[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第67回: メインランドチャイナの衝撃China Joy 2018

8月3日(金)から6日(月)まで、中国の上海市で開催されたChina Joy 2018(以下:China Joy)に参加する機会に恵まれた。China Joyは、アジア最大のゲーム・エンタテインメントを統合する展示会。PCオンラインゲームやスマートフォンを中心に展開を行う韓国の釜山で開催されるG-STARや、9月に開催を予定している東京ゲームショウ2018をミックスして、さらに大掛かりなイベント要素を兼ね備えた世界最大のスケールを誇る参加型の展示会だ。

悲嘆と懇願と驚愕の入り混じったその評価

China Joyに参加したことのあるゲーム業界関係者はまだ限られているかもしれないが、参加した誰もが同じように口にするのは、「酷暑」「混雑」「(展示棟が)広すぎる、大きすぎる」という言葉。言い換えれば、こんな展示会は金輪際カンベンしてほしい……という悲嘆、いい意味では驚愕の言葉ともいえよう。

China Joy開場前から長蛇の待機列の中間地点、前方右に曲がった先に入口がある

会期中の上海の天候やホール配置の環境を準(なぞら)えて、China Joyを「サウナジョイ」というゲーム業界人もいるほどだ。さながら、大きな空港施設を三角形に徒歩で縦断するようなもの。ちなみに、最終日の私のApple Watchのアクティビティレポートは16,000歩を超え、歩行距離は11kmを示していた。

China Joyのハザードエリア

China Joyのホール配置は、W(西)に5ホール、E(東)に5ホール、N(北)に7ホール、全部で17ホールが三角形を成すように配置されている。あと1ホールあれば、ゴルフコースのホールと同じ18ホールじゃないかと思われる方もいるのではないか。

私はあまりゴルフには詳しくないが、このChina Joyにもバンカーや池に相当するハザードエリア(障害区域)がある。それが、ご当地のアイドルやe-Sports選手たちが登壇するイベントであり、愛くるしいコンパニオンたちの撮影スポットだ。

ブース間の通行路はTGSよりも広くとってあると思われるが、このとおり目いっぱいの来場者

そのあたりはおたがいのブースが音響ボリュームをマックスにし、双方のブース境界線を無視した暗黙かつ露骨な意地の張り合いの様相を呈している。

一度でもそのハザードエリアにハマると抜け出すのはなかなか困難。

幸いなことに、私は4日から6日の会期中にすべてのブースをくまなく見学することができた。特に、6日は平日ということもあり、一般来場者が比較的少なかったことが幸いした。なお、一般来場者は日ごとのチケットでの入場となり、熱心なユーザーやファンは毎日チケットを購入して入場して来る。

中国で人気の『旅かえる』(旅行青蛙)コンパニオンさんたちも疲労感満載

中華覇王テンセントの繁栄の証

私がChina Joyで感じたことは、中国オリジナルコンテンツの大幅躍進だ。

昨今、日本でも、中国で開発されたコンテンツが導入され、一定以上の成功を収めている。おそらく、それ以上の成功を中国国内で納めているケースがたくさんあるということだ。

DeNAブースでは、スラムダンクの導入イベントをステージで展開

その筆頭は、深センに本社を構えるテンセントだろう。

今回の訪中に際して、テンセントが展開するメッセンジャーアプリ『WeChat』を渡航前にインストールした。WeChatは、日本ではやや知名度を欠く。だが、中華圏ではLINE、Facebook Messenger、ツイッターなどのSNSがグレートファイアウォール(中国特有のSNSなどのブロッキング。Google検索も使用できない)によって使用を阻まれているため、WeChatがないと個々人との連絡がタイムリーにできない。

また、邦人同士の連絡もWeChatがいちばん利便性の高いツールで、インストール必須のツールだといえる。

そのテンセントは、ゲームコンテンツの面でも、Activision BlizzardUbisoftLeague of Legends(LOL)展開するライアットゲームズ、Unreal Engineを展開するEpic Games『クラッシュ・オブ・クラン』を展開するSupercellなどの株主であり親会社。

つまり、テンセントのブースだけでも、これだけのコンテンツとスケールを擁しているということだ。なお、現在、中国でいちばん盛り上がっているオンライン対戦ゲームは、「王者栄耀」(通称:王者)といわれるチームステトラテジーMOBA。China Joyでも、e-Sportsタイトルとして大変な盛り上がりだった。

王者のe-Sports対戦を観戦する観客とステージイベント

現地でテンセントのe-Sportsマネージャー、コンテンツ系のマネージャーとミーティングを行ったのだが、「すべてにおいていいコンテンツの選択と集中に勝るものはない」と言っていたのが印象的だ。つまり、常にいいコンテンツを探し、ユーザーにいいサービスとして提供していることが現在のポジションをさらに盤石なものにしているということだ。

e-Sports推しの背景

テンセント以外にも、中国のニコ動、YouTubeとして比較されるビリビリ動画のステージ展開もアグレッシブなものがあった。しかし、こちらでも注目のコンテンツは、e-Sports中継が数字を稼いでいる様子で、その傾向は今後さらに高まって行くことだろう。

ビリビリ動画ステージイベント。日本からのゲストが登壇中

そして、それらを顕著に表していたのが、マイクロチップのインテルをサプライヤーとして中心に据えたPC関連出展のホ-ル。

ここにはインテル本体を始め、AMD、Nvidia、RAZOR、Acerなどが一堂に会してe-Sports推しの展示展開を行っていた。e-Sports向けのハイスペックPCに加え、ハイスペック、ロープライスPCの準備も着々と進められているようだ。現在の中国市場は完全にe-Sportsにシフトしている印象で、おそらく日本のe-Sportsと同様に、徐々に飽和しつつあるゲーム市場をカバーする可能性を感じているからだろう。

小覇王の野望

最後に、今回のChina Joyで発見したものの中で、チャレンジングなデバイスを紹介したい。

小覇王展示ブースの一角

それは、日本で過去にリリースされた著名なゲームハードの互換マシンなど、ある意味、中華系パチモノハードを多数手がけてきた「小覇王」(シャオバーハン)のブースで発見した「小覇王Z+」という家庭用ゲーム機。希望小売価格は、4,998人民元(82,000円程度)だ。

ブルーライト部分はカラーが変化する

このマシンは、Windows 10を搭載しており、これとは別に自社OSも搭載。つまり、1つのハードに2種類のOSを混載している多用途マシンだ。

ハードウェアの外観は、かつてのPlayStation 3に似ているように見える。前面のブルーに光るライト部分は、時間の経過とともにカラーリングが変化するが、ややチープな演出。なくてもいい演出だが、いかにも「ここまでやったぜ!」感は、見栄を重視する中国メイドならではの演出と仕様かもしれない。

現時点で「小覇王Z+」対応するコンテンツは、Codemastersの『ON RUSH』のみだが、今後徐々にコンテンツが増えていくようだ。「小覇王Z+」というネーミングは、かの独裁国家の主席のようにも思えるのだが、その可能性は未知数。

なお、「小覇王Z+」専用のVR対応のHMD(VRゴーグル)も自社製と思われるものが会場にあり、通常のゲームコンテンツ以外にもVRコンテンツもダウンロードなどで対応するものと思われる。

まだまだお伝えしたいことはたくさんあるが、灼熱と混乱の現場からの報告は以上である。