったり、ゲームセンターのプライズになったりと、キャラクタービジネスの面でも成功した一例だと思います。
黒川氏:ほかにムーブメントを起こしたタイトルはありませんか?
平氏:ムーブメントという意味だったら『グランブルーファンタジー』です。実際、かなり遊ばせていただきました。いろいろと話題にはなりましたが、ゲームそのものは素晴らしかったです。
林氏:グラブルには濃いファンがついています。ストーリーもキャラクターもしっかりしていますので、今の状態が少しもったいないですね。
平氏:それと課金しなくても遊べるのですが、そのあたりが語られないのは、私としては不満です。
佐藤氏:遊びすぎとお金の使いすぎは、繰り返される歴史だと思っています。それこそ『インベーダー』のころからある話で、ふとしたときに湧いてくる話ですね。
辻氏:グラブルはRPGとして優れたコンテンツですので、ガチャ部分ばかりフォーカスされているのはもったいないと思います。
実際取材に行かせていただいたとき、本当に真面目にいいRPGを作ろうと、スタッフの方が臨まれているのが伝わってきました。もっと、そちらにもフォーカスが当てられればと思います。
黒川氏:『スプラトゥーン』は満場一致で決定ですね。あとは『ねこあつめ』と『グランブルーファンタジー』の3作品を、2015年のエンタメ大賞に選ばせていただきます。
本日はありがとうございました。