すでに世界のコンテンツを手中に納めつつあるテンセント
去る8月31日(金)、スクウェア・エニックス・ホールディングス(以下、スクエニ)と中国の騰訊(テンセント)グループ(以下、テンセント)の両社が戦略的提携関係を構築することを発表した。
今回の提携はかなり前から双方で協議を重ねてきたことと思われるが、China Joy 2018のタイミングでもなく、東京ゲームショウ2018に併せたタイミングでもないちょうど中間のタイミングで双方フェアな状況で発表したことは、お互いイーブンな立場であることを匂わせているように感じる。
今回の提携の内容と背景は、スクエニとしては世界中の顧客に向けて常に新しいコンテンツを配信するための、新規IPに基づくAAA(トリプルA:大型タイトルの意味)の共同開発、既存のコンテンツの中国をハブとしたアジア地域でのライセンス展開などを相互で戦略的に進めるための提携だ。
すでにテンセントは、Activision Blizzard、Ubisoft、League of Legends(LOL)展開するライアットゲームズ、Unreal Engineを展開するEpic Games、『クラッシュ・オブ・クラン』を展開するSupercellなどの株主であり、親会社になっている。今回のスクエニとの提携が、株式交換などの提携スタイルかどうかは不明だが、将来的にはそのようなかたちに収斂(しゅうれん)していくのではないかと思う。
このように、徐々に日本のコンテンツ系パブリッシャーも日本以外の大きな市場を擁するテンセントとの取組みを今後も積極的に進めて行くものと思われる。
テンセントでも回避できないチャイナリスク
このように、テンセントの圧倒的な推進力を見せつける中で、若干の影を落とすような報道が8月14日(火)にあった。
テンセントとの共同で事業展開を開始した、カプコンの『モンスターハンター:ワールド』の「WeGame」(WeChatからつながるゲームポータル)でのゲーム配信の差し止めという報道だ。ゲームの配信開始から、わずか5日でそれを差し止めたという、恐るべき中国政府の判断は、アタリショックならぬテンセントショックと呼ぶべきものだろう。ゲーム購入者には返金対応を行い、配信開始のめどは立っていないとのことだ。
今回の差し止め理由は公開されていないため明言はできないものの、メディアの推測としては、コンテンツの内容が基準を満たしていないからではないかといわれている。
「WeGame」自体には登録会員が2億人、アクティブユーザーが3,300万人という巨大ポータル。このポータルの影響力を懸念したのか、それとも報道のとおりコンテンツの表現の問題なのかはわからないが、このようなチャイナリスクは常に意識をして展開を行う必要があるだろう。
とはいえ、このチャイナリスクを恐れていては何も始まらない。各社ともに「何かあったら考える、対応する」という姿勢で展開を行うことと思われる。すでに株式の多くを所有している会社やコンテンツとの大きな問題はないだろう。
Apple、Google外しの背景は……
中国帰国後に起こった一連の出来事の中で、8月11日(土)にEpic Gamesが開発した『フォートナイト』のAndroid版が、Google Playストアを通さずに展開するという事案が発生した。Epic Gamesの公式サイトからβ版のインストールできる状態になっている。
この展開はAndroid版デバイスのみの特徴、Android OSの利点を活かした展開と思われる。iOS版は、従来どおりApp Store経由で展開中だが、Android版でこのような事例が起こってくると、GoogleもAppleもそのまま野放しというわけにはいかないことになるだろう。
一部の調査と報道によると、今回のGoogle Playストアをスルーすることで生じるGoogleの損失は本年度だけでも、5,000万ドルに及ぶものといわれている(手数料である30%分の損失)。
これに関しても個人的な憶測に過ぎないが、中国テンセントのHTML5のゲーム推しの状況、さらには自社のゲームポータル「WeGame」への顧客誘導への伏線と考えている。
中国政府が唱える「一帯一路」政策は、民間企業のみならず一般国民までも巻き込んで草の根的に展開を行っているという。
「一帯一路」政策の英語呼称が、これまでは「ONE BELT ONE ROAD」 と呼ばれていたが、このところ新たに「BELT AND ROAD INITIATIVE」と変わったと聞いた。つまり、従来は強引に進めてきたものを若干引いて、イニシアチブ(先鞭)を付けるくらいにするというものと思われる。
そのように考えれば、今回挙げた3つの事例も先鞭を付ける事例と考えれば理解できる。自国以外のパブリッシャーとの連携、表現など自国の規律規制に合せるという展開、AppleやGoogleなどの他国製のポータルに頼らない展開。これらこそが、中国=テンセントの考える一帯一路政策ではないだろうか。