【究極ゲーマー列伝】: ニコ動運営長のドワンゴ中野氏のゲーム人生が壮絶すぎ(後編)

niconico(ニコニコ動画)の運営長こと、ドワンゴの中野真さんのゲーマー人生にスポット当てる後編。3キャラクターを両手と足で操作し、50人を束ねて強敵を倒す。ネットワークゲームの黎明期にそんなコアなプレイを楽しんでいた中野さんに、ドワンゴでのゲームの関わり方を語ってもらった。

インタビューの前編はこちら

VRの可能性に期待

――前編で話の出た『Ultima Online』(以下、UO)や『EverQuest』(以下、EQ)ですが、今後、このような革命的なゲームって出てくるんでしょうか?

中野真さん(以下、中野):僕は、自分はすごく運がよかったと思っています。Niftyの時代はあまり知らないんですけど、モデムからISDN、OCN、ADSL、光といったネットの普及に合わせて、その時代のゲームを遊んだり、仕事として関わったりすることができたので、いい経験をしてこれたなと、思ってます。

株式会社ドワンゴニコニコ事業統括本部戦略的ETC事業本部企画制作部の中野真さん。現在は娘をもつパパでもある。奥様もゲームへ理解があるとのこと

それを踏まえて今後なにかゲームで面白い体験ができるとすれば、VRには注目しています。僕らが昔パソコンでゲームをやっていたときに、「もっとこうだったら」と思っていた部分が、VRで実現されたらいいなと期待しています。

若い世代の方たちにとっても、いろいろな手段、ハードがこれからのゲーム体験の選択肢になっていくのはないかなと思いますね。

2,000~3,000円レベルのゴーグルがあればスマホで手軽にVRを体験できる

――UOやEQを見た当時はカルチャーショックというか、「すごい」という衝撃がありましたからね。

中野:同時に同じ場所に何十人、何百人というプレイヤーたちがいるというゲームは、それ以前であればまったく考えられなかったですからね。

前編で話題に上がったUO「大和大戦」。画面を埋め尽くすキャラクターからもわかりとおり、ラグはかなりあった。しかし、これほどの規模の戦争は初めてだろう

――2016年はVR元年ともいわれてますが、ドワンゴでも取り組みはされていくんでしょうか?

中野さん:『nicnico VR』という「Gear VR」向けのソフトを出したりはしています。僕はVRについては担当外ですが、ドワンゴ社内にはVRに精通した担当がいます。

今後は闘会議などのイベントでも取り組んでいきたいなと思ってます(2016年4月29、30日に開催を控える『ニコニコ超会議 2016』ではVRアトラクションブースが登場する)。

ドワンゴ社内のVR好きが進めているVR事業。2015年12月にリリースしたスマホ向けの自称“廃人アプリ”『niconico VR』では、サムスンのGear VRを装着し、VR空間で動画などを堪能できる

闘会議を通してゲームプレイの機会を広げたい

――今、何か遊んでいるゲームはありますか。

中野:今遊んでいるのは、『ドラゴンクエスト X』(以下、ドラクエ10)と、子どもといっしょに『スプラトゥーン』をやってます。

「ママと組むと勝てないから、パパと組む」といっていっしょにタッグマッチをしてますね(笑)。あとは『ドラゴンクエストビルダーズ』をクリアしました。

昔みたいにPCでゴリゴリやるのはごぶさたなんですよね……。昔とったなんとやらでゲーム自体は今でもよくプレイしています。やるんだったら、やっぱり勝ちたいですよ(笑)。

――中野さんご自身は、現在ドワンゴではどんな仕事をされているのですか?

中野:メインは、ゲーム大会とゲーム実況のリアルイベント「闘会議」や「ニコニコ超会議」の企画統括の担当で、全体のブースを監修しています。その他、「ニコニコ生放送」の番組『ドラゴンクエストX TV』をはじめ、ゲームの公式番組を作るところにも関わっています。

――niconicoやゲーム実況のユーザーってすごく若いですよね。闘会議も昔はなかったし、それもまた新しいゲームの流れかなと思うのですが。

中野:実況のファンは、男性も多いですが、特に若い女性が多いですね。あと闘会議では、若いファンの方に「ゲーム大会」の体験をしていただきたいと、手探りではありますが、今回から大会を増やしています。

昔だったら『スーパーマリオクラブ』をはじめ、自分の知識やプレイを披露する場があったじゃないですか。

闘会議などでそういう場所を作れば、普段漠然とゲームを遊ぶだけではなく、競技を意識してゲームをプレイする人たちも増えるんじゃないかなと。目的がないと、なかなか継続意識につながらないので。

ゲーム実況も楽しんでいただきたいですし、いろんなプレイヤーの層に対して幅広く「ゲーム大会」の機会を提供できればと、闘会議はそういう場にしたいなと思っています。

2016年1月に幕張メッセで開催された、ユーザーが参加型のゲームの祭典『闘会議 2016』。ゲームメーカーによる体験会や賞金総額1億円以上となったゲーム大会、ゲーム実況者による実況ステージなど、さまざまなイベントが行われた

――昔から『Quake』などでも観戦モードみたいなのがありましたが、niconicoのゲーム実況もそういう流れなんでしょうか。

中野:もともとそういうニーズはあって、YouTubeやniconicoなどのサイトがそろってきたことで目立ってきたという状況かと思います。

昔はこのような動画共有サイトもありませんでしたので、自分たちがレイドしているときに参加できない人向けに録画したり、自分の部屋からストリーミングをしたりしていました。

特にEQでは、自分たちのプレイをアピールするために動画をアップしているギルドがけっこうありましたね。

niconicoでは今や、投稿される動画の4割強がゲーム関連動画になっています。

昔の観戦モードと少し違うところを挙げるとすると、ただ超絶プレイを見るだけでなく、実況者のトークも楽しみ方の1つになっているかなと感じます。

EQが盛況だった当時、ゲームプレイ動画を撮影するための環境を整えるのは容易ではなかったが、アップされた動画は攻略の参考としても重宝された

子供にはゲームをやるなら勝てるように教えたい

――中野さんも親としてはゲームについていかがですか。

中野:ゲームでは「やるんだったら勝てるようにうまくくやれ」という教育をしてます(笑)。

スプラトゥーンを例に取ると、最初は敵に向かっていったんですが、次第にやられるのが嫌で、逃げるようになってしまったんですね。

それでは逃げることによって戦う機会を失っている。やられる数は少ないけれど、倒せる数も少ない。

だから、「行くときは行く、逃げるときは逃げることを判断できるようになりなさい」といってるんですけど、まだ理解できてないと思います(笑)。

僕もタッグ組んでやるからには勝ちたいですからね。子どもにも活躍してもらわないと。まあ、次世代のエースになるように教育してます。

また、子どもにゲームをさせることには、まったく抵抗はないです。

自分の子供のころってこんなゲームもないし、スマホもなかった。あのとき触れていたらどうなっていたのかなと思うと、ゲームだけじゃダメですが、そういう体験をさせることってむだにはならないと思います。

本人がやりたいことをできるだけやらせた上で、最低限の社会性やマナーをちゃんと教えればいいんじゃないかな。……というのはいい訳で、僕がゲームをやりやすい環境を作ってるだけですが(笑)。

「ゲームが共通言語」の輪は今も健在

――当時と比べて、ゲームのプレイヤーの雰囲気は変わりましか。

中野:今年の闘会議でいろいろな大会をやりましたが、集まってきたのはいい子たちばかりでしたね。チーム間も仲がよく、負けたチームも集まってきてオフ会をしたりと、あたたかい雰囲気でした。

同じゲームが好きという共通言語において、会話やコミュニケーションがちゃんと取れていていいな、僕もあの輪に入りたいなと思って見ていました。

そういう意味では、今も昔もゲームを通してのコミュニケーションはいいものだなと思います。

EQで、苦痛の女神「Saryn」に勝利した瞬間! 画面右上のあたりにいる「Makmo」は、中野さんの操作しているキャラクターだ

僕らは当時、War Craft 2やAge of Empiresで朝までゲームやって、そのあとファミレスで毎晩のように反省会をやっていた。それは、普通に友だちと話すより、会話が濃厚なんですよ。

ついさっきまで、戦場でいっしょに戦ってきた仲間ですから。共通の話題があるという点はいいですね。だから、周りに迷惑をかけない範囲で、好きなだけやればいいと思います。